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製鋼スラグの溶出試験とその浸出液を用いた土壌へのフッ素吸着試験

ドキュメント内 森下, 智貴 (ページ 63-68)

第 2 章 鉄鋼スラグの有効利用に関する研究

2.5. 製鋼スラグの溶出試験とその浸出液を用いた土壌へのフッ素吸着試験

2.5.1. はじめに

製鉄の製造過程で副産物として産出される製鋼スラグは,土木資材や肥料として再利用されている.

製鋼スラグは含まれるカルシウムの影響で水と反応すると高いアルカリ性を示し,高濃度の電解質物 質が溶出する.製鋼スラグからの溶出特性を把握する目的は次の2つがあげられる.一つには,農業 用資材としての利用である.農業用資材として利用する場合は,圃場に施用した製鋼スラグから溶出 するカルシウム,ケイ素,リンが植物に取り込まれることで肥料としての役割を果たす.しかし,溶 出の特徴は元素ごとに異なる.したがって,それらの溶出特性を把握しておくことで肥料としての施 用効果を高めることができる.二つ目には土木資材としての利用である.土木資材として利用する場 合,製鋼スラグは含まれる遊離石灰(f-CaO)を安定化させるために,大気エージングを行うことが ある.大気エージングは,製鋼スラグを野積みにして大気と接触させる処理であり,雨曝しの状態で あるため,製鋼スラグを野積みした個所から高濃度の電解質物質が溶出することが想定される.ここ で問題となるのは,鉄鋼生産時に鉄鋼の流動性を向上させ,脱硫反応を促進させるために蛍石(CaF2) が添加されるため,製鋼スラグには部分的にフッ素を含むことがあり,降雨の影響で電解質物質とと もにフッ素が溶出し,地盤中に浸透する可能性があることである.フッ素は土壌汚染対策法で定めら れた第二種特定有害物質であり,フッ素が周辺環境へ拡散した場合には,健康リスクや不動産リスク への懸念がある.これらの問題を考察するために,製鋼スラグに降雨のpH(5.6)に調整した純水を 通水し,溶出する溶液のpH,電気伝導度(EC),化学種の濃度を測定し,スラグからの溶出特性を 調べた.また,溶出するフッ素に対して,吸着性の高い土壌をあらかじめ敷設しておけばフッ素の周 辺環境への拡散リスクは低減すると考えられる.そこで,溶出試験後の溶液を用い,3種類の土壌に ついてフッ素の溶出試験を行い,高電解質中での土壌とのフッ素の吸着特性を比較した.

2.5.2. 試料と実験方法

(1) 試料

製鋼スラグは,破砕し5 mm篩通過試料を 用いた.通水した溶液は塩酸でpHを降雨相 当の5.6に調整した純水である.吸着試験に 用いた土壌はカオリナイトを主体としたマ サ土,スメクタイトを主体とした畑地土,ア ロフェンを主体とした黒ボク土の3種類であ る.これらの土壌pHはそれぞれ6.1,5.5, 5.9であった.

(2) 実験方法

溶出試験 高さ10 cm,直径6 cmのアクリル製カラムに製鋼スラグを締固め試験により測定した最 大乾燥密度ρdの95 %で締固め(ρd=2.072 g/cm3),上部からマイクロチューブポンプを用いて1.2

mL/minで溶液をカラム内を一様となるように通水した.通水量は年間降水量を1800 mm/yearとして

10年分の25 Lを通水した.浸出した溶液を適宜メスシリンダーで30~50 mL程度採取し,そのpH,

図2.5.1 製鋼スラグの締固め曲線

5 10 15 20 25

1.9 2.0 2.1 2.2

ρdmax=2.144 g/cm3

ρd95%=2.072 g/cm3

Water content w(%) Dry density (g/cm3)

59 EC,カルシウム濃度,フッ素濃度,リン酸濃度,ケイ素濃度を測定した.測定に用いなかった浸出 液はフッ素の吸着試験に用いるため別途保存した.カルシウム,フッ素の濃度測定には,それぞれ原 子吸光光度計,イオンクロマトグラフィーを用いた.ケイ素とリンの測定には分光光度計を用いた.

フッ素吸着試験 吸着試験に用いた初期溶液は,通水開始から1.5 Lまでの浸出液を27 mLと濃度と pHを調製したフッ化ナトリウム溶液を3 mLを混合して作成した.初期溶液のpHは水酸化ナトリウ ムで浸出液と同じ12.6に調整した.85 mL容ナルゲン遠沈管に土壌を3 g秤取し,初期溶液を30 mL 封入したのち24時間振とうした.遠心分離後,ろ過した溶液のフッ素濃度を測定した.フッ素 の吸着量は式2.5.1で算出し,平衡濃度と吸着量の関係を吸着等温線として整理した.

S =(𝐶0− 𝐶)𝑉

𝑀 (2.5.1)

S:吸着量(mg/kg),C0:初期濃度(mg/L),C:平衡濃度(mg/L),V:溶液体積(L),M:試料 質量(kg).

2.5.3. 結果と考察

(1) カラム溶出試験

カラム溶出試験では,浸出液のpHは 初期において12.6を示し,25 L通水時 点においては11.6となった.通水7.5 L 辺りからやや低下するものの,通水終了 時でも高いpHを保持していた.ECは 初期において7.5 mS/cmを示し,25 L通 水時点において0.8 mS/mとなった.EC

は通水5.0 L辺りから低下する傾向にあ

り,pHの傾向とやや異なっていた.こ

れはpHが水素イオン濃度の逆数の対数で定義されるため,溶液中の濃度の減少に対する反応がEC に比べて緩慢であることによる.

図2.5.3に浸出液中の主な化学種の溶出に伴う濃度変化を示す.図2.5.3(a)に示すように,カルシウ

ム濃度は初期において800 mg/Lを示し,5.0 L通水時から濃度が減少する傾向にあり,25 L通水時点

では70 mg/Lとなった.浸出液においてCaの濃度が最も高く,pH,ECの結果とほぼ同様の傾向を

示していることから,溶液のECは浸出液中にふくまれるカルシウム濃度に依存するものと考えられ る.浸出水のpHはカルシウム濃度が600 mg/Lの低下にShamy(1979)はスラグが高いアルカリ性 を示すのは,水とスラグが接触することで式2.5.2に示された反応が起こるためと述べている.この ことからも,カルシウム濃度がpHおよびECに対して支配的であることがわかる.

Slag-(SiO-)2Ca2++2(H++OH-) ⇄ Slag-(SiOH)2+Ca2++2OH- (2.5.2)

一方で,ケイ素の溶出濃度は通水初期ではほとんど溶出しなかったが,7.5 L通水時から増加し始 め,25 L通水時には7 mg/Lまで上昇した.これはカルシウム濃度と逆の傾向を示している.これは,

加藤・尾和(1996)らが指摘するように,式2.5.3にしたがってカルシウム濃度が減少すると,スラ グ表層に形成された含水ケイ酸層(Slag-(SiOH)2)が平衡状態を保とうとするためにSiO2として溶液

図2.5.2 通水に伴う浸出液のpHおよびEC

0 5 10 15 20 25

10 11 12 13

0 2 4 6 8 10

Flow volume (L)

pH EC (mS/cm)

pHEC

60 に溶出するためと考えられる.

Slag-(SiOH)2 ⇄ Slag-+SiO2+H2O (2.5.3)

加藤(2002)は鉱さい資材からの溶出するケイ酸とカルシウムの関係について,カルシウム濃度が 高いほどケイ酸濃度が低下すると報告している.また,スラグからの溶出pHはカルシウム濃度が支 配的であるため,pHが高いほどケイ酸濃度が低下するものと考えられる.藤井ら(2008)はカルシ ウムとケイ素の溶出傾向は転炉スラグに含まれるカルシウムの形態がdicalsium silicate(Ca2SiO4)が 主体であることから,長期的にはモル比がCa:Si=2:1になることを示した.本実験においては,25 L 以上の通水でこの結果が得られると予想される.

リン酸は最初のサンプリングにおいて56 mg/Lと高い値を示したが,その後はほとんど溶出しなか った.連続的に溶出するカルシウムとは溶出傾向は異なり,リン酸は一度に溶出する傾向がみられた.

また,フッ素においても最初のサンプリングにおいて比較的高い0.84 mg/Lを示したが,その後はほ とんど溶出しなかった.この溶出傾向から,リンやフッ素はスラグの表面に付着したものが溶出した と推測され,スラグからのリンとフッ素の溶出量は比表面積に比例するものと考えれれる.

※(a):カルシウムの溶出濃度,(b):ケイ素の溶出濃度,(c):リン酸の溶出濃度,(d):フッ素の溶出濃度

図2.5.3 カラム試験の通水に伴う溶出濃度の変化

(2) スラグ浸出液を用いた土壌のフッ素吸着特性

3種類の土壌を用いてフッ素の吸着試験を行った.図2.5.4にフッ素の吸着等温線を示す.フッ素 を添加した初期溶液はpH=12.6,EC=7.4 mS/cmであり,高pH,高塩類条件下での吸着を再現してい る.一般的にフッ素はpHが低い場合に土壌と親和性が高い(Sposito,1989).また,2.5.4式に示す

0 5 10 15 20 25

0 0.2 0.4 0.6 0.8 1.0

F

F concentration (mg/L)

Flow volume (L) (d)

0 5 10 15 20 25

0 200 400 600 800 1000

Ca

Ca concentration (mg/L)

Flow volume (L) (a)

0 5 10 15 20 25

0 2 4 6 8 10

Si

Si concentration (mg/L)

Flow volume (L) (b)

0 5 10 15 20 25

0 20 40 60 80

PO4

PO4 concentration (mg/L)

Flow volume (L) (c)

61 ように,フッ化物イオンはカルシウムと結合して難溶性の塩を形成することから,共存するカルシウ ム濃度が高い場合に溶液中のフッ素イオン濃度が低くなることが報告されている(Farrah et al., 1985).

Ca2+ + 2F- → CaF2 (2.5.4)

平衡pHはマサ土,畑地土,黒ボク土でそれぞれ,12.2,10.7,8.8であった.初期濃度にかかわら ず平衡pHは各土壌においてほとんど変化しなかった.マサ土のフッ素吸着能力は他の土壌より高く,

吸着等温線は高保持型を示した.これはマサ土がフッ素吸着能力の高いカオリナイトを主体とした土 壌であることに起因する(杉田ら,2005).また,平衡pHは12.2で初期pHに近い値であった.溶 液はカラムの浸出液を主体としているので溶液のpHはカルシウム濃度に依存しており,pHが高い ことはカルシウム濃度が高いことを示している.したがって,溶液中のカルシウムが土に吸着されず にフッ素の沈殿に寄与することも,マサ土のフッ素保持能力の高さの要因の一つと考えられる.

畑地土は平衡濃度が3 mg/L以上で吸着量が増大する傾向にあった.吸着等温線はシグモイド

(S-curve)型を示し,平衡濃度が低い場合には土壌に保持されないものと考えられる.吸着等温線 がシグモイド型を示す吸着タイプは,低濃度領域において溶質は固相よりも液相に分配されるため

(Limousin et al., 2007),平衡濃度が低い場合は土壌によるフッ素保持特性が活かされないと考えられ

る.平衡pHは10程度であり,初期pHよりも低い値を示した.これは溶液中のカルシウム濃度が土 壌に吸着されていたアルミニウムイオンやプロトンと交換することにより初期pHから低下したため と考えられる.このことから溶液中のカルシウム濃度は減少し,沈殿に寄与するカルシウム量が減少 したため,マサ土よりも低い吸着能を示したと考えられる.

黒ボク土はアロフェンを主体としており,陰イオン交換容量が高くフッ化物イオンは最も吸着され ると予想された.しかしながら,黒ボク土はフッ素の吸着容量が最も低く,また,畑地土壌の場合と 同様に低濃度領域では吸着しにくい傾向にあった.陰イオン交換容量はpHの上昇に伴い低下するた

め(Wada and Okamura, 1980),高pH条件下において黒ボク土のフッ素吸着能は低下したものと考え

られる.また,平衡pHは最も低く,沈殿に寄与するカルシウムが最も少ないことが推測される.ア ロフェンは非結晶性のケイ酸アルミニウム鉱物であり,他の土壌よりも交換されるアルミニウムイオ ンの量が多い.したがって,カルシウムとアルミニウムの交換反応が平衡pHを大きく低下させ,フ ッ素の吸着能力の低減に影響したものと考えられる.

図2.5.4 吸着等温線

0 5 10 15

0 100 200 300 400 500

黒ボク土 マサ土 畑地土

平衡濃度 (mg/L)

吸着量 (mg/kg)

ドキュメント内 森下, 智貴 (ページ 63-68)