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1 血友病患者の病態と症状

⑴ 病態

  先天性凝固因子欠乏症である血友病には、第 VIII 因子欠乏の血友病 A と、第 IX 因子欠乏 の血友病 B とがある。検査では APTT の延長が特徴であり、出血時間、血小板数、PT は正 常である。ただし、軽症血友病の場合には、APTT が正常のこともあるため注意を要する。

⑵ 遺伝形式

  X 染色体連鎖伴性劣性遺伝であり、原則として男性にのみ発症し、女性は保因者になりうる。

血友病男性と血友病保因者女性が結婚すると、1/4 の確率でホモ接合体の女性血友病が生まれ、

国内で 2015 年までに 51 例の報告がみられるが、全血友病患者の 1% 以下である。また、遺伝 形式とは無関係に単独発症する孤発例(遺伝子の突然変異)が、血友病全体の約 30% を占め るといわれる。血友病患者は約 10,000 人の出生に 1 人生まれ、世界中の患者数は約 40 万人と 推定される。2015 年の国内での実態調査では、血友病 A あるいは血友病 B の生存患者数は、

それぞれ 4,986 人、1,064 人である。

⑶ 保因者

 保因者は「確定保因者」と「推定保因者」に分類される。保因者かどうかを知るためには、家 族や親戚の中に血友病の患者がいるかどうか、家系図で確認することが重要である。保因者診 断(血液凝固検査、遺伝子検査など)を受ける前に、その目的(出産の準備、自身の止血管理、

男児出生児の安全確保など)を理解し、自由意志で決定する。

⑷ 重症度

  血友病の重症度は凝固因子欠乏レベルによって分類され、正常人の活性と比較した凝固因子 活性の低下程度により重症度を分類している。近年、血漿 1mL 中に含まれる凝固因子活性を 1国際単位(IU)と定義し、1 IU/mL の濃度の凝固因子活性が従来の 100% に相当する。下表 に示すように、血友病における出血症状の重症度は、欠乏している凝固因子のレベルと通常は 良く相関する。

重症度 重 症 中等症 軽 症

凝固因子 レベル

凝固活性が 1%未満 0.01 IU/mL 未満

1 ~ 5%

0.01 ~ 0.05 IU/mL

5%~ 40%

0.05 ~ 0.40 IU /mL

出血症状 自然出血、特に関節・

筋肉内出血

時に自然出血、外傷や 手術で異常出血

大きな外傷や手術で異 常出血

血友病患者の診療

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⑸ 出血症状

  特徴的な出血症状は関節内出血であり、繰り返す出血による関節の硬直変形(血友病性関節 症)を約 80% の患者に見る。その他に頭蓋内出血、筋肉内出血、血尿、外傷性出血などが重 要である。これらの臨床症状は血友病 A と B に共通である。

28 HIV 感染症の臨床経過

出 血 部 位 目標とする凝固活性値

筋肉内、鼻出血、軽度の関節内出血 10 ~ 20%

血尿、消化管出血 30 ~ 50%

大手術、頭蓋内出血、交通事故、抜歯 70 ~ 100%

2 治療:欠乏した凝固因子の補充療法

⑴ 標準的投与量

 血友病 A の場合:第 VIII 因子製剤を、1 回 20~50 単位 /㎏投与する。血友病 B の場合:第 IX 因子製剤を、血漿由来製剤なら 1 回 20~50 単位 /㎏、遺伝子組み換え製剤なら 1 回 40~80 単位 /㎏投与する。商業ベースで作られた凝固因子製剤は、遺伝子組み換え型製剤はもちろん、

血漿由来製剤も全て、その製造工程に人および動物由来の蛋白質が用いられてないか、ウイル ス不活化工程を経ている。

⑵ 定期補充療法

 重症血友病では定期補充療法を始めることが推奨されている。関節内出血を起こさないよう に、血友病 A なら週 3 回または 2 日に 1 回、血友病 B なら週 2 回または 3 日に 1 回投与を継 続する。患者が年齢を重ねて運動量が減少すれば、活動状況に合わせて週 1~2 回の場合もある。

患者の症状やライフスタイルの変化によって、定期補充療法のレジメも変化させる。足関節・

膝関節など加重関節の出血では、凝固因子活性を高めに維持した方がよい。最近では、青年期 以降の患者に対する定期補充療法の導入で、関節症の進行や生涯にわたる QOL の向上を示唆 するエビデンスが報告されている。「出血や疼痛が出てから止血する治療」から「出血や関節 障害の悪化を予防する補充」に変わってきた。

⑶ 手術などの緊急時の補充方法、補充療法の目安

 通常患者体重 1㎏あたり凝固因子 1 単位を輸注した場合、約 1~2 の上昇が得られる。製剤 の血中半滅期は第 VIII 因子製剤で約 12 時間、第 IX 製剤では約 24 時間である。従って大出血・

大手術の場合は、血友病 A では初回に第 VIII 因子製剤を 40~50 単位 /㎏投与し、以後 8 時 間ごとに 1/2 量の 25 単位 /㎏を投与しながら欠乏している凝固因子活性を 3 日間は 50%以上 に維持する。血友病 B では初回に第 IX 因子製剤を 75 単位 /㎏投与し、以後 12 時間ごとに 40 単位 /㎏を投与する。

⑷ 半減期延長型血液凝固因子製剤

 2014 年 9 月と 2016 年 11 月に半減期延長型第 IX 因子製剤、2015 年 3 月と 2016 年 6 月に半 減期延長型第 VIII 因子製剤が本邦で保険適応承認販売となった。これらの半減期延長型血液 凝固因子製剤は、①遺伝子組み換え血液凝固因子とヒト免疫グロブリン G1(IgG1)の Fc 領 域が共有結合した構造を持ち、IgG1 の Fc 領域が neonatal Fc 受容体との作用を介して、内皮 細胞又はマクロファージでのリソゾーム分解を受けずに循環血液中に再循環されることを利用 して、凝固因子の血漿中消失半減期を延長したものや、②血液凝固因子とアルブミンを融合す ることで、アルブミンの再循環経路を利用して血中半減期を延長したものや、③血液凝固因子 と分枝状 PEG を共有結合させ、ペグ化による LRP-1 との結合阻害により半減期を延長したも のである。従来型から本製剤に切り替えることにより、定期補充間隔の延長や、トラフレベル の上昇により定期投与時の出血回数低下が期待される。現在、長期的副作用や費用対効果など も評価して、どのような患者層に導入されるべきか検討されている。

血友病患者の診療

HIV 感染症の臨床経過 29

3 血液凝固因子製剤の副作用

⑴ インヒビター(抗体):製剤の補充療法中に出血症状の十分な改善が得られない場合には、

インヒビターの存在を疑い、凝固因子に対する自己抗体を検査する必要がある。重症例で補充 療法を繰り返している患者の 5~10% にインヒビターが発生する。インヒビターの発生した場 合には、バイパス療法の適応を判断するため、血液専門医に紹介のこと。

⑵ 血液凝固因子製剤関連感染症:HIV に感染している血友病患者の 99%は HCV に重複感染 しているため、HIV 陽性血友病患者の場合には、必ず HCV の検査を要する。HIV・HCV 重 複感染者では HCV 単独感染者に比較して肝炎の進行が早いとする報告もあり、HCV 陽性の 場合には【消化器内科肝臓グループ】へ紹介し、その病態を把握し治療の有無について検討す る(HIV 感染症と肝炎の章を参照)。

⑸ 遺伝子治療

 2011 年にイギリスから血友病 B の遺伝子治療成績が報告され、2014 年にはその後 3 年間の 長期フォローアップ成績も発表された。この臨床研究は、AAV8 型ベクターにより血液凝固 第 IX 因子の遺伝子を肝臓の細胞内に送り込んで、血液中の凝固因子レベルを上昇させるやり 方である。重症の血友病 B 患者 10 人を 3 年間経過観察しているが、全員で長期間第 IX 因子 活性の上昇を維持し、出血回数も減少した。現時点までに特段の晩期合併症を認めていないが、

第 IX 因子発現肝細胞に対する細胞障害性 T 細胞の出現や抗 AAV8 抗体の存在などから、短 期間の免疫抑制療法の必要性が検討されている。また、血友病 A に対する遺伝子治療も臨床 研究が始まっており、現在治験進行中の血友病 A に対する第 VIII 因子代替バイスペシフィッ ク抗体皮下注射製剤と共に、新規治療法として今後の発展が期待される。

4 予防接種

 出血傾向を持つ患者も予防接種を受けるべきである。筋肉内注射でなく、皮下注射で受けるべ きである。CD4 数が低く免疫能の低下している HIV 感染者は、生ワクチンは避けるべきである。

また、HIV 感染者は、肺炎球菌ワクチンや毎年のインフルエンザワクチンを受ける必要がある。

5 包括医療、整形外科血友病関節外来の利用

 血液専門医、小児科医、整形外科医、リハビリテーション医、看護師、理学療法士、臨床心理士、

ケースワーカー、カウンセラーなどとの協力で、医療チームとしての包括医療が必要である。特 に血友病性関節症、関節拘縮、血友病性偽腫瘍に関する診療は、整形外科医との連携により、よ り専門的観点からの診療が可能である。最近、超音波検査による血友病性関節症(滑膜炎や関節 面の骨軟骨損傷など)の早期検出が進歩し、従来の X 線撮影や MRI に加えて、有用な検査手技 の一つとなりつつある。

6 医療福祉関連の利用について

血液製剤により HIV に感染し、健康被害を受けた方の救済等については、HIV 相談室に資料が あるので、相談室の MSW に連絡し(内線 7025)、適切な救済法の検討が可能である。訪問看護

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