第 8 章 株主の権限行使① 株主総会の機能
8.3 完全ベイジアン・ナッシュ均衡
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8.2.3 アドバイザーの期待利得
アドバイザーの地位は株主総会によって影響を受けることはなく、取締役のように交代 する可能性はないとする。現職取締役が再選任することでアドバイザーが獲得する取締役 との癒着レントを > 0で表す。これは退職後の斡旋や人事での優遇など、同じ取締役が2 期間続くことで発生する、取締役との癒着によってアドバイザーが享受することとなるレ ントを表している。アドバイザーはアドバイザリーファームの利得と取締役との癒着レン トとの和を最大化するように買収アドバイスを行う。
アドバイザーの期待利得を" とすると、
" „ Š„ , ω„ = : Š: , š: + ƒ © : Š: , š: ( + 6 Š6 , ω6 + + ƒ(1 − © : Š: , š: +( 6 Š6 , ω6 +
と表せる。
アドバイザーの期待利得は、第1期の現職の買収から生じるアドバイザリーファームの 利得、第2期においては現職が再選任を果たした場合の癒着レントとアドバイザリーファ ームの利得、現職が再選任されず新任者が投資選択を行った場合にはアドバイザリーファ ームの利得、それらの和の期待値である。
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8.3.1 第2期のアドバイザーと取締役の行動と株主総会
第2期におけるアドバイザーと取締役の行動から考えることにする。第2期は最終期で あるので、取締役とアドバイザーは株主総会を考慮して投資選択およびアドバイスを行う 必要はない。そのため、式8 − 3 より、アドバイザーは第2期の自然の状態に関係なく Š6 š6 = }というアドバイスを取締役に送る。したがって、第2期には情報伝達均衡は存 在しない。このようなアドバイザーのアドバイスを予想したGood Typeの取締役は式8 − 1 および式8 − 4より 6= ˆを選択する。また、式8 − 3よりBad Typeの取締役は 6= ,を選 択する。
各期の間には株主総会が行われ、株主は現職取締役と新任者かのいずれかを選任させる。
株主総会のときに新たに立候補してくる新任者がGood Typeの取締役である確率を
¬ ∈ (0,1+とする。¬ の値は株主総会の直前に無作為に抽出される値¬-の実現値とする。
したがって、第1期に経営を担当する取締役は、投資を選択する時点ではどのような¬の 値が実現するのかわからない。¬の確率分布は区間(0,1+上の一様分布にしたがい、その累積 分布関数をv ¬ ≡ œ•/¬- ≤ ¬0で表す。
第2期の取締役の投資選択が上のように決まることを見越した株主は、株主総会の時点 で持っている情報である、①第1期の現職取締役がGood Typeの取締役である確率¥、② 第1期の投資の成果F ∈ &w~, w“, 0'、③新任者がGood Typeの取締役である確率¬を頼りに 第2期の経営担当者にGood Typeの取締役を選ぼうとする。
いま第1期の成果Fを観察した株主が、現職取締役を確率¯ F でGood Typeの取締役であ ると予想したとする。このとき、株主は¬ ≤ ¯ F であるときに限って現職を再選任させる。
現職再選任を° = 1、現職落選を° = 0とすると、株主の戦略は関数 : ¥, F, ¬ → &1,0'と表せ る。同様に、両タイプの取締役の戦略は、関数±: , Š„, v ¬ → &,, ˆ'、アドバイザーの戦 略は、関数χ: ¥, š:, v ¬ → &}, ›'と書ける。
投資 : Š: = ,を選択した現職は自然の状態がš:= }であるときにのみ成果F = w~を残 すことができる。このとき株主は現職を確率¯ w~ でGood Typeの取締役と予測するため、
再選任確率© ,、} はv ¯ w~ = œ• ¬ ≤ ¯ w~ となる。同様に再選任確率
© ,, › 、© ˆ, } 、© ˆ, › も定まる。したがって、投資 : Š: を選んだ現職の再選任確率
© : Š: , š: は、
© : Š: , ω: = ³
v/¯ w~ 0 e1 : Š: = ,, š:= } v/¯ w“ 0 e1 : Š: = ,, š:= › v/¯ 0 0 e1 : Š: = ˆ, š:= } ´• ›
(式8 − 7)
となる。
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8.3.2 第1期における情報伝達均衡
アドバイザーが取締役に情報を正直に伝えることを前提としたときに、Good Typeの取 締役は式8-5より、アドバイザーのアドバイスがŠ:= }のときには投資 := ,を選択し、
Š:= ›のときには投資 := ˆを選択する : } = ,, : › = ˆ 。
Bad Typeの取締役が均衡においてとりうる行動は以下の4つである。
(a)Š:= }のとき投資 := ,を選択し、Š:= ›のとき投資 := ˆを選択する
: } = ,, : › = ˆ
(b)アドバイザーのアドバイスにかかわらず投資 := ,を選択する
: } = ,, : › = ,
(c)アドバイザーのアドバイスにかかわらず投資 := ˆを選択する
: } = ˆ, : › = ˆ
(d)Š:= }のとき投資 := ˆを選択する
: } = ˆ, : › = ˆ (d)Š:= }を選択し、Š:= ›のとき投資 := ,を選択 する : } = ˆ, : › = ,
ここで、(a)はアドバイザーが正直に情報を伝え取締役もそれに従うことで、非効率的 な買収プロジェクトは実施されないという、株主にとって最も望ましいケースであり、(b)
はBad Typeの取締役によって非効率的な買収プロジェクトが実行されてしまうケース、(c)
は買収プロジェクトが何も実行されないケース、(d)はBad Typeの取締役によって非効率 的な買収プロジェクトのみが実施されるケースである。以下、それぞれのケースについて 検討する。
8.3.3 均衡の分析
ケース(a)の均衡の存在条件について考えよう。はじめに、取締役とアドバイザーの逐 次合理的な行動と整合的な株主の予想形成について考える。ケース(a)において、投資の 成果w~を観察した株主は、①自然の状態がω:= }であることを観察したアドバイザーがア
ドバイスŠ: } = }を行い、Good Typeの取締役が投資 : } = ,を選択した、②自然の状
態がω:= }であることを観察したアドバイザーがアドバイスŠ: } = }を行い、Bad Type の取締役が投資 : } = ,を選択した、という2つの可能性を想定したうえで、現職がGood Typeの取締役である可能性をベイズ・ルールによって予想する。したがって、投資の成果w~ を観察した株主の取締役のタイプに関する整合的な予想形成は、
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¯ w~ = ¥ 1 −
¥ 1 − + 1 − ¥ 1 − = ¥ (式8 − 8)
となる。
この場合、Good Typeの取締役とBad Typeの取締役が同じ投資選択をするので、株主の 取締役のタイプに関する予想は新たな情報によってアップデートされず事前確率のままと なる。株主が成果0やw“を観察した場合の予想形成についても同様に考えて、
¯ 0 = ¥ (式8 − 9)
¯ w“ = 0 (式8 − 10)
となる。
ただし、¯ w“ の予想形成に関しては、成果w“が均衡経路上で実現することはない。均衡 経路外にあるこの予想形成に対して、ベイズ・ルールが条件を課すことはできない。その
ため、ここではGood Typeの取締役が成果w“を出すことはないという予想形成を仮定した。
株主のこれらの予想形成を所与とするとき、 : } = ,、 : › = ˆが成り立つための
Bad Typeの取締役の誘因整合性条件は、アドバイザーのアドバイスŠ:= ›を受けたときに、
投資 : › = ,ではなく、投資 : › = ˆを選択することである。すなわち、
© ˆ, › ƒ(P + + ≥ + © ,, › ƒ(P + + (式8 − 11)
が成り立つことである。
左辺は、投資 : › = ˆを選んだときの期待利得、右辺は投資 : › = ,を選んだときの期 待利得を表している。Bad Typeの取締役が投資 : › = ˆを選んだとき、第1期に買収プ ロジェクトは実施されないために利得は0となる。しかし、確率©/ˆ、›0 = v/¯ 0 0 /=
v ¥ 0で再選任を果たし、第2期では取締役レントP に加えて、買収プロジェクトを実施す
ることで利得 を得ることができる。一方、投資 : › = ,を選べば、第1期において買収プ ロジェクト実施から利得 を得ることができるが、株主総会では確実に再選任されないため 第2期からの利得は0となる。
同様に、アドバイザーが両タイプの取締役に対して正直なアドバイスŠ:= š:を行うため の誘因整合性条件は、自然の状態がš:= ›であるときにGood Typeの取締役に対して買収 アドバイスŠ: › = }ではなく、アドバイスŠ: › = ›を送ることである。式8 − 6 より、
アドバイザーにとっては第2期にBad Typeの取締役が経営を担当してくれたほうがよい。
したがって、この条件が満たされるのであれば、アドバイザーはBad Typeの取締役に対し ても買収アドバイスを正直に行う。アドバイザーの誘因整合性条件は以下のように書ける。
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© ˆ, › ƒ + (1 − © ˆ, › +ƒ1 − ¯ 0 2
≥ + © ,, › ƒ + (1 − © ,, › +ƒ1 − ¯ w“
2 (式8 − 12)
左辺は、自然の状態がš:= ›であるときにアドバイスŠ: › = ›を選んだ場合の期待利得、
右辺は自然の状態がš:= ›であるときにアドバイスŠ: › = }を選んだ場合の期待利得を 表している。アドバイザーがアドバイスŠ: › = ›を選択することで第1期の現職取締役は
: › = ˆを選び、成果0と再選任確率© ˆ, › = ¥を得る。また現職が確率1 − © ˆ, › で再
選任されなかった場合には、第2期において確率/1 − ¯ 0 0 2⁄ で新任者がBad Typeの取締 役となったときに限り、投資 6= ,から生じる利得 を得ることができる。
一方、アドバイザーがアドバイスŠ: › = }を選択した場合には、投資 : } = ,、成果w“、 再選任確率© ,, › = 0を得る。現職が確率1 − © ,, › で落選した場合には、第2期におい
て確率/1 − ¯ w“ 0 2⁄ で新任者がBad Typeの取締役となったときに限り、投資 6= ,から
生じる利得 を得ることができる。
式8 − 7から式8 − 12 より、第1期にアドバイザーが両タイプの取締役に対して正直に
アドバイスを行い、取締役もそれにしたがって効率的に買収プロジェクトが実施されるた めの誘因整合性条件は以下のとおりとなる。
≥ ƒ¥P
1 − ¥ƒ (式8 − 13)
≤ 2ƒ¥
2 + ƒ − 1 − ¥ 6 (式8 − 14)
式8 − 13 は、¥ ≥ /ƒ(P + + と書き直すことができ、再選任誘因が大きいとき、すなわ
ち、 ƒ(P + + / > 1のときにつねに成り立つことがわかる。
再選任誘因が小さいとき、すはわち、 ƒ(P + + / < 1、Bad Typeの取締役は第1期に非 効率な買収プロジェクトを実施することで利得を得ようとする。このとき、式8 − 13 は成 り立たない。また、取締役との癒着からアドバイザーが得る便益 、割引率ƒ、現職がGood Typeの取締役である確率¥、取締役レントPが大きいほど、式8 − 13及び式8 − 14を成り 立たせる買収プロジェクトを実施することによってアドバイザリーファームとアドバイザ ーが享受する便益 の範囲は大きくなる。
取締役との癒着からアドバイザーが得るレントを一定としたときに、アドバイザリーフ ァームとアドバイザーが買収プロジェクトの実施によって得る便益が大きくなるほど、非