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結果と考察

ドキュメント内 森下, 智貴 (ページ 82-86)

第 3 章 酸化マグネシウム(MgO)によるフッ素の不溶化機構の解明

3.2. 酸化マグネシウムによるフッ素汚染土壌の不溶化実験

3.2.3. 結果と考察

(1) 平衡pH

フッ素が土壌に吸着される場合,土壌中のアルミニウムと結合したOH基とフッ素が交換されるた め(式3.2.1),土壌溶液のpHが上昇することが知られている(Parfitt, 1978;Nordin et al., 1999).

Al-OH + F- → Al-F + OH- (3.2.1)

図3.2.1のMgO = 0 %が示す値はそれぞれの土壌pHよりも高く,上記の反応のように土壌中のAl

が持つOH基とフッ素が交換されたと考えられる.カオリナイト,マサ土においてMgOを1 %添加 した試料はpHが9程度まで上昇し,2 %以上ではpHは10~11まで上昇していた.MgOの添加量が

2 %以上の試料ではほとんどpHは変化せずほぼ同様の傾向を示した.これらの試料では時間の経過

とともにpHは低下した.これはMgOとMg(OH)2の平衡pHが異なることに起因する.3.1.3節(6) で述べたように,それぞれのpHは土壌と同様の測定方法で10.28と10.00であり,MgOの水和に伴 いpHが低下したものと考えられ,カオリナイト,マサ土のpHは,含まれるMgOやMg(OH)2のpH に大きく影響を受けた.一方で,黒ボク土ではMgOを1 %添加した試料のpHは8.5程度までしか上 昇せず,10 %添加した試料で最大9.8まで上昇していた.また,MgOの添加量が多いほどpHは上昇 する傾向にあったが,時間の経過とともに8.4~8.6に収束していった.黒ボク土ではMgOの添加に 対して,pHの上昇幅が少なく,添加したMgOがカオリナイトやマサ土とは異なる形態に変化した 可能が示唆された.

(2) X線回折結果によるMg(OH)2生成状況の測定

経過日数ごとにMgO添加率ごとにX線回折を行った.カオリナイトとマサ土のMg(OH)2生成状

況を図3.2.2に示す.Mg(OH)2の最強線は2θ = 38˚付近であるが,カオリナイトの鉱物ピークと重複

するため,2θ = 18~19˚のピークを観察した.どちらもMgO = 5 %あたりからピークが確認されるよ

図3.2.1 溶出試験後の平衡pH

0 10 20 30

4 6 8 10 12

MgO=0 %, MgO=1 %, MgO=2 %, MgO=3 %, MgO=5 %, MgO=10 %

Kaolinite orignal pH=3.96

pH

0 10 20 30

4 6 8 10 12

Masa orignal pH=5.99

Age (days)

0 10 20 30

4 6 8 10 12

Kuroboku orignal pH=5.76

78 ※観察した角度は2θ = 18~19˚とした.グラフ上段がカオリナイト,下段がマサ土のX線回折結果.

図3.2.2 X線回折結果によるMgOを添加したカオリナイトおよびマサ土でのMg(OH)2生成状況

※X線回折で得られたX線回折結果でグラフ上段がMg(OH)2,下段がMgOピーク強度

図3.2.3 X線回折結果によるMgOを添加した黒ボク土でのMg(OH)2とMgOの生成状況

18 18.5 19

0 1000 2000 3000

4000 Kaolinite-MgO 1%

1 day 3 day 7 day 14 day 28 day

Intensity of Mg(OH)2 (cps)

18 18.5 19

Kaolinite-MgO 2%

1 day 3 day 7 day 14 day 28 day

18 18.5 19

Kaolinite-MgO 3%

1 day 3 day 7 day 14 day 28 day

2θ (°)

18 18.5 19

Kaolinite-MgO 5%

1 day 3 day 7 day 14 day 28 day

18 18.5 19

Kaolinite-MgO 10%

1 day 3 day 7 day 14 day 28 day

18 18.5 19

Masa-MgO 5%

1 day 3 day 7 day 14 day 28 day

18 18.5 19

Masa-MgO 2%

1 day 3 day 7 day 14 day

28 day

18 18.5 19

1 day

Masa-MgO 3%

3 day 7 day 14 day

28 day

2θ (°)

18 18.5 19

0 1000 2000 3000

4000 Masa-MgO 1%

1 day 3 day 7 day 14 day 28 day

Intensity of Mg(OH)2 (cps)

18 18.5 19

Masa-MgO 10%

1 day 3 day 7 day 14 day 28 day

18 18.5 19

0 1000 2000 3000

4000 Kuroboku-MgO 1%

1 day 3 day 7 day 14 day 28 day

Intensity of Mg(OH)2 (cps)

18 18.5 19

Kuroboku-MgO 2%

1 day 3 day 7 day 14 day 28 day

18 18.5 19

Kuroboku-MgO 3%

1 day 3 day 7 day 14 day 28 day

2θ (°)

18 18.5 19

Kuroboku-MgO 5%

1 day 3 day 7 day 14 day 28 day

18 18.5 19

Kuroboku-MgO 10%

1 day 3 day 7 day 14 day 28 day

42.5 43 43.5

Kuroboku-MgO 5%

1 day 3 day 7 day 14 day 28 day

42.5 43 43.5

Kuroboku-MgO 2%

1 day 3 day 7 day

14 day 28 day

42.5 43 43.5

1 day

Kuroboku-MgO 3%

3 day 7 day

14 day 28 day

2θ (°) 42.50 43 43.5

1000 2000

3000 Kuroboku-MgO 1%

1 day 3 day 7 day 14 day 28 day

Intensity of MgO (cps)

42.5 43 43.5

Kuroboku-MgO 10%

1 day 3 day 7 day 14 day 28 day

79 うになり,MgO = 10 %では3日経過以降にピーク強度はほぼ一定となり,3日経過時にはMgOの水 和反応が平衡状態に達したものと考えられる.なお,図には示していないが,MgOのピークは3日 経過時には消失していた.カオリナイトとマサ土を比較すると,2θ = 18~19˚でカオリナイトの方が ピーク強度が高いことがわかり,Mg(OH)2の生成割合が高いことがわかる.この理由は明らかではな いが,カオリナイトが純粋なカオリナイト鉱物から構成されるのに対して,マサ土はMgと反応しや すいバーミキュライトや雲母などの2:1型粘土鉱物を含んでおり(Sposito, 1989),添加したMgOの 一部が反応し消費されたためと推測される.ただし,この現象はX線回折からは確認できていない.

図3.2.3に黒ボク土のX線回折によるMg(OH)2生成状況とMgO残存状況を示す.MgO=10 %を添

加した場合のデータでは,3.1節の結果と同様にMg(OH)2は生成せず,添加したMgOは水和せず部 分的に残存していた.

(3) フッ素の溶出試験

図3.2.4にMgOを添加しない場合

のフッ素の平衡濃度と吸着量の関係 を示す.土壌ごとに液性限界が異な るためフッ素の添加量は異なるが,

MgOを添加しない試料で吸着等温 線を作成すると同程度の平衡濃度で カオリナイトの吸着量はマサ土より も高かった.式3.2.1で示したように,

粘土鉱物のフッ素の吸着は含まれる Al層の水酸基とフッ素の交換反応が 主体である.カオリナイトは1:1型

粘土鉱物であり,マサ土は粘土鉱物としてカオリナイトが主体であるもののバーミキュライトや雲母 などの2:1型粘土鉱物が含まれ,また曹灰長石などの1次鉱物も含まれる.このため,土壌試料中に おけるAl層の単位質量当たりの含有量はカオリナイトの方が高く,フッ素吸着量が多いものと考え られる.Du et al.(2011)は溶液中のフッ素と4種類の層状ケイ酸塩鉱物の反応をXPSを用いて分子 構造的に検討している.この中で,カオリナイトとフッ素の反応は溶液中に存在するフッ素濃度によ って変化することを報告しており,本研究で採用したフッ素濃度では,フッ素がカオリナイトの構造 を破壊してCryolite(NaAlF6)が形成されると述べている.

黒ボク土は粘土鉱物としてアロフェンが主体である.アロフェンの鉱物表面には水酸基を含むアル ミニウムが多く存在し(Wada and Wada, 1977),土壌溶液中にフッ素が含まれる場合はフッ素と水酸 基の交換反応が起こり,土壌中にフッ素を吸着する(庄子, 1983).したがって,アロフェンは他の土 壌鉱物よりもフッ素に対して高い吸着能力を発揮する(Oh and Saeki, 2009; Kaufhold et al., 2010; 杉田 ら, 2011).

図3.2.5にフッ素の溶出試験結果を示す.カオリナイトではMgOを添加していない試料(K0)で

フッ素の溶出量は6.3~7.3 mg/Lの範囲にあったが,MgOの1 %添加試料(K1)で溶出量は半減し,

3 %添加で基準値の0.8 mg/L以下となった(図3.2.5(a)).MgOの添加量が増加するにつれ,フッ素溶 出量は減少する傾向にあり,MgOの添加に対するフッ素の不溶化効果が確認された.マサ土ではMgO

図3.2.4 MgO=0%におけるフッ素の平衡濃度と吸着量

0 2 4 6 8 10

0 0.1 0.2 0.3 0.4

Equilibrium concentration C (mg/L)

Amout of adsorption Q (mg/g)

Kaolinite MasaKuroboku

80

※K:カオリナイト,M:マサ土,A:黒ボク土.それぞれ(a) Kaolinite,(b) Masa,(c) Kurrobokuに示す.

※数字はMgO添加量(例:K10MgO10 %添加した試料).

※横軸はMgO添加後の経過日数,縦軸は溶出試験結果

図3.2.5 フッ素の溶出試験結果

0.0 1.0 2.0 3.0 4.0 5.0 6.0 7.0 8.0 9.0

1 day 3 day 7 day 14 day 28 day

Fluoride concentration (mg/L)

K0 K1 K2 K3 K5 K10 (a) Kaolinite

0.0 1.0 2.0 3.0 4.0 5.0 6.0 7.0 8.0 9.0

1 day 3 day 7 day 14 day 28 day

Fluoride concentration (mg/L)

M0 M1 M2 M3 M5 M10 (b) Masa

0.0 1.0 2.0 3.0 4.0 5.0 6.0 7.0 8.0 9.0

1 day 3 day 7 day 14 day 28 day

Fluoride concentration (mg/L)

A0 A1 A2 A3 A5 A10 (c) Kuroboku

81 を添加していない試料(M0)では6.0~7.0 mg/Lの範囲にあったが,MgOの1 %添加試料(M1)で 溶出量は2割程度まで減少し,3 %添加で基準値の0.8 mg/L以下となった(図3.2.5(b)).カオリナイ トの場合と同様にMgOの添加量が増加するにつれ,フッ素溶出量は減少する傾向にあり,MgOの添 加に対するフッ素の不溶化効果が確認された.一般的に,土壌pHが高くなると土壌のフッ素吸着能 力は低下する(Oh and Saeki, 2009).MgOの添加により土壌pHが上昇したにも関わらずフッ素の溶 出量が減少したのは,MgOの水和に伴うMg(OH)2結晶格子中へのフッ素の取り込みに起因するもの と考えられる.しかし,1日経過時にはMg(OH)2は生成していない(図3.2.2)にも関わらずフッ素 の溶出量は大きく減少した.中村ら(2012)はpHが12.4以下においてMgOは正の表面電荷を有し ており,フッ素を吸着すると述べており,1日経過時においてフッ素溶出量が減少したのは水和して いないMgOにフッ素が吸着したためと考えられる.

黒ボク土ではMgOを添加しない場合(A0),フッ素の溶出量は低い値を示したが,MgOの添加に よりフッ素の溶出量は増加し,A2で最大となった(図3.2.5(c)).これはMgOの添加により土壌溶液 中の水酸化物イオン濃度が上昇し,黒ボク土に含まれるアロフェンの表面に吸着されたフッ素が脱着 したことによると考えられる(式3.2.2).

Al-F + OH- → Al-OH + F- (3.2.2)

A3からA10にかけて溶出量は減少する傾向にあったのは,黒ボク土ではMgOの一部は水和せず 残存しており(図3.2.3),MgOの添加による脱着したフッ素量をMgOに吸着されたフッ素量が上回 ったためと考えられる.

このように,土壌に添加したMgOがMg(OH)2に水和しない土壌ではMgOのフッ素の不溶化効果 はなく,逆にフッ素を溶出させる結果となった.したがって,MgOの添加によるフッ素の不溶化は 土壌に含まれる粘土鉱物の種類により適用の可否があるため,施工に関しては事前に十分な検討を行 う必要がある.

ドキュメント内 森下, 智貴 (ページ 82-86)