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球面調和関数

ドキュメント内 東京大学理学系研究科 上田研究室 (ページ 61-66)

第 5 章 角運動量 57

5.1.3 球面調和関数

規格直交条件(5.27)に角度方向の完全性関係式

dΩ|θ, ϕ⟩⟨θ, ϕ|= ˆI, dΩ = sinθdθdϕ(0≤θ≤π, 0≤ϕ <2π) (5.35) を挿入する。ここで、θϕは極座標

x=rsinθcosϕ, y=rsinθsinϕ, z=rcosθ (5.36) の天頂角と方位角であり、dΩは立体角要素である。すると

dΩ⟨L, M|θ, ϕ⟩⟨θ, ϕ|L, M =

dΩYLM(θ, ϕ)YLM(θ, ϕ)

= δL,LδM,M (5.37) が得られる。ここで、

YLM(θ, ϕ)≡ ⟨θ, ϕ|L, M⟩ (5.38)

は球面調和関数 と呼ばれる。球面調和関数は固有方程式

Lˆ2YLM(θ, ϕ) =ℏ2L(L+ 1)YLM(θ, ϕ) (5.39) LˆzYLM(θ, ϕ) =ℏM YLM(θ, ϕ) (M =L, L−1,· · ·,−L) (5.40) を満足する固有関数である。M−LからLまでの整数値をとることに 対応して、各Lの値に対して、2L+ 1個の成分YLM(θ, ϕ)が存在する。M が離散的な値を取るという事実は、角運動量の向きが量子力学(特に、角 運動量演算子が満足するリー代数)によって離散化されたと解釈される。

YLM(θ, ϕ)の関数形を具体的に求めるために、(5.39)(5.40)の左辺の 演算子を極座標表示 (5.36)を使って書く。このため、まず座標x, y, zに 関する偏微分を極座標表示すると

∂x = sinθcosϕ∂

∂r +cosθcosϕ r

∂θ sinϕ rsinθ

∂ϕ

∂y = sinθsinϕ∂

∂r +cosθsinϕ r

∂θ + cosϕ rsinθ

∂ϕ

∂z = cosθ

∂r sinθ r

∂ϕ (5.41)

となる。これらを利用すると Lˆz=−i

( x

∂y−y

∂x )

=−i

∂ϕ (5.42)

が得られる。これを(5.40) に代入すると球面調和関数のϕ依存性が YLM(θ, ϕ)∝eiM ϕ (5.43) であることがわかる。M が整数値をとることは、系を z軸の周りを一周 する(すなわち、ϕ→ϕ+ 2π)と波動関数は元に戻るという波動関数の一 価性の帰結である。

同様にしてLˆx,Lˆyを極座標表示すると Lˆx = i

( sinϕ∂

∂θ + cotθcosϕ

∂ϕ )

(5.44) Lˆy = i

(

cosϕ

∂θ + cotθsinϕ

∂ϕ )

(5.45) これらを用いてLˆ± を極座標表示すると

L+ = ℏe (

∂θ +icotθ

∂ϕ )

(5.46) L = −ℏe

(

∂θ −icotθ

∂ϕ )

(5.47)

5.1. 軌道角運動量 63 となる。これらを(5.9)Lˆ2= ˆL+Lˆ+ ˆL2zLˆzに代入すると

Lˆ2 =−ℏ2 [ 1

sinθ

∂θ (

sinθ

∂θ )

+ 1

sin2θ

2

∂ϕ2 ]

(5.48) が得られる。これは、ラプラシアンの極座標表示

∆ = 1 r2

∂r (

r2

∂r )

+ 1 r2

[ 1 sinθ

∂θ (

sinθ

∂θ )

+ 1

sin2θ

2

∂ϕ2 ]

(5.49) の角度部分に比例定数を除き一致していることに注意しよう。

(5.48)(5.39)に代入し、YLM(θ, ϕ) =AML(θ)eiM ϕ とおくと、AML の満 足すべき方程式

[ 1 sinθ

∂θ (

sinθ

∂θ )

M2 sin2θ

]

AML =−L(L+ 1)AML (5.50) が得られる。この方程式の解AML を求めよう。まず、⟨θ, ϕ|Lˆ|L,−L⟩= 0 に(5.47)を代入すると

(

∂θ −icotθ

∂ϕ )

⟨θ, ϕ|L,−L⟩= 0 (5.51) これに⟨θ, ϕ|L,−L⟩=ALL(θ)e−iLϕを代入すると

dALL

−LcotθALL= 0 (5.52) が得られる。この解は

ALL=c(sinθ)L (5.53) で与えられる。ここで定数c|YLL|2の立体角積分が1に規格化される ように決められる。すなわち、

dΩ|YLL(θ, ϕ)|2 =

0

π

0

sinθ|ALL(θ)|2

= 2πc2

π

0

(sinθ)2L+1

= 4πc222L(L!)2

(2L+ 1)! = 1 (5.54)

これから

c= 1 2LL!

√(2L+ 1)!

4π (5.55)

が得られる。これを(5.53)に代入すると ALL= 1

2LL!

√(2L+ 1)!

4π (sinθ)L (5.56)

次に、一般のAML を求めるために漸化式をつくる。(5.29)より

|L, M⟩= 1

ℏ√

(L−M+ 1)(L+M)

Lˆ+|L, M 1 (5.57) が得られるが、この両辺の左側から⟨θ, ϕ|を作用させて(5.46)を用いると

AML(θ)eiM ϕ = e

√(L−M+ 1)(L+M)

× (

∂θ +icotθ

∂ϕ )

AML1(θ)ei(M1)ϕ

= eiM ϕ

√(L−M+ 1)(L+M)

× (

∂θ (M1) cotθ )

AML1(θ)

= eiM ϕ

√(L−M + 1)(L+M)(sinθ)M

× d

d(cosθ)[(sinθ)(M1)AML1(θ)] (5.58) そこでyM := (sinθ)−MAML とおくとyM に関する漸化式

yM = 1

√(L−M+ 1)(L+M) d

d(cosθ)yM1 (5.59) が得られる。これをL+M 回順次適用すると

yM = (1)L+M

(L−M)!

(2L)!

1 (L+M)!

dL+M

d(cosθ)L+MyL (5.60) が得られる。右辺にyL= (sinθ)LALLを代入すると

AML = (−1)L+M

(L−M)!

(2L)!

1 (L+M)!

×(sinθ)M dL+M

d(cosθ)L+M[(sinθ)LALL] (5.61) が得られる。これに(5.56)を代入すると

AML = (1)L+M 2LL!

√ 2L+ 1

(L−M)!

(L+M)!

×(sinθ)M dL+M

d(cosθ)L+M[(sinθ)2L] (5.62)

5.1. 軌道角運動量 65 こうして角運動量の固有状態である球面調和関数の一般公式

YLM(θ, ϕ) = ⟨θ, ϕ|L, M⟩

= (1)L+M 2LL!

√ 2L+ 1

(L−M)!

(L+M)!

×eiM ϕ(sinθ)M dL+M

d(cosθ)L+M(sinθ)2L (5.63) が得られる。 同様にして、⟨θ, ϕ|Lˆ+|L, L⟩= 0に(5.46)を代入して以上 の計算を繰り返すと

ALL= (1)L 2LL!

√(2L+ 1)!

4π (sinθ)L (5.64)

が得られる。位相因子(−1)Lは以下の結果が(5.62)と一致するように選

ばれた。(5.64)から始めて上と同様な計算を行うと

YLM(θ, ϕ) = (1)L 2LL!

2L+ 1 4π

(L+M)!

(L−M)!

×eiM ϕ(sinθ)M dLM

d(cosθ)LM(sinθ)2L (5.65) が得られる。これは(5.63)とは一見異なるが同じであることが示せる。

AML は本質的には陪ルジャントル多項式と呼ばれるものである。これを 見るために、AML の微分方程式(5.50)x= cosθとおくと次の微分方程 式が得られる。

(1−x2)d2AML

dx2 2xdAML dx +

[

L(L+ 1) M2 1−x2

]

AML = 0

(1≤x≤1) (5.66)

この微分方程式はLMが整数のとき、1価の連続解を持つことが知ら れている。特に、|M| ≤ Lの場合は、陪ルジャンドル多項式と呼ばれる

1≤x≤1で有界な解 PLM(x) = (1−x2)M2

2LL!

dL+M

dxL+M(x21)L (−L≤M ≤L) (5.67) をもつ。M = 0と置いたPL0(x)はルジャンドル多項式と呼ばれる。

PL(x) = 1 2LL!

dL

dxL(x21)L (5.68)

こうしてAML(θ)は比例定数を除いてPLM(cosθ)に等しいことがわかる。

PLM(x)は正規直交条件

0

exxMPLM(x)PLM(x)dx= (L+M)!

L! δL,L (5.69) を満足する。YLM の規格直交条件(5.37)を満足するように係数を決めると

YLM(θ, ϕ) = (−1)M+2|M|

2L+ 1 4π

(L− |M|)!

(L+|M|)!PL|M|(cosθ)eiM ϕ (5.70) が得られる。これからYLMが一般に次の関係式を満足することがわかる。

YL−M(θ, ϕ) = (1)M[YLM(θ, ϕ)] (5.71) 特に、M = 0の場合は

YL0(θ, ϕ) =

√2L+ 1

PL(cosθ) (5.72)

また、球面調和関数の完全性条件は

L=0

L M=L

[YLM(θ, ϕ)]YLM, ϕ) = 1

sinθδ(θ−θ)δ(ϕ−ϕ)

=: δ(Ω−) (5.73) で与えられる。両辺を立体角で積分∫

· · ·sinθdθdϕすると1に等しくなる ことに注意しよう。

以下に、球面調和関数の例を書き下しておく。

Y00 = 1

Y1±1 =

√ 3

8πsinθe±, Y10 =

√ 3 4πcosθ Y2±2 =

√ 15

32πsin2θe±2iϕ, Y2±1 =

√15

8π sinθcosθe±, Y20 =

√ 5

16π(3 cos2θ−1)

(5.74)

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