第5章 小売業ブランド・コミュニティが 顧客ロイヤルティの結果行動におよぼす効果
5.2. 先行研究の概要と本研究の仮説
5.2.1. 先行研究の概要
(1) 顧客ロイヤルティ、エンゲージメントとブランド・コミュニティ
顧客は顧客ロイヤルティが高まると、顧客ロイヤルティの低い消費者には見受けられない行動を 起こすようになる。第2章および第3章において、顧客ロイヤルティの結果行動として①将来的再 訪行動、②口コミ行動、③顧客間支援行動、④競合忌避行動、⑤共創行動の五つの行動が生じるこ とを示した。ブランド・コミュニティはブランドに関する情報収集を行う場であると同時に、ブラ ンドに関する口コミ行動を起こす場でもある。顧客ロイヤルティが高まることで口コミ行動が促進 されるのであれば、顧客ロイヤルティの高まった顧客は、口コミをする場であるブランド・コミュ ニティに参加すると考えられる。そこで本章では、顧客ロイヤルティを高め、顧客ロイヤルティの 結果行動を促進させる先行要因がブランド・コミュニティ参加の先行要因にもなると仮定し、先行 研究レビューを行う。
久保田 (2012a)は、t1期とその後のt2期に同じ調査に回答した同一回答者のデータを用いて、ブ ランド・リレーションシップの先行要因の期間の差について分析している。この研究では、ブラン ド・リレーションシップが低い層を低BR群、高い層を高BR群とわけた上で、t1期の①類似性、
②相違性、③好ましい思い出、④顕現性がt2期のブランド・リレーションシップに影響を与え、t1
期のブランド・リレーションシップがt2期の①類似性、②相違性、③好ましい思い出、④顕現性に 影響を与える仮説モデルについて、低BR群と高BR群それぞれについて検証している。分析の結 果、低BR群ではt1期の①類似性、②相違性、③好ましい思い出、④顕現性がt2期のブランド・リ レーションシップに有意な影響を与えるが、高BR群では有意な影響を与えないことを明らかにし ている。
van Doorn et al. (2010)は、顧客エンゲージメント行動の先行要因と結果行動を概念的に整理し、
モデルとして提示している(図表5-3)。van Doorn et al. (2010)では、顧客エンゲージメント行動の 先行要因を顧客ベース、企業ベース、状況ベースの三つに分類し、それぞれの要素について検討し ている。顧客ベースの要素として挙げている①顧客満足、②信頼/コミットメント、③アイデンティ ティ、④消費目的、⑤資源、⑥知覚コスト/便益については、消費者がブランド・コミュニティに 参加する先行要因になると考えられる。
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図表5-3 顧客エンゲージメント行動の概念モデル
(出所)van Doorn et al. (2010)をもとに筆者作成
(2) 実務的観点からのブランド・コミュニティ先行研究
Fuggetta (2012)は、消費者は企業が発信する情報を信用しなくなり、家族・友人による口コミ情 報の影響力が高くなってきたと述べている。このような背景の下、企業に対して強力なロイヤルティ を持ち、それを口コミで伝える人をアンバサダー(原書ではadvocates )と定義し、アンバサダーの 活用が重要であることを主張している。Fuggetta (2012)はアンバサダーをブランド・コミュニティ に引き込み、アンバサダーを活用した様々なマーケティング・プログラムの成功事例を提示してい る。アンバサダー・プログラム事例をアンバサダーに期待する役割で分類し、整理した表を以下に 示す(図表5-4)。
Fuggetta (2012)では、アンバサダー発見のプロセスにおいて、ベイン・アンド・カンパニーが開 発した顧客ロイヤルティを示す指標であるNPS(Net Promoter Score)を利用している。NPSでは、
「友人に(会社/商品)を強く薦めようと思いますか?」という問いに対し、「0:薦めない」~「10:
強く薦める」の11段階で評価を行い、9もしくは10と回答した顧客をプロモーター、0~6と回答 した顧客を批判者と定義する。NPSはプロモーターの構成比から批判者の構成比を減算して算出す
る(Fuggetta 2012)。アンバサダー発見のプロセスでNPSを利用するということは、高い顧客ロイ
ヤルティを持つ消費者はアンバサダーになりやすく、ブランド・コミュニティにも参加しやすいた めと解釈できる。高い顧客ロイヤルティを持つ消費者にブランド・コミュニティというインフラを 提供すると、図表5-4に示すような企業にとってプラスになる行動が促進されることを、実務的な 視点から明らかにしている。
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図表5-4 アンバサダーに期待する役割とアンバサダー・プログラム事例
(出所)Fuggetta (2012)をもとに筆者作成
(3) ブランド・コミュニティへの参加、活性化に関する先行研究
宮澤 (2012a,b)にあるように、Muniz and O'Guinn (2001)がブランド・コミュニティの分析結果 を提示して以降、ブランド・コミュニティについては、これまで様々な研究が行われてきた (Srinivasan et al. 2002; Dholakia et al. 2004; Algesheimer et al. 2005; 金 森 2007;
Stokburge-Sauer 2010; Sung et al. 2010; Brodie et al. 2013; 羽藤 2016a,b)。まず先行研究の蓄 積があるブランド・コミュニティ活性化の研究を概観していく。Algesheimer et al. (2005)は、ヨー ロッパのカークラブのブランド・コミュニティを対象に、ブランド・リレーションシップ品質を起 点として、ブランド・コミュニティ同一性が重要な媒介変数となり、ブランド・コミュニティに対 するロイヤルな行動を促進させるモデルを検証している。この研究ではブランド知識を調整変数と して扱い、ブランド知識が豊富な人は通常の人と比べて、以下の影響力が強くなる分析結果を提示 している。
ブランド・リレーションシップ品質からブランド・コミュニティ同一性へのプラスの影響
ブランド・コミュニティ同一性からコミュニティ・エンゲージメントへのプラスの影響
ブランド・コミュニティ同一性から規範的コミュニティ・プレッシャーへのマイナスの影 響
アンバサダーに
期待する役割 概要
●口コミ依頼
●体験談のシェア依頼
●購買検討者からの質問への回答依頼
●購買サイトにアンバサダー体験談を掲載
●プロモーション情報のシェア依頼
●既存顧客からの質問への回答(ヘルプデスク)依頼
●あまり使われていない機能・サービスの使い方をア ンバサダーへ口コミ依頼
●関連製品・サービス、上位製品・サービスの口コミ依 頼
●プロモーション情報のシェア依頼
●アンバサダーへ製品・サービスに対するニーズ、改 善点の洗い出し依頼
●アンバサダーへ競合企業動向についての情報提供 依頼
●アンバサダーの口コミ・体験談をテレビCM放映
●アンバサダーの口コミ・体験談をホームページで紹 介
●新製品・サービスの試作品意見交換会へアンバサ ダーを招待
●アンバサダーに発売前に新製品・サービスの購入 機会を提供し、口コミ・体験談シェア依頼
●アンバサダー表彰
●ファンミーティングの招待
●CEOからのメール、CEOとの写真撮影
●企業の製品開発会議、経営会議への参加
●新製品・サービスの事前購入機会の提供
●アンバサダー限定の情報(レア動画、発表前の新製 品情報、舞台裏情報など)の提供
アンバサダー・プログラム事例 アンバサダーの口コミによる新規顧
客の獲得および購買検討者への購 買促進
アンバサダーの質問回答やおススメ による既存顧客への現製品・サービ スの利用促進・満足度向上
アンバサダーからの製品・サービスに 対するニーズや競合動向などの情報 を収集
アンバサダーの口コミ、体験談をブラ ンドメッセージとして活用
アンバサダーの声を参考にした新製 品・サービスの開発およびメッセージ 開発
アンバサダーに特別感を感じてもらう ためのアンバサダー限定プログラム の実施
新規顧客開拓・購買促 進
既存顧客維持
マーケット情報収集
ブランドメッセージ活用
新製品・サービス開発
アンバサダー自身のロ イヤルティ向上
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抵抗感からメンバー継続意思へのマイナスの影響
抵抗感からブランド・ロイヤルティ意思へのマイナスの影響
金森 (2007)は、ネットコミュニティでの発言の有無を目的変数、①ネットコミュニティの利用能 力、②性格(外向性、協調性)、③利用目的(即自的、創造的)、④コミュニティ知覚品質(手段性、即 自性、創造性)を説明変数として、二項ロジスティック回帰分析を行っている。その結果、利用能力、
性格(協調性)、利用目的(即自的、創造的)、コミュニティ知覚品質(手段性、即自性)が有意になるこ とを明らかにしている。金森 (2013)は、ネット上のブランド経験頻度を出発点として、DART 充 実度71、ブランド経験の強度、ブランドへの共感度の順に影響を与え、最後に顧客ロイヤルティに つながるモデルを実証分析している。いずれの研究もブランド・コミュニティへの参加や活動が顧 客ロイヤルティを形成する前段階として取り扱われている。本章では顧客は、顧客ロイヤルティが 育成されて、ブランド・コミュニティに参加し、ブランド・コミュニティでの活動が活発になると、
さらに顧客ロイヤルティが高まるという構造を想定しているため、金森(2007, 2013)の考えとは若 干異なる。
韓国のSNS上の333の仮想ブランド・コミュニティについて検証したSung et al. (2010)は、目 的変数として①コミュニティ・コミットメント、②コミュニティ満足、③将来意図を挙げ、説明変 数として①人間関係効用、②ブランド好感、③娯楽探索、④情報探索、⑤インセンティブ探索、⑥ 利便性探索を用い、重回帰分析を行っている。分析に際し、企業が作ったコミュニティをMGBC (Marketer-generated brand communities)、 消 費 者 が 作 っ た コ ミ ュ ニ テ ィ を CGBC
(Consumer-generated brand communities)として分割し、両者を分析してその特徴の違いを論じ
ている。分析の結果、ブランド好感のみが全ての重回帰分析で有意となり、影響力も他の説明変数 より大きいことを明らかにしている。ブランド好感については、そのブランド・コミュニティを利 用する理由として、①このブランドが好きだから、②このブランドを愛しているから、③このブラ ンドは私にとって非常に重要だから、④このブランドに興味があるから、⑤ブランドの使用につい て学ぶため、⑥ブランドについて学ぶため、の六項目を用いて測定している。これらの項目は内容 的には感情的ロイヤルティと同等であると考える。よって本研究では、ブランド好感を感情的ロイ ヤルティと捉え、ブランド・コミュニティ参加に影響を与える要素として検討する。
ここまではブランド・コミュニティ活性化の研究を中心にレビューしてきたが、ブランド・コミュ ニティ参加の研究についてもレビューを行う。特定のブランド・コミュニティへの参加ではないが、
消費者コミュニティへの参加の研究としてDholakia et al. (2004)が挙げられる。Dholakia et al.
(2004)は、仮想コミュニティ参加の社会的影響モデルを実証分析している。ここでは、仮説モデル
を大きく三つのフェーズに分け、価値知覚が社会的影響変数に影響を与え、社会的影響変数が意思 決定と参加に影響を与える構造を仮定している (図表5-5)。知覚価値の構成要素として、①目的価 値、②自己発見価値、③人間関係維持、④社会的強化価値、⑤エンターテインメント価値を挙げて いる。また、調査対象となる仮想コミュニティを「ネットワークベース仮想コミュニティ」と「小 グループベース仮想コミュニティ」の二つにわけ、ネットワークベース仮想コミュニティは①eメー ルリスト、②ウェブサイト掲示板、③Usenetニュースグループから、小グループベース仮想コミュ ニティは④リアルタイム・オンライン・チャット、⑤ウェブベース・チャットルーム、⑥マルチプ レーヤー仮想ゲーム、⑦MUD(オンラインゲーム)から成ると仮定している。分析の結果、小グルー プベース仮想コミュニティの方がネットワークベース仮想コミュニティより、目的価値が低く、人
71 DARTとはDialogue(対話)、Access(利用)、Risk assessment(リスク評価)、Transparency(透明性)の頭文字をとったものであり、
消費者が価値創造のプロセスに参加する際の参加しやすさの条件として金森 (2013)にて説明されている。