第 5 章 角運動量 57
5.5 時間反転とクラマース縮退
6.1.1 エネルギー(フォック)基底での解
ハミルトニアン (6.1) のエネルギー固有値を代数的に求めるために、
(6.3)、(6.4)で割って無次元化された次のような一組の演算子 ˆaとˆa† を 導入する。
ˆ
a= 1
√2mℏω(mωˆx+iˆp), ˆa†= 1
√2mℏω(mωxˆ−iˆp) (6.5)
交換関係(6.2) は、
[ˆa,ˆa†] = 1 (6.6)
が成立すれば満たされる。(6.5)を逆に解いた式 ˆ
x=
√ ℏ
2mω(ˆa†+ ˆa), pˆ=i
√mℏω
2 (ˆa†−ˆa) (6.7)
を(6.1)に代入し、交換関係(6.6)を使って式変形すると次の結果が得ら
れる。
Hˆ =ℏω (
ˆ a†ˆa+1
2 )
(6.8)
ˆ
a† は生成演算子 (creation operator)、ˆa は消滅演算子 (annihilation
operator) と呼ばれる。その理由は次のとおりである。Hˆ の固有エネル
ギー En に対する固有状態を|n⟩と書くと定義により
Hˆ|n⟩=En|n⟩ (6.9) 両辺の左からˆa†をかけ、交換関係(6.6)を使って変形すると
左辺 = ˆa†Hˆ|n⟩=ℏωˆa† (ˆaˆz}|{a†−1
ˆ a†ˆa +1
2 )
|n⟩
= ℏω (
ˆ
a†ˆaˆa†−aˆ†+1 2ˆa†
)
|n⟩= ˆHaˆ†|n⟩ −ℏωˆa†|n⟩
右辺 = Enˆa†|n⟩ となるので
Hˆˆa†|n⟩= (En+ℏω)ˆa†|n⟩ (6.10) であることがわかる。従って、ˆa†|n⟩ はエネルギー固有値がEn+ℏω で 与えられる Hˆ の固有状態であることがわかる。このように ˆa† はエネル ギー ℏω をもった量子を1個生成する役割をしている。 同様の計算をaˆ について行うと
Hˆaˆ|n⟩= (En−ℏω)ˆa|n⟩
が得られる。従って、ˆaはエネルギー量子ℏω を1個消滅させる役割を果 たしていることがわかる。
6.1. 1次元調和振動子 83 系の最低エネルギー状態は真空状態 と呼ばれる。それを、|0⟩ と書く と、定義によりこれよりエネルギーが低い状態はないから
ˆa|0⟩= 0 (6.11)
でなければならない。従って、
Hˆ|0⟩=ℏω (
ˆ a†aˆ+1
2 )
|0⟩= 1
2ℏω|0⟩ (6.12) これから、最低エネルギー状態のエネルギーが E0 = 12ℏω であることが わかる。これを零点エネルギーという。
系の取りうる最低エネルギーが0にならない起源は交換関係(6.6) [ˆa, aˆ†] = 1 にあることに注意しよう。実際、系のエネルギーE はハミルトニアン の量子力学的期待値で与えられることに注意すると、
E ≡ ⟨Hˆ⟩= ⟨pˆ2⟩
2m +mω2⟨xˆ2⟩
2 (6.13)
⟨xˆ⟩= 0,⟨pˆ⟩= 0なので⟨xˆ2⟩=⟨(ˆx−⟨xˆ⟩)2⟩ ≡(∆x)2、⟨pˆ2⟩=⟨(ˆp−⟨pˆ⟩)2⟩ ≡ (∆p)2 とおくと(6.13)は
E= (∆p)2
2m +mω2(∆x)2
2 (6.14)
と書かれる。右辺で相加平均は相乗平均以上であることを使うと不等式 E≥2
√(∆p)2 2m
mω2(∆x)2
2 =ω∆p∆x (6.15)
が成立することがわかる。これに不確定性関係∆p∆x ≥ℏ/2を適用する とエネルギーの最小値がℏω/2で与えられることがわかる。ここで使った 不確定性関係は、交換関係(6.2)から導かれたが、それは(6.6)と等価な 関係式である。
(6.10)より状態にˆa†を作用させるごとに系のエネルギーはℏωだけ増加 するので、|0⟩ にaˆ† を n 回作用させてできる状態|n⟩ のエネルギー En
は
H|n⟩ˆ =En|n⟩, En=ℏω (
n+1 2
)
(n= 0,1,2,· · ·) (6.16) で与えられる。このように量子化された調和振動子のエネルギーは、ℏω (エネルギー量子)を基本単位として等間隔に並ぶ。演算子
ˆ
n≡ˆa†ˆa (6.17)
を数演算子(number operator)、|n⟩はnフォック状態(Fock state) と呼
ばれる。(6.16)から、数演算子は次の固有値方程式を満足していることが
わかる。
n|n⟩ˆ = ˆa†ˆa|n⟩=n|n⟩. (6.18) 消滅演算子ˆaは量子を1つ消滅させる演算子だからˆa|n⟩は |n−1⟩に 比例する。
ˆ
a|n⟩=c|n−1⟩, (6.19) ここで、c は比例定数である。⟨n|aˆ† =c∗⟨n−1|に注意して (6.19) のノ ルムを取ると
⟨n|ˆa†ˆa|n⟩
| {z }
n⟨n|n⟩=n
= |c|2⟨n−1|n−1⟩=|c|2 → c=√
neiφ=√ n
ここで、フォック状態が1に規格化されている(⟨n|n⟩= 1)ことを使った。
また、位相因子φは任意にとってよいので0とおいた。一方、生成演算子 ˆ
a†は量子数を1個増加させる演算子だからˆa†|n⟩は|n+ 1⟩に比例する。
ˆ
a†|n⟩ = α|n+ 1⟩ (6.20) 両辺のノルムを取ると
⟨n|ˆaˆa†|n⟩
| {z }
↓
= |α|2⟨n+ 1|n+ 1⟩=|α|2 −→ α=√ n+ 1
⟨n|ˆaˆa†+ 1|n⟩ = n+ 1 よって、次の結果が得られる。
ˆ
a|n⟩ = √
n|n−1⟩ (6.21)
ˆ
a†|n⟩ = √
n+ 1|n+ 1⟩ (6.22)
(6.22)を繰り返し適用することにより次の等式が成立する事がわかる。
|n⟩ = 1
√n!(ˆa†)n|0⟩ (6.23)