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小児の HIV 感染症の特徴

小児における HIV 感染症の診断

 日本では、12 歳以下の小児が、母子感染以外の感染経路で HIV に感染する可能性は極めてま れである。この章では、主に母子感染により HIV に感染した小児の診療を中心に解説する。

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 成人における HIV 感染症の診断は、はじめにスクリーニング検査を行い、これが陽性の場合 に確認検査としてウェスタンブロット法と PCR 検査を行う。しかし、母子感染では、母体から 児に HIV 抗体が移行し、スクリーニング検査とウェスタンブロット法が偽陽性となるため、初 めから PCR 検査を行う。PCR 検査には血漿中の HIV RNA を測定する RNA PCR 法と、細胞中 に組み込まれた DNA を検査する HIV-DNA PCR 法がある。米国ガイドライン1では、抗レトロ ウィルス薬(ART)の影響を受けない後者をより強く推奨しているが、日本国内では DNA 検 査を行える施設が限られているため、HIV-RNA 検査が行われる。

 HIV 感染妊婦より出生した児の検査スケジュールを 表 1 に示す。生後 2~3 週、生後 1~2 か 月(AZT 終了 2~4 週間後が望ましい)、生後 4~6 か月に HIV-RNA 量を測定し、2 回以上陰性 であれば、HIV 母子感染はなかったと確定診断される。これらの検査で陽性が出た場合は、で きるだけ速やかに再検し、2 回連続で陽性ならば感染が確定する。

3 治療開始時期

 最近の成人ガイドラインでは原則的に全例治療であり、小児でもエビデンスレベルの違いは あるが全例治療が推奨されている。また従来、小児の免疫機能は CD4 絶対数ではなく CD4% が 指標として用いられてきたが、最近では絶対数を用いて判定するようになり、年齢別リスク判 定も毎年のように変更されている。

表 1 HIV 感染妊婦から出生した児の PCR 検査時期(米 DHHS ガイドライン1

検査時期 検査方法 意義

生後 48 時間以内 PCR(注1) 子宮内感染の判定 生後 14 ~ 21 日 PCR 産道感染の 93%が陽性 生後 1 ~ 2 か月 PCR 産道感染のほぼ 100%が陽性 生後 4 ~ 6 か月 PCR 感染の有無の確定(注 2)

注1)ガイドライン上必須ではない。

注 2)母乳栄養児では必須だが、日本では診断意義は低く、3 か月健診で行うことが多い。

小児の HIV 感染症

HIV 感染症の臨床経過小児の HIV 感染症 139

4 抗 HIV 療法

 小児においても成人と同様に 3 剤以上の多剤併用療法を行う。周産期に母体と児に感染予防薬と して AZT 単剤投与が行われているケースでは、感染判明後すぐに多剤併用療法に切り替える。ま た、治療開始前には必ず耐性検査を提出し、その結果を参考にする。治療は成人同様、key drug と backbone を組み合わせた 3 剤治療を行う。小児では長らく新薬の導入が遅れていたが、近年では小 児用薬剤も増え、成人の推奨レジメンに近い組み合わせが推奨されるようになってきた。

表 3 小児の抗 HIV 療法(米 DHHS ガイドライン:2016 年 3 月 1 日2) 表 2 小児の抗 HIV 療法開始時期(米 DHHS ガイドライン 2016 年 3 月 1 日2

年齢 状 況 推 奨

1 歳未満 CD4、ウィルス量に関係なく すぐに治療(All、6 か月未満は AI)

1 ~ 6 歳未満

CDC-stage 3 の日和見疾患、

免疫低下、CD4 < 500 すぐに治療(AI)

軽度の HIV 関連症状、

CD4 500 ~ 999 治療(All)

CD4 < 1000 で無症状 治療(BI)

6 歳以上

CDC-stage 3 の日和見疾患、

免疫低下、CD4 < 200 すぐに治療(AI)

軽度の HIV 関連症状、

CD4 200 ~ 499 治療(All)

CD4 < 500 で無症状 治療(BI)

年齢 第1選択 第 2 選択

バックボーン キードラッグ バックボーン キードラッグ 14 日~ 3か月

AZT +(3TC or FTC) LPV/r ddl + 3TC

AZT + ddl NVP

RAL( 生 後 4 週 間 以 上で 3㎏以上なら)

3か月~ 3 歳

AZT +(3TC or FTC)

ABC +(3TC or FTC) LPV/r

RAL(2 歳~) AZT + ABC NVP

RAL(体重 3㎏以上な ら 2 歳未満でも)

ATV/r( 体 重 10 ㎏ 以 上なら 3 歳未満で)

3 歳~ 12 歳

AZT +(3TC or FTC)

ABC +(3TC or FTC) RAL

DRV/r(BID)、

ATV/r LPV/r EFV

AZT + ABC

記載なし

12 歳~Tanner4

ABC +(3TC or FTC)

TAF +(3TC or FTC) ATV/r

DRV/r(QD)

DTGELV/cobi

AZT +(3TC or FTC) RPV EFVRAL

Tanner4 以上 成人と同じ 成人と同じ 記載なし 記載なし

140 HIV 感染症の臨床経過

表 4 主な日和見感染症の一次予防薬と開始基準(米国国立衛生局ガイドライン 20153

疾 患 第1選択 第2選択 一次予防対象

サイトメガロ ウィルス

16歳以上:

バルガンシクロビル  900㎎1日1回

4~16歳:

バルガンシクロビル液 剤:体表面積×7×CrCl

(mL/min/1.73㎡)1日1回

(最大900㎎/日)

なし CMV抗体陽性か

つCD4低値

(6歳以上で CD4<50、

6歳未満:

CD4<5%)

播種性MAC 症

クラリスロマイシン 7.5㎎/㎏

(最大500㎎)

1日2回アジスロマイシン 20㎎/㎏

(最大1200㎎)週1回

アジスロマイシン

(最大250㎎)1日1回5㎎/㎏

5歳以上:リファブチン 300㎎1日1回

1歳未満:

CD4<750 1~2歳:

CD4<500 2~6歳:

CD4<75 6歳以上:

CD4<50

(曝露後予防)結核

〈感染源の菌が薬剤感受 性あり〉:

イソニアジド10~15㎎/

㎏(最大300㎎/day)×9

〈感染源の菌が薬剤耐か月 性〉:専門家に相談

イソニアジド20~30㎎/㎏(最大 900㎎/day)週2回×9か月 イソニアジド10~15㎎/㎏(最大 300㎎/day)+リファンピシン10~

20㎎/㎏(最大600㎎/day)3~4か月 リファンピシン10~20㎎/㎏(最大 600㎎/day)4~6か月

ツベルクリン5

㎜もしくはIGRA 陽性結核発症者と接 触曝露前予防や治 療後二次予防は 推奨されない。

ニューモシスチス 肺炎

ST合剤:トリメトプリ ムとして2.5~5㎎/㎏1 日2回(最大320㎎)を週 のうち連続した3日もし くは2日間。

トリメトプリムとして5

~10㎎/㎏を1日1回、毎 日投与。

〈タプソン〉

生後1か月以上:2㎎/㎏(最大100

㎎)1日1回もしくは4㎎/㎏(最大 200㎎)週1回。

〈アトバコン〉

生後1~3か月の児と2~12歳の児:

30~40㎎/㎏1日1回

生後4~24か月:45㎎/㎏1日1回 13歳以上:1500㎎1日1回

〈ペンタミジン吸入〉

5歳以上:300㎎月1回。

生後4~6週間か ら12か月までの 全例。1~6歳:CD4

<500もしくは<15%

6~12歳:CD4

<200もしくは<15%

トキソプラズマ症

ST合剤:150/750㎎/㎡

1日1回 〈生後1か月未満〉

ダプソン2㎎/㎏ or 15㎎/㎡(最大 25㎎)1日1回+ピリメサミン1㎎/㎏(最 大25㎎)1日1回+ロイコボリン5㎎

〈生後1~3か月および2歳以上〉3日ごと アトバコン30㎎/㎏1日1回。

〈生後4~24か月〉

アトバコン45㎎/㎏1日1回±(ピリ メサリン1㎎/㎏もしくは15㎎/㎡

(最大25㎎)1日1回+ロイコボリン 5㎎3日ごと)

IgG抗体陽性 かつ6歳未満:

CD4<15%:

6歳以上:

CD4<100

5 日和見感染症予防薬

 小児 HIV 感染者は日和見感染のリスクが高いので、成人より積極的な一次予防(発症予防)

が推奨されている。表 4 には、代表的な疾患の一次予防方法と基準を示した。紙面の関係上、一 次予防中止基準・再開基準、二次予防(再発予防)については割愛する。

小児の HIV 感染症

HIV 感染症の臨床経過 141

6 予防接種

 米国 CDC のガイドラインでは、ワクチン接種は様々な感染症の発症または重症化予防に有効 であるため、HIV 感染児に対する積極的な接種が勧められている。不活化ワクチンは原則すべ て推奨され、特に肺炎球菌や Hib ワクチンは重症化予防の観点から強く推奨される。一方、生 ワクチンについては、BCG が全例禁忌、水痘や麻疹・風疹・おたふくかぜは CD4>15% 以上の 児に推奨される。表 5 には、日本の予防接種法施行令に明記されている定期接種ワクチンに関す る情報とその他主なワクチンの HIV 感染児における位置づけを表記した。実際に予防接種のス ケジュールを決定する際には、専門家と相談しながら進める。

表 5 HIV 感染児と主な予防接種3

小児定期接種

DPT 非感染児と同様のスケジュールで接種する。

BCG 接種禁忌。

ポリオ 不活化ポリオワクチンを接種。生ワクチンは禁忌。

麻疹 CD4 > 15%の児では推奨される。1 歳以降。

風疹 CD4 > 15%の児では推奨される。1 歳以降。

日本脳炎 非感染児と同様のスケジュールで接種する。

その他のワクチン

Hib 接種が推奨される。

肺炎球菌 接種が推奨される。

インフルエンザ 毎年接種が推奨される。生後 6 か月以降。

水痘 CD4 > 15%の児では推奨される。1 歳以降。

おたふくかぜ CD4 > 15%の児では推奨される。1 歳以降。

B 型肝炎 HIV 非感染児と同様、アメリカでは全員に新生児期から接種を開始。

A型肝炎 16 歳以上で、流行地域へ渡航する際には接種する。

ヒトパピローマ

ウィルス 10 歳以上では接種が推奨される。

※定期接種ワクチンについては、予防接種法施行令で定められたものを記載。その他の予防接種に関しては、感 染症情報センターが作成した予防接種スケジュールを参考にした。

小児の HIV 感染症

142 HIV 感染症の臨床経過小児の HIV 感染症

■参考文献■

1 Department of Health and Human Services(HHS) Panel on Treatment of HIV-Infected Pregnant Women and Prevention of Perinatal Transmission. Recommendations for Use of Antiretroviral Drugs in Pregnant HIV-1-Infected Women for Maternal Health and Interventions to Reduce Perinatal HIV Transmission in the United States. August 6, 2015, available at http://aidsinfo.nih.gov/guidelines

2 Department of Health and Human Services(HHS) Panel on Antiretroviral Therapy and Medical Management of HIV-Infected Children. Guidelines for the Use of Antiretroviral Agents in Pediatric HIV Infection. March 1, 2016, available at http://aidsinfo.nih.gov/

guidelines

3 National Institutes of Health, Centers for Disease Control and Prevention, the HIV medicine association of the infectious diseases society of America, the Pediatric infectious diseases society, and the American academy of pediatrics. Guidelines for the Prevention and Treatment of Opportunistic Infections among HIV-Exposed and HIV-Infected Children. June 8, 2015, available at http://aidsinfo.nih.gov/guidelines

(出典:HIV 感染症とその合併症 診断と治療ハンドブック ver.3.1 小児の HIV 感染症)

(感染制御部:石黒 信久 2017.08)

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