第 7 章 中心対称場での運動 99
7.3 水素原子
となる。一般のℓの場合は
Rkℓ± := (−1)ℓArℓ kℓ
(1 r
d dr
)ℓ
e±ikr r
= ±iA
√πk 2rH(1,2)
ℓ+12 (kr) (7.38)
定在波の時と同様にr → ∞での漸近形は R±kℓ →Ae±i(kr−ℓπ/2)
r (7.39)
であり、原点近傍での振る舞いは R±kℓ →A(2ℓ−1)!!
kℓ r−ℓ−1 (7.40)
で与えられる。
もし単位時間当たり1個の粒子が流れ出ている状況を考えよう。流れの 密度は粒子の速度をv=ℏk/mとしてj=v|ψ|2で与えられるので、原点 を中心とする半径rの球面全体にわたる積分をしたものが1になる。すな わち、立体角要素をdΩとして
∫
r2dΩj=r2v|Rk0+|2 =A2v= 1→A= 1
√v (7.41)
ここで、|ψ|2に含まれる球面調和関数の立体角積分が1になるという性質 (5.37)を使った。
原点から十分に離れた場所では、原子間相互作用や1/r2に比例する遠心 力ポテンシャル((7.19)の最後の項)は無視することができる。したがっ て動径方向の波動関数は
1 r
d2(rRkℓ)
dr2 +k2Rkℓ= 0 (7.42)
に従う。この方程式に一般解は Rkℓ = 2
r sin(kr−ℓπ/2 +δℓ(k)) (7.43) で与えられる。ここでℓπ/2は(7.32)による。また、δℓ(k)はℓ波の位相シ フトと呼ばれ、rが小さい領域で重要な相互作用の効果を表している。
7.3. 水素原子 105 中の運動を考える。これを(7.9)へ代入すると
1 r
d2(rR)
dr2 −ℓ(ℓ+ 1)
r2 R+2m ℏ2
( E+α
r )
R= 0 (7.45)
クーロン場では質量、長さ、時間をそれぞれm,ℏ2/(mα),ℏ3/(mα2)を単 位として測ると便利である。これをクーロン単位系という。このとき、エ ネルギーの単位は
m (長さ
時間 )2
= mα2
ℏ2 (7.46)
である。これらの単位で測ると、(7.45)は次のようになる。
1 r
d2(rR)
dr2 −ℓ(ℓ+ 1) r2 R+ 2
( E+ 1
r )
R= 0 (7.47)
ここで、さらに変数変換
n= 1
√−2E, ρ= 2r
n (7.48)
を行うと(7.47)は次のように書ける。
1 ρ
d2(ρR) dρ2 +
[
−ℓ(ℓ+ 1) ρ2 −1
4 +n ρ ]
R= 0 (7.49)
この式から短距離での振る舞いはR ∼ ρℓ であることがわかる。また、
ρ→ ∞では(7.49)は
d2R dρ2 −1
4R = 0 (7.50)
となるので、R∼e−12ρであることがわかる。したがって、
R=ρℓe−12ρw(ρ) (7.51) とおくと、w(ρ)についての方程式
[ ρ d2
dρ2 + (2ℓ+ 2−ρ) d
dρ −(ℓ+ 1−n) ]
w= 0 (7.52)
これを(6.115)と比較すると解は合流型超幾何関数
w(ρ) = 1F1(ℓ+ 1−n,2ℓ+ 2;ρ)
= 1
n+ℓC2ℓ+1L(2ℓ+1)n−ℓ−1(ρ) (7.53)
で与えられることがわかる。最後の等式を導く際に(6.120)を用いた。ま た、教科書の流儀によってはL(2ℓ+1)n−ℓ−1はL(2ℓ+1)n+ℓ と書かれていることに注 意しよう(6.4節の最後の注を参照)。6.4節で述べたように、解が規格化 できるためにはℓ+ 1−nがゼロまたは負の整数でなければならない。し たがって、nはℓ+ 1以上の整数であることがわかる。
n≥ℓ+ 1, nは整数 (7.54)
このとき、動径成分の波動関数は
Rnℓ= const.ρℓe−ρ21F1(ℓ+ 1−n,2ℓ+ 2;ρ) (7.55) ここで、比例定数は規格化条件
∫ ∞
0
R2nℓr2dr= 1 (7.56)
を課すことで決まり、
Rnℓ = 2
nl+2(2ℓ+ 1)!
√
(n+ℓ)!
(n−ℓ−1)!(2r)ℓe−rn
×1F1(ℓ+ 1−n,2ℓ+ 2;ρ) (7.57) となる。
定義(7.48)より
E=− 1
2n2, n= 1,2,· · · (7.58) あるいは、エネルギーの単位mα2/ℏ2をつけて
E=− mα2
2ℏ2n2, n= 1,2,· · · (7.59) で与えられる。n= 1,2,· · · は主量子数と呼ばれる。各nに対して、角運 動量が取りうる値は(7.54)より
ℓ= 0,1,· · ·, n−1 (7.60) である。エネルギーの表式(7.56)にはℓが現れないので磁気量子数mに 対してだけではなく、ℓに対してもエネルギーは縮退している。一般に中 心対称場のエネルギーは磁気量指数mに対して2ℓ+ 1重に縮退している が、ℓに対しても縮退しているのがクーロン場の特徴である。したがって、
n番目のエネルギー準位の縮退度は
n∑−1 ℓ=0
(2ℓ+ 1) =n2 (7.61)
である。ℓに関する縮退の理由は直感的な理解が難しく、偶然縮退と呼ば れることがあるが、次の節で述べるようにその物理的起源は隠れた力学的 対称性にある。