1. 概況・法体系
(1) PPP・コンセッション方式の概況
ドイツにおける公共サービスの提供は、伝統的に公的機関や非営利団体が主体となって行われて きたため、コンセッション方式を含むPPPの推進に関しては英国や仏国などと比べて盛んではなかっ た。
しかし、1990年代になると東西統一に伴う旧東ドイツに対する財政支援や、EU発足による他国との 協調の必要性の高まりを受け、さまざまな行政改革が行われるようになった。その一環として、1994年 には連邦長距離道路建設民間資金調達法(Gesetz über den Bau und die Finanzierung von Bundesfernstraßen durch Private、FStrPrivFinG)が制定され、制限つきではあるものの民間事業 者の料金収受を認めたということで、ドイツにおけるコンセッション方式導入の端緒となった。
道路分野では、上記FStrPrivFinG上で規定された利用者からの料金収受を認めるF-モデルと、特 段の法的根拠は持たず管理当局からのサービス対価と大型車両からの利用料金の混合型の収入形
態をとるA-モデルの二つのタイプのコンセッション方式がとられている。
一方、道路以外の事業分野に関しては2002年にはPPPのステアリング・コミッティーが首相の決定 により設置され、PPP推進に向けた調査・検討が進められるようになり、2005年にはPPP促進法
(Gesetz zur Beschleunigung der Umsetzung von Öffentlich Privaten Partnerschaften und zur Verbesserung gesetzlicher Rahmenbedingungen für Öffentlich Private Partnerschaften、)が制 定され、PPP推進のための各種法律の規制緩和が行われた。
この結果、図 2に示すような教育やスポーツ、行政事務などのソフト・サービス的な側面の強い公共 サービスを中心にPPPが推進されるようになった。
図 2 ドイツにおける分野別PPPプロジェクト件数(2008年)
(出典)Partnerschaften Deutschland『The market for Public-Private-Partnerships in Germany』より抜粋 現在ドイツではパートナーシップス・ドイツ(Partnerschaften Deutschland)主導のもと、下記のよう な契約モデルの類型化が行われており102、その特徴についてまとめたのが図 3である。
取得モデル(Acquisition model)
所有者モデル(Owner model)
リースモデル(Leasing model)
請負モデル(Contracting model)
ライセンスモデル(Licence model)
機関モデル(Institutionalised Public-Private-Partnership)
102 Partnerschaften Deutschland 『The market for Public-Private-Partnerships in Germany』
図 3 PPP契約モデルの分類
(出典)Partnerschaften Deutschland『The market for Public-Private-Partnerships in Germany』より抜粋 上記PPP契約モデルのうち、ライセンスモデルは①施設の所有権を公共側が有したまま、②事業者 がエンドユーザーからの利用料金を受け取る契約モデルとされており、いわゆる代表的なコンセッショ ン方式を指すモデルであると思われる。
しかしながら、上記のような概念的定義こそされているものの、これまでのドイツにおけるインフラ部 門を対象とするコンセッション方式事業は道路分野以外ではあまり見られず、下記図 4からも見受けら れるとおり英国や仏国と比べるとドイツにおけるPPP及びコンセッション方式は未だ途上段階にあると 思われる。
図 4 VINCI社(仏)調査による欧州PPP・コンセッションの市場規模
(出典)アメリカ公共政策研究所(AEI)Web掲載『A Case Study:VINCI and the PPP Approach』より抜粋 このような中2007年のEU指令103の適用により、EU域内における官民間契約の体系が再整理さ れたことを受けて、2009年には公共調達近代化法(Gesetz zur Modernisierung des
Vergaberechts:GMV)が制定され、官民間契約規定におけるEU指令へのコンバージェンスを進める 一環として、コンセッションに関する規定を修正が行われた。
(2) コンセッション方式の制度的体系
ドイツには、わが国のPFI法のようなPPP/PFIに関して事業分野を問わず規定するような法律は存 在しない。PP促進法も、競争制限禁止法(Gesetzes gegen Wettbewerbsbeschränkungen、GWB)
および委託発注命令(Vergabeverordnung、VgV)、税法(Grundsteuergesetzes)、投資法
(Investmentgesetzes)などの既存法の改正を行うものである。また公共調達近代化法に関しても同様 に競争制限禁止法(GWB)と委託発注命令(VgV)の改正を行うものであり、各法律単体でPPP/PFI に関する制度的な枠組みが把握しづらいものとなっている。
一方、道路分野においては前述のFStrPrivFinGにおいてPPP促進法および公共調達近代化法と 比べれば、料金に関する規定など具体的な規定がされている。しかしながら、前述のドイツ道路コンセ ッション2類型の1つであるA-モデルには明示的な法的根拠はなく、またFStrPrivFinGが法的根拠
103 Regulation (EC) No 1422/2007 of 4 December 2007 amending Directives 2004/17/EC and 2004/18/EC of the European Parliament and the Council with regard to the thresholds for procurement procedures (Text with EEA relevance)
であるとされているもう一方のF-モデルに関しても権利・義務関係に関する明確な記述はないことなど から、以下の項ではPPP促進法や公共調達近代化法を中心に説明する。
2. コンセッション方式の定義及び範囲 (1) コンセッション方式の定義
コンセッション方式について、PPP促進法および公共調達近代化法では委託発注命令(VgV)およ び競争制限禁止法(GWB)の改定を通じて、下記のように定義している。
「コンセッションとは工事契約の一種であり、(民間事業者の)建設工事への見返りとして、報酬 の代わりに施設を利用する権利を認め、場合によってはそれに加えてある金額の支払いが行 われるもの104」
公共調達近代化法の定義
「コンセッション契約とは工事の履行に関する契約であり、(民間事業者が)建設等に関する負 担をする見返りとして、建設工事への見返りとして、報酬の代わりに施設を使用する一時的な 権利を認め、場合によってはそれに加えてある金額の支払いが行われるもの105」
前項で述べたコンセッション方式の定義や、高速道路コンセッションにおけるF-モデルおよびA-モ デルの二つの事業スキームの特性を踏まえると、ドイツにおけるコンセッション方式の要件は下記のよう なものであると思われる。
官民間の契約であること
工事を行うこと(新設/更新/大規模修繕)
施設の使用権
事業者収入の全部/一部が利用者からの料金収受
このうちコンセッション方式における料金収受要件に関しては、前項で示したPPP促進法および公 共調達近代化法で規定されている二つのコンセッション方式の定義を比較すると、PPP促進法では
「適切な報酬」の収受を認めるという表現をしていたのに対して、公共調達近代化法では「利用料」の 収受を認めるとあり、より独立採算を意識した記述に変化している。
しかし一方で、高速道路コンセッションのA-モデルのような管理当局からのサービス対価が事業者 の収入に含まれる106場合であっても明示的にコンセッション方式であるとされていることなどから、実際 にはドイツにおけるコンセッション方式にとって、公共からの収入が生じる場合も含まれると思われる。
(2) コンセッション方式の範囲
前項でも示したとおり、ドイツにおいて事業の独立採算制は必ずしもコンセッション方式の要件では なく、管理当局からの支払が民間事業者の収入要素となる場合でもコンセッションとして扱われるものと 思われる。
104 Germany(2005), Artikel 2 Änderung der Vergabeverordnung
105 Germany(2009), Artikel 1 Änderung des Gesetzes gegen Wettbewerbsbeschränkungen
106 ただし、A-モデルの場合であっても大型車両からは利用料金を徴収しているいわゆる『混合型』であり、必ずしも民間 事業者の収入の全てが管理当局からの支出によっているわけではないことは留意すべきである。
(3) 対象となる公共施設
公共調達近代化法の中で、明確に対象となる公共施設の可否を示した規定は無い。ただし、事業 者に対して『特別かつ包括的な権利(besondere oder ausschließliche Rechte)』が付与される事業分 野107として以下が挙げられており、これらはコンセッション方式の適用事業分野であるものと思われる。
飲料水供給事業
電気・ガス供給事業
熱供給事業
交通事業
◦ 空港
◦ 港・河川
◦ 地域公共交通(市電・LRT、トローリーバス)
3. コンセッション方式における事業者の権利・義務 (1) 事業者に生じる権利
ドイツのコンセッション方式において、民間事業者に認められる権利に関する具体的な規定は法制 度上では見られない。
ただし前述の通り、交通セクターなどの特定分野においては事業者への『特別かつ包括的な権利』
が付与されるとの規定があり、個別事業の性質を踏まえた上で事業実施に必要かつ十分な権利を民 間事業者に付与することが可能となっているものと思われる。
(2) 事業者に生じる義務
ドイツのコンセッション方式において、事業分野間共通で民間事業者に課せられる義務に関して明 確な法制度上の規定は見受けられない。
個別の事業分野では、空港分野において適切に空港の維持・運営を行う義務108および運営方針の 変更に際して当局に通知する義務109、地域公共交通分野(ロータリーバス、LRTなど)において地域 公共交通の保全義務、施設の拡張・改良を実施する義務110が個別事業分野法でもって定められてい る。
(3) 料金改定についての権限
料金の改定についての権限に関して、事業分野間で共通の制度上の規定はない。
一方個別事業分野における料金改定に関しては、道路分野において民間事業者はついに依る料 金の改定は認められているものの、連邦当局の承認が必要であるという規定が存在する111。
107 Germany(2009), Artikel 1 Änderung des Gesetzes gegen Wettbewerbsbeschränkungen 108 Germany(2008), LuftVZO §45 Erhaltungs- und Betriebspflicht
109 Germany(2008), LuftVZO § 64 Anzeigepflichten
110 Germany(2010),PBefG§ 21 Betriebspflicht, § 22 Beförderungspflicht
111 Germany(1994), § 5 Mautgebührenverordnung, § 6 Mautgebührengenehmigung