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交渉期限が無限の場合

ドキュメント内 立教大学ビジネスデザイン研究科 (ページ 99-104)

第 7 章 取締役の合理的な交渉プロセス④ 経済的な補償と取引保護条項

7.5 交渉費用と交渉期限

7.5.3 交渉期限が無限の場合

同じ状況を無限に繰り返しプレイする交渉を、無限繰り返しゲームという。無限繰り返 しゲームの研究分野では、有限回の繰り返しゲームでは達成できなかった平均利得を均衡

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として実現できることが「フォーク定理」110として知られている。Fudenberg and Maskin

(1986)では、実行したい戦略から逸脱した主体に対し、罰(punishment)として出来る限り

与える利得を小さくしたときの利得をミニマックス利得として定義している111。そして、

この利得よりも高い平均利得は、割引率ƒが1に近づけば、部分ゲーム完全均衡として実現 できることを示している。つまり、実行したいプレイから逸脱した主体に対し実効性を伴 う罰を与えることが出来るので、誰も逸脱せず協調することが可能になることを示してい る。

交渉費用がサンクする場合では、交渉が無限に続く可能性があるなら、逸脱者に対し適 切な罰を与えうるので取引が成立する可能性がある。Anderlini and Felli (2001)は、無限繰 り返しゲームのアイデアを応用して最大限与えることが出来る罰が何かを示し、その罰を 用いて交渉が開かれ取引が成立するための条件を示している。

両者は、交渉費用Zgを全く支払わない戦略に変更することで利得0が保証される。したが って、均衡利得が0を下回ることはないから、均衡利得は必ず0以上であることがわかる。

命題7-1は、最低均衡利得が0であることを主張している112。つまり、逸脱した主体に与 えることが出来る最大の罰は利得0である。

命題7-1:

全てのƒg∈ (0, 1 , Zgに対して、各G期のステージ1で両者が交渉費用Zgを支払わない部分 ゲーム完全均衡が存在する。つまり、両者の均衡利得の最低値は0である。

証明7-1:

均衡利得が0以上であることは分かっているので、利得が0になる均衡戦略が存在する ことを示せばよい。次の規則に従う戦略の組 , を考える。

規則1 過去に何が起ころうと、ステージ1では交渉費用Zgを支払わない。

規則2 ステージ2で自分が提示の番ならば、過去に何が起ころうとパイ1を全て要求する。

規則3 ステージ3で自分が回答する番ならば、過去に何が起ころうと全ての提示を受け 入れる。

110 詳しくはFudenberg and Tirole (1991), ch.5を参照されたい。

111 逸脱した主体の利己的な振る舞いに対する報復として出来ることは、その主体が得る均 衡利得を出来る限り小さくすることである。なお、ミニマックス利得も均衡利得として実 現しなければ、実効性を伴う罰にならないことに注意されたい。なぜなら、均衡利得では ないなら、その利得を実現する戦略から逸脱する主体が出てしまうからである。

112 「均衡利得は0以上である」という命題と、「均衡利得の最低が0である」という命題 は全く異なる。前者は、最低均衡利得が0よりも大きい可能性を含んでいる。

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以下、この戦略が部分ゲーム完全均衡になることを示す。買収会社 についてチェックす る。

買収対象会社 が戦略 を採っていることを所与とすると、各G期のステージ1で買収会 社 が交渉費用を支払っても、交渉は開かれない。G + 1期以降も , に従う限り、両者 はZgを支払わず交渉は開かれないから、将来利得の現在価値は0である。よって、交渉費用 を支払う場合の利得が−Zgであり、支払わないときの利得が0であるから、買収会社 は、

各G期のステージ1で戦略 から交渉決裂するインセンティブはない。

Gが偶数のときのステージ2ではどうか。買収対象会社 の戦略 を所与とすると、ステ ージ3でいかなる配分 , も受け入れられる。

その中で、買収会社 にとり最も利得が高い配分は , = 1,0 であるから、戦略 か ら交渉決裂するインセンティブはない。

Gが奇数のときのステージ3ではどうか。買収会社 が、買収対象会社 の提示を拒否する

とG + 1へ進む。次の期以降も両者が , に従い続ける限り、G + 1期以降の将来利得の現

在価値は0である。それに対し、買収対象会社 の提示を受け入れたときの利得は0以上で ある113。よって、戦略 , から交渉決裂するインセンティブはない。

買収対象会社 についても同様に示すことが出来る。以上より、戦略 , は部分ゲーム 完全均衡である。(証明終)

次に、戦略 , を経済的補償として用いることで両者が交渉費用を支払い、交渉が成 立する均衡戦略を構築する。以下の定理は、割引率と交渉費用が、式7-1および式7-2 の関係を満たせば、有限期のうちに取引が成立する均衡戦略が存在する必要十分条件であ ることを示している。

命題:7-2

ƒg, Zgが次の2式を満たすことは、有限期に取引が成立するための必要十分条件である。

(交渉費用が十分高いと交渉がまとまる均衡戦略は存在しない。)

ƒ 1 − Z − Z ≥ Z (式7-1)

ƒ 1 − Z − Z ≥ Z (式7-2)

式7-1、式7-2はそれぞれに必要条件であり、パラメータがこれらを満たさなければ、

両者は永久に交渉費用を支払わず、交渉は不成立に終わる。そのとき、1 − Z − Z > 0なら ば、非効率性が生じていることになる。

113 交渉費用はサンクされているので、来期以降の利得と受け入れたときの利得の比較に関 しては考慮する必要はない。

100 証明7-2:

Gが偶数のステージ1ではじまる部分ゲームをA部分ゲームと呼び、Gが奇数のステージ 1ではじまる部分ゲームをB部分ゲームと呼ぶことにする。同じグループに属する部分ゲ ームは、全く同じ構造をしている。また、ゲーム全体はA部分ゲームと全く同じ構造であ る。A部分ゲームを一つのゲームとみなし、両者が部分ゲーム完全均衡戦略に従ったときの 買収会社 の配分の上限を ~とおき、下限を と置く114。同様に、B部分ゲームを一つの ゲームとみなし、均衡での買収対象会社 の配分の上限を ~と置き、下限を と置く。

必要条件:

まず必要条件について示すB部分ゲームを考える。両者が均衡戦略を採っており、この 戦略に従えば、提示が受け入れられ交渉がまとまるものとする。G期のステージ3で、買収 会社 が買収対象会社 の提示を拒否したなら、買収会社 がG + 1期以降に得られる配分は 高々 ~である。従って、拒否したときの将来利得の現在価値は、

ƒ ~− Z

である。拒否してもこの利得しか得られないので、この利得よりも多い配分を買収対象会 社 が提示したなら、買収会社 は必ず受け入れる115。よって、均衡で買収対象会社 は、

• > ƒ ~− Z

を満たす配分 • , • を提示するはずはない。例えば、

• − ” > ƒ ~− Z

を満たす” > 0を考え、• − ”, • + ” を買収対象会社 が提示したとしよう。買収会社 は、

拒否して将来利得を得るよりも、受け入れたほうが利得は高いので必ず受け入れる。この 提示に変えることで、買収対象会社 の利得は増える。つまり、• > ƒ ~− Z である限 り、買収対象会社 は買収会社 の配分を減らすことで自分の利得を増やすことが出来る。

よって、 = 1 − に注意すると、 は次の式を満たさなければならない。

114 ここで考える部分ゲーム完全均衡は、有限期のうちに交渉が成立する戦略のみを考えて いる。例えば,戦略 , は均衡戦略であるが、交渉は成立せずゲームは永久に続く。

115 支払った交渉費用はサンクされているので、回答時の意思決定には影響しないことに注 意されたい。

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1 − ≤ ƒ ~− Z (式7-3)

A部分ゲームについても、主体を入れ替えて全く同様のことがいえるので、次の式が成り立 つ。

1 − ≤ ƒ ~− Z (式7-4)

提示が受け入れられて交渉が成立しているならば、両者がステージ1で交渉費用を支払っ ているはずであるから、

~≥ Z (式7-5)

≥ Z (式7-6)

が成立していなければならない。

g~g e = , に注意して、式7-3、式7-4、式7-5、式7-6をまとめると、式7

-1、式7-2が得られる。式7-3から式7-6は、配分 , が受け入れられて交渉が終 わるために満たさなければならない条件である。したがって、式7-1、式7-2は均衡が存 在するための必要条件である。

十分条件:

次に、式7-1、式7-2が十分条件であることを示す。& '„•: は、以下の3条件を満た す数列である。ただし、 = 1 − である。

条件1: ∈ (Z , 1 − Z +

条件2:Gが偶数なら、ƒ „‡:− Z ≥ 条件3:Gが奇数なら、ƒ „‡:− Z ≥

まず次の補題を示す。

補題7-1:

以下の規則に従う戦略 , は、部分ゲーム完全均衡である。

規則1:過去に一度でも交渉費用を支払っていない主体がいるならば、戦略 , に従う。

規則2:G = 0、または、G > 0で , に移行していないなら、ステージ1で交渉費用Zg

102 支払う。

規則3: , に移行していない場合、ステージ2で提示する手番なら , を提示する。

規則4: , に移行していない場合、ステージ3で回答する手番なら、提示された自分 の配分が , よりも高いときは受け入れ、低い場合は拒否する。つまり、買収 会社 が回答者の場合、 ≥ のときは受け入れ、 < ならば拒否する。また、

買収対象会社 が回答者の場合には、 ≥ のときは受け入れ、 < ならば拒否 する。

規則5: , に移行していないとして、ステージ3で回答者が規則4に従わず、受け入 れるはずの配分を拒否したなら、次の期以降は戦略 , に従う。つまり、買収 対象者 が回答者の場合、 ≥ を満たす配分 , を拒否したなら、次の期以 降は両者とも戦略 , に従う。同様に、買収対象会社 が回答者の場合、 ≥ を満たす配分 , を拒否したなら、次の期以降は両者とも戦略 , に従う。

戦略 , は部分ゲーム完全均衡戦略だから、これに従っているかぎり交渉決裂するイ ンセンティブがないことは明らかである。式7-1、式7-2が成立すれば、点列& '„•: は 存在する。つまり、均衡戦略 , は存在する。つまり、式7-1、式7-2は、有限期の うちに交渉がまとまる部分ゲーム完全均衡が存在するための十分条件である。(証明終)

式7-1、式7-2を満たすパラメータの範囲は、ƒ ⁄ 1 + ƒ < 1, ƒ 1 + ƒ⁄ より、

Z + Z = 1の内側にくる。 Z , Z がZ + Z < 1を満たすなら、取引がG = 0で成立するこ とがパレート効率的な交渉結果である。しかし、上記を満たす以外の点では取引不成立に なるので、パレート非効率的になる。このように交渉費用 Z , Z が十分高いと、提示が受 け入れられて交渉がまとまる均衡戦略は存在しない。

ドキュメント内 立教大学ビジネスデザイン研究科 (ページ 99-104)