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考察

ドキュメント内 1(看護師国家試験の誤答原因調査) (ページ 130-133)

第8章 看護師候補者の研修担当者に対する調査(受入れ病院調査)

8.8 考察

今回インタビューに協力してくれた病院では,学習指導方法が異なり,様々な工夫が見 られたが,一つの学習システムとして一般化することは困難である。しかし,このインタ ビュー結果の共通点を踏まえ,個別のケースを参考にすることにより,看護師候補者を看 護師国家試験合格に導くための学習デザインとして,次の5点が重要であると考える。

1点目は,病院側の指導体制を整えることである。

施設内研修として学習時間,学習場所,看護の専門家の学習指導者を確保し,学習指導 計画を立てる必要がある。これらのことは,一見容易なこと,当然のことのように思われ るが,看護師候補者が就労・研修する職場は,医療現場であり突発的なことが起こる可能 性が高く,看護師候補者に学習時間を与え,学習指導者が付くことは決して容易なことで はない。それゆえ,看護師候補者の受入れ前に指導体制を整え,学習指導計画を作成し,

看護師候補者が就労・研修する病棟のスタッフ全員に看護師候補者の受入れを通知し,看 護師候補者が学習に専念できる環境を整えることが重要である。

その際の学習指導方法であるが,A 病院のインタビュイーは,状況設定問題の事例文を 読ませ,看護師候補者に読んだ内容を説明させるという学習指導方法をとっていた。この 方法は,看護師候補者の理解度を確認すると同時に,看護師候補者がどこで躓き,何が理 解を妨げているのかを把握するのに役立つと考える。現在では,訪日前日本語研修および 訪日後日本語研修が充実し,看護師候補者は日常会話では,問題になることが少ないため,

学習指導者は,日本語力は十分だと考えがちである。しかし,看護師候補者の躓きの原因 は,実際に学習指導を行う中で,看護師候補者に質問し,正しく理解できているかどうか

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を,確認して初めてわかるものである。インタビューの協力を得た病院においても,自己 学習の時間をとり,看護師候補者が疑問を抱いた問題を質問させ,解説していたが,その 際,一方的に説明するのではなく,疑問に思ったのはなぜなのか,理解できない点は何な のかを探りながら指導することで,看護師候補者に欠けている日本語力,あるいは,専門 知識を補完し,他の問題を解く際にも応用が利く学習指導となる。

さらに,テストで正答であったからといって,正確な知識を有しているとは限らない。

これに対しては,C 病院で行われていたように,同一の問題を全員で解くといった指導方 法が参考になる。常に学習者の疑問点,誤答の問題を扱うだけでなく,C 病院では看護師 国家試験のアプリケーションソフトを使用し,時には,全員で同一の問題を解いていた。

この方法は,学習指導者にとっては,正答が選べたとしても専門知識の欠落している箇所 はないか,あるいは,誤解している箇所はないかを把握できると同時に,看護師候補者に とっても,解答のプロセスを他の看護師候補者と共に学ぶことで,学習が記憶に残るとい う利点があると考える。

2点目は,看護師候補者が各病院に配属後,看護師候補者が受入れ病院の環境,および,

病院周辺の生活環境に早く慣れるように支援することである。

看護師候補者が,日本での生活および施設内就労・研修でストレスを抱かず,看護の専 門の学習に専念できる環境作りが必要である。

3点目は,教材,および,インターネット等の学習環境を整えることである。

JICWELSの書籍,e-ラーニング,オンデマンド講義,および,市販の参考書・問題集,電

子辞書のみならず,最近では,看護師国家試験のアプリケーションソフト,翻訳アプリケ ーションソフト,看護専門学校での講義など様々なリソースから,看護師候補者の意見を 取り入れ,看護師候補者が興味を持って継続できるものを選択する必要がある。

4点目は,自律学習ができるように指導することである。

A 病院のインタビュイーが「自律学習を強化しないと合格まで持っていくのは,結構大 変なんです」と語っているように,学習指導者から教わるだけでなく看護師候補者が主体 的に学習するよう指導する必要がある。看護師候補者が自己学習する時間は,学習指導者 から指導を受ける時間より遥かに多いわけなので,自己学習で何をどのように学習するか という実行可能な計画を,学習指導者と共に立てることが重要である。

5点目は,看護師候補者のモチベーションを維持させることである。

各病院では,モチベーション維持のために心がけていたことは,学習方法に看護師候補

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者の意見を取り入れる,看護師候補者の学習方法を尊重しサポートする,応援しているこ とを伝える工夫をする,成功モデルを示す,EPA 看護師が後輩を指導する時間をとる,雑 談を通して学習指導者と看護師候補者との意思疎通を図る,または,看護師候補者同士の 仲間意識を高める,などが行われていた。

以上5点を,施設内研修で看護の専門知識を取得し,看護師国家試験合格のための学習 のポイントと考える。

しかしながら,今回のインタビューを通し,問題点も明らかとなった。それは,看護師 候補者は看護師国家試験に合格し,EPA 看護師になったからといって,日本人の新人看護 師と同等の仕事がこなせるわけではないということである。看護技術においては,問題は ないが,指示が聞き取れない,あるいは,指示を聞き間違える(B 病院),患者および家族 への対応が1人では困難である(C病院)などの問題点が残されていた。

E クラスのインタビュイーが,看護師国家試験の過去問題のみの指導に疑問を感じつつ も,看護師国家試験に合格させることを優先し,学習指導をしてきたと述べているように,

看護師国家試験合格後のEPA看護師としての本格的な就労を見据えた指導という点から考 慮すると,看護師国家試験合格のみを目的とした学習指導では不十分であるということが 明らかとなった。看護師国家試験合格後の問題点としては,日本人看護師からの指示を聞 き取り理解する能力,および,患者や家族への対応力であった。この点を日本語教師が積 極的に指導し,医療現場での実践力へとつなげていくことが,看護分野における日本語教 育であると考える。

最後に,実際に看護師候補者の指導に関わった病院スタッフは,看護師候補者を受入れ ることに意義を感じていた。看護師候補者を受入れたことにより,①世界に目が向き視野 が広がった(E 病院),② 看護師候補者の存在が刺激となった(A 病院,E 病院),③看護師 候補者への学習指導を通して関わることによって,日本人看護師の能力向上につながった (C病院)④指導者側も学習することになり,病院全体の教育力が向上した(A病院),⑤病院 全体のチームワークが向上した(C病院),⑥一生懸命な EPA看護師から学ぶことは多々あ る(B病院),という意見が聞かれた。

このように,EPA に基づく看護師候補者の受入れは,病院内に良い効果をもたらすとと もに,病院のスタッフが同じ看護の専門職として看護師候補者に敬意を払っていることが 確認できた。

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