• 検索結果がありません。

考察

ドキュメント内 水酸アパタイト系材料の (ページ 99-102)

第 4 章 ナノ構造水酸アパタイト上における線維芽細胞の挙動

4.5. 考察

は分裂時に接着状態を保てなくなり浮遊状態になりやすいと考えられる.分裂が終わりG1 期に入るためには,細胞は再び足場に接着する必要がある.しかし分裂直後の細胞は接着 と同時に自己の細胞膜の修復や細胞内物質の生産などを並行して行うため,播種後の初期 接着時に比べ足場への接着性・伸展性が低下しているためと考えられる.このため,初期 接着は可能な30-nm fiberや25-nm needleでも分裂後のタイミングでは再接着に失敗する確 率が高まり,結果として細胞死が起こると考えられる.

4.5.2. 細胞接着と増殖

L929線維芽細胞の初期接着は25 nm以下の足場上で抑制され,また増殖は30 nm以下の 足場で抑制された.この結果は線維芽細胞の接着や増殖は足場となるHAの結晶サイズが低 下することで阻害されることを示している.しかし線維芽細胞は緻密なHAペレットに加え,

100-30 nmのナノ結晶から成るHA上や25-nm needle上で良好な初期接着を示した.また,

50 nm以上の結晶から成るHAペレット上では細胞の増殖が見られた.特に緻密なHAペレ

ットに対し,50 nm以上のナノ結晶で構成されたHAペレット上では細胞は有意に高い初期 接着性と増殖性を示した.これらの結果は,線維芽細胞の接着は30 nm以上の足場上で,

また増殖は50 nm以上の足場上で阻害されないことを示している.また,本研究で使用し ているHAナノ結晶の粒子間隙は数百nm程度あるため,第3章3.5.1.で示した骨芽細胞の 例と同様に線維芽細胞の挙動も結晶の一次粒子サイズに大きく影響を受けたと考えられる.

緻密なHA上に比べ50 nm以上のHA結晶上で線維芽細胞の接着や増殖が有意に向上した

理由は,第2章2.3.4.5.に示したとおりナノ構造を持つペレットが緻密なHAペレットに対 しタンパク質吸着量が大きいためと考えられる.即ち,ナノ構造を有するHA表面では接着 タンパク質や細胞増殖因子を多く吸着しており,またそれを細胞に供給するためと推測で きる.フィブロネクチンに代表される「接着タンパク質」と呼ばれるなど様々なタンパク 質が,足場上における細胞の接着や伸展,遊走に重要な役割を果たしている[6,10-11].その ため,接着タンパク質を多く吸着させた足場上では細胞の接着や伸展などが活性化するこ とが知られている.接着タンパク質のアミノ酸配列の中で特にアルギニン−グリシン−アス パラギン酸が並んでいる部位(RGD配列)が細胞に結合するが,RobertsらはRGD配列を 含むペプチドが高密度に担持させた足場上では細胞の接着や伸展が向上することを報告し ている[12].またFBS中においてタンパク質を多く吸着する基板上では,細胞の増殖や活性 が向上することが報告されている[13].これはFBS中に含まれる細胞増殖因子などの有用な タンパク質が基板に多く吸着されたためである.FBS は本研究で使用している培地中にも 添加されているため,タンパク質吸着量の多いHA基板上では同様の理由で細胞の接着や増 殖が促進されると考えられる.粒経20-200 nmのナノ粒子で構成されたアルミナやチタニ ア,HA表面上において,その粒経が減少するほどラット骨芽細胞の接着性が向上するなど,

ナノ構造の存在により細胞の活動が活性化されることを報告している論文は多く,本研究 の結果を支持している[1-2,4,14-22].

一方で30-nm fiberや25-nm needleでは細胞の初期接着は良好だったものの,増殖は見ら れなかった.これは4.5.1.で述べたとおり,30 nm程度のナノ構造上では細胞は分裂後の再 接着に失敗する確率が高まるためと推測できる.

20-nm needleや25-nm flake上では細胞の増殖に加え初期接着も抑制された.これは一次

粒子サイズが20 nm程度の足場上では,線維芽細胞は初期接着を行うために十分なサイズ の接着斑を形成できないことを示している.

4.5.3. 骨芽細胞との比較

骨芽細胞は基本的に HA ペレット表面を被覆している結晶の一次粒子サイズが低下する ほど活性が低下することを第3章で示した.そして結晶の一次粒子サイズが100 nm以下の HA結晶上では細胞はアポトーシスを起こすことを示した.本章における線維芽細胞につい ても,足場を構成する結晶サイズが低下すると接着性や増殖性が落ちる傾向が見られた.

しかし骨芽細胞と比較した場合,二つの大きな差異が見られた.まず,骨芽細胞の活性が

特に100 nm以下の結晶上で著しく抑制されたのに対し,線維芽細胞では30 nm以下の足場

上でそれが起こった.また,初期接着に関しては一次粒子サイズが25 nm程度であっても,

いくつかの結晶が集合してユニットを形成している 25-nm needle 上では線維芽細胞は安定 に初期接着することができた.これらの結果は,細胞の接着や伸展,生存,分裂に必要な 足場のサイズが,骨芽細胞と線維芽細胞では根本的に異なっていることを示唆している.

また第3章3.5.3.1.および3.5.3.2.で述べたとおり,細胞は十分なサイズの接着斑が形成でき

ない場合,またはそれにより伸展が阻害された場合にアポトーシスが誘導されることが知 られている[23-24].ここで,図4.3に示した蛍光顕微鏡写真を見ると,同じ条件で培養した 場合骨芽細胞の内部には10 µm程度のサイズの接着斑が確認されたのに対し,線維芽細胞

では約1 µmの接着斑が確認された.また細胞自体のサイズは骨芽細胞で100 µm程度であ

ったのに対し,線維芽細胞は50 µm程度であった.さらに第3章3.5.3.2.で言及したとおり,

細胞はある程度のサイズまで伸展することができないと分裂が抑制される.これらから,

骨芽細胞が分裂するためには線維芽細胞よりも大きく伸展することが必要であり,そのた めに骨芽細胞は線維芽細胞に比べ大きな接着斑を形成する必要があると考えられる.また 逆に線維芽細胞は骨芽細胞に比べ小さな足場上においても伸展に必要なサイズの接着斑を 形成し,アポトーシスを起こさず安定に接着・増殖できると考えられる.このため,線維 芽細胞は骨芽細胞の活性が低下する50-100 nmの結晶上でも安定に接着,増殖できたと考 えられる.加えて,ナノスケールの足場は接着タンパク質や細胞増殖因子の吸着量が増大 多いため,50-100 nmの結晶上で線維芽細胞の活性が向上したと考察される.

これらの結果から,接着や増殖に必要な足場のサイズは細胞種により異なることが分か った.また細胞接着や増殖が阻害されない程度の足場構造の微細化は,細胞活性の向上を 招くことが分かった.そして生体材料の表面に施す微細構造のサイズを調整することで,

狙った細胞の活性を選択的に向上,または抑制できることが予想される.

ドキュメント内 水酸アパタイト系材料の (ページ 99-102)