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結果と考察

ドキュメント内 森下, 智貴 (ページ 73-80)

第 3 章 酸化マグネシウム(MgO)によるフッ素の不溶化機構の解明

3.1. 土壌中における酸化マグネシウムの水和反応

3.1.3. 結果と考察

68

69 それぞれ,Kaolinite(89-6538),Albite disorderd(曹長石)(10-0393)が主体であり,Mgを含む新規 鉱物の生成は確認されなかった.スメクタイト,黒ボク土,鹿沼浮石ではMg(OH)2の生成は確認さ れなかった.また,MgOはほとんど消失しており,鹿沼浮石で若干残存していた.スメクタイト,

鹿沼浮石はX線回折結果から主要鉱物の特定は難しく,黒ボク土ではLabradrite(曹灰長石)(83-1370) が主要鉱物であった.これらの土壌のX線回折結果からはMgを含む新規鉱物は確認されなかっ

※MgO10%添加後,25˚C28日経過した試料,NTは無処理

図3.1.6 MgOを添加した試料と無処理試料のX線回折結果の比較

0 10 20 30 40 50 60 70 80

▲:MgO

●:Mg(OH)2

Kaolinite MgO

Kaolinite NT

Masa MgO

Masa NT

Smectite MgO

Smectite NT

Kuroboku MgO

Kuroboku NT

KanumaFuseki MgO

KanumaFuseki NT

2

θ

(°)

● ●

● ●

● ●

● ● ● ●

● ● ● ●

● ●

● ●

70 た.このように,土壌の種類によって土壌中におけるMgOの水和反応は異なることが明らかとなっ

た.Mg(OH)2の生成が確認された土壌であるカオリナイト,マサ土に共通する点は鉱物にカオリナイ

トを含むことである.したがって,土壌鉱物がカオリナイトを主体とする場合,MgOは水和して容

易にMg(OH)2になると考えられる.マサ土では純粋なカオリナイトと比較してカオリナイト含量が

低く,そのためMg(OH)2のピークはカオリナイトよりも低い値を示したものと考えられる.

図3.1.7に土壌中における経過日数とMg(OH)2およびMgOのX線回折ピークの関係を示す.図3.1.6

で示したようにMg(OH)2のピークはカオリナイト,マサ土で確認され,スメクタイト,黒ボク土,

鹿沼浮石では確認されなかった.Mg(OH)2のピーク強度はいずれの試料も3日でほぼ一定となった.

図3.1.5で示したように,MgOは水中で3日経過時に75 %がMg(OH)2に変化しており,MgOの水和

反応速度は水中と土壌中で大きな差はないと考えられる.MgOのピークはカオリナイト,マサ土に おいて3日経過時に消失しおり,スメクタイトでは1日経過時にほぼ消失している.一方で,黒ボク 土と鹿沼浮石ではMgOのピークは比較的長い間確認された.黒ボク土では28日経過時,鹿沼浮石 では7日経過時の測定でピークが確認された.この理由は明らかではないが,黒ボク土,鹿沼浮石に 含まれるアロフェンが,MgOの水和反応を阻害している可能性がある.

※カオリナイトではMg(OH)2の最強ピークは鉱物のピークと重複するため2θ = 18~19°の範囲とした.

図3.1.7 経過日数ごとのMg(OH)2とMgOのX線回折ピーク

18 18.5 19

0 1000 2000 3000 4000

5000 Kaolinite

0 day 1 day 3 day 7 day 14 day 28 day

Intensity of Mg(OH)2 (cps)

37 38 39

Masa

1 day 0 day 3 day

7 day 14 day 28 day

37 38 39

Smectite

0 day 1 day 3 day 7 day 14 day 28 day

2θ (°)

37 38 39

Kuroboku

0 day 1 day 3 day 7 day 14 day 28 day

37 38 39

KanumaFuseki

0 day 1 day 3 day 7 day 14 day 28 day

42.8 43.2 Kuroboku

0 day 1 day 3 day 7 day 14 day 28 day

42.8 43.2 0 day

Masa

1 day 3 day 7 day 14 day 28 day

42 42.6 43.2 43.8 1 day

Smectite

0 day 3 day 7 day 14 day 28 day

2θ (°) 42.4 42.8 43.2

0 1000 2000 3000 4000 5000

Kaolinite

0 day 1 day 3 day 7 day 14 day 28 day

Intensity of MgO (cps)

42.8 43.2 Kanumafuseki

0 day 1 day 3 day 7 day 14 day

28 day

71 (3) 加熱反応試験

MgOと水を添加した土壌を加熱して,十分反応が進行した状況を想定して,X線回折によりMgO

およびMg(OH)2の生成量を定量した.図3.1.8(a)に示すように,Mg(OH)2生成率はカオリナイト,マ

サ土,スメクタイト,黒ボク土,鹿沼浮石の順で低下した.マサ土のMg(OH)2生成率はカオリナイ トの6割程度であり常温試験と同様の結果を示した.カオリナイトとマサ土では含水比を25 %に調 整した場合でも同様のMg(OH)2生成率を示しており,水和するために十分な水は存在しているもの と判断した.スメクタイトではMg(OH)2生成率が比較的高く,加熱したことにより反応が促進した ものと考えられる.黒ボク土,鹿沼浮石は常温試験の結果と同様にMg(OH)2生成率が低かった.カ オリナイトのMgO添加量とMg(OH)2生成率の関係は比例関係にあり,その回帰式はy=0.97x-1.40 で表された.この回帰式の傾きはほぼ1に近く,切片が負の値となる.これは,MgO添加率が1~2 % と低い場合にMg(OH)2は生成しておらず,この回帰式からMgOは,ある一定割合で土壌と反応して いるものと解釈される.しかし,常温試験のX線回折ではMgを含む新規の鉱物は確認されておら ず,X線回折では確認できない程度(3 %未満)の生成量であると考えられる.Hast(1955)は石英 にMgOと水を混合し室温~37˚Cで反応させた場合にケイ酸マグネシウムができることを報告して おり,MgOは鉱物と反応性が高いことが知られている.数%のMgOが鉱物と反応することでフッ素 などの不溶化に寄与するMgOが消費されることが考えられる.したがって,不溶化の検討を行う場 合は鉱物との反応性を考慮する必要がある.

図3.1.8(a)において添加したMgOと生成したMg(OH)2がMg量で1:1となるのは,MgOとMg(OH)2

の分子量はそれぞれ40.31,58.31であることを考慮して,y = ( 58.31 / 40.31 ) x = 1.447 xで表され,

MgOでは分子量が同様であるのでy = xで表される.図3.1.8(a)ではMg(OH)2の生成率はy=1.447xよ りもすべて低い値を示していた.

図3.1.8(b)は添加したMgOが反応後に残存していたのピークを,MgOの残存量として示している.

Mg(OH)2生成率の低かった黒ボク土,鹿沼浮石,スメクタイトではMgOが残存していた.常温反応

試験でも黒ボク土,鹿沼浮石については,それぞれ7,28日経過時にMgOのピークが確認されてお ※反応時の含水比は50 %に調整している.

※MgO添加量は全体割合(1.0,2.0,2.9,4.8,9.1,16.7 %)で示している.

※MgOMg(OH)2Mg換算で1:1となる式はy=1.447xで表される.

図3.1.8 MgO添加量とMg(OH)2生成量およびMgO残存量の関係

0 5 10 15 20

0 5 10 15 20

MgO添加量 (%) Mg(OH)2生成率 (%)

y=1.447 x

y=0.97

x-1.40 (R2=0.99 3) (a)

0 5 10 15 20

0 5 10 15 20

y=x

MgO残存率 (%)

カオリナイト マサ土 スメクタイト 黒ボク土 鹿沼浮石

MgO添加量 (%) (b)

72 り,アロフェン質の土壌ではMgOは水和し難いといえる.これらの結果に対して,水和に必要な水 が十分でないことが考えられるので含水条件を変化させて同様の試験を行った(図3.1.9).スメクタ

イトのMg(OH)2生成率は含水比が25 %で最大となった.反応後に残存するMgOは含水比0~200 %

で2 %以上となり,その後は1 %程度で推移した.これらの値はX線回折の精度から考えると,0 %

に近いものと考えられる.黒ボク土と鹿沼浮石の生成割合はそれぞれ50 %と100 %で最大となった

が,Mg(OH)2生成率は1~2 %の範囲であった.この結果からスメクタイト,黒ボク土,鹿沼浮石の

Mg(OH)2生成率が低いのは,水和に必要な水の過不足ではないと判断され,これらの土壌では

Mg(OH)2が生成しにくいことが明らかとなった.

(4) Mgの収支

加熱反応試験において添加したMg量と反応後 のMg量の収支について考察する.Mg量に換算し た値について添加量と生成量+残存量の関係を図

3.1.10に示す.添加したMgに対して反応後のMg

量の割合が最も多かったのはカオリナイトで添加

量の63 %,最も少なかったのはスメクタイトの

41 %であった.図3.1.6で示したX線回折結果では

MgOの添加による新しいマグネシウム鉱物の生成 はなく,添加したMgOのMgの一部はX線回折で 検出できない形態に変化したと考えられる.

(5) Mgの形態分析

Mgの土壌中における形態分布を把握するために,常温試験後に風乾した試料についてTessir(1979) が示した逐次抽出試験を一部改変してマグネシウムの形態分析を行った.この分析方法では,土壌中 のMgの形態は交換態(exchangeable),炭酸塩態(carbonate),鉄・マンガン(金属)酸化物態(Fe, Mg oxide),有機物態(organic matter),残渣(residue)の画分に分類される.常温試験ではMgOを10%

添加しており,Mgは土壌中に比較的高濃度含まれることになる.本試験においては,交換態の抽出 に1M酢酸アンモニウム(CH3COONH4)による交換性陽イオンの測定方法(村本ら, 1992)を適用し

図3.1.9 含水比を変化させた加熱反応試験結果

0 500 1000

0 2 4 6 8 10

water content (%)

Ratio of production and remain (%)

Smectite MgOMg(OH)2

0 100 200

0 2 4 6 8

10 Kuroboku MgOMg(OH)2 KanumaFuseki MgOMg(OH)2

water content (%)

Ratio of production and remain (%)

図3.1.10 Mgの収支量の関係

0 5 10

0 5 10

添加Mg (%)

反応後Mg (%)

カオリナイト 1:1 マサ土 スメクタイト 黒ボク土 鹿沼浮石

73 た.土壌中において最もMg(OH)2の生成率が

高かったカオリナイトにおいて抽出試験後の X線回折結果では,交換態の抽出試験後にピ ークは大きく減少し,炭酸塩態の抽出試験後 にピークは消失した(図3.1.11).したがって,

炭酸塩態の抽出試験後において土壌中で

Mg(OH)2は完全に溶解しており,炭酸塩態の

一部,金属酸化物態,有機物態,残渣の画分 において,Mgの収支(図3.1.10)で示された 反応後Mgと添加Mgの差分のMgが存在して いるものと考えられる.

図3.1.12にMgの形態分析結果を示す.カ

オリナイト,マサ土では交換態の割合が60 % 以上で最も高く,次いで残渣態,炭酸塩態の

順であり,金属酸化物態および有機物態はほとんどなかった.スメクタイトでは残渣態が最も多く,

次いで交換態,炭酸塩態の順であり,金属酸化物態および有機物態で低い値を示した.有機物態では,

スメクタイトで他の土壌よりも高い値を示し,次に高かった黒ボク土の10倍程度の値であった.黒 ボク土と鹿沼浮石では最も残渣態の値が高く,次いで交換態,炭酸塩態で同様の値を示し,金属酸化 物,有機物態の順であった.金属酸化物ではカオリナイト,マサ土,スメクタイトよりも高い値を示 し,Mgの形態に寄与するところが大きかった.

この結果からMg(OH)2生成率が高い土壌ほど交換態の割合が高いことがわかる.これはすなわち,

Mg(OH)2の生成率が低い土壌では添加したMgOは難溶性の形態へと変化しているといえる.図3.1.10

で示した,加熱反応試験後にX線回折で検出されたMg(10 %添加)の割合と形態分析の結果を比較

※図中の←は加熱反応試験後にX線回折で検出されたMg量の添加Mg量に対する割合(MgO=10 %)

図3.1.12 Mgの形態分析結果 0%

20%

40%

60%

80%

100%

カオリナイト マサ土 スメクタイト 黒ボク土 鹿沼浮石

Residue

Organic matter Fe, Mn oxide Carbonates Exchangeable 図3.1.11 抽出試験後のX線回折によるMg(OH)2

のピーク変化

18 18.5 19 19.5

0 500 1000 1500 2000

28d kaolinite exchangeable

carbonates Fe, Mn oxide organic matter

2θ (°)

Intensity (cps)

74 すると,カオリナイト,マサ土,スメクタイトでは交換態と,黒ボク土と鹿沼浮石では交換態と炭酸 塩態の累積値とほぼ同様の値となる.この結果から,Mgの収支(図3.1.10)においてX線回折で検 出できなくなったMgは,カオリナイト,マサ土,スメクタイトでは炭酸塩態,金属酸化物態,有機 物態,残渣態に,黒ボク土,鹿沼浮石では金属酸化物態,有機物態,残渣態に関連しているものと推 測される.

(6) 土壌pH

図3.1.13に示す常温反応試験および加熱反応試験後の土壌pHは3つの傾向に分類される.すなわ

ち,平衡pHが10程度となるカオリナイト,マサ土,平衡pHが9程度となる黒ボク土,鹿沼浮石,

平衡pHが11程度となるスメクタイトである.図3.1.13(a)に示すMgO添加反応試験におけるカオリ ナイト,マサ土のpHはMgO添加直後で高い値を示すが,日数の経過に伴い低下し,14日経過時に はpHが10程度で平衡状態となった.土壌pHと同様の測定方法で計測したMgOとMg(OH)2の平衡 pHはそれぞれ10.28と10.00であり,カオリナイト,マサ土では添加したMgOの影響力が大きいも のと考えられる.しかし,図3.1.7に示すX線回折の結果におけるMg(OH)2のピーク強度は3日でほ ぼ一定となっており,pHのほうが平衡状態に達するのが遅い.黒ボク土,鹿沼浮石のpHはカオリ ナイト,マサ土と同様の傾向を示すが,pHの値はそれらより1程度低かった.スメクタイトでは MgO添加直後で11.2を示し,7日経過時で11.7まで上昇した.その後pHは徐々に低下していき,

28日経過時には10.7となった.

土壌pHについてMgOとMg(OH)2が支配的となるのであれば,カオリナイト,マサ土のような傾

向を示すものと考えられる.しかし,黒ボク土,鹿沼浮石ではpHが低く,添加したMgOの一部が 比較的pHの低い物質へと変化した可能性がある.また,スメクタイトではMgOの添加によりpH が上昇している.この値は,スメクタイトの土壌pHである10.3やMgOのpHよりも高い値であり,

添加したMgOの一部が比較的pHの高い物質へ変化した可能性がある.黒ボク土,鹿沼浮石,スメ クタイトではMgOの添加でMg(OH)2はほとんど生成しなかった.添加したMgOがどのような物質 に変化したのかは本研究では明らかとなっていないが,平衡pHが異なる何らか別の物質に変化して いるものと判断できる.

図3.1.13 常温反応試験および加熱反応試験後の土壌pHの変化

0 5 10 15 20 25 30

7 8 9 10 11 12

経過日数(日)

pH

カオリナイト  マサ土 スメクタイト  黒ボク土 鹿沼浮石

(a) 常温反応試験

0 5 10 15 20 25

7 8 9 10 11 12

MgO添加割合(%)

(b) 加熱反応試験

ドキュメント内 森下, 智貴 (ページ 73-80)