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球面波

ドキュメント内 東京大学理学系研究科 上田研究室 (ページ 101-104)

第 7 章 中心対称場での運動 99

7.2 球面波

rlim0r2U(r) = 0 (7.14) を満足しているという条件で、波動関数の原点近傍での振る舞いを調べよ う。原点近傍でR(r) ∝rsと置いて(7.9)に代入し、r→ 0なる極限を取 る。すると(7.13)(7.14)よりs=であることがわかる。すなわち

R(r)∝r (r0) (7.15)

7.2 球面波

空間の並進対称性がある系では運動量pとエネルギーE=p2/2mが保 存し、波動関数は平面波ψ∝eip·rとなる。球対称な系ではエネルギーに 加えて角運動量と磁気量子数mが保存する。このような自由な(すな

わち、U(r) = 0)波動関数を考えよう。以下ではエネルギーEの代わりに

波数k:=

2mE/ℏを考える。前節の議論と同様に波動関数は

ψkℓm =Rkℓ(r)Ym(θ, ϕ) (7.16) と書ける。波動関数に関する規格直交条件は

0

r2dr

π

0

sinθdθ

0

dϕψkmψkℓm = 2πδ(k−kllδmm (7.17) 角度方向の積分を球面調和関数の直交性(5.37)を利用して実行すると

0

r2drRkRkℓ= 2πδ(k−k) (7.18) このとき、動径方向の波動関数は

1 r

d2

dr2(rRkℓ) + [

k2−ℓ(ℓ+ 1) r2

]

Rkℓ = 0 (7.19)

を満足する。

= 0の場合は、境界条件(7.13)を満足する(7.19)の解は Rk0(r) = 2sinkr

r =:χk0(r) (7.20)

で与えられる2ℓ̸= 0の場合は

Rkℓ(r) =rχkℓ (7.21)

2(7.20)に線形独立な解2sinrkr は原点で発散する。

とおくと

d2χkℓ

dr2 + 2+ 1 r

kℓ

dr +k2χkℓ= 0 (7.22) 両辺をrで微分すると

d3χkℓ

dr3 + 2+ 1 r

d2χkℓ dr2 +

(

k22+ 1 r2

)kℓ

dr = 0 (7.23) これを変形すると次のように書けることがわかる。

d2 dr2

(1 r

kℓ dr

)

+ 2+ 2 r

d dr

(1 r

kℓ dr

) +k21

r kℓ

dr = 0 (7.24) これを(7.22)と比較すると

χkℓ+1= 1 r

kℓ

dr (7.25)

であることがわかる。この漸化式を繰り返し用いることにより χkℓ=

(1 r

d dr

)

χk0 (7.26)

が得られる。これに(7.20)を代入すると Rkℓ = 2(1)r

k (1

r d dr

)

sinkr

r (7.27)

が得られる。ここで、因子(1)は便宜上導入した。因子kは規格化条

件(7.18)を満たすように決められた。

動径方向の微分方程式(7.19)でx=kry=Rkℓとおいてkを消去す ると

1 x

d2

dx2(xy) + [

1−ℓ(ℓ+ 1) x2

]

y= 0 (7.28)

となる。これは2階の斉次微分方程式なので2つの独立な解を持つ。その うち、原点で正則な解は球ベッセル関数j(x)、正則でない解は球ノイマ ン関数 n(x)と呼ばれる。

j(x) = (−x) (1

x d dx

) sinx

x =

π 2xJℓ+1

2(x) (7.29) n(x) = −(−x)

(1 x

d dx

) cosx

x =

π 2xNℓ+1

2(x) (7.30)

(7.29)は上で議論したように原点で正則である。これと比較して(7.30)は

正弦関数が余弦関数に置き換わっていることからわかるようにjとは独

7.2. 球面波 103 立であり、原点で特異性を持つ。球ベッセル関数を用いると(7.27)は次の ように書ける。

Rkℓ= 2kj(kr) =

√2πk r Jℓ+1

2(kr) (7.31)

r→ ∞の漸近形は、1/rn (n2)の項を無視すると Rkℓ2sin(kr−ℓπ/2)

r (7.32)

と書ける。逆に原点近傍(r0)での振る舞いは(7.27)sinkrを展開し て、微分した後でrの最低次の冪が主要項になることに注意すると、r→0 で

(1 r

d dr

)

sinkr

r (1) (1

r d dr

)

k2ℓ+1r2ℓ (2ℓ+ 1)!

= (1) k2ℓ+1

(2ℓ+ 1)!! (7.33)

これから

Rkℓ= 2kℓ+1

(2ℓ+ 1)!!r (7.34)

となり、(7.15)とコンシステントな結果が得られる。

散乱問題ではしばしば定常状態が問題になる。外部から粒子が次々と入 射して、それが他の粒子にあたって散乱されるような状況である。そのよ うな場合は、波動関数は原点(すなわち、他の粒子の位置)でゼロになる 必要はないので、(7.29)と(7.30)の線形結合が解になる。両者を線形結合 してできた特殊関数は次に定義される球ハンケル関数である。

h(1) (x) := j(x) +in(x) =−i(−x) (1

x d dx

) eix

x

=

π 2xHℓ+(1)1

2

(7.35) h(2) (x) := j(x)−in(x) =i(−x)

(1 x

d dx

) e−ix

x

=

π 2xH(2)

ℓ+12 (7.36)

h(1) は中心から外向きの波、h(2) は内向きの波を記述している。これから = 0の波はAを定数として

Rk0± = A

re±ikr (7.37)

となる。一般のの場合は

Rkℓ± := (1)Ar k

(1 r

d dr

)

e±ikr r

= ±iA

πk 2rH(1,2)

ℓ+12 (kr) (7.38)

定在波の時と同様にr → ∞での漸近形は R±kℓ →Ae±i(krℓπ/2)

r (7.39)

であり、原点近傍での振る舞いは R±kℓ →A(2ℓ1)!!

k r1 (7.40)

で与えられる。

もし単位時間当たり1個の粒子が流れ出ている状況を考えよう。流れの 密度は粒子の速度をv=ℏk/mとしてj=v|ψ|2で与えられるので、原点 を中心とする半径rの球面全体にわたる積分をしたものが1になる。すな わち、立体角要素をdΩとして

r2dΩj=r2v|Rk0+|2 =A2v= 1→A= 1

√v (7.41)

ここで、|ψ|2に含まれる球面調和関数の立体角積分が1になるという性質 (5.37)を使った。

原点から十分に離れた場所では、原子間相互作用や1/r2に比例する遠心 力ポテンシャル((7.19)の最後の項)は無視することができる。したがっ て動径方向の波動関数は

1 r

d2(rRkℓ)

dr2 +k2Rkℓ= 0 (7.42)

に従う。この方程式に一般解は Rkℓ = 2

r sin(kr−ℓπ/2 +δ(k)) (7.43) で与えられる。ここでℓπ/2は(7.32)による。また、δ(k)は波の位相シ フトと呼ばれ、rが小さい領域で重要な相互作用の効果を表している。

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