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取引保護条項の具体的内容

ドキュメント内 立教大学ビジネスデザイン研究科 (ページ 34-38)

第 2 章 企業買収の現状と課題

2.5 企業買収プロセスの効率性を妨げる要因③

2.5.3 取引保護条項の具体的内容

次に、実務において利用されている取引保護条項の具体的な内容について確認する。本 来であれば、わが国の企業買収実務において利用されている取引保護条項について、類型 化や法則を発見したうえで記述することが望ましいが、わが国では、取引において実際に 利用された取引保護条項の内容が公表された事例が不足しているため、少なくとも現時点 では、わが国の実務において利用されている取引保護条項の内容について、有意義な類型 化や法則の発見は困難といえる。また、わが国において現時点で利用されている取引保護 条項が、今後も引き続き実務において利用され続けるのかについても必ずしも明らかでは ない72

そこで、以下では、最初に米国の企業買収実務で利用されている取引保護条項の内容を 紹介し、そのうえで、わが国において現時点で利用されている取引保護条項が有する傾向 について、米国における取引保護条項との違いに留意しながら簡単に指摘することとした い。米国では、取引保護条項に関する取引事例が充実しており、取引保護条項の有する機 能ごとに精緻な類型化が行われていること、米国の企業買収実務で利用されている取引保

70 取引保護条項には、競合する買収者を排除する機能を有するものと、買収者に経済的な 補償を与える機能を有するものの2つが存在することについては、米国において広く合意 が形成されているといえるが、問題は両者の関係である。経済的な補償を目的とする取引 保護条項であっても、特定の買収者に付与されることによって、競合する買収者の留保価 格(買収者が買収価格として提示することのできる最大限の価格)を引き下げる効果があ ることに争いはない。経済的な補償を目的とする取引保護条項としては、一般にはロック アップ条項(企業買収取引に関連して締結される契約中の条項であり、特定の事由が原因 で取引が完了しなかった場合に、買収対象会社が買収者に対して何らかの利益移転を行う 合意の総称)が想定されるが、ロックアップ条項に基づいて支払われる費用は、最終的に は買収に成功した者に転嫁されるからである。

71 さらに、経済的な補償を目的とする取引保護条項には、競合する買収者が提示する買収 価格を引き下げてしまう側面や、取引保護条項の付与を受けた買収者が買収合戦に応じて 当初の買収価格を引げようとはしなくなる側面も存在する。

72 その理由として、わが国では、現時点において、取引保護条項の法的効力に関する議論 や判例の集積が大きく不足していることが挙げられる。そのため、取引保護条項の法的効 力に関する今後の議論や判例の展開によっては,取引保護条項の利用に関する実務が大き く変わる可能性がある。

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護条項は、わが国の企業買収実務に対して大きな影響を与えており、これからも与え続け ると予想されていることが、以下において米国の企業買収実務で利用されている取引保護 条項を取り上げることの理由である73

米国の企業買収実務で利用されている取引保護条項は、①競合する買収提案を排除する ことを目的とするもの、②経済的な補償を目的とするものに大別できる74。以下では、こう した分類に従いながら、それぞれの分類における代表的な取引保護条項について紹介して いく。

① 競合する買収提案の排除を目的とするもの

前記のとおり、相当程度企業買収の場面で交渉プロセスが進行すると、交渉当事者の一 方又は双方が契約締結の期待を抱くことになるが、後日、契約締結に至らない場合、相当 額の費用、手間等の負担が生じるだけでなく、その間、他の競合する買収提案を行う者と の交渉の機会、取引の機会を失うことにもなる。

競合する買収提案の排除を目的とする代表的な取引保護条項としては、買収対象会社に よる競合する買収提案の勧誘、競合する買収会社との交渉、または買収対象会社に関する 情報の提供などを制限することを内容とするノートーク条項(no-talk provision)やノーショ

ップ条項(no-shop provision)と呼ばれる契約条項がある。ノーショップ条項とは、一般に、

買収に関する契約の締結後に、買収対象会社が積極的に他の買収提案を勧誘することを禁 止する契約条項をいう。そのため、契約においてノーショップ条項が締結された場合には、

それ以後は、買収対象会社が他の買収提案を自ら積極的に勧誘することや、自社の内部情 報を第三者に提供することは、原則として禁止される。ただし、競合する買収会社から自 発的になされた買収提案が優越的な提案(superior proposal)75に該当する場合には、買収対 象会社が当該提案に対応することは一般に許容されている。そして、このような買収対象 会社に課される交渉上の制限をさらに厳格にしたものが、ノートーク条項と呼ばれる契約

73 外国企業との間の企業買収では、米国において利用されている取引保護条項を用いるこ とが多いとされる。そして、近年、外国企業を買収者とする企業買収取引が大幅に増加傾 向にある。例えば、宮島編(2007), pp.29-30では、1990年代の前半と2000年代の前半を比 較すれば、外国企業を買収者とする企業買収取引の件数は約6倍に増加したことを指摘す る。このことからすれば、米国において利用されている取引保護条項が、わが国の企業買 収実務に及ぼす影響は大きいといえる。

74 なお、1つの取引保護条項が、これらのうちの複数の目的を有することは、当然に考え られるところである。ここでの分類は、取引保護条項ごとに、当該条項を締結する際の主 要な目的であると一般に理解されている内容に基づくものであり、複数の目的を有する取 引保護条項の存在を否定する意図はない。

75 優越的な提案の内容は締結される契約ごとに異なりうるが、典型的には、競合する買収 者から自発的になされた買収提案で、買収対象会社の取締役会が、全国的に認知された財 務アドバイザーの意見に基づいて、買収対象会社の株主にとってより多くの価値をもたら すことが合理的に期待されると誠実に判断することが可能な買収提案をいう。

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条項である。ノートーク条項が締結された場合には、買収に関する契約を締結した後で、

買収対象会社が競合する買収会社と交渉することや、自社の内部情報を第三者に提供する ことが、厳格に禁止されることが多い。

また、優越する買収提案が登場した場合に、当初の買収会社に当該提案と競う権利を与 えるマッチング条項(matching right, right of first refusal)と呼ばれる取引保護条項につい ても、競合する買収提案を排除する機能があると理解されている。典型的なマッチング条 項の下では、優越する買収提案が現れた場合、買収対象会社は当該提案の内容などを当初 の買収会社(マッチング条項の付与を受けた買収会社)に通知し、当初の買収会社との間 で誠実に交渉を行うことになる。そして、通常は3営業日以内に、当初の買収会社が優越 する買収提案と同等の買収提案を買収対象会社に提示すれば、買収対象会社は当初の買収 会社との取引を選択する義務を負う。そのため、競合する買収会社としては、買収対象会 社の価値を評価し買収提案を行うための費用を負担したとしても、マッチング条項を付与 された当初の買収会社に後から買収提案を競われてしまうことによって、結局は買収が実 現できなくなることを危惧し、競合する買収提案を行わなくなる可能性が高まる。もちろ ん、競合する買収会社としては、さらに条件の良い買収提案を行うことで、マッチング条 項を付与された買収会社との競争に勝つこともできる。

しかしながら、一般には、マッチング条項を付与された買収会社には、買収対象会社の 経済的価値に関する情報優位性が存在することからすれば、競合する買収会社がマッチン グ条項を付与された買収会社よりも条件の良い買収提案を行う場合には、競合する買収会 社は、買収対象会社に対して多くの対価を払いすぎてしまっている可能性がある76。そのた め、競合する買収提案を行うことを考えている者が、マッチング条項を付与された買収会 社と競合することは合理的ではないと考え、最終的には競合する買収提案を行うことを控 えたとしても、その判断には十分に合理的な理由がある。

以上を理由として、マッチング条項には競合する買収提案を排除する機能があると考え られている。とりわけ、買収対象会社の評価額が競合する買収会社間で共通する場合には、

マッチング条項には強い排除効果が認められる77

76 すなわち、競合する買収者はいわゆる勝者の呪い(winner’s curse)の状態に陥っている可 能性がある。

77 マッチング条項による競合する買収提案の排除効果は、買収者や買収対象会社の性質に よって異なり、とりわけ買収対象会社の評価が買収者間で共通する場合には、マッチング 条項は特に強い排除効果が認められる。なお、一般に、買収により生じるシナジーの獲得 を目的とする事業目的の買収者(strategic buyer)による買収であれば、買収対象会社の評価 額は買収者ごとに大きく異なることが想定されるが、買収対象会社の清算価値や株価の割 安感に注目して買収を行う投資目的の買収者(financial buyer)による買収であれば、買収対 象会社の評価額は買収者間で共通することが多い。

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