1. 概況・法体系
(1) PPP・コンセッション方式の概況
英国は、世界的にPPPを先進的に主導してきた国として知られる。その起源は1979年の保守党サ ッチャー政権発足以降、「小さな政府」の実現を目指して、幅広い分野で民間開放(民営化、エージェ ンシー化)を推進したことにあるとされる。
続くメージャー政権においても市場原理の導入が積極的に行なわれ、この中で1992年、官が民間 の資金やノウハウを活用しながら質の高いサービスを効率的に提供することを目指す手法として、PFI 手法が導入された。ブレア政権においては、公共サービスの効率性と共に質の向上の実現を目指す 政策が推進され、その実行手段としてPPPが重視された。コンセッション方式は、こうして推進された PPPの一手法として活用されている。
なお、英国には、コンセッションと呼ばれる独立した分類は存在しないという意見もある。英国では他 国と比較して、実施方法に高い柔軟性があり、PFI、PPP、コンセッションという独立した分類は実質的 に存在しないとのことである80。
しかし、ここ2、3年では、インフラストラクチャーUK81が設立されたことをはじめ、インフラプロジェクト がどのように投資されるべきかについての議論が活発になっている。そこでは、政府からの投資はより 少なくあるべきであり、特定サービスの利用者からより多くの投資を回収すべきであると主張している。
(2) コンセッション方式の制度的体系
英国においては、コンッセッションについても同様に固有の法制度はない。2006年に施行された公 共契約規則(Public Contracts Regulation)に契約の一手段として規定されているだけである82。英国 では、PFIについても固有の法制度はなく、基本的にはいわゆる判例により構成されるcommon law に基づいた運用がなされている。コンセッション方式についても同様に個別の契約ごとに同様の対応 になると考えられる。
英国では、PFIやPPP、及びその他のプロジェクトについて基本的には Value for Money(VfM)の 原則に基づいて事業の検討を行い実行していることから、財務省が作成したValue for Money Assessment guidance83やHMT green book guidance84が基本的な考え方を示すことになると考えら れる85。また、コンセッション方式は公共からの支払いが一般的には発生しない点においてはPFIや PPPと異なるが、官民間で契約を結び公共サービスの運用を民間に委ねるという点では共通点もある ことから、上記以外のPFIやPPPに係るガイドライン類は参考になるものと思われる。
80 現地ヒアリングによる。
81 2009年に財務省内に設置された政府全体のインフラ投資の推進機関であり、PPPの推進機関のPartnerships UKも2010 年中に取り込まれることとなっている。
82 The Public Contracts Regulations 2006 36条、37条 83 HM treasury(2006)「Value for Money Assessment guidance」
84 HM treasury(2003)「THE GREEN BOOK Appraisal and Evaluation in Central Government」
85 現地ヒアリングによる。
2. コンセッション方式の定義及び範囲 (1) コンセッション方式の定義
英国では、前述の通り法制度上でコンセッションが明確に示されるのは、公共契約規則においてで ある。そこでは、「公共サービスのコンセッション契約とは、公共機関から契約に基づいて公共サービス の開発やサービスを実施する権利を付与されるものを言う86。」とされている。
また、他の政府による公表資料における記述としては、2008年に財務省が公表したレポートにおい て、「公的主体が民間事業者に対して認めた、ある資産(公共施設等)を用いて収益または収入を収 受する権利のこと。その見返りとして、民間事業者は資産に関する資金調達、関連資産の取得、維持 管理・運営を行う。87」とされ、公共契約規則の定義に加えて利用料金の収受や民間事業者の役割が より明確になっている。なお、地方公共団体のPPPの支援機関であるLocal Partnershipsの定義によ れば、「原則としてエンドユーザーからの利用料収入により事業費を回収することを前提とした、民間事 業者主導により行われる公共プロジェクトであり、需要リスクの全部ないし一部が民間事業者に移転さ れる。88」とされ、より収入内容や需要リスクの移転について明確化がなされている。これらの定義を元 に英国のコンセッション方式の要件をまとめると、以下のようなものが見受けられる。
官民間の契約であること
一定の管理行為を民に委ねること
需要リスクを民に移転すること
報酬にサービス運営の成果が反映されること
ただし、明確な法制度上にコンセッションが定義され、その適用方法に関する規定が無いこともあり、
一般的にはコンセッションの定義は確立していないとのことである89。そのため、一般的にはシャドー・ト ールによるプロジェクトはPFIと呼ばれることもあれば、コンセッションとも呼ばれ統一的な用いられ方を していないようである。
(2) 対象となる公共施設の範囲
英国では、コンセッションに関する法制度がないため、対象となる公共施設についての明確な規定 は無い。
実際に適用がなされている分野を見ると有料道路、空港、鉄道、バス等の分野がある。特に有料道 路では後述のM6やダートフォード橋やセバン橋等の事例がある。ただし、これらの適用分野において も民営化されている場合や他のPPP手法が活用されるなどコンセッション方式が主流には必ずしもな っていない。また、フランスで広く実施がなされている水道については民営化が進んだためコンセッショ ンは適用されていない。
86 The Public Contracts Regulations 2006 36条、37条
87 HM treasury(2008)「Infrastructure procurement: delivering long-term value]
88 Local `Pertnerships ウェブサイトhttp://www.localpartnerships.org.uk/PageContent.aspx?id=226&tp=Y 89 The Public Contracts Regulations 2006 36条、37条
3. コンセッション方式における事業運営権の認識 (1) 事業運営権の法的認識
英国における事業運営権の法的認識は、官民間の契約上で規定されるものであり、英国の法体系 において十分に効力を持つものである。この場合の事業運営権とは、対象のインフラ施設について一 定期間の占有権を有し、当該機関において事業を運営し収入を得る権利を指す。この事業運営権は、
契約上において有効であり、官民間で問題が発生した場合、契約の規定に基づき処理がなされること となる。この効力は第三者にとっても十分に信頼性がある。また、通常は公共と金融機関の間で権利を 保護するための協定を結ぶことによりその信頼性を高めている。90
(2) 事業運営権の契約上の認識
英国においては、制度上契約内容についての規定は無い。事例ベースでは、後述の事例において、
事業運営権はコンセッション権として締結されている。これらの契約では所有は公共であり、施設の利 用が民間事業者に認められている。一部には資産を所有する場合もあるが、これは事業運営権の中 には含まれず契約上に定められる規定の一部にすぎない91。
4. コンセッション方式における事業者の権利・義務 (1) 事業者に生じる権利
法制度上、コンセッション方式において生じる事業者の権利については特に規定がされていない。
先述のコンセッション方式の定義を踏まえれば、公共施設等の占有権や利用料金の収受権について の権利が生じることとなる。一方、コンセッション方式の対象となる構築物の設計、ファイナンス、建設、
維持、運営、修繕に係る事業者の権利は契約において生じることとなる。また、米国やフランスとは異 なり、利用料金や年数に関する規定は無い。
(2) 事業者に生じる義務
事業者の権利と同様に、法制度上、コンセッション方式において生じる事業者の義務については特 に規定がされず、契約上において定めることとなる。先述の定義を踏まえれば、資金調達、関連資産 の取得、維持管理・運営を行うことや需要リスクが事業者に生じる義務と考えられる。
新規施設整備
資金調達
需要リスク
料金徴収
運営
維持管理・修繕
90 現地ヒアリングによる。
91 現地ヒアリングによる。
5. 調達手続きから移転・契約解除 (1) 事業運営権取得に係る手続きの概要
事業運営権は、調達手続きを経て契約手続きを経て取得することとなる。調達手続きは、公共契約 規則に基づいて公告手続きを行い、他の調達手続きと同様の手続きを踏む92。
英国では基本的にはValue for Moneyの原則に基づいて選定をすることとなる。Value for Money
guidanceによれば、リスクの最適配分や資金調達を考慮して評価をすることとなる。公共契約規則で
は、最も経済的な札が選定するとしており、その基準には以下のようなものが用いられる93。
サービスの質
価格
技術的優位性
デザインや機能的特徴
環境面の特徴
運用コスト
費用対効果
アフターサービス
技術的支援
納期、スケジュール
また、具体的な選定基準は、各事業においてどのような点を重視するかによって異なる。例えば、コ ンセッションフィーが最高であることや、補助金額が最小であること等が考えられる94。
(2) 事業運営権取得に係る手続きの各論
① 事業運営権の価格算定
事業運営権について、特に制度上定めるものは無いが、英国の場合は基本的にVfMの原則に基 づいて判断をすることから、事業運営権を算定する際にもこの考え方が適用されると考えられる。この 考えに基づけば、コンセッション方式において VfM が向上するというのは公共自身で行う場合に比べ、
民間事業者が行う場合より収益が向上することであると考えられる。よって、例えば、コンセッションフィ ーが発生する事業であれば、最高価格の入札で決定することとなる。 また、その場合VfMの考え方 に基づき最低基準価格を設定する場合もある95。
② 事業運営権の確定時期
事業運営権は契約によって発生するため、契約締結時ということになると考えられる。この場合、前 述のような調達手続きを踏まえて民間事業者が確定し、契約協議を進めた後に事業運営権が確定す ることとなる。
92 The Public Contracts Regulations 2006 36条、37条 93 The Public Contracts Regulations 2006 30条 94 The Public Contracts Regulations 2006 36条、37条 95 現地ヒアリングによる。