第 4 章 海面処分場の底部遮水層における鉛の吸着・移動特性の解明
4.1. 塩類が海成粘土の透水係数および鉛の吸着特性に及ぼす影響
4.2.3. 結果と考察
(1) バッチ試験結果
図4.2.2(a)~(c)に3種類の溶液について鉛の吸着等温線を示す.純水では平衡濃度が15 mg/L
のとき,吸着量は10,000 mg/kg程度であり,高い吸着能力が認められた (図4.2.2(a)).高濃度の 塩類を含む人工海水では,純水よりも著しく吸着能が低下した.これは,溶液に含まれる多量の塩類 が鉛イオンと競合し,粘土粒子への吸着を阻害したためである(図4.2.2(b)).焼却灰浸出液では, 平
衡濃度0~25 mg/Lの範囲において,鉛はほとんど粘土に保持されていないが,平衡濃度が25 mg/L
を超えると急激に吸着量が増大し,吸着等温線はSカーブを描く(図4.2.2(c)).これは,焼却灰浸 出液中の鉛イオンが,溶液中に含まれる有機化学物質に一定量まで保持され,有機化学物質の保持容 量を超えたときに,鉛が徐々に粘土粒子へと吸着されるためである(Sposito, 1989).図4.2.2(d)は 比較のため各溶液の吸着等温線を同時に示しており,塩類を多く含む溶液では吸着能力が著しく低下 することがわかる.
図4.2.2において,各溶液の吸着等温線は線形吸着型を示さなかった.一般的に吸着等温線のモデ
ルには,線形吸着型の他に,Langmuir型,およびFreundlich型などが提案されている.
1 3 5 Divide into 6 layers 2 4 6 Pressure
Solution
Marine clay in column Leachate
Measurements of Pb and Cl concentration
Measurements of sorbed Pb
93 ここで,S:吸着量(mg/kg),C:平衡濃度(mg/L),Smax:吸着量の最大値(mg/kg),α, Kf, N: 実験定数.
今回の結果は,純水でLangmuir型,人工海水でFreundlich型がよく適応した.それぞれの一般式
を式4.2.4および式4.2.5に示す.焼却灰浸出液はSカーブ型を示し,これら一般的なモデルには適
応しなかった.
図4.2.2 バッチ試験結果
(2) カラム試験結果
カラムを通過する浸出液の量と,溶液濃度の関係をプロットした曲線を破過曲線(Breakthrough
curve)という.図4.2.3に鉛の破過曲線を示す.溶液を5 pv通水したとき,純水では,鉛はほとんど
浸出しなかった.これは,図4.2.4(a)に示すように,溶液中に含まれる鉛が供試体の第一層(最上 部)で9割以上吸着されたためである.
人工海水では,およそ2 pvで初期濃度(100 mg/L)以上の鉛が検出され,その後徐々に低下して いき5 pv通水時では初期濃度より低い90 mg/L程度となった.初期濃度よりも高い鉛濃度が検出さ
0 5 10 15 20
Equilibrium concentration (mg/L)
Amount of Pb adsorbed (mg/kg)
DI water x/y=1/2,118+x/14,439
|R|=0.97
(a)
0 100 200 300
Equilibrium concentration (mg/L)
Amount of Pb adsorbed (mg/kg)
y=81.0x0.604
|R|=0.99
(b)
Sea water
0 20 40 60 80
Equilibrium concentration (mg/L)
Amount of Pb adsorbed (mg/kg)
Leachate (c)
0 10 20 30 40 50 60
Amount of Pb adsorbed (mg/kg)
Equilibrium concentration (mg/L) DI water Sea water Leachate
(d)
Langmuir型 𝐶
𝑆= 1
𝛼𝑆𝑚𝑎𝑥+ 𝐶
𝑆𝑚𝑎𝑥 (4.2.2)
Freundlich型 S = 𝐾𝑓𝐶𝑁 (4.2.3)
純水 𝐶
𝑆= 1
2118+ 𝐶
14439 (4.2.4)
人工海水 S = 81.0𝐶0.604 (4.2.5)
94 れたのは,自然状態で粘土に含まれていた鉛が高濃度の塩類により脱着し,浸出したためと推測され る.人工海水における鉛の吸着分布は,図4.2.4(b)に示すように,流入部である第一層(最上部)
で比較的高い値を示し,2~6層で低い値を示した.また,通水量が多くなるにつれ5,6層で吸着量 は高くなる傾向にあった.高濃度の塩類が粘土の間隙を満たした状態では,粘土表面への陽イオン吸 着が支配的となり,鉛の吸着量は低下する.また,粘土粒子表面の拡散二重層が収縮することにより 部分的に通水面積の大きくなる個所が発達し,そこを通過する流れが支配的となり,その結果,溶液 が接触する吸着に有効な表面積が減少する.一方で,供試体内では,溶液とよく接触する粘土表面(接 触面)から凝集体の内部へ,濃度勾配による分子拡散のために鉛が移動する.その結果,5 pvの時点 では,5,6層において鉛の吸着量が増加すると考えた.
焼却灰浸出液では,人工海水に比べて塩類濃度が比較的低いため鉛は徐々に浸出していく.図4.2.4
(c)に示すように,吸着量は通水量に伴い全体的に増加し,吸着分布は人工海水の場合と同様の傾 向がみられた.Li and Li(2001)は,高濃度の重金属をベントナイト混合土に通水する実験を行い類 似の結果を得た.すなわち,流入部と出口部では高い保持量を示したが,中間部では拡散二重層の収 縮に伴い重金属の保持量は低下する傾向にあった.
図4.2.3 鉛の破過曲線
図4.2.4 溶液通水後の鉛吸着量の分布
0 1 2 3 4 5
0 50 100 150
Pore volume
Pb concentration (mg/L)
DI water Sea water Ash leachate
0 2 4
1 2 3 4 5 6
DI water
Number of depth
Total Pb sorbed (g/kg) (a)
0 0.5 1
1 2 3 4 5 6
Sea water 1pv3pv
5pv
(b)
0 0.5 1
1 2 3 4 5 6
Ash leachate (c)
95 (2) 移流分散方程式による吸着等温線の決定
人工海水の破過曲線に移流分散方程式を適合させ,カラム試験における吸着等温線を決定した.カ ラム内の試料は前節の図4.1.3で示すように,溶液の通水浸透に伴い間隙比が不均質となり,厳密な 値の取り扱いは非常に煩雑となる.したがって,カラム試験から得られる吸着に関するパラメーター は試料の代表的な値であると想定している.
本解析ではカラムを土中の溶質に関する移流分散方程式は式4.2.6で表される(Daniel,1993).
𝑅𝑑𝜕𝐶
𝜕𝑡 = 𝐷𝜕2𝐶
𝜕𝑥2 − 𝑣𝜕𝐶
𝜕𝑥 (4.2.6)
ここで,Rd:遅延係数,D:分散係数(m2/s),v:間隙内流速(m/s),t:時間(s),x:カラム上端 からの距離(m),C:xにおけるt経過後の鉛濃度(mg/L).
遅延係数Rdは,土粒子の吸着による汚染物質の移動の遅延効果を示す係数であり,式4.2.7で表さ れる.なお,地盤は飽和していると仮定しne=θとした.
𝑅𝑑= 1 +𝜌𝑑
𝑛𝑒𝐾𝑝= 1 +𝜌𝑑
𝜃 𝐾𝑝 (4.2.7)
ここで,ρd:土の乾燥密度(g/cm3),ne:有効間隙率,Kp:分配係数,θ:体積含水率
吸着等温線が非線形である場合,分配係数Kpは吸着等温線の接線の傾きとして定義される.カラ ム試験における溶質の吸着等温線が,バッチ試験での鉛吸着と同様に,式4.2.3のFreundlich型に従 えば,分配係数は式4.2.8で表される.
𝐾𝑝=𝑑𝑆
𝑑𝐶= 𝐾𝑓𝑁𝐶𝑁−1 (4.2.8)
式4.2.8を式4.2.7に代入すると,遅延係数は式4.2.9となる.
𝑅𝑑= 1 +𝜌𝑑
𝜃 𝐾𝑓𝑁𝐶𝑁−1 (4.2.9)
式4.2.9の遅延係数に含まれる定数KfとNは次のように求めた.図4.2.5に示すように,人工海水
のカラム試験において,カラムの底部から浸出する塩素イオン濃度の時間的変化をC/C0としてプロ
図4.2.5 カラム試験によるClとPbの測定値と計算値の比較
0 2 4 6
[105] 0
0.2 0.4 0.6 0.8 1.0
Time (s) C/C0
Calculated Cl Measured Cl Calculated Pb Measured Pb
tr 0.5
96 ットした.塩素イオンは粘土に吸着されないので,式4.2.7においてKp=0,すなわちRd=1となる.
このときのカラム内における移動を,HYDRUS-1D(ver.4.08)による逆解析により式4.2.6に適合さ せ,間隙内流速を求めた上で,透水係数を算出した.
近似曲線において,カラム下端から浸出する溶液の塩素イオン濃度が,初期濃度の半分(C/C0 = 0.5)
に達するまでの時間を到達時間trと仮定したとき(図4.2.5),間隙内流速は次式で求められる(地盤 工学会,2002).
𝑣 = 𝑙
𝑡𝑟 (4.2.10)
ここで,v:間隙内流速,l:カラム長さ,tr:到達時間.
本式にl = 0.1 m,tr = 145,360 sを代入すると,間隙内流速はv = 6.87×10-7 m/sとなる.間隙内流速 とダルシー流速の関係は式4.2.11で表され,vを代入するとq=5.22×10-7 m/sとなる.供試体は飽和 しておりne=θとした.
𝑣 = 𝑞 𝑛𝑒 =𝑞
𝜃 (4.2.11)
ここで,q:ダルシー流速(m/s),ne:有効間隙率,θ:体積含水率(= 0.76). 透水係数とダルシー流速の関係は,式4.2.12で表される.
𝑞 = 𝑘𝑖 (4.2.12)
ここで,k:透水係数(m/s),i:動水勾配.
動水勾配はi=50であり(図4.2.1),透水係数k = 1.04×10-8 m/sが得られた.
次に,鉛の破過曲線と理論値を近似させるために,得られた透水係数を用いて,HYDRUS-1Dによ り,逆解析を行った.その結果,分散係数D= 2.32×10-7 m2/s,Kf = 80.1,N = 0.455が得られた.以上 より,カラム試験から得られる吸着等温線は式4.2.13で示される.
𝑆 = 80.1𝐶0.455 (4.2.13)
(3) 粘土ライナー中の鉛の一次元移動予測
海成粘土層を粘土ライナーとみなし,人工海水によるバッチ試験とカラム試験の結果を用いて,鉛 を含む海水が粘土ライナーに浸透したときの鉛の移動予測を行った.
1) 想定する粘土ライナーの地盤条件
想定した地盤は,(財)港湾空間高度化センター(2008)を参考に,透水係数が10-7 m/sで5 mの 層厚を有する均一な地盤とした.また,汚染物質の代表移動経路長に依存する値である分散長は移動
距離の1/10(= 0.5 m)とし(Fetter, 1999),水頭差は潮位差を考慮して1.0 mとした.予測に用いた
パラメーターを表4.2.1に示す.
2) 移流分散方程式による鉛の移動予測結果
粘土ライナー中の汚染物質の移動に関する1次元移流分散方程式は式4.2.6で表される.式4.2.6
および式4.2.9に,バッチ・カラム試験から得られた定数KfとNを代入し,鉛の移動特性をHYDRUS-1D
で計算した.鉛の初期濃度は低濃度,高濃度の場合を考慮し,1 mg/L,100 mg/Lをそれぞれ与えた.
移動予測結果を図4.2.6に示す.図中の年数は,各条件においての鉛が粘土地盤の下端に到達する時 間(C/C0 = 1)である.グラフには示していないが,吸着を考慮しない場合(Rd = 1)は,4年で地盤
97
表4.2.1 移動予測に用いたパラメーター
Parameter Unit Value
Dispersion coefficient (m2/s) 1.0×10-9 Hydraulic conductivity (m/s) 1.0×10-7
Effective porosity 0.4
Thickness of clay layer (m) 5.0
Dispersivity (m) 0.5
Head difference (m) 1.0
Kd from batch test 81.0
N from batch test 0.604
Kd from column test 80.1
N from column test 0.455
図4.2.6 海成粘土地盤中の鉛移動予測
の下端に到達した.この計算から,i)初期濃度が高いほど,ii)バッチ試験よりカラム試験が,鉛は 移動しやすいという結果を得た.
3) 鉛濃度と試験法による予測結果の差
Freundlich型の吸着等温線は,非線形吸着であるため,溶液濃度が増加するに従い吸着する割合が
減少する.そのため,与える鉛の初期濃度により移動特性が変化する. 図4.2.6に示すように,カラ ム試験では,鉛が地盤の下端に到達する時間は,鉛濃度が1 mg/Lでは604年,100 mg/Lでは54年 となり,鉛濃度が移動予測に大きく影響した.したがって,非線形吸着で移動予測を行う場合は,規 定される廃棄物の性質から想定される汚染物質濃度を十分吟味し設定する必要がある.
カラム試験とバッチ試験の曲線を,初期濃度が100 mg/Lの場合について比較すると,鉛が下端に 到達する時間は,カラム試験で54年,バッチ試験で145年であり,およそ2.7倍の差があった.こ れは,バッチ試験では,粘土粒子表面に鉛が十分接触するのに対し,カラム試験では,通水に伴う海
200 400 600 800
0 0.5 1
Time (year) C/C0
Column test C0=1 mg/L C0=1 00mg/L Batch test
C0=1 mg/L C0=100 mg/L 54 years (C,100)
145 years (B,100)
604 years (C,1)
894 years (B,1)