• 検索結果がありません。

時間とエネルギーの不確定性関係

ドキュメント内 東京大学理学系研究科 上田研究室 (ページ 130-133)

第 8 章 摂動論 115

8.8 時間とエネルギーの不確定性関係

量子化の規則によるとエネルギーは時間の微分( ˆE=i∂/∂t)で書ける ので、交換関係 [ ˆE, t] =iℏ が成立する。これから不等式

∆E∆t/2 (8.112)

が導かれるように(一見)思われる。実は、不等式 (8.112) は成立する のだが、その物理的起源は交換関係 [ ˆE, t] =iℏではない。特に、物理的 解釈は位置と運動量の不確定性関係とは全く異なる。その理由は、古典 力学と同様に量子力学においても時間は状態の変化を記述するためのパ

8.8. 時間とエネルギーの不確定性関係 131 ラメターであり、任意の精度で指定できることが前提とされているから である。実際、波動関数 Ψ(x, t) は各時刻ごとに与えられるので時刻の揺 らぎ ∆t = √

⟨t2⟩ − ⟨t⟩2 はゼロである。更に、エネルギーはハミルトニ アンの固有値なので、各時刻で正確に測定することができる。ケナード・

ロバートソンの不確定性関係∆x∆pℏ/2が位置と運動量が同時に確定 した値を取りえないことを主張しているのに対して、(8.112)は、系のエ ネルギーは各時刻において正確に測定できるが、時間が ∆tだけ離れた2 回の測定によってそれぞれ正確に測定されたエネルギー EE の差が

/(2∆t) 程度違いうることを意味している。従って、エネルギーの保存は

∆tだけ時刻が異なる2回の測定によってℏ/(2∆t)程度の精度でしか確か めることができない。これがエネルギーと時間の不確定性関係の物理的意 味である。

(8.112)を導くために系とそのエネルギーを測定する測定器を考え、そ

れらを記述するハミルトニアンをそれぞれ HH測定器と書こう。時刻 t= 0 以前では両者は相互作用しておらず、時刻t= 0 に系のエネルギー を測定するために相互作用 V をスイッチオンし、時刻t=t0(>0)にお いて相互作用がスイッチオフされるとしよう。この間、全系のハミルトニ アンは

H =H+H測定器+V ≡H0+V (8.113) で与えられる。全系の状態はシュレーディンガー方程式

i

∂tΨ(x, t) = (H0+V)Ψ(x, t) (8.114) に従って時間発展する。ここで相互作用表示に移って

Ψ(x, t) =eiH0tΨI(x, t) (8.115)

とおくと (8.114)は次のように変換される。

i

∂tΨI(x, t) =VI(t)ΨI(x, t), VI(t)≡eiH0tV eiH0t (8.116) 系に対する測定の反作用をできるだけ抑えるために、相互作用V が小さ いと仮定して(8.116) を最低次の近似で解くと

ΨI(x, t) = (

1 i

t

0

VI(t)dt )

ΨI(x,0) (8.117) ここで、ΨI(x,0) = Ψ(x,0)Ψi(x) に注意すると、全系の波動関数が初 期状態 Ψi から終状態Ψf へと遷移する確率振幅afi は次のように与えら

れる。

afi =

Ψf(x)ΨI(x, t)dx

Ψf(x)Ψi(x)dx i

dx

t0

0

dtΨfVI(t)Ψi (8.118) ここで、右辺の第一項は相互作用(すなわち、測定)が関与しない項の寄 与なので無視できる。第ニ項は始状態と終状態がそれぞれエネルギーがそ れぞれ EiEfHˆ0 の固有状態であるとすると

dxΨfVI(t)Ψi =

dxΨfeiH0tV eiH0tΨi

= ei(EfEi)t

dxΨfVΨi≡ei(EfEi)tf|V|i となるので

|afi|2 1

2⟨f|V|i

t0

0

dtei(Ef−Ei)t2

= 4|⟨f|V|i⟩|2sin2 (Ef2Ei)t0

(Ef−Ei)2 (8.119) この結果は、始状態と終状態のエネルギーの差Ef−Eiが(8.119)に従っ て分布していることを意味している。相互作用が働く時間をt0 とすると、

|Ef−Ei| ∼/t0 程度の間は(8.119)は十分に大きな値を持つと考えられ る。Ef(i) は終(始)状態における系と測定器を合わせた全系のエネルギー であるから、測定器のエネルギーが正確に知れても系のエネルギーはℏ/t0

程度の精度でしか知ることはできない。この結果は、系と測定器の間の相 互作用の強さに依らず成立することに注意しよう。特に、相互作用時間が 無限大の極限では公式

δ(α) = lim

t→∞

sin2αt

πα2t (8.120)

を使うと系が状態iから f へと単位時間あたりに遷移する確率wfi

wfi lim

t→∞

|afi|2 t = 2π

|⟨f|V|i⟩|2δ(Ef−Ei) (8.121) が得られ、この場合はエネルギーが保存する。(8.121)は前節で述べたフェ ルミの黄金律である。

133

ドキュメント内 東京大学理学系研究科 上田研究室 (ページ 130-133)