• 検索結果がありません。

角運動量の合成

ドキュメント内 東京大学理学系研究科 上田研究室 (ページ 70-76)

第 5 章 角運動量 57

5.3 角運動量の合成

(5.94)より波動関数のスピン部分χ は任意の軸i=x, y, z の周りに2π 回転させても元には戻らず

e2i(2π)ˆσiχ=−χ (5.95)

のように反対符号となることがわかる。このようにスピン1/2の系は、与 えられた方位角 θ に対して波動関数が ±ei2θˆσiχ の二通り存在する。こ れを2価表現 という。

スピンが半整数の波動関数を2π回転させると波動関数の符号が変わる という事実は、2個のフェルミオンを交換すると波動関数の符号が変わる というフェルミーディラック統計と密接に関連している。実際、一方の フェルミオンの周りに他方のフェルミオンを2π回転させることは、2個 のフェルミオンを交換することとトポロジカルには同じ効果を生む。スピ ン1/2の粒子が4π周期性を持っていることは中性子を用いた実験で示さ れた3

5.3. 角運動量の合成 71 である。次に J の値を求めるために (5.96)の両辺を自乗すると

Jˆ2 = Jˆ12+ ˆJ22+ 2 ˆJ1Jˆ2

= ℏ2J1(J1+ 1) +ℏ2J2(J2+ 1) + ˆJ1+Jˆ2+ ˆJ1Jˆ2+

+2 ˆJ1zJˆ2z (5.100)

が得られる。ここで、

Jˆi±≡Jˆix±iJˆiy, (i= 1,2) (5.101) である。

(5.100) の両辺をそれぞれを状態|M1=J1, M2=J2 に作用させると Jˆ2|J1, J2=ℏ2(J1+J2)(J1+J2+ 1)|J1, J2 (5.102) が得られるので状態 |J1, J2 の全角運動量は J =J1+J2 であることが わかる。よって、

|J =J1+J2, M =J1+J2=|M1=J1, M2=J2 (5.103) この両辺に Jˆ= ˆJ1+ ˆJ2 を作用させると

√2(J1+J2)|J1+J2, J1+J21=√

2J1|J11, J2+√

2J2|J1, J21 これから

|J1+J2, J1+J21 =

J1

J1+J2|J11, J2 +

J2

J1+J2|J1, J21 (5.104) が得られる。(5.104)の両辺に再びJˆ = ˆJ1+ ˆJ2 を作用させると全角 運動量が J1+J2 で磁気量子数がJ1+J22の状態

|J1+J2, J1+J22= 1

√(J1+J2)(2J1+ 2J21)

×[√

J1(2J11)|J12, J2+ 2√

J1J2|J11, J21 +√

J2(2J21)|J1, J22]

(5.105) が得られる。同様の操作を繰り返すことにより、全角運動量が J1+J2 の すべての状態が得られる。

全角運動量が J1 +J2 1 の状態のうち磁気量子数が最大の状態は、

(5.104) に直交する状態である。

|J1+J21, J1+J21 =

J2

J1+J2|J1, J21

J1

J1+J2|J11, J2 (5.106) 実際、右辺に(5.100) を作用させると全角運動量がJ1+J21となって いることがわかる。(5.106)の両辺に Jˆ= ˆJ1+ ˆJ2 を作用させると、

|J1+J21, J1+J22= 1

√(J1+J2)(2J1+ 2J23)

×[√

J1(2J21)|J1, J22⟩+ (J1−J2)|J11, J21⟩

J2(2J11)|J12, J2]

(5.107) が得られる。(5.107)の両辺に Jˆ= ˆJ1+ ˆJ2 を順次作用させることに より、全角運動量がJ1+J21のすべての状態が得られる。

全角運動量が J1 +J22 で同じ磁気量子数を持つ状態は (5.105) と

(5.107)の両方に直交する状態である。同様の操作を繰り返すことにより

全角運動量が1ずつ小さい状態が構成できる。この操作は J2 > J1 の場 合は全角運動量がJ2−J1 となるまで、逆の場合はJ1−J2 となるまで新 しい状態が作り出される。こうして、全角運動量が

J1+J2, J1+J21, · · · ,|J1−J2| (5.108) で与えられるすべての状態が構成される。直感的には(5.108)のそれぞれ の状態は角運動量ベクトル Jˆ1Jˆ2 が平行から反平行までの離散的な相 対角度をとることに表していると解釈できる。

角運動量がJ の状態は 2J+ 1個の成分を持つので全部で

J1+J2

J=|J1J2|

(2J+ 1) = (2J1+ 1)(2J2+ 1) (5.109) 個の状態が構成される。これは、合成されたもとの状態 |J1, M1;J2, M2 の状態数に一致している。

例題 スピン1/2の粒子が2個ある場合の合成系の状態をすべて求めよ。

解答 合成スピンの大きさは 1 または 0 であり、各状態は上記の方法に

5.3. 角運動量の合成 73 従って次のように与えられる。

|1,1=|1 2,1

2

|1,0⟩= 1

2 (

|1 2,−1

2+| −1 2,1

2 )

|1,1=| − 1 2,−1

2

|0,0= 1

2 (

|1 2,−1

2⟩ − | −1 2,1

2 )

例題 スピン1/2の粒子が3個ある場合の合成系の状態をすべて求めよ。

解答 合成スピンの大きさは3/2または1/2である。前者は次のように与 えられる。

|3 2,3

2=|1 2,1

2,1 2

|3 2,1

2= 1

3 (

|1 2,1

2,−1 2+|1

2,−1 2,1

2+| − 1 2,1

2,1 2

)

|3 2,−1

2= 1

3 (

|1 2,−1

2,−1

2+| − 1 2,1

2,−1

2+| −1 2,−1

2,1 2

)

|3 2,−3

2=| −1 2,−1

2,−1 2

後者は |32,12 に直交するように選ばれる。それを α|1

2,1 2,−1

2+β|1 2,−1

2,1

2+γ| −1 2,1

2,1

2 (5.110)

と書くと、これが |32,12と直交することからα+β+γ = 0、さらに、規 格化の条件より α2+β2+γ2 = 1 である(係数は実数に取る)。これらか らβ, γαを用いて表すと

α=α, β= 1 2

[−α±

22 ]

, γ=1 2 [

α±

22 ]

(|α| ≤

√2 3) 以下ではプラスの符号を取る(マイナスの符号をとっても同様の議論がで きる)。(5.110)に降演算子を作用させると、スピンのz成分が1/2の 状態

γ|1 2,−1

2,−1

2+β| −1 2,1

2,−1

2+α| −1 2,−1

2,1 2

が得られる。全スピンが1/2のもう一つの組は|3/2,1/2(5.110)に直 交するように選ばれる。結果は

β−γ

3 |1 2,1

2,−1

2+γ−α

3 |1 2,−1

2,1

2+α−β

3 | −1 2,1

2,1 2 である。これに降演算子をかけるとz成分が-1/2の状態

α−β

3 |1 2,−1

2,−1

2+γ−α

3 | −1 2,1

2,−1

2+β−γ

3 | −1 2,−1

2,1 2 が得られる。以上で4 + 2 + 2 = 23のすべての状態が得られた。

5.3.1 クレプシューゴルダン係数

一般に、2つの角運動量を合成してできた状態|J, M;J1, J2:=|J, M⟩ に合成前の状態|J1, M1;J2, M2:=|M1, M2の完全系

J1

M1=J1

J2

M2=J2

|M1;M2⟩⟨M1;M2|= ˆI (5.111) を作用させると

|J, M⟩=

J1

M1=J1

J2

M2=J2

|M1;M2⟩⟨M1;M2|J, M⟩ (5.112) が得られる。右辺の展開係数

C(J1J2J;M1M2M) :=⟨J1, M1;J2, M2|J, M;J1, J2 (5.113) をクレプシューゴルダン係数という。磁気量子数の和は保存されるので、

(5.113)のうちでゼロでないものは

M =M1+M2 (5.114)

を満たすものに限られる。また、⟨J, M|J, M = δJ JδM M に完全系 (5.111)を挿入することで

M1,M2

C(J1J2J;M1M2M)C(J1J2J;M1M2M) =δJ JδM M (5.115) が得られる。同様に、⟨M1, M2|M1, M2=δM1M

1δM2M

2に完全系

J,M|J, M⟩⟨J, M|= ˆIを挿入することで

J,M

C(J1J2J;M1M2M)C(J1J2J;M1M2M) =δM1M 1δM2M

2 (5.116)

5.3. 角運動量の合成 75 が得られる。

重要な例として、2つの角運動量を合成した結果、合成系の波動関数が スカラー(すなわち、J = M = 0)になる場合を考えよう。(5.108)から J1 =J2 :=jでなければならず、また、(5.114)よりM1 =−M2 :=mで なければならないことがわかる。したがって、(5.112)

|0,0=

j m=j

|m;−m⟩⟨m;−m|0,0 (5.117) 両辺に昇演算子を作用させると

0 = Jˆ+|0,0=

j m=j

( ˆJ1++ ˆJ2+)|m;−m⟩⟨m;−m|0,0

=

j m=j

[√

(j−m)(j+m+ 1)|m+ 1;−m⟩ +√

(j+m)(j−m+ 1)|m,−m+ 1]

×⟨m;−m|0,0 (5.118)

最後の項でmm+ 1に変数変換すると 0 =

j m=j

√(j−m)(j+m+ 1)

×(⟨m;−m|0,0+⟨m+ 1,−m−1|0,0)|m+ 1,−m⟩

よって

C(jj0;m,−m,0) =−C(jj0;m+ 1,−m−1,0 (5.119) これからm=jの時を基準にしてC(jj0;m,−m,0) = (1)jmcjと書け る。これが条件(5.115)を満足するように係数を決めると

C(jj0;m,−m,0) = (1)jm

2j+ 1 (5.120)

が得られる。

最後に、ラカー公式として知られるクレプシューゴルダン係数の一般公

式を紹介する。

⟨J1, M1;J2, M2|J, M;J1, J2=

(J12−M12)(J22−M22)(J2−M2)

×

(2J + 1)(J1+J2−J)!(J2+J−J1)!(J +J1−J2)!

(J1+J2+J + 1)!

×

n

(1)n

n!(J−J2+M1+n)!(J−J1−M2+n)!(J1+J2−J−n)!

× 1

(J1−M1−n)!(J2+M2−n)! (5.121) ここで、∑

nは階乗の引数が負にならないすべての整数についての和を取 るものとする(0! = 1)。

ドキュメント内 東京大学理学系研究科 上田研究室 (ページ 70-76)