第 6 章 総括
6.4. 次世代生体材料の創成に向けての展望
本研究では,HA系材料の表面構造や組成をコントロールすることで,その表面に接着し た細胞の活性を制御することに成功した.HA系材料表面上において細胞活性を向上させた い場合,基本的な最適化として足場の粒子サイズを数百nmまで微細化すればよい.ただし,
粒子間隙が数十nm程度であれば,粒子サイズをさらに微細化してもよい.また材料として はカルシウムイオン放出量の大きい物質を採用する.さらに,細胞の種類に応じて当該細 胞が接着・伸展しやすいようにナノ構造のサイズや足場のラフネスを最適化する.これら の調整により,狙った細胞の活性を最大限に向上させる材料表面を作製することができる.
一方でHA系材料表面上において細胞活性を抑制したい場合は,基本的な最適化として結晶 サイズを数十nm程度にまで微細化し,またその間隙を数百nmまで拡大する.材料として はカルシウムイオン放出量の小さい物質を採用する.さらに細胞種に応じて,当該細胞が
接着・伸展しにくいようにナノ構造のサイズや足場のラフネスを最適化する.これらの調 整により,狙った細胞の活性を最大限に抑制する材料表面を作製することができる.
従来の生体材料の場合,主として「生体に対して無害である」という消極的な視点で設 計されているため,骨補填材であれば埋入してから天然骨と結合するまでに半年程度の時 間を要し,また細胞シートなどを作製するための培養基板であれば治療に用いる細胞の培 養に数週間を要する.しかし,本研究の知見を踏まえて作製されるであろう次世代の生体 材料は,「狙った細胞の活性を向上させ,それ以外の細胞の活性を抑制する」という視点で 開発される.このような材料を臨床的に用いる場合,骨補填材であれば患部の周囲の細胞 を活性化することで,天然骨との結合に要する時間を短縮できることが期待される.また 培養基板であれば,細胞を任意の形に短時間で培養することが可能になる.さらに培養さ れた細胞は活性が向上しているため,患部の回復時間が短縮されることも期待できる.
このような次世代生体材料の生体材料を用いれば患者の負担を軽減することができ,ま た早期治療も可能になる.そしてそのような生体材料は,再生医療の発達に加え,今後高 齢化がますます進行してゆく日本にとって非常に重要なものであると言える.
本研究に関連した発表
<定期刊行誌掲載論文>
(1) Okada S, Ito H, Nagai A, Komotori J, Imai H, "Adhesion of osteoblast-like cells on nanostructured hydroxyapatite”, Acta Biomaterialia Vol. 6, pp. 591-597, (2010).
(2) Okada S, Nagai A, Oaki Y, Komotori J, Imai H, "Control of cellular activity of fibroblasts on size-tuned fibrous hydroxyapatite nanocrystals", Acta Biomaterialia [in press].
( doi:10.1016/j.actbio.2010.10.010)
<国際会議発表>
(1) Okada S, Nagai A, Komotori J, Imai H, “Enhanced osteoblast activity on nanostructured HA / β-TCP biphasic pellets”, Archives of BioCeramics Research Vol. 9 (Asian BioCeramics Symposium 2009, Nagoya, Japan, 2009), pp. 271-274.
(2) Okada S, Nagai A, Oaki Y, Komotori J, Imai H, “Activities of osteoblast and fibroblast on nanostructured hydroxyapatite surfaces”, Pacifichem 2010 (Honolulu, USA, 2010), pp. 252.
<国内学会発表>
(1) 岡田伸之介,伊藤寛之,長井篤,小茂鳥潤,今井宏明,“ナノ構造を制御した水酸アパ タイト表面における細胞の接着挙動”,日本セラミックス協会 第21回秋季シンポジウム
(北九州,2008).
(2) 岡田伸之介,長井篤,小茂鳥潤,今井宏明,“ナノ構造を制御した水酸アパタイト表面 における線維芽細胞の接着挙動”,日本セラミックス協会 2009年年会(野田,2009)