第5章 小売業ブランド・コミュニティが 顧客ロイヤルティの結果行動におよぼす効果
5.5. 考察と実務的示唆
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図表5-18 仮説モデルにおけるメンバー間相互作用の差の多母集団分析結果
(出所)筆者作成
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費者から共感が得られるような小売ブランドとしての経営方針を明確に表すことが重要となる。食 品スーパーのオーケーはオネスト(正直)カードを売場に掲げている76。「只今販売しておりますグ レープフルーツは、南アフリカ産で酸味が強い品種です。フロリダ産の美味しいグレープフルーツ は12月に入荷予定です」、「6月21日から発泡酒が値下げになります。お急ぎでなければ、6月21 日までお待ちください」など、企業にとって不利な情報も包み隠さずオープンにすることにより、
消費者から大きな共感を得ている。Urban (2005a,b)が、アドボカシー・マーケティング77は「企業 が透明性を発揮することで顧客からの信頼を得られる78」と定義していることから、オーケーの事 例はまさにアドボカシー・マーケティングの実践例となっている。このような展開がブランド・コ ミュニティ参加を促進させる。
また前述の通り、本研究では顕現性を「当該ブランドのポジティブなイメージが消費者の意識の 中で支配的となること」と定義している。何かのきっかけと小売ブランドのポジティブなイメージ との連想を強められれば、それをトリガーにして、顧客の感情的ロイヤルティを高め、ブランド・
コミュニティへの参加促進が期待できる。第3章で提示79したようにセブンイレブンの「開いてて よかった」や、北海道や出来立てのお弁当との連想を持つセイコーマートのような展開を進めてい くことがと有効となる。
(2) ブランド・コミュニティ参加の業態別特徴の考察と示唆
食品スーパー、総合スーパー、ファッション店については、四つの決定要因がすべて有意になっ た。食品スーパーは、極めて身近で、生活必需品を買う場所であり、多くのタイプの消費者が訪れ る。よって消費者の目的も多岐にわたり、様々な決定要因が有意になったと考える。ただし、モデ ルの当てはまりを示す適合度指標は他の小売業態と比較して極めて低かった。食品スーパーについ ては、さらに別の基準で細分化し、分析することが考えられる。
総合スーパーは品揃えの幅が広いため、消費者の受けとめ方も多様であり、様々な決定要因が有 効になったと考えられる。また、総合スーパーではブランド知識の影響力が突出して大きいことが 特徴であった。総合スーパーとしてはイオンやイトーヨーカドーなどの大企業が挙げられていた。
両社とも資金力を生かして様々な展開を行っており、近年ではオムニチャネル展開として、消費者 がネットやリアルでの購買をシームレスに行うことができるよう、工夫を凝らしている。これらの 様々なサービス展開は、消費者に選択肢を増やしている反面、品揃えや販売形態が多様化しすぎて、
消費者は自分にとって何が適切なのかがわかりにくくなってきている。品揃えや販売形態の多様化 がブランド知識の影響力の大きさにつながっていると考えられる。総合スーパーへは、豊富に持つ 品揃えや販売形態を消費者ニーズにあわせて提案していくとともに、消費者が自分のニーズに合っ た商品・サービスや販売形態を検索しやすくする環境を構築することが、ブランド・コミュニティ 参加の促進に有効に機能するということを示唆したい。
ファッション店はグローバルな大企業から零細企業に至るまで、数多くの企業が存在し、様々な タイプの小売ブランドが存在するため、様々な決定要因が有意になったと考える。ファッション店 のブランド・コミュニティ参加に最も大きな影響を与えているのは感情的ロイヤルティである。
76 オーケーWebページより http://www.ok-corporation.co.jp/chara/index6.html(2017年8月4日アクセス)
77 アドボカシー・マーケティングについては他にLawer and Knox (2006)、山岡 (2009,2010,2011)、Walz and Celuch (2010)など が詳しい。
78 その一方で、Kirby (2012)では「真実を語るなら、顧客は企業経営者が透明性を発揮しない限り信頼することはない。しかし、も し企業経営者が透明性を発揮すると、競争優位は一時的なものとなり、マージンが急落し、イノベーションを起こさざるを得ない 環境に追い込まれる」と言及している。
79 3.5.1.顧客ロイヤルティの先行要因の考察と実務的示唆の項を参照。
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ファッション店は、自分のスタイルと小売ブランドが提案するスタイルとの一致度合いが極めて重 視されるため、感情的ロイヤルティの先行要因である自己連結性が非常に重要となる。ファッショ ン店へは、ファッション店がイメージする人物像に近いモデルや芸能人を起用し、写真によるコミュ ニケーションが主体のSNSであるインスタグラム(Instagram)などを活用することで、ブランド・
コミュニティへの参加の促進が期待される。
一方、コンビニエンスストアでは相違性、顧客満足は有意にならなかった。コンビニエンススト アにおいては、消費者から小売ブランド間の相違性が知覚されていない可能性がある。コンビニエ ンスストアにおける相違性の影響力の低さは、第3章で顧客ロイヤルティの先行要因から相違性を 除外したことと一致する。また第4章では、長期的プロモーションが小売ブランドによって差があ るものの、長期的プロモーション自体がまだ十分に認知されていないため、相違性を知覚するには 至っていないことを明らかにした。他社と異なる店舗形態や品揃えにすること、すなわち差別化を 図ることで、ブランド・コミュニティ参加を活性化させる可能性がある。
百貨店、雑貨店、ファッション店といった、買物に楽しみを見出しやすい業態については、楽し みを比較的見出しにくい食品スーパーと比較すると、相違性、顧客満足、感情的ロイヤルティが高 いことも明らかになった。百貨店、雑貨店、ファッション店では、この結果を活用し、顧客間での 情報交換がしやすく、小売ブランドからの情報も豊富に提供できるようなブランド・コミュニティ の仕組みを構築し、積極的に周知、参加促進を図ることが、顧客ロイヤルティを高めていく上で有 効になると期待される。一方、食品スーパーはブランド・コミュニティ参加の三つの要因が低かっ たものの、ブランド知識については、雑貨店、ファッション店との間に有意差がないことが見出さ れた。食品スーパーについては、顧客の訪問頻度が高く、企業が顧客と日々接点を持つことができ るという利点がある。顧客のブランド知識を高め、ブランド・コミュニティへの参加を促進させる ために、店員や売り場を通じてその店独自の情報やこだわり情報を毎日提供していくことが有効に なると考える。
5.5.2. ブランド・コミュニティ参加後の態度・行動分析の考察と実務的示唆
(1) コミュニティに対する企業活動の効果
本研究を通じて、コミュニティ支援活動およびオンライン・コミュニティ・ユーザビリティの改 善がコミュニティ同一性の向上に効果を発揮することを明らかにした。企業はコミュニティにどの ようなメンバーを入れるのかをコントロールすることはできないが、企業側のマーケティング努力 によってコミュニティ同一性を高められる。より具体的には、コミュニティ支援活動として、企業 は①コミュニティ・メンバーの表彰、②コミュニティ・メンバーから出た意見を商品・サービスへ 反映、③コミュニティ・メンバーから出た意見を経営活動へ反映などを行うことで、コミュニティ 同一性を高められる。コミュニティ支援活動については、宮澤 (2014)が、「メンバーに役割分担を 課すことは消費者の自発的参加行動を促す効果的な方法になり得る」と言及している通り、特別な 顧客として扱うだけでなく、メンバーへの協力を求めることも重要である。
ユーザビリティについても、より具体的に、①オンライン・コミュニティの場でチャレンジする 要素を提供する、②発言しやすいよう工夫する、③発言やコメント内容を検索しやすくするなどの 工夫をすることでコミュニティ同一性を高めることができる。コミュニティ同一性を高める上で効 果を発揮するマーケティング施策を、具体的なレベルで示すことができた点が有意義であると考え る。
コミュニティ同一性に与える影響は、オンライン・コミュニティ・ユーザビリティよりコミュニ ティ支援活動の方が大きいため、企業はよりコミュニティ支援活動に重点を置くことでコミュニ
107 ティ同一性を効率的に高められる。
本研究において、コミュニティ・マーケティング活動の口コミ行動促進モデルを検証したことに より、企業がコミュニティ支援活動やユーザビリティの改善を行うことで、コミュニティ同一性が 高まり、それに連動して態度的ロイヤルティおよび行動的ロイヤルティが高まって、これまで以上 の口コミ行動が促進されるというプラスのスパイラルが生じることが明らかになった。ブランド・
コミュニティを立ち上げた企業は、コミュニティが活性化するよう、常にフォローしていくことで プラスのスパイラルを構築することができる。
(2) メンバー間相互作用の果たす役割
本章は、メンバー間相互作用重視度が低いブランド・コミュニティではコミュニティ支援活動の 方がオンライン・コミュニティ・ユーザビリティより大きな影響を与えていることを明らかにした。
オンライン・コミュニティを運営する小売業は、自社のメンバー間相互作用の活性化度合いに応じ て、活性化していないようであればこれまで以上にコミュニティ支援活動を積極的に行うことが有 効になる。また、メンバー間相互作用重視度が高いブランド・コミュニティでは低いブランド・コ ミュニティより、コミュニティ同一性が態度的ロイヤルティに与える影響が大きいことも明らかに なった。ブランド・コミュニティはメンバー間相互作用が活性化している方が望ましため、オンラ インやオフラインでイベントを行うなど、メンバー間相互作用が活性化するきっかけづくりや場の 提供を行う必要がある。