第 5 章 形態素習得
8.2. 小学校「外国語活動」におけるコミュニケーション ・・・・・・・・・・166
湯川笑子他著(2009:98-99)の先行研究では、「今後の小学校外国語活動は、言語・
文化理解や態度など情意面の育成に加えてコミュニケーション能力の土台の育成をね らいとすることが、今までよりも明確に示されている。ところが実際のところ、コミ ュニケーション能力を定義するのは難しく、それを測るための妥当性や信頼性のある スピーキングテストを構築するのもさらに難しい。」とある。
また、「幸い(あるいは残念なことに)、日本の小学生はまだ英語でそう多くのトピ ックについてさまざまなタスクがこなせるわけではないので、多くの種類のタスクを 課して長時間のテストをする必要はない。」としている。
そこで、児童のもつ非常に初歩的な英語コミュニケーション能力を引き出して、そ れがどの程度育っているかを測定するために、以下のような方法を考えた。
本研究では、児童が2人一組でペアとなり、予め児童が用意した話題や質問などを 適宜組み込みながら、ALTと3分間ほど楽しく対話するというタスクを設定し、希望 する児童のコミュニケーション能力の実態調査を行った。
8.2.1. 児童の英語コミュニケーション能力の実態調査
本章「コミュニケーション能力の習得」に関しては、北九州市立F小学校で調査を させて頂いた。調査1年目5年生時には、5年生2学級52名の児童の内、希望する
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児童 23 名がコミュニケーション能力調査に手を挙げてくれた。本調査に協力を依頼 すると、児童は大変興味をもってくれたようである。児童にとって貴重な昼休みに自 由時間(遊び)を潰してまで協力することを、学年の半数の児童が納得して参加して くれることになった。積極的に参加希望をしてくれたそうだ。中には、担任にとって 学力的に非常に心配な児童がいて、英語の準備や暗記など大丈夫だろうかと危惧して いたが、「ALT と会話してみたい」と意欲的に臨んでくれたようだ。結果的にも、他 の児童と何ら遜色のない会話をすることができた。自分の学力に拘わらず積極的に前 向きに取り組もうとする態度は、好印象であった。
1回目5年生時のALTは、カナダ出身で意欲的に熱心に指導する教師であった。子 どもが理解し易いようにジェスチュア―を多く取り入れ、児童に英語理解を求めてい た。全身で指導する姿に、児童も一生懸命考え理解しようと努めていた。
2回目6年生時のALTは、フィジー出身で児童には親しみやすい、きめ細かい配慮 ができる教師であった。児童に身近なスポーツや音楽、日常生活などの会話を提供し ていたので、児童も楽しく会話することができたようだ。
8.2.2. 児童のコミュニケーション能力の実態で測るもの
英語活動初期の児童にとって英語のコミュニケーション能力は決して高くはない。
しかし、湯川笑子他著(2009:101-102)にあるように「小学校外国語活動の導入 が決まって以来強調されてきたのは、もち合わせた英語および非言語コミュニケーシ ョン能力を駆使して、実際の英語使用の場で会話を成立させようとする態度と、その ための表現力や理解力である。」
児童にとって、ALTと1対1で英語を話すことは、非常に負担が大きく緊張するよ うである。そこで、本調査では、ALTと2人または3人の児童で助け合って英語で話 すコミュニケーションを成立させることで、児童が安心して会話に臨めるように配慮 した。また、準備した英語の質問や自分の考えだけでなく、それ以外のALTの質問や 話の内容を理解し、自分の考えを表現することができているか、非言語の表現方法と その効果などについても実態調査をする。
8.2.3. 調査実施方法
5年生時、6年生時の1月末前後に4月からのほぼ1年間で学習した英語を使って、
ALTと一緒に会話を楽しむ調査であることを周知しておく。コミュニケーション能力 の調査実施前に、児童に調査方法を説明し、事前にALTと話したいこと・聞きたいこ との内容を英語で話す準備をしておく。調査時は、使用する英語をできるだけ暗記し、
メモは持たないようにさせるが、どうしても必要な児童にはメモを持たせる。
○ 評価
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前項で説明した要領で、児童の各ペア(グループ)の、ALTとの会話を通したスピ ーキング調査を行った。児童の調査希望者は11組23名であった。各自の能力に合わ せ、一生懸命ALTとの会話に取り組んだ。各会話は3分程度としたが、5年生時は3 分から 4 分程度の会話であった。6 年生になるとメモを持参して話す内容が増え、3 分30秒程度から5分前後まで継続して会話していた。
評価に際しては、湯川笑子他 (2009:111-139) を参考に、児童の実態に基づき各評 価の観点を3段階に分けてみた。そこで、児童の英語コミュニケーション能力に関す る評価は、以下の観点で実施する。
3 たまに、語彙や統語の間違いがあり、必要な語彙を持ち合わせない事があるが、おお むね、適切な英語の語彙と統語を活用して話すことができた。
2 統語上の間違いがあり、必要な語彙を持ち合わせていない場面と、適切な統語と語彙 を持ち合わせている場面が半々であった。
1 統語上の間違った英語を使い、必要な語彙を殆どもちあわせていなかった。
3 ことば(英語)と、顔の表情やジェスチュア―などの非言語的表現のどちらか、もしく は両方で概ね自分の伝えたいことを表現していた。
2 ことば(英語)と、顔の表情やジェスチュア―などの非言語的表現のどちらか、もしく は両方で表現できる場面と表現できない場面が半々であった。
1 ことば(英語)と顔の表情やジェスチャーなどの非言語的表現のどちらにおいても、自 分の伝えたいことを表現できなかった、
3 概ね、アイ・コンタクトや自然な前傾姿勢をとるなどの行動から、会話に集中している ことが窺われた。
2 注意がそがれている場面と、アイ・コンタクトや自然な前傾姿勢をとるなどの行動から 会話に集中していることが窺われる場面が半々であった。
1 相手とアイ・コンタクトをとらず、自然な前傾姿勢をとるなどの行動もほとんど見られ ず、会話に集中しているようには思えなかった。
表8-1 ①語彙・統語(必要な語彙・統語を理解し、適切に発話できたか)
表8-2 ② 表現力(伝えたいことを、言語的、あるいは非言語的に伝えていたか)
表8-3 ③ 集中力(集中して相手の話を聞き、理解していたか)
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以上の4つの観点から、児童のALTとの会話を評価していく。
さらに、「小学校高学年児童がもつ英語コミュニケーション能力の特徴」湯川笑子他 (2009:111-139)として、以下の内容についても児童の実態を調査する。
なお、児童の実態から、会話統制力3に児童相互の影響も含めることとする。
調査は、2名の児童(1組だけは3名)とALTとの会話を英語で3分間程度行うも のである(3名の組は4分程度)。児童が突然の会話で困惑しないように、事前にALT と話したい内容を英語で準備しておく。
5年生時は、「自己紹介」という内容で、学習内容に合わせて好きな食べ物やスポー ツ、教科を中心に会話を進めている。事前に準備した英語を児童はできるだけ暗記し てメモを持たずに英会話に臨み、ALTの質問にも一生懸命に答えようと努力している。
3
概ね、会話における自分の役割(話し手か聞き手かなど)を認識し、適切な発話のタイ ミングをとらえ、不愉快な沈黙を避ける方向で、対話が淀みなくスムーズに運ぶように 貢献し、相手の興味に合わせてトピックを選んで会話に参加していた。
2
会話における自分の役割(発話者か聞き手かなど)を認識し、適切な発話のタイミング をとらえ、不愉快な沈黙を避ける方向で、対話が淀みなくスムーズに運ぶように貢献し、
相手の興味に合わせてトピックを選んで会話に参加していた場面と、それがうまくいか ない場面や、そうした働きかけを怠る場面が半々であった。
1 会話における自分の役割(発話者であるか、聞き手であるかなど)を認識し、対話が淀 みなくスムーズに運ぶような貢献はほとんどしなかった。
評価表中の
カテゴリー 内 容 略 名
表現力1 非言語的な表現力及び事物を駆使 Non-verbal 集中力1 前傾姿勢とアイ・コンタクト leaning & eye-c.
会話統制力1 すばやい反応 quick response 会話統制力2 つなぎ語(フィラー)の使用 fillers
会話統制力3 友 だ ち へ の 発 話 の 促 し 、 及 び 支 援
(scaffolding) scaffolding
会話統制力4 日本語へのコードスイッチング CS(code-switching)
表8-5 小学校高学年児童がもつ英語コミュニケーション能力の特徴
表8-4 ④ 会話統制力(会話における自分の役割《発話者か聞き手かなど》を認識し、
対話が淀みなくスムーズに運ぶように貢献していたか)