第 4 章 英語音声・音韻習得
4.2 音声調査の結果と分析
4.2.1. 語アクセントを伴う英語音声習得の状況
川越いつえ(1999:163-164)によると、アクセントとは、単語や句の中で、ほか よりも目立つ部分のことで、英語だけでなく、日本語にも、また、ほかの多くの言語 にもある。しかし、アクセントのある部分の目立たせ方は、言語によって違うし、ア クセントの位置も言語ごとに違う。
「マクドナルド」の発音を見ると、日本語と英語でアクセントのある位置と、目立 たせ方が違う。日本語では ma-ku-do-na-ru-do の1つ1つの拍の長さがほぼ同じで、
図4-3 3回目音声調査用紙
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アクセント核が「ナ」にあり、ナからルで急に高さが変わる。一方、英語では
MacDonald の–Don-の音節が圧倒的に強く、しかも長く高い。ナルドの部分は圧縮
されて、ドーの後に尻尾のようについているだけである。さらに英語では–Don-のと ころにビートがあり、強く、そして高く長く発音されるのが英語のアクセントである。
音声学・音韻論では日本語のアクセントを高さアクセント (pitch accent), 英語の アクセントを強さアクセント (stress accent 別名, 強勢)と呼んで区別する。日本 語のアクセントでは高さ以外には変化しない。
英語語彙の音声調査は、1回目では学習事項が少なくて十分にできなかった。また、
調査方法として、基本的な単語の絵を見せて英語で発音させた。正解が多かったのは、
sandwichと banana であった。これらの単語は3回目調査まで英語で発音させ、そ
の音声の変化の様子を分析してみた。
4.2.1.1. 3回の調査における英語音声習得の状況
2 音節の単語である[sǽndwıtʃ] は、[sǽnd] にアクセントがある。高さ以外は 変化しない高さアクセントである日本語と違い、英語は強さアクセントであるが、そ れは声を強く大きくするだけでなく、長くもなるし高くもなる。
表4-1 sandwichの3回の調査の評価表
日本語借用語になっているsandwichを、英語を意識しない児童は、普通の日本語 の様に「サンドイッチ」[saɴdoittʃi] と発音する。英語らしく発話しようとする児童 は、音節やアクセントに留意して声の大きさや高さ、強勢拍リズムで[sǽndwıtʃ]に 近い音声で発音する。5年生3学期に教材で出てくるので、児童は発音練習を何回か している。しかし、学習時期が2回目調査の前後なので、調査結果には反映されてい ない。1年後の3回目調査では、学習の効果が残っているのか、ALTによく似ている 児童が微増し、似ていない児童は減じている。
sandwich
1回目 2回目 3回目
ALTによく似ているもの 4 (12%) 5 (16%) 8 (27%) 両者の中間のもの 8 (24%) 13 (42%) 12 (40%) ALTに似ていないもの 21 (64%) 13 (42%) 10 (33%) 合 計 33 (100%) 31 (100%) 30 (100%) sandwich
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(sandwichの音声波形(上段)とピッチ曲線(下段))
ALTの音声と似ているか否かのグループ分けは、児童の英語音声とともに音声波形 とピッチ曲線から判別する。音声波形からは、声の強さや大きさ、英語音節か日本語 の拍リズムかが分かり、ピッチ曲線からは、声の高さとアクセントの位置が分かる。
両方がALTに似ていればそのグループに、音節ではなく日本語拍リズムで、アクセン トもよく分からない発音の児童はALTに似ていないグループに、その中間の一部音節 やアクセントが分かる児童は中間のグループに分別する。
8OR, 16THの児童2名の音声グラフと2名のALTの音声グラフの波形を比較する
と、児童は2音節で発音していてはじめの音節の方があとの音節よりも強く発音して いることが分かる。また、ピッチ曲線からは、第1音節にアクセントがあり、アクセ ントから後ろは下降調になっていることや声域の下限までの幅も100Hz程あり、声の 高さが分かる。語アクセントの状況からも、実際に音声を聞いても、英語音声に近い 発音と考える。
ALTの音声に似ているもの ALT
図4-4 米国人男性
図4-5 米国人女性
図4-6 8OR 図4-7 16TH
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26FY の児童は、[sǽnd] の音節の -d- の音が少し強く大きく聞こえる。[sǽnd]
にアクセントをつけて発音しており、ピッチの動きは英語音声に似ている。全体的に は英語音声のようにも聞こえるが、音節がはっきりしないことや、日本語の拍リズム が少し感じられたことで中間的な発音と捉えた。
19NS の発音は、26FYよりの[sǽnd]の -d- の音がさらにはっきり聞こえ、全体
的には英語の強勢リズムのようであるが、上記 -d- の音声で、英語らしさが随分損 なわれている。音の下降調も緩やかであるので、語アクセントが際立って聞こえない が、2 音節に分かれており、どちらかというと日本語の発音よりは僅かに英語の発音 のように聞こえる。
「ALTの音声に似ていない」12SY児の音声は、いわゆる日本語借用語の発音で、
拍リズムであり、ピッチも、-ch- の部分の声が無声音のため表示されていない。その 部分は実際に下降しているものの、前半のピッチは高いままであり、英語の強さアク セントがみられない発音である。日常聞き慣れている日本語語彙と同じ意味の英語語 彙は、そのまま自分の知っている発音に置き換えて発音しているようだ。
6OD の児童の音声も同様に、日本語借用語の拍リズムで、強勢アクセントが見ら れず、ピッチは高いままの平坦な発音である。また、無声音である-ch-のピッチが表 示されていないが、そこは下降調であるにも拘らず-sandwi-の部分は平坦であり、音 声波形も拍リズムで発話していることを示している。
ALTの音声に似ていないもの 中間のもの
図4-8 26FY
図4-9 19NS
図4-10 12SY 図4-11 6OD
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上記 29ME, 31YY 2名に共通していることは、1回目調査では2名とも、英語の2 音節は見られず、日本語の拍リズムでピッチの高低差も殆ど無い日本語的な発音であ った。これは、音の強さを際立たせる英語アクセントに気付かずに、また、意味が同
個人内変化 29ME
図4-13 29ME 2回目
図4-15 31YY1回目
図4-17 31YY 3回目 個人内変化 31YY
図4-16 31YY 2回目
図4-14 29ME 3回目 図4-12 29ME 1回目
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じ故に、児童が知っている借用語の日本語音声をそのまま発話している。2 回目調査 のグラフは、5 年生学年末に授業で学習し何回か発音練習をして英語音声に気付き、
少しずつ発音ができるようになってきている過程であると捉える。3 回目調査では、
29MEは音声波形から英語の音節が見られるようになってきている。31YY の音声波 形からも音節がみえるが、アクセントのある第一音節が第2音節に比べ大きな音声の ようである。英語学習を進めるうちに英語的な音節を意識した発音に気付き、強さア クセントが少し窺える音声に変わってきている。
調査児童全体では、1回目調査より3回目調査の方が、英語らしい発音になってい る児童が若干増えていると考える。しかし、個々の児童の発音の変化は一様ではなく、
はじめはかなり英語的に発音していたのに2年後には元の日本語的な発音に戻る児童 や、英語らしくなったり日本語的な発音になったりする児童もいる。一度できたから、
その後は必ず英語らしい発音ができるとは限らず、良くなったり元に戻ったりしなが ら少しずつ英語音声に慣れてきているようである。
5年生の7月に学習する3音節の語彙banana [bənǽnə]である。アクセントは2 音節目の -nan- にある。児童にとっては、日本語借用語として周知の語彙でもある。
英語音声を学習する時に、日本語と英語の違いに気付くと思われるが、児童全員が気 付くはずもなく、英語らしい発音をしている訳でも無い。ALT や DVD の native
speaker の音声をよく聞いて真似すると英語のアクセントに気付き、英語的な発音が
しやすい。英語と日本語のアクセントやリズムの違いに気付き、自分で英語らしく発 音することを意識する児童は、英語らしい音声の習得が可能である。1 回目調査では 英語音声での発話が難しかった児童も、学習後の2回目調査では、ALTの音声に似た アクセントとリズムの発音の児童がかなり増えている。児童がよく知っている日本語 と少し似ているが、英語音声はアクセントが際立っているので、日本語との違いにも 気付き発音しやすく覚えやすいようである。
表4-2 bananaの3回の調査の評価表 banana
1回目 2回目 3回目
ALTによく似ているもの 7 (21%) 13 (42%) 19 (63%) 両者の中間のもの 8 (24%) 10 (32%) 4 (13%) ALTに似ていないもの 18 (55%) 8 (26%) 7 (24%) 合 計 33 (100%) 31 (100%) 30 (100%)
(単位:人数)
banana
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3音節の語彙 ba・nan-aの発音記号は、[bənǽnə]である。第2音節にアクセント があり、ピッチも高く音節は少し長く発話される。音声波形は、ALT 女性のものは、
殆ど一様であまり変化は見られないが、男性 ALT のものは第2 音節の波形の振幅が 少し大きくなり、声の強さ・大きさが感じられる。それと呼応して音声波形の幅が広 くピッチ曲線も高くなっていて強勢アクセントがあることが明白である。波形やピッ チ曲線が ALT のものとよく似ており、音声も似ている児童の音声グラフが上記の
14SM, 22HAのものである。単語アクセントや声の大きさなどが英語らしい発音にな
っている。
以下に中間のものとして2名分、音声グラフを挙げている。
25FM, 7OM 共に、リズムは日本語の拍リズムに近いが、-nan- のところにアクセ
ントを付けて発音していて英語音声のようである。音声波形では、その点は見られな いが、ピッチ曲線では -nan- に当たるところが僅かながら高く長くなり、英語音声を 意識して発音していることが分かるグラフである。
また、「ALT の音声に似ていないもの」は、日本語の拍リズムで始めの部分でアク セントが強く高くなっている。11KTの音声は少し不思議なもので、第3音節で僅か にアクセントが付いている。自分の発話した音声に自信が無く、調査実施者に解答の 図4-18 米国人男性
図4-19 米国人女性
図4-20 14SM
ALTの音声によく似ているもの ALT
図4-21 22HA
(bananaの音声グラフ)