第 7 章 取締役の合理的な交渉プロセス④ 経済的な補償と取引保護条項
7.6 交渉費用と取引制限条項
102 支払う。
規則3: †, † に移行していない場合、ステージ2で提示する手番なら „, „ を提示する。
規則4: †, † に移行していない場合、ステージ3で回答する手番なら、提示された自分 の配分が „, „ よりも高いときは受け入れ、低い場合は拒否する。つまり、買収 会社 が回答者の場合、 ≥ „のときは受け入れ、 < „ならば拒否する。また、
買収対象会社 が回答者の場合には、 ≥ „のときは受け入れ、 < „ならば拒否 する。
規則5: †, † に移行していないとして、ステージ3で回答者が規則4に従わず、受け入 れるはずの配分を拒否したなら、次の期以降は戦略 †, † に従う。つまり、買収 対象者 が回答者の場合、 ≥ „を満たす配分 , を拒否したなら、次の期以 降は両者とも戦略 †, † に従う。同様に、買収対象会社 が回答者の場合、 ≥ „ を満たす配分 , を拒否したなら、次の期以降は両者とも戦略 †, † に従う。
戦略 †, † は部分ゲーム完全均衡戦略だから、これに従っているかぎり交渉決裂するイ ンセンティブがないことは明らかである。式7-1、式7-2が成立すれば、点列& „'„•:– は 存在する。つまり、均衡戦略 ∗, ∗ は存在する。つまり、式7-1、式7-2は、有限期の うちに交渉がまとまる部分ゲーム完全均衡が存在するための十分条件である。(証明終)
式7-1、式7-2を満たすパラメータの範囲は、ƒ ⁄ 1 + ƒ < 1, ƒ 1 + ƒ⁄ より、
Z + Z = 1の内側にくる。 Z , Z がZ + Z < 1を満たすなら、取引がG = 0で成立するこ とがパレート効率的な交渉結果である。しかし、上記を満たす以外の点では取引不成立に なるので、パレート非効率的になる。このように交渉費用 Z , Z が十分高いと、提示が受 け入れられて交渉がまとまる均衡戦略は存在しない。
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と、それ以降の競合する買収会社の登場を妨げてしまうという競争制限的な側面も存在す る。さらに、企業買収の交渉プロセスにおいては、契約の締結につき高い期待を抱くだけ でなく、相当額の費用、手間をかけているため、契約の締結に至らず、交渉が決裂してし まうと、契約締結の期待が裏切られるだけでなく、相当額の損失の負担を強いられること になる。買収交渉が決裂した場合に、買収対象会社の取締役は、買収会社に対する経済的 な補償を目的として経済的な補償を求めることがある。この経済的な補償を目的とする取 引保護条項は、競合する買収会社が買収提案を行うための費用を高めるだけでなく、極端 な場合には、買収対象会社がより条件の良い買収提案を模索するインセンティブそのもの を失わせてしまうことにもなるかもしれない。以下では、他の競合する買収提案を行う者 との交渉の機会、取引の機会がないために生じる費用を外部機会費用と呼ぶ。外部機会費 用があると、取引保護条項を維持することで機会損失が生じる。この損失は、交渉決裂し た主体に与える交渉費用をより大きくする可能性がある。交渉費用がより多ければ、交渉 を決裂するインセンティブを削ぐことが出来るので、部分ゲーム完全均衡として達成でき る範囲が広がる可能性があると考えられる。
ここでは、前節の交渉期限]が無限のときのモデルに、外部機会費用を入れたモデルを考 える。買収会社 と買収対象会社 がパイ1を分け合う交渉を行う。各G = 0,1,2, ⋯ , ]は、ス テージ0からステージ3で構成されている。毎期取引保護条項を維持すると、外部機会費
用Ag e = , がかかる。この費用は、G期からG + 1期へ移ったときに発生する。ステージ0
では、買収会社 と買収対象会社 は、「取引保護条項を維持する」か「取引保護条項を解消 する」かを選ぶ。この結果、取引保護条項が維持されたら、ステージ1へ進む。取引保護 条項が解消された場合の両者の利得は0であるとする。取引保護条項が維持されるルール として「完全同意」と「一方的破棄」の二つのルールを考える。「完全同意」のルールでは、
両者が「取引保護条項を破棄する」を選んだ場合のみ取引保護条項が破棄され、一方また は双方が「取引保護条項を維持する」を選んだ場合は、取引保護条項が維持されステージ 1へ進む。それに対し「一方的破棄」のルールでは、一方または双方が「取引保護条項を 破棄する」を選べば取引関係は解消され、双方が「取引保護条項を維持する」を選んだ場 合のみ、ステージ1へ進む。
ステージ1からステージ3までは、 Anderlini and Felli(2001)と全く同じ構造である。
ステージ1で、両者は経済的な補償額を含む交渉費用Z , Z > 0を支払うか否かを決める。
もし、両者がこのコストを支払ったならステージ2へ進む。もし、どちらかがコストを支 払わなければ、交渉は開かれずにG + 1期へ移る。ステージ2は、Gが偶数なら、買収会社 が 配分、
, Ž ∈ U = & , | + = 1, ≥ 0, ≥ 0'
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を提示し、ステージ3へ進む。Gが奇数のときは、買収対象会社 が配分 , ∈ Uを提示 し、ステージ3へ進む。ステージ3では、Gが偶数のときは、買収対象会社 が買収会社 の 提示を受け入れるか、拒否するかを決める。受け入れた場合、パイの配分は買収会社 の提 示 , で決まり、交渉は終了する。もし、買収対象会社 が拒否したなら、G + 1へ移る。
Gが奇数の場合は、買収会社 が買収対象会社 の提示を受け入れるか、拒否するかを決める。
受け入れた場合、パイの配分は買収対象会社 の提示 , で決まり、交渉は終了する。も し、買収会社 が拒否したなら交渉は G + 1へ移る。
一方的破棄と完全同意では、部分ゲーム完全均衡の最低値は異なる。一方的破棄は0で あり、完全同意は−—g = − ∑– ƒg™Ag
™•: e = , である。つまり、完全同意のほうが交渉決裂
したときの経済的補償費用が大きい。
命題7-3:
取引保護条項解消ルールが「一方的破棄」なら、ƒg, Zg, Agが如何なる値でも、最低均衡利 得は0である。
証明7-3:
次の規則に従う戦略の組 :, : を考える。
規則1:ステージ0で、過去に何が起ころうと取引保護条項解消を選ぶ。
規則2:ステージ1で、過去に何が起ころうと経済的な補償を含む交渉費用Zgを支払わない。
規則3:ステージ2で、自分が提示する番ならば、過去に何が起ころうとパイ1を要求す る。
規則4:ステージ3で、自分が回答する番ならば、過去に何が起ころうと全ての提示を受 け入れる。
戦略 :, : は部分ゲーム完全均衡になる。ステージ0で取引保護条項維持を選んでも、
相手が取引保護条項解消を選んでいる限りゲームは終わる。よって、交渉決裂するインセ ンティブはない。ステージ1からステージ3までは、 †, † と全く同じ説明から、交渉決 裂するインセンティブがないことは明らかである。
次に、均衡利得が0以上であることを説明する。均衡戦略 :, : に従ったときの均衡利 得は0である。利得が0を下回るのは、交渉が次の期に進み外部機会費用−Agを負担するか、
ステージ1まで進みZgを支払う戦略を採ったときである。しかし、このような行動をとる戦 略は、均衡戦略にならない。なぜなら、ステージ0で取引保護条項解消を選べば、利得0 が保証されるからである。(証明終)
105 命題7-4:
取引保護条項解消ルールが「完全同意」なら、ƒg, Zg, Agが如何なる値でも、最低均衡利得 は−—gである。
証明7-4:
次の規則に従う戦略の組 6, 6 を考える。
規則1:ステージ0で、過去に何が起ころうと取引保護条項維持を選ぶ。
規則2:ステージ1で、過去に何が起ころうとZgを支払わない。
規則3:ステージ2で、自分が提示する番ならば、過去に何が起ころうとパイ1を要求す る。
規則4:ステージ3で、自分が回答する番ならば、過去に何が起ころうと全ての提示を受 け入れる。
戦略 6, 6 は部分ゲーム完全均衡になる。ステージ0で取引保護条項解消を選んでも、
相手が取引保護条項維持を選んでいる限りステージ1へ進む。よって、交渉決裂するイン センティブはない。ステージ1からステージ3までは、 †, † と全く同じ説明から、交渉 決裂するインセンティブがないことは明らかである。
次に、均衡利得が−—g以上であることを説明する。均衡戦略 6, 6 に従うと、ステージ1 で両者とも交渉費用Zgを支払わない。しかし、ステージ0では取引保護条項は維持されるの で、毎期交渉がまとまらないまま外部機会費用Agが毎期発生する。毎期発生する外部機会費 用の現在価値の合計は、−—gである。つまり、均衡戦略 6, 6 に従ったときの均衡利得は−—g
である。利得が−—gを下回るのは、ステージ1でZgを支払う戦略を採ったときである。しか し、このような行動を採る戦略は均衡戦略にならない。なぜならば、Zgを支払わないことで、
−—gは保証されるからである。(証明終)
これらの命題より、交渉決裂行為に対して与えることができる経済的補償費用の大きさ が、取引保護条項解消ルールによって異なることが示された。「一方的破棄」に比べ「完全 同意」は取引保護条項を解消しにくいルールであるため、交渉を開かないまま取引保護条 項を維持し続ける可能がある。一方で、この取引保護条項解消の難しさが外部機会費用を 発生させ、経済的補償費用を大きくしている。経済的補償費用が大きいほど、交渉が開か れ交渉がまとまるパラメータの範囲は広くなる。つまり、より効率的な結果が実現する可 能性が高い。これらの結果より、次の定理を得る。証明は、命題7-2に準じるので、ここ では割愛する。