第 2 章 鉄鋼スラグの有効利用に関する研究
2.4. 二酸化炭素検知管を用いた製鋼スラグの炭酸塩含有量の簡易測定法
2.4.4. 結果と考察
(1) 製鋼スラグの酸中和容量
図2.4.2に,酸中和容量製鋼ス
ラグに対する酸添加量とpHの関 係を示す.酸添加しない場合のpH は12.5前後であり,水酸化カルシ ウムがpHを支配している.酸添
加量が2 mol/kgになるまではほぼ
直線的にpHが低下した.この領 域は水酸化カルシウムの中和領 域と考えられる.その後8 mol/kg までの間には,pH 10~9の明瞭な
緩衝領域がみられた.pHの値から,この領域は主としてケイ酸カルシウムによる緩衝領域と考えら える.酸添加量が8 mol/kgを超えると,再びpHは直線的に低下し10~12 mol/kgの間でpH 6の緩衝 領域があった.添加量が12 mol/kgを超えると再びpHが低下し,15 mol/kgの添加ではpHは5以下 になった.反応時間を長くするとともに,酸添加量が3~8 mol/kgの領域でのpHは次第に上昇したが,
添加量が10 mol/kgを超える領域ではその影響は小さかった.
酸によって炭酸塩を分解し,二酸化炭素を発生させるには反応液のpHを5以下に保つ必要がある.
図2.4.2に示した結果からはモノプロトン酸として15 mol/kg以上の添加で十分である.
Acid addition/ mol kg-1
0 2 4 6 8 10 12 14 16
pH
4 6 8 10 12 14
24 h 48 h 100 h
図2.4.2 大気エージングした製鋼スラグの緩衝曲線
53 (2) 酸溶液の選定
反応時に金属鉄の溶解を抑制し,硫化水素の発生を防ぐため,塩酸に代わる酸溶液として塩化鉄 (III)およびポリテツを検討した.塩化鉄(III)中の鉄イオンの加水分解反応は,複数のヒドロキソ錯体 の生成を伴う複雑な反応であるが(Stefansson, 2007),全体としての化学量論は次式のように表すこ とができる.
Fe3+ + 3H2O = Fe(OH)3 + 3H+ (2.4.2)
生成直後の水酸化鉄の溶解度(Fe(III)イオン種の合計濃度)は,塩化物イオン濃度にかかわらずpH4 でも10-5 mol/L程度であることから(Liu and Millero, 1999),上記加水分解反応は実質的にpH4以下 で完結すると考えてよい.したがって,塩化鉄(III) 1 molは3 molのモノプロトン酸に相当する.こ の研究で採用している測定法においては試料の酸性化のために2 mol/Lの塩酸が用いられてきたので,
それとほぼ同濃度の酸として0.7 mol/Lの塩化鉄を用いた.
ポリテツは,その技術資料から計算すると,溶存種の概略の化学組成はFe3(OH)(SO4)4であり,全 鉄濃度は約3 mol/Lである.ポリテツ溶液は水酸化鉄クラスターイオンの硫酸塩溶液と考えられるが 溶存種の正確な構造や組成は知られていない.ただ,化学量論的には加水分解反応は以下のように書 くことができる.
Fe3(OH)8+ + 8H2O = 3Fe(OH)3 + 8H+ (2.4.3)
つまり,ポリテツ中の鉄1 molは8/3 molのモノプロトン酸に相当する.ポリテツ溶液の鉄濃度は
約3 mol/Lであることから,ポリテツ溶液は8 mol/Lのモノプロトン酸に相当する.2 mol/Lのモノプ
ロトン酸相当とするためには1/4希釈する必要があるが,この実験では希釈せずに用い,使用量を10 mLとした.
鉄粉からの水素発生量を表2.4.1に示す. 0.50 gの鉄粉に35 mLの2 mol/L塩酸を添加した場合,
30分間の反応で98.8 mLの水素が発生した.目視による観察では水素の発生(発泡)は反応開始後
10~20分が最も激しく,それ以後はやや遅くなった.これに対して35 mLの0.7 mol/L塩化鉄(III)添加
の場合には1.3 mL,10 mLのポリテツでは0.8 mLの発生にとどまった.標準的な測定法では,反応 袋内に空気200 mLを注入して発生した二酸化炭素を希釈すること,検知管による二酸化炭素濃度の 読み取りは通常2桁であることを考慮すると,塩化鉄(III)溶液やポリテツを用いた場合の水素発生に よる袋内気体体積の増加は,反応時間30分以内では無視できると考えられる.
表2.4.2には,大気エージングした製鋼スラグおよびT地区の舗装の下部試料1.00 gを入れた反応
袋に2 mol/Lの塩酸35 mL,0.7 mol/Lの塩化鉄(III) 35 mLまたはポリテツ10 mLと,それぞれ空気200 mLを注入して20分反応させた後の袋内気体中の硫化水素濃度も示す.酸溶液として塩酸を使用し
表2.4.1 鉄粉からの水素発生量
Regents H2 generation from metallic iron powder/ mL
H2S concentration for
Air-aged converter slag Pavement sample (T-bottm)
2 mol/L HCl 89.8 0.025% 0.16%
0.7 mol/L FeCl3 1.3 < DL* < DL*
Polytetsu 0.8 < DL* < DL*
*DL: Detection limit
54 た場合には,大気エージングした製鋼スラグでは0.025%(250 ppm),高炉水砕スラグを混合した舗 装試料では0.16%(1,600 ppm)の硫化水素濃度となった.一方塩化鉄(III)およびポリテツを用いた場 合には硫化水素は検出されなかった.その原因としては,塩化鉄(III)溶液やポリテツは2 mol/Lの塩 酸よりもpHが高いので,試料に含まれる硫化物鉱物の溶解速度が遅かったことが考えられる.また,
硫化物鉱物の溶解によって発生した硫化水素は,
3H2S + 2FeCl3 = Fe2S3 + 6HCl (2.4.4)
という反応で硫化鉄(III)として固定されたり,
H2S + 2Fe3+ = S0 + 2Fe2+ + 2H+ (2.4.5)
という反応で単体イオウに還元されたりしたと考えられる.
袋内には200 mLの空気を注入しているので,発生した硫化水素体積は,大気エージングした製鋼ス
ラグで約0.1 mL,舗装材で0.32 mL程度であり,袋内の気体体積への影響は無視できる.また,この
研究で用いた検知管による二酸化炭素濃度測定には3,000ppm以下の硫化水素による妨害はない.し かし,厚生労働省が定める労働安全衛生法では作業環境管理濃度が1 ppmと低いことを考慮すると,
塩酸の使用は避けた方がよいと考えられる.
以上の結果からこの研究においては0.7 mol/Lの塩化鉄(III)を酸性溶液として用いることにした.
なお,0.7 mol/Lの塩化鉄(III)のpHは1.0であり,この研究で供試したスラグ試料1.00 gに35 mLの 塩化鉄(III)を加えて反応させた後のpHは1.3~1.4であった.
(3) 最適操作法
以上の検討結果に基づき,酸溶液としては0.7 mol/Lの塩化鉄(III)溶液を用いることに決定した.
また,試料1 gに対する添加量は,既往の研究に準じて35 mLとした.この条件での酸添加量は,試 料1 gあたりモノプロトン酸換算で73.5 mmolに相当する.スラグの酸中和容量は約15 mol/kgであ ったので(図2.4.1),スラグ自体のアルカリ性による酸消費を差し引いても試料1 gあたり58.5 mmol の余剰酸が添加されることになる.炭酸塩1 molの分解には2 molの水素イオンが必要であることを 考慮すると,この添加条件で分解可能な炭酸塩量は,炭酸カルシウム換算で約2.9 gとなる.つまり,
表2.4.2 各種スラグ中に含まれる炭酸塩含量
Sample Paving materials Carbonate content
mol/kg Mass % as CaCO3
Air-aged
converter slag - 0.26 ± 0.01 2.6 ± 0.1
S-top Converter slag 0.71 ± 0.02 7.2 ± 0.2
S-middle ditto 0.51 ± 0.01 5.1 ± 0.1
S-bottm ditto 0.50 ± 0.02 5.0 ± 0.2
T-top Converter slag and blast furnace slag ( 8:2) 0.83 ± 0.01 8.3 ± 0.1
T-bottom ditto 0.82 ± 0.03 8.2 ± 0.3
Y Blast furnace slag 0.42 ± 0.02 4.2 ± 0.2
S, T and Y indicate abbreviation of sampling site.
Each value of carbonate content is the average ± standard deviation,
55 採用した酸添加量は,測定試料が100 %の炭酸カルシウムである場合でも十分である.
酸溶液として0.7 mol/Lの塩化鉄(III) 35 mLを用い,T地区の舗装の上層試料1.00 gを用い,空気
注入量は200 mLとして10,20,30分間反応させたのち,袋内空気の二酸化炭素濃度を測定した.
測定結果はそれぞれ6.97±0.25 %,7.07±0.21 %,7.00±0.10 %であり,20分以降大きな変化はなか った.この結果に基づき,以後の実験では反応時間は15~20分とした.
大気エージングした製鋼スラグの粉砕程度を変えた試料1.00 gを用い,酸溶液として0.7 mol/L塩
化鉄(III) 35 mLを添加,空気注入量は200 mLとして20分反応させたときの袋内部の二酸化炭素濃度
は,2 mm篩を全通した試料で2.40±0.40 %,0.1 mm篩を全通させた資料で2.85±0.25 %であり,2 mm 全通試料でやや濃度が低く測定値の変動が大きかったものの,その差は比較的小さかった.
大気エージングした製鋼スラグおよび,それに試薬の炭酸カルシウムを質量比20:1で混合した試 料それぞれ1.00 gを用い,酸溶液として0.7 mol/Lの塩化鉄(III) 35 mL,空気注入量200 mL,反応時 間20分として二酸化炭素発生量を測定し,測定原理で述べた方法にしたがって炭酸塩含量を測定し た.炭酸塩含量の測定結果は,大気エージングした製鋼スラグで0.26±0.01 mol/kg,炭酸カルシウム をスパイクした試料で0.76±0.02 mol/kgであった.スパイクした試料1.00 gに含まれる炭酸カルシ
ウムは1/21 gであることを考慮して,添加炭酸カルシウムの回収率を計算したところ107%であり,
約7%の過大評価となった.
以上の結果に基づいて,以下に述べる方法を最適測定操作法として採用し,製鋼スラグおよび舗装 材として使用されたスラグの炭酸塩含量を測定した.
1) 少なくとも2 mm以下に粉砕した試料を1.00 gを,開口部の近くに図2.4.1に示すように内径5 mm のポリエチレン管を溶着したナイロン-ポリエチレン積層袋(旭化成 飛龍)に秤取る.
2) ポリエチレン管に三方コック(アイシス VXB 1062)をつなぎ,ディスポーザブルシリンジで内 部の空気を抜いて密閉する.
3) 炭酸塩分解用の酸溶液をディスポーザブルシリンジにとり,三方コックから注入して密閉する.
4) 発生した二酸化炭素を希釈するため,空気200 mLをディスポーザブルシリンジを用いて三方コ ックから注入して所定時間反応させる.このとき,時々袋をゆすって内容物を撹拌する.
5) 所定時間後に三方コック二酸化炭素検知管(光明理化学鉱業 126 SH)を接続し,内部の気体100 mLを吸引して二酸化炭素濃度を測定する.
6) 測定された二酸化炭素濃度と袋内の気体の体積,酸溶液の体積と溶存二酸化炭素量および室温か ら,発生した二酸化炭素の全量を計算する.
(4) スラグおよび舗装材の炭酸塩含量測定結果と総合考察
大気エージングした製鋼スラグおよびスラグ舗装から採取した試料の炭酸塩含量の測定結果は表
2.4.2に示した.採用した測定法では,炭酸塩の種類は識別できないので結果は炭酸塩含量として示
した.また同じ表には炭酸塩が炭酸カルシウムであると仮定した場合の質量パーセントも併せて示し た.測定された炭酸塩含量は炭酸として0.26~0.83 mol/kgであった.これは炭酸塩が炭酸カルシウム であると仮定した時には2.6~8.3%に相当する.舗装から採取された試料の炭酸塩含量は大気エージ ング後の製鋼スラグの炭酸塩含量の2~3倍に増加していた.同一ロットの製鋼スラグを使用して舗装 を施行したわけではないので,厳密な比較はできないが,施工後,大気や土壌空気からの二酸化炭素