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裁判例から分析する公正な手続きの判断要素

ドキュメント内 立教大学ビジネスデザイン研究科 (ページ 49-52)

第 3 章 企業買収における裁判例における公正なプロセス

3.6 裁判例から分析する公正な手続きの判断要素

3.6.1 裁判例分析

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企業買収の手続は、さまざまな当事者が関係し、また、多様な要素が介入する複雑な手

86 裁判例分析に参照した判例は、前掲注81参照されたい。

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続である。そのため、何をもって「公正な手続」というかについて、これを明確に確定す る基準はないが、裁判所がある株式買取価格決定請求事件において以下のとおり判示して いることが参考になろう。

「一般に株式交換をする各当事会社が、相互に特別の資本関係がない独立した会社同士 である場合に、各当事会社が第三者機関の株式評価を踏まえるなど合理的な根拠に基づく 交渉を経て合意に至ったものと認められ、かつ、適切な情報開示が行われた上で各当事会 社の株主総会で承認されるなど、一般に公正と認められる手続によって株式交換の効力が 発生したと認められるときは、他に株式交換自体により当該当事会社の企業価値が毀損さ れたり、又は、株式交換の条件(株式交換比率等)が同社の株主にとって不利であるため に株主価値が毀損されたり、株式交換から生じるシナジーが適正に分配されていないこと などを窺わせる特段の事情がない限り、当該株式交換は当該当事会社にとって公正に行わ れたものと推認できるというべきである」87

上記判示内容に含まれる「公正な手続」の要素を分析すると、

① 独立当事者間の交渉であること

② 合理的な根拠にもとづく交渉を経て合意に至ったこと

③ 企業買収の公表前の情報および企業買収に関連する情報につき、適切な情報開示が行 われたこと

と分類される。すなわち、上記の要件を満たす企業買収手続であれば、

④ 組織再編行為自体により当該当事会社の企業価値が毀損されること

⑤ 組織再編の条件(統合比率等)が同社の株主にとって不利であるために株主価値が毀 損されること

⑥ 組織再編から生じるシナジーが適正に分配されていないこと

などを窺わせる「特段の事情」がある場合を除いて、公正な手続が行われたことが推定さ れることになる。これを株式買取価格決定請求事件の審理における主張・立証責任の点か ら考えると、上記①~③を満たすことを会社側が証明すれば、(公正な手続により企業買収 が行われたことが推定される結果)企業買収手続において決定された株式価格が「公正な 価格」であると推定されて、立証責任が転換され、株主側が企業買収手続において決定さ れた価格が「公正な価格」ではないことを証明しなければならないこととなる。そして、

そのために株主側において証明すべき事実・事情が④~⑥となるのである。

そこで、「公正な手続」の上記各要素について、具体的に以下分析する。

87 東京地裁平成21年4月17日判決、同平成21年5月13日判決、いずれも金融・商事判 例1320号p.31。なお、東京地裁平成21年9月18日決定、金融・商事判例1329号p.45 以下(サイバードホールディングスMBO事件)についても、同様の記述が見られる。

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3.6.2 独立当事者間の交渉であること

上記判示では、まず「株式交換をする各当事会社が、相互に特別の資本関係がない独立 した会社同士である場合」と、独立当事者間の交渉であることを前提としている。その理 由は、以下のとおりと考えられる。

独立した当事者間の交渉においては、それぞれの当事者は自らの利益が最大となるよう 行動することが通常であり、企業買収の場合、かかる交渉の過程で、当事者の背後に存在 する利害関係者、例えば買収対象会社の株主、株式買収会社に対する資金提供者等につい ても、その利益が最大限図られることになると解されるのである。このような交渉を経て 決定される取引内容(株式価格を含む)は、一定の合理性を有するものと推定される。

これに対し、類型的に独立当事者間の交渉とはいえない企業買収手続においては、「公正 な手続」と推定されるための大前提を欠いているため、「公正な手続」としての実質を確保 すべく、特別な配慮を行わなければならない。この典型例がMBOであり、また親会社や筆 頭株主たる関係会社による完全子会社化である。

3.6.3 合理的な根拠にもとづく交渉を経て合意に至ったこと

「合理的な根拠にもとづく交渉を経て合意に至ったこと」は、現在の企業買収実務に照ら すと、

① デュー・ディリジェンスを行うこと、またはその他の方法を用いて合理的な情報収集を 行うこと

② ①によって収集された情報にもとづき合理的な方法で株価算定を行うこと

③ ②によって算定された株価を基礎として相手方と合理的な交渉を行うこと 以上の3点を意味するものと解される。

例えば、いくら株価算定を丁寧に行ったとしても、デュー・ディリジェンス等が十分に 行われず情報収集が不十分であれば、株価算定の根拠が薄弱なものとなり、合理的と評価 することはできないであろうし、相手方との交渉においても、情報収集が不十分であるこ とを指摘されると交渉上の立場が弱くなる可能性がある。また、デュー・ディリジェンス により十分な情報収集を行ったとしても、株価算定方法が合理的なものでなければ、算定 された株価は交渉の基準たり得ない。さらに情報収集を十分に行い、株価算定を緻密に行 ったとしても、いざ相手方との交渉の場において、双方のリスク選好の相違などにより、

十分に自らの主張をすることができず、相手方の言いなりになってしまったのでは、「交渉」

としての本質を欠くものといわざるを得ない。

3.6.4 適切な情報開示により株価が形成されたこと

企業買収に際して、上場会社の株式価値を算定する場合、株価が特殊な要因で乱高下す

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るような事情がない限り、企業買収を公表する直前の一定期間の市場株価を基礎に算定す ることが多い。しかし、買収対象会社について適切な情報開示が行われない場合、買収対 象会社の市場株価が適切に形成されているとはいいがたい状況となることも少なくない。

例えば、適切な情報開示がなされないことにより、風評等が発生してこれにより株価が乱 高下している場合や、会社が株価を誘導するために、企業買収との関係では不適切な開示 または重要事実を不開示とする場合などである。不適切な開示や不開示の例として、減損 会計の前倒し適用等、不必要な会計処理にもとづく損失計上による業績の下方修正を公表 すること88、業績の上方修正を公表すべき状況89にあったにも拘わらずそれを適時開示しな いこと、増配計画が決定されているにも拘わらずこれを適時開示しないこと、また、株価 を下落させることを企図して、適時開示後の株価を株価算定に織り込むべく減配の適時開 示を行うこと等が考えられる。

3.6.5 企業買収につき適切に情報開示が行われたこと

一般の株主および投資家は、企業買収に関する買収会社、株式譲渡人および買収対象会 社の三者90による適時開示または公開買付公告・公開買付届出書等の開示により、初めて当 該企業買収を知ることになり、また、一般の株主および投資家は、当該適時開示、株主総 会招集通知および公告等によってのみ、当該企業買収に係る情報を得ることができるよう になっている。したがって、企業買収に関する適時開示および公開買付公告・公開買付届 出書等の開示が適正であれば、一般の株主および投資家は、公開買付けに応募するか否か について適正な判断を行うことができる。また、経営統合の承認に関する株主総会につい ては、その招集通知(厳密には株主総会参考書類)の内容が法令に反しないことはもとよ り、法令の趣旨に沿って適正に記載されているからこそ、議決権を適正に行使することが できる。しかし、こうした一般の株主および投資家に対して提供された情報につき、虚偽 の情報があった場合、または公開買付けへの応募や議決権行使に必要な情報の記載漏れが あった場合、一般の株主および投資家は、必要な情報を正確に受領することができなくな るのであるから、その公開買付けへの応募および議決権行使についても真意にもとづかな いものとなる可能性が高い。

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