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結果と考察

ドキュメント内 森下, 智貴 (ページ 35-46)

第 2 章 鉄鋼スラグの有効利用に関する研究

2.2. 鉄鋼スラグを用いた舗装材の変質特性と舗装周辺土壌への影響評価

2.2.3. 結果と考察

(1) スラグ舗装の化学成分

表2.2.1に蛍光X線により得られたスラグ舗装の酸化物換算の元素組成を示す.これらのスラグは

表2.2.1 スラグ舗装の元素組成

元素 A地区 B地区上層 B地区下層 C地区

CaO 39.17 35.31 35.62 41.94

SiO2 18.03 20.34 16.48 34.21

T.Fe 15.73 16.50 18.49 0.21

M.Fe 2.93 2.73 3.29 0.00

FeO 9.94 13.00 14.26 0.00

Fe2O3 7.25 5.24 5.88 0.00

MnO 3.56 4.25 4.18 0.14

MgO 4.85 5.94 6.63 6.88

Al2O3 5.59 6.33 8.55 14.98

TiO2 1.05 0.85 0.83 0.56

P2O5 1.90 1.61 1.84 0.00

S 0.21 0.46 0.35 0.45

C 1.84 0.96 0.81 0.25

Free CaO 1.89 1.14 2.72 1.75

Na2O 0.00 0.00 0.00 0.20

K2O 0.00 0.00 0.00 0.31

F 0.00 0.00 0.00 0.08

※単位は質量%

※T.FeM.Fe,FeO,Fe2O3におけるFe分のみの総量

31 ケイ酸カルシウム鉱物を主体としており,どの試料もCaO含量が最も高く,B地区下層を除きSiO2

がその次に高かった.製鋼スラグを主体とするA地区,B地区上層,B地区下層はFeOやFe2O3な どの鉄分を多く含んでいた.一方で,高炉徐冷スラグを主体とするC地区の試料はAl2O3含量が高か った.

B地区の舗装は20 %の高炉水砕スラグを含んでおり,高炉スラグに多く含まれるAl2O3やSがわ ずかに高い値を示したが,A地区の組成と大きな相違はなかった.B地区の上層と下層においても大 きな変化はなく,深度方向の影響はみられずスラグ舗装の元素組成は一様であった.

(2) スラグのpH

表2.2.2に各地区で得られたスラグ舗装と施工前スラグのpHを示す.A地区のスラグ舗装のpHは

12.6~12.9であり,施工前の製鋼スラグのpHとほぼ同様の値を示し,施工後2年間でのpHの変化 はなかった.一方で,B地区のスラグ舗装のpHは11.7~11.8であり,施工前の製鋼スラグのpHよ り低い値を示した.これは,比較的pHの低い高炉水砕スラグを含んでいることと,後述する炭酸化 の影響によるものと考えられる.C地区のpHは11.2であり,未施工の高炉徐冷スラグのpHよりも 大きく低下していた.C地区のスラグは礫状であり,固化していないため,他の舗装よりも降雨との 接触が多く,アルカリの溶脱が進んだものと考えられる.

(3) スラグの鉱物特性

図2.2.2(a)にA地区におけるスラグ舗装と,その主体となる製鋼スラグのX線回折パターンを

示す.製鋼スラグはケイ酸二カルシウム(Ca2SiO4)とウスタイト(FeO)のピークが最も強く,比 較的ピーク強度は弱いがCa3SiO5も確認された.A地区のスラグ舗装のX線回折パターンは製鋼スラ グよりも,ポルトランダイト(Ca(OH)2),ギスモンド沸石(CaAl2Si2O8(H2O)4),カルシウムフェライ

ト(CaFeO2)のピーク強度が強くなり,ウスタイトのピーク強度が弱かった.カルサイト(CaCO3

は上層において若干ピーク強度が強かった.上層と下層を比較すると,ポルトランダイトは下層ほど ピーク強度が強く,ギスモンド沸石は中層が最もピーク強度が強かった.製鋼スラグに含まれるカル シア(CaO)は,水と反応するとポルトランダイトになり,その溶解によってCa2+を溶出する.同時 にポルトランダイトの溶解によるアルカリによってケイ酸イオンやアルミン酸イオンも溶出し,

C-S-H(aCaO·bSiO2·nH2O)やC-S-A-H(aCaO·bSiO2·cAl2O3·nH2O)などの水和物を生成すると考え られるが,Ca2+と比較してその溶出量は少ないため,過剰のCa2+は大気から供給される二酸化炭素と

表2.2.2 スラグのpH

スラグ舗装 施工前スラグ

試料名 pH 試料名 pH

A地区上層 12.9 製鋼スラグ 12.6 A地区中層 12.9 高炉徐冷スラグ 12.1 A地区下層 12.6 高炉水砕スラグ 11.8 B地区上層 11.7

B地区下層 11.8

C地区 11.2

32

図2.2.2 スラグ舗装および施工前スラグのX線回折パターン

※グラフ縦軸はピーク強度I(cps),横軸は回折角度2θ(°)

f. CaFe2+SiO4

g. CaFeO2

b. FeO h. CaCO3

c. Fe i. CaAl2Si2O8(H2O)4

d. Ca2SiO4 j. Ca(OH)2

e. Ca3SiO5

凡例 a. Ca2Al2SiO7 and

Ca2(Mg0.5Al0.5)(Si1.5Al0.5O7)

33 反応してカルサイトを生成する(小林・宇野, 1989).上層でピーク強度が強くなったのは大気と接触 しているためと考えられる.ギスモンド沸石は溶出したケイ酸イオンとアルミン酸イオンがアルカリ 環境下で縮合して生成する,ポリアルミノケイ酸イオンのカルシウム塩である(Zhang et al., 2008).

A地区ではこれらの生成物が結合物質としてスラグ舗装を固化させたと考えられる.

図2.2.2(b)にB地区におけるスラグ舗装と,その材料として用いられた製鋼スラグおよび高炉水

砕スラグのX線回折パターンを示す.高炉水砕スラグの成分の多くは非晶質であり,明瞭なピーク は確認されなかった.B地区のスラグ舗装のX線回折パターンは製鋼スラグよりも,カルサイト,

ギスモンド沸石のピーク強度が強く,ウスタイトのピーク強度が弱かった.深度方向で比較するとカ ルサイト,ギスモンド沸石のピーク強度は下層ほど強かった.B地区のスラグ舗装に含まれる高炉水 砕スラグは,混在する製鋼スラグのアルカリ刺激を受けてケイ酸イオンやアルミン酸イオンを溶出し,

C-S-H,C-S-A-Hなどを生成することで,スラグ間の結合を強めたと考えられる.これらの水和物と

平衡する水のpHはポルトランダイトと平衡する水よりもはるかに低い.B地区のpHが比較的低い 値を示した原因は上記水和物およびカルサイトの生成が顕著にみられたことによると考えられる.

大気環境下ではカルサイトの方がポルトランダイトより安定な鉱物であり,ポルトランダイトは 徐々にカルサイトへと変化する.既往の研究(Moorehead, 1986;Matsuya et al., 2007)から炭酸化に 伴いカルシウム化合物を主体とした物質の強度は増加すると報告されている.したがって,カルサイ トの存在はスラグ舗装の強度を判定する指標になると考えられる.

図2.2.2(c)にC地区におけるスラグ舗装と主体となる高炉徐冷スラグのX線回折パターンを示

す.確認されたピークはゲーレナイト(Ca2Al2SiO7)とアケルマナイト(Ca2(Mg0.5Al0.5)(Si1.5Al0.5O7))

の複合体であり,施工前後でほとんど変化はなかった.

(4) EPMA分析

各試料の断面を切り出し,樹脂包理・CP(Cross-section Polisher)処理を行った面についてEPMA 分析を行った.CP処理を行った面を電子顕微鏡により撮影したCP断面拡大図を各図の左側に示す.

この図では原子番号の大きな重元素ほど電子の反射が大きくなる.スラグでは,FeやMnを含む製 鋼スラグ相は電子の反射が強いため白く表れる.一方で,CやHからなる樹脂の部分は反射が弱い ため黒くなる.Feをほとんど含まない高炉水砕スラグは,中間の灰色となる.また,バインダ物質 は高炉水砕スラグよりもやや暗めの灰色(暗灰色)で表れる.なお,樹脂の部分はCが高く検出さ れるが,分析上の処理であり無視できる.CP断面は製鋼スラグ相,高炉水砕スラグ相(B地区のみ), バインダ物質相,樹脂相の3または4つの相で構成されており,それぞれ白い部分,灰色の部分,暗 灰色の部分,黒色の部分に該当する.

製鋼スラグ相は,カルシウム,ケイ素,酸素,鉄が比較的高い濃度で分布していた.高炉水砕スラ グ相はカルシウム,ケイ素,アルミニウム,酸素の濃度が高く,鉄はほとんど含まれない.特徴的な 物質として硫黄やマグネシウムも濃度が高く,粒子の識別に利用できる.

A地区のスラグ舗装のバインダ物質相に特徴的なのは,製鋼スラグを取り囲むように分布する炭素 である.この炭素が構成するバインダ物質は,カルシウム,酸素の濃度が高いことやX線回折の結 果からカルサイトであると推定される.また,この部分はケイ素の濃度も高く,アルミニウムや鉄の 濃度も比較的高い.このことから,C-S-HやC-A-S-Hなどの水和物やX線回折で確認されたカルシ ウムフェライト(CaFeO2)が生成しているものと推定される.したがって,A地区におけるスラグ

34 CP(Cross-section Polisher)断面

拡大図(A地区上層)

S:製鋼スラグ粒子 B:バインダ物質

R:樹脂

元素分布

低濃度 高濃度

図2.2.3 A地区上層のEPMA分析結果

CP(Cross-section Polisher)断面 拡大図(A地区下層)

S:製鋼スラグ粒子 B:バインダ物質 R:樹脂

元素分布

低濃度 高濃度

図2.2.4 A地区下層のEPMA分析結果

35 CP(Cross-section Polisher)断面

拡大図(B地区上層)

S:製鋼スラグ粒子 G:高炉水砕スラグ B:バインダ物質 R:樹脂

元素分布

低濃度 高濃度

図2.2.5 B地区上層のEPMA分析結果

CP(Cross-section Polisher)断面 拡大図(B地区下層)

S:製鋼スラグ粒子 G:高炉水砕スラグ B:バインダ物質 R:樹脂

元素分布

低濃度 高濃度

図2.2.6 B地区下層のEPMA分析結果

36 舗装のバインダ物質にはスラグの炭酸化や水和物の生成が寄与しているといえる.上層と下層を比較 するとほぼ同様の傾向を示しており,スラグ舗装の深度方向においてバインダ物質の部分的な相違な かった.

B地区のスラグ舗装のバインダ物質相はA地区と同様にカルサイト,C-S-H,C-A-S-Hなどが生成 しているものと推測される.A地区と比べて特徴的なのは,アルミニウムの濃度が高いことと,鉄の 濃度が低いことである.高炉水砕スラグにはアルミニウムが比較的高い割合で含まれているため,生 成する水和物としてC-A-S-Hが多くなると考えられる.一方で,カルシウムフェライトは少なくな

る.図2.2.6のB地区上層では炭素の分布は製鋼スラグよりも高炉水砕スラグの周囲の濃度が高くな

っている.これは,高炉水砕スラグを中心として炭酸化が進行していることを示唆している.一方で,

図2.2.7に示すB地区下層では炭素濃度の高い個所はバインダ物質の全体分布しており,部分的に高

い個所がみられる.したがって,上層,下層では炭酸化のメカニズムが異なる可能性がある.

(5) 炭酸カルシウム(カルサイト)含量の測定

先に述べたように,カルサイトの生成により粒子間結合力は向上することが知られており,含まれ るカルサイトが多いほどスラグ舗装の強度が増加するものと考えられる.製鋼スラグおよびスラグ舗 装に含まれるカルサイト含量を熱重量分析(TG)によって測定した.図2.2.7に各地点の代表試料の TG曲線を示す.温度の上昇に伴い試料に含まれる鉱物の脱水および脱炭酸により試料質量が減少し ている.この中でポルトランダイトの脱水は440~480˚C付近で起こり,X線回折でポルトランダイ トのピークが確認されたA地区上層で,この温度帯での減量が顕著であった.カルサイトの脱炭酸

は620~710˚C付近で生ずる.この範囲における質量減少割合から推定したカルサイト含量を図2.2.8

に示す.A地区のカルサイト含量は,全層で製鋼スラグよりも高い値を示したが,その中で中層は最 も低い値を示した.これは上層,下層ではそれぞれ大気,土壌空気からの二酸化炭素供給により炭酸 化が促進したためと考えられ,B地区のカルサイト含量は,製鋼スラグより2.5倍程度高く,全地区 のうち最も高かった.一般的に土壌空気の二酸化炭素濃度は大気よりも高いため,締固まった地山か らの空気供給量は低いが高濃度の二酸化炭素が供給されることで炭酸化が表層部と同様に促進した

図2.2.7 TG曲線 図2.2.8 試料中のCaCO3の質量割合(%)

0 200 400 600 800 1000

-6.0 -4.0 -2.0 0

製鋼スラグ A地区上層 B地区上層 C地区

Ca(OH)2 CaCO3

mass (%)

Temperature (℃)

2.7 3.9 3.0 3.5

5.7 5.8 3.4

0.0 2.0 4.0 6.0 8.0

製鋼スラグ A地区上層 A地区中層 A地区下層 B地区上層 B地区下層 C地区

試料全体に占めるCaCO3の質量割合(%)

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