第2章 先行研究レビュー
2.5. 顧客ロイヤルティの先行要因
2.5.2. 行動的ロイヤルティの先行要因
図表2-13に示しているように、行動的ロイヤルティの先行要因としては、(1) 顧客満足、(2) バ ラエティ・シーキング、(3) 習慣的行動、(4) 立地利便性、(5) 認知的ロイヤルティ、感情的ロイヤ ルティ、意欲的ロイヤルティが挙げられる。以降、それぞれの定義、実証研究結果、測定方法、小 売マーケティング視点で考慮すべきことについて述べていく。
(1) 顧客満足
顧客満足は態度的ロイヤルティの先行要因であるだけでなく、いくつかの先行研究においては行 動的ロイヤルティの先行要因としてもモデル化されている。ショッピングモールにおける顧客ロイ ヤルティについて検討したLeHew et al. (2002)は、モール環境(ショッピングモール環境要素満足
度)が行動的ロイヤルティの先行要因になることを明らかにした。Mägi (2003)は、顧客ロイヤルティ
を本研究で行動的ロイヤルティと捉えているSOP (Share Of Purchase:購買比率)とSOV (Share
Of Visits:訪問比率)で測定している。この研究ではSOPやSOVに顧客満足が影響を与える仮説
モデルを検証しており、その仮説モデルにおいて顧客満足が行動的ロイヤルティに影響を与えるこ とを明らかにしている。
20 2.2.1.1. 認知的ロイヤルティおよび2.2.1.2. 感情的ロイヤルティの項を参照。
21 2.2.2. 行動的ロイヤルティの項を参照。
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(2) バラエティ・シーキング
Peter and Olson (1999)は、van Trijp et al. (1996)をもとに、購買パターンを消費者のコミットメ ント22の高低と購買されるブランド数の単数・複数とで四分類23する手法を提案している(図表2-15)。
コミットメントが高く、複数ブランド購買が行われるセグメントを「バラエティ・シーキング」と し、コミットメントが低く、複数ブランド購買が行われるセグメントについては「派生的な多様性 行動」として両者を区別している。派生的な多様性行動は、特定ブランドの在庫切れや異なるブラ ンドの品揃え有無などの環境における外的な手がかりにより生起するのに対し、バラエティ・シー キングは「異なったもの、もの珍しさ、新奇性への試みや、同じものへの飽きの克服に関わる刺激 のようなものによる、異なるブランドを購買することへの認知的なコミットメント24」と定義して いる。本研究でもこの定義を用いる。
図表2-15 ブランド・コミットメントと購買パターンの分類
(出所) van Trijp et al. (1996)より筆者作成
バラエティ・シーキングは顧客ロイヤルティと対極の概念であり、これまで見てきた先行要因と は異なり、顧客ロイヤルティにマイナスの影響を与える先行要因となる。図表2-7にもあるように、
井上 (2009)は、バラエティ・シーキングが行動的ロイヤルティの先行要因になり、マイナスの影響 を与えることを明らかにしている。井上 (2009)は、バラエティ・シーキングを「調査期間中に購入 したブランド数」で測定している。小売マーケティングの視点から捉えると、様々なタイプの店舗 が多数存在する大都市圏ではバラエティ・シーキングが行動的ロイヤルティの先行要因になりうる が、通常の行動範囲内に同じ業態の小売店が一店しかないような地域にとってはバラエティ・シー キングが行動的ロイヤルティの先行要因にならないと考えられる。研究を行う上では小売業態の地 理的分布状況を加味する必要がある。
(3) 習慣的行動
Tam et al. (2009)は、習慣的行動を「購買と消費のプロセスにおける反応と要因との間に生じる 心理的連想のことで、これらの連想は習慣に反映している時、反復反応実行の手がかりとして無意 識のうちに機能する」と定義している。本研究においてもこの定義で習慣的行動を捉える。
Oliver (1997)は、行動的ロイヤルティの持続要因として習慣を挙げており、習慣が行動的ロイヤ ルティの先行要因になっていることを主張している。Tam et al. (2009)は、「購買と消費の習慣」と
「ブランド・ロイヤルティ」(本研究における態度的ロイヤルティの意欲的ロイヤルティ)が、再購
買愛顧(本研究における行動的ロイヤルティ)の先行要因になると示している。この研究では、「購買
22 ここでのコミットメントの対象は特定ブランドでなく、製品・サービスカテゴリーに対するコミットメントを意図していると解釈 した。
23 本文中で提示していない残り二つのセグメントは、コミットメントが高く単一ブランド購買が行われるセグメントの「ブランド・
ロイヤルティ」と、コミットメントが低く単一ブランド購買が行われるセグメントの「反復的購買」である。
24 日本語訳は新倉 (2005)を引用。
一ブランド購買 複数ブランド購買 高 ブランド・ロイヤルティ バラエティ・シーキング
低 再購買行動 派生的な多様性行動
一定期間のブランド購買数
消費者コミットメント
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と消費の習慣」を、「購買と消費の状況の認識」という状態が、活動を積み重ねることで「状況に応 じた反応の関連づけ」状態になり、最終的に「購買と消費の習慣」が定着すると述べている。小売 マーケティングの視点から見てみると、生活に密着した日常的な小売業態か、レジャーや頻度の低 い買い物等と関連した非日常的な小売業態かによって、習慣的行動の生じやすさが異なる。日常的 な小売業態であれば、日常の習慣的な行動に結びついて店への訪問が習慣的行動につながりやすい。
例えば、通勤という習慣的な行動に結びついて、最寄駅のキオスクで毎朝、新聞を買うような行動 が習慣的行動となる。一方で、非日常的であるレジャーに関連して、レジャー施設内にある土産物 店への訪問や、購買頻度の低い自動車販売店などの訪問は習慣化しにくく、習慣的行動が生じにく い。
(4) 立地利便性
立地利便性が小売業にとって重要な要素であることは古くから認識されており、Walters and White (1987)は小売マーケティング・ミックスとして、製品特性、価格、顧客サービス、店舗立地、
店舗設備、顧客コミュニケーション、組織のプロフィールとイメージ、店舗内の雰囲気の八要素を 挙げている。小売業態別に顧客の愛顧に影響を与える要素についても整理しており(図表2-16)、こ れによれば立地利便性は、スーパーマーケット、百貨店、DIY 店の三業態で一位、外食店で二位、
ファッション店で五位と、重要性が極めて高いことを示している。「店舗の立地は多くの点で、顧客 が期待する便宜性要素への反応となっている」としており、「アクセスの容易さ」が買物決定の重要 な要素になっていることを示している。これらより本研究では立地利便性を「消費者の小売店への アクセスの容易さ」と定義する。
図表2-16 小売店舗の愛顧決定要因のうち、上位五つの要因のランクづけ
(出所) Walters and White (1987) (市川貢、来住元朗、増田大三訳『小売マーケティング-管理と 戦略-』)より
前述の図表2-9の通り、剣持 (2006)は、立地利便性が行動的ロイヤルティの先行要因になること を明らかにしている。剣持 (2006)は、立地利便性を「店に行くまでにかかる時間の逆数」と「交通 手段25」の二項目で測定している。横山 (2015)は、食品スーパーの実務家へのインタビュー結果と して、「実感としては、お客様の支持を得るのに重要なのは、立地が50、価格が20、残りを品揃え とサービスが分け合うくらいでしょうか」というコメントを提示しており、実務家が立地利便性を 重視していることを明らかにしている。
(5) 認知的ロイヤルティ、感情的ロイヤルティ、意欲的ロイヤルティ
Garretson et al. (2000)は、プライベートブランドに対する態度がプライベートブランド購買比率
25 徒歩>自転車>自動車>電車という順序で立地的に行きやすいと考え指標にした。
スーパー
マーケット 外食店 ファッション店 百貨店 DIY店
1位 立地/便宜性 嗜好/風味 お金に見合う価値 立地 立地
2位 低価格 立地 品揃え 品揃え 低価格
3位 品揃え 迅速なサービス 現代風のファッション 低価格 品揃え
4位 親切なサービス 価格 高品質 高品質 品質
5位 清潔さ 品質 立地/モール サービス/保証 知的なサービス
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の先行要因になると主張している。ここではプライベートブランドに対する態度を「プライベート ブランドを買う時はいつも良い買い物をしたと感じる」、「私が購買する製品ジャンルにプライベー トブランドが利用できる時、私はそのプライベートブランド製品を愛する」などの六項目で測定し ているが、その内容から認知的ロイヤルティと感情的ロイヤルティが混在した内容になっている。
よって、この研究は、行動的ロイヤルティである購買比率の先行要因として、認知的ロイヤルティ と感情的ロイヤルティを示したこととなる。また、Oliver (1997)は、認知的ロイヤルティ→感情的 ロイヤルティ→意欲的ロイヤルティ→行動的ロイヤルティという段階を想定していることから、意 欲的ロイヤルティが行動的ロイヤルティの先行要因になっていることを示している。