第 4 章 英語音声・音韻習得
4.2 音声調査の結果と分析
4.2.3. 英文におけるイントネーション習得の状況
リズムとはあるパターンの規則的な繰り返しをいう。ノリのいい英語を聞いている と、心地よい波のうねりのようなリズムがある。一定のパターンの繰り返しが「波の うねりリズム」を作っている。日本語にもリズムがあるが、英語のリズムとは大分違 う。日本語は機関銃を連射しているように聞こえる「機関銃リズム」である。英語と 日本語のリズムでは繰り返される基本単位が違う。ふつう英語ではアクセントのある 音節を先頭にしていくつもの音節が後ろにつき1つの単位を作る。フットの初めの音 節 (S) がビートになり、規則的にSw を繰り返し心地よいリズムを作る。このリズム を強勢リズム と呼ぶ。
英語ではアクセントとイントネーションが同時に起きる、不可分なものである。英 語の発話も日本語と同様、イントネーション句に区切って発音される。1 つのイント ネーション句の中には複数の第1アクセントがあるが、その中で最後に現れるものが そのイントネーション句の中で最も卓立している(強い)ように感じられるため、主 アクセントとみなされる。一般にこれを音調核と呼ぶ。
文アクセントは、単語が文中で受ける強いアクセントのことである。英語では、文 中の単語は全て同じアクセントを受けるのではなくて、ある語は強いアクセントを受 け、ある語はアクセントを受けない。これは英語の特徴である。
英語のイントネーション句の内部構造は、核音調の他、前に頭部、後ろに尾部があ る。この核音調こそが英語のイントネーションの中核である。各音調の用法として、
①下降調、②上昇調、 ③下降上昇調がある、 ④平坦調がある。(牧野武彦:
2006,136-139)
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「行く」という会話を上がり調子で言うか下がり調子で言うかで、同じ文でも一方 は疑問文となり、他方は断定となる。この声の上げ下げを使った発話全体の音の流れ がイントネーションである。上昇調で言えば相手に尋ねる文になり、下降調で言えば 自分の主張を伝えることになる。平叙文は下降調をとりやすいが、それは自分の意見 に自信を持って伝えるときに使う事が多いからであり、疑問文は上昇調になることが 多いが、自分の見解を抑えて相手に意見を求めることが多いためである。また、例え ば、「あの学校はいい学校なんですがね…(問題が無いわけではないのです)」といっ た含みのある言い方は、”It’s a good school.” のschoolのところで下降上昇調のちょ っとひねりを加えたイントネーションが対応する。(川越いつえ:1999,193-194)
以上をふまえ、児童の英文発話時のイントネーションに関する実態調査とその分析 をする。児童が学習するイントネーションは、平叙文の下降調と疑問文の上昇調が主 である。次の音声グラフは、ALTの時間割の言い方である。
ALTの音声は、-Tues-, -I-, -stud-, -arts-,-crafts-, -and-, -nese- にアクセントがあり、
アクセントの後は音域の下限までピッチが下がっている。強い文アクセントがほぼ等 しい時間的な間隔で繰り返されている。アクセントは強く発音され、そのピッチは高 く、音節は長く発話されており、音域の幅は200ヘルツほどある。強アクセントの位 置を中心に波のうねりのようなリズムであるイントネーションが現れており、平叙文 w S w S w w S w S w S w S w S w On Tuesday, I study social studies, arts and crafts and Japanese.
図4-106 ALT
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なので最後のアクセントの核から下降調になっている。
31YY児は、音域の幅は80ヘルツ程であるが、-Thurs-, -I-, -arts-, -and-, -sci-,-and-, -Japa- にアクセントを置く。-arts and crafts- のアクセントの間違いや、-Japanese- の語アクセントの間違いはあるものの、文アクセントについては、強く大きくなって いる。一応強勢アクセントに留意して概ね等時性のリズムになりつつある。考えなが ら発話しているが、強勢アクセントがもっと強く発話できれば、英語らしいリズムと イントネーションを表す音声になると考える。またイントネーションの観点からみる と最後の主アクセントの後の音節は、ピッチの高さも音域の下限まで下がって平叙文 であることを示している。児童にとって英文を考えながら発話すること自体簡単な事 ではなく、イントネーションまで考慮して発話できる段階には至ってないのが実態で ある。
“Thursday, I study arts and crafts, science and Japanese.
S w S w S S S w S w S S w
図4-107 31YY
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30YM児の音声は、-Japanese- の語アクセントの位置が少し違うが、文全体で見る と、文アクセントのSwが分かり、英語の強勢リズムが多少感じられる。文アクセン トが少し弱いながらも波のうねりのようなイントネーションになっている。一日の時 間割の中で、3校時と4校時が理科のところを-science and science- と繰り返してい るが、最後の-science- が核音調となり尾部が下降調になっていて、平叙文の言い方が できている。
次は、”Do you like ~?” に応答する “I like ~” の例である。ALTの音声は、アクセ ントが明瞭でピッチの動きがよく分かる。文アクセントは-I-、-nan- , -Yes-, -do- , -I- ,
-like-, -dogs- である。その文アクセントは等時間隔性を保ち、Swの繰り返しで波の
うねりのようなイントネーションになっている。2人とも音域は約240Hzの幅で、ど ちらも下降調のイントネーションで話者の主張や断定を表している。
S S w S w S w S w S S w
“I study math, Japanese, science and science.
図4-108 30YM
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I like ba nan as.
図4-109 ALT 図4-110 ALT
Yes, I do. I like dogs.
図4-111 10KK S S S w
S S w S w S w S S w S w S w S w S S w S w
図4-112 30YM I like st raw be rries.
I like orange.
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10KK 児は、ゆっくり話す方で、-I-, -like-, の音節が長くピッチも高く発話されて いる。またorange は、語頭にアクセントが置かれていてピッチが下降調になり、明 らかに日本語の「オレンジ」とは違う英語音声に近い発話である。ここも、-like- と
-orange- の間で長い時間がかかっているが、10KK児が考えながら発話していたこと
が分かる。文全体としては、音域の幅は狭いが、アクセントにより強勢リズムが感じ られ、イントネーションの核は、-or- にあり、下降調で平叙文の断定を表していて適 切なイントネーションとなっている。
30YM児は、-I-, -strawberries- の第1アクセントの -straw- および第2アクセン トの -ber- にアクセントがついている。声の強さ大きさとピッチの高低でアクセント が分かり、それが強勢アクセントとなり音節のリズムが感じられる。声の上げ下げの 幅は狭いが、音調核の後ろは下降調で話者の断定を表していて適切なイントネーショ ンとなっている。
21NH 児は、-No-, (2 回目)-don’t- にアクセントを付けている。 -Eng- にもア クセントが必要であるが、文アクセントが明確でないので、英語の強勢リズムがあま り感じられない。ピッチ曲線から多少の音の上げ下げの動きがみられるが、英語音声 ではアクセントやリズムが明確でないとイントネーションは正しく感じられない。
28MY児も同じ英文を言っているが、1文目は、 -don’t- のアクセントが21NHよ りピッチが高く音節も少し長いので、アクセントが強く聞こえる。2 文目は、両者と も同じような音声である。この児童もアクセントやリズムが明確でないために、発話 全体の声の上げ下げの音の流れであるイントネーションが正しく感じられない。
図4-113 21NH No, I don’t. I don’t like English.
図4-114 28MY No, I don’t. I don’t like English.
S w w w S w w w S w S S w w w
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22HA児は、-Yes-, -I-, -do- をほぼ同じ強さと声の高さで発話している。-do- は語 尾故か、ピッチは下降調であるが、文アクセントのSwが無いので英語の強勢リズム が感じられない。2文目の-like-はアクセントがあり、英語が好きであると強調してい るようである。-Eng- は、ピッチはやや低いが強さがありアクセントになっている。
文全体で各語彙を同じようにアクセントを付けて発話し、強勢アクセントのリズムが 感じられない。ピッチの音域が狭く、音の上げ下げも少なく、イントネーションは正 しいとは感じられない。
次は、”When is your birthday?” に対する応答文、”My birthday is ~.” の児童の発 話文である。ALTの音声は、アクセントが明確で、-My- , -March-, -eighteen- にあ る。声域は140~300Hz の幅で、文中の声の上げ下げを示すイントネーションがピッ チの動きからみえる。児童が理解し易いように発音練習するためにゆっくりと発話し ているためか等時間隔性の強勢リズムにはなっていない。
図4-115 22HA Yes, I do. I like English.
S S S w S S S w
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My birth day May twenty six th.
図4-117 2AT S S w S S S S w
My birth day is March eighteenth.
S S w w S S w
図4-116 ALT
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2AT は be 動詞、is が脱落している。-birthday-は、語頭のアクセントと続く下降 音調で英語らしく聞こえる。-twenty-は、語アクセントが明確ではなく強勢リズムと いうよりは日本語の拍リズムのようである。また、-sixth-は、1 音節であるが、考え ながら解答しているためか語の途中で間があき2音節のように聞こえる。文全体の音 声グラフを見ると、1語1語丁寧に発話しているが、アクセントや等時間隔性強勢リ ズムは感じられない。イントネーションも適切であるとは感じられない点からも英語 らしい発音にはなっていない状況である。少し長い英文を自分で考えながら発話する ことはそれだけでも児童には難しいことであり、英語音声やイントネーションにまで 注意が及んでいないのが実態であると考える。
24HRは、2ATに比べて半分の時間で同様の内容の文を発話している。塾にも通っ て勉強しているが、英語が好きだということで、学習中に練習した問 “When is your birthday?” に対する “My birthday is August twentieth.” の応答の仕方を正確に記 憶し、淀みなく話していた。 -birthday-は語頭にアクセントがあり下降音調が続いて
いて、-twentieth-は第1音節にアクセントがあり、続く2音節にはアクセントがなく
て下降音調になっているところが英語音声らしく聞こえる所以である。