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コヒーレント状態

ドキュメント内 東京大学理学系研究科 上田研究室 (ページ 87-91)

第 5 章 角運動量 57

5.5 時間反転とクラマース縮退

6.1.5 コヒーレント状態

日常的になじみの深い電場や磁場は波として振舞うことを我々は知って いる。このような古典的な波—電磁波—に最も近い量子状態がコヒーレ ント状態 (coherent state)である。記述を簡単にするために、決まった波 数k と偏光λを持った電磁場モードを考え、その生成消滅演算子を添え 字 kλ を省略して ˆa、ˆa と書こう。光のコヒーレント状態を定義する ために次のような変位演算子(displacement operator)を導入する。

D(α)ˆ ≡eαˆaαˆa (6.46)

変位演算子は消滅演算子(生成演算子)を α)だけ平行移動する役割 を果たしている。

Dˆ(α)ˆaD(α)ˆ = ˆa+α (6.47) Dˆ(α)ˆaD(α)ˆ = ˆa+α (6.48) この証明は次のようにして行うことが出来る。α は複素数なので、αα は独立変数とみなすことが出来る。(6.47)の左辺をα の関数とみなし てこれで微分すると

∂α[ ˆD(α)ˆaD(α)] = ˆˆ D(α)[ˆa,ˆa] ˆD(α) = ˆD(α) ˆD(α) = 1 (6.49) この両辺をαについて0からαまで積分すると(6.47)が得られる。(6.48) も同様にして証明できる。

コヒーレント状態|α⟩ は変位演算子を用いて

|α⟩ ≡D(α)|0⟩ˆ (6.50)

と定義できる。コヒーレント状態に消滅演算子を作用させると ˆ

a|α⟩= ˆD(α) ˆD(α)αD(α)ˆ |0= ˆD(α)(ˆa+α)|0=αD(α)ˆ |0=α|α⟩ すなわち

ˆ

a|α⟩=α|α⟩ (6.51)

が得られる。ここで、 D(α) ˆˆ D(α) = 1および ˆa|0⟩ = 0 を使った。この ように、コヒーレント状態は消滅演算子の固有状態になっている。

ベーカー・ハウスドルフの公式

eA+ ˆˆ B=eAˆeBˆe12[ ˆA,B]ˆ (6.52) を用いると、D(α)ˆ

D(α) =ˆ e12|α|2eαˆaeαaˆ (6.53) と書けるので eαˆa|0 =|0 に注意すると |α⟩ は光子数状態を用いて次 のように展開できる。

|α⟩=e|α|

2

2 eαˆa|0=e|α|

2 2

n=0

αn

n!a)n|0=e|α|

2 2

n=0

αn

√n!|n⟩(6.54) 従って、コヒーレント状態の光子数を測定して n個の光子が観測される 確率 P(n) は

P(n) =|⟨n|α⟩|2 =e¯nn¯n

n! (6.55)

6.2. 2次元調和振動子 89 のようにポアソン分布で与えられる。ここで、n¯ ≡ |α|2 は測定される光 子数の期待値である。ポアソン分布は個々の事象が互いに無相関に起こる ときに現れる分布であり、コヒーレント状態の光子数分布はランダムであ ることがわかる。コヒーレント状態の光子数揺らぎの分散は

(∆n)2⟩ ≡n¯2−n¯2= ¯n (6.56) で与えられる。このように、コヒーレント状態では光子数の期待値と分散 は等しい。

他方、コヒーレント状態の振幅を α=|α|e のように振幅と位相に分 けて書くと、(6.54)

|α⟩=

n=0

P(n)(e)n|n⟩ (6.57)

と書ける。右辺は、コヒーレント状態が、各々の光子数状態|n⟩にポアソ ン分布に対応する振幅√

P(n) と光子1個あたりeという同じ位相因子 をつけて重ね合わせた状態であると解釈される。

6.2 2 次元調和振動子

2次元調和振動子のハミルトニアンは Hˆ =

(pˆ2x

2m +2x 2 xˆ2

) +

(pˆ2y

2m +y2 2 yˆ2

)

(6.58) で与えられる。ここで、

x,pˆx] = [ˆy,pˆy] =i, 他の交換子は0 (6.59) である。これは独立な2個の1次元調和振動子の和であるので前節と同様

な変換(6.5)によってx方向とy方向について別々に対角化できる。すな

わち、

ˆ

ax= 1

2mℏωx

(mωxxˆ+iˆpx), ˆay = 1

√2mℏωy(mωyyˆ+iˆpy) (6.60)

ax,aˆx] = [ˆay,ˆay] = 1, 他の交換関係は0 (6.61) このとき、ハミルトニアンは

Hˆ =ℏωx (

ˆ

axˆax+1 2

) +ℏωy

( ˆ

ayaˆy+1 2

)

(6.62)

と対角化できる。

特に、ωx =ωy =: ωの時は、2次元の放物型ポテンシャルは回転対称 性を持つ。このとき、角運動量

Lˆz:= ˆxpˆy−yˆpˆx (6.63) も保存する。実際、右辺をˆax,aˆyで表すと

Lˆz =iℏ(ˆaxˆay ˆaxaˆy) (6.64) となるが、これはハミルトニアンと交換する。

[ ˆH,Lˆz] = 0 (6.65)

このことは直接交換関係を計算することで確かめることができる。もしく は、次のようにして明示的に示すこともできる。消滅演算子を次のように 変換する。

ˆ

a+ = 1

2(ˆax−iˆay), ˆa= 1

2(ˆax+iˆay) (6.66) ˆ

ax = 1

2(ˆa++ ˆa), aˆy = i

2(ˆa+−aˆ) (6.67) ˆ

a+はˆa,ˆaと交換する。

a+,ˆa] = [ˆa+,ˆa] = 0 (6.68) これらを用いてハミルトニアンと角運動量を書くと

Hˆ = ℏω(ˆa+aˆ++ ˆaˆa+ 1) (6.69) Lˆz = ℏ(ˆa+ˆa+ˆaˆa) (6.70) この表示ではHˆ とLˆzの可換性は明らかである。

ˆ

a+ˆa+とˆaaˆの固有値をそれぞれn+nと書き、n:= min(n+, n)、 m:=n+−nとおくとエネルギー固有値Eと角運動量の固有値Lz

E = ℏω(n++n+ 1) =ℏω(2n+|m|+ 1) (6.71)

Lz = n+−n=m (6.72)

と書けることがわかる。これからm, nの取りうる値と縮重度を N := E

ω (6.73)

の値ごとに示すと表6.1のようになる。

6.2. 2次元調和振動子 91 表6.1: N =E/ωの値ごとに取りうるn, mの値と縮重度g N 2n+|m| n m g

1 0 0 0 1

2 1 0 ±1 2

3 2 0 ±2 3

1 0

4 3 0 ±3 4

1 ±1

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