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実験手順

ドキュメント内 水酸アパタイト系材料の (ページ 67-74)

第 3 章 ナノ構造水酸アパタイト上における骨芽細胞の挙動

3.3. 実験手順

3.3.1. 水酸アパタイトペレット

第2章で作製したHAペレット「dense-HA」「100-nm fiber」「50-nm fiber」「30-nm fiber」「25-nm needle」「20-nm needle」「25-nm flake」「80-nm sheet」を細胞実験に使用した.ナノ構造HA についてはあらかじめ第2章2.3.3.2.の方法で洗浄した.

3.3.2. 培地の作製

E-MEM粉末1.88 gを超純水200 mlに溶解させ,121°Cで15分間オートクレーブ滅菌を

行った.室温まで冷却後,FBSを20 ml加え,さらに3% L-glutamine水溶液2 ml,7% 炭 酸水素ナトリウム水溶液 10 ml をそれぞれ濾過滅菌して無菌的に加えた.作製した培地は 4°Cで保管し,1日以上静置してから使用した.

3.3.3. PBS(-)の作製

PBSタブレット2錠を200 mlの超純水に溶解させ,121°Cで15分間オートクレーブ滅菌 した.作製したPBS(-)は4°Cで保存した.なお,PBS(-)とはDulbecco が開発した

Dulbecco PBSの組成[24]から,カルシウムとマグネシウムを除いたものである.

3.3.4. ラット骨芽細胞様細胞の作製

ラット骨芽細胞様細胞(骨芽細胞)はラット骨髄由来間葉系幹細胞(rat mesenchymal stem cell, RMSC)から分化誘導して作製した.

解凍したRMSCを培地中に分散させ,900 rpmで5分間,室温で遠心分離した.得られた 細胞ペレットを培地中に再分散させ,血球計算盤を用いて細胞数を計数した.RMSCを 24 wellディッシュに1.0 * 104 cell/wellで播種し,37°C,5%CO2下で培養した.翌日,位相差 顕微鏡にてRMSCがwellの底部に接着・伸展していることを確認し,分化誘導を開始した.

培地100 mlに骨芽細胞分化サプリメント(有効成分として主にdexamethasoneを含有)5 ml

を加えたものを分化誘導用培地とし,培地の代わりに分化誘導用培地を用いて細胞培養を 継続した.2 日に一度,分化誘導用培地の全量交換を行いながら20日間培養し,分化誘導 を完了した.得られた骨芽細胞はカルシウム蓄積能を獲得しており,well底面に白色の沈着 物が見られた(図3.1a).一方で,分化サプリメントを投与しなかった非誘導群では沈着物 は確認できなかった(図3.1b).沈着物はカルシウム定量分析の結果,カルシウム化合物で あることが確認された.骨芽細胞は培地中で,継代を行いながら37°C,5%CO2下で維持し た.

図3.1 RMSCの分化誘導に使用したwell (a)と,非誘導群を培養したwell (b)の底部.矢印 はカルシウムの沈着.

3.3.5. 水酸アパタイトペレット上への骨芽細胞の播種

細胞播種の前日,HAペレットおよび細 胞実験に使用する器具は132°Cで15分間 オートクレーブ滅菌を行った.その後,

HAペレットを1枚ずつ4 wellディッシュ の底面に設置し,培地を500 µlずつ加え

て 37°C,5%CO2下に一晩静置して前培

養とした.翌日,well 内の培地をすべて 除去した後,HAペレット上にテフロンチ ューブ(大・小)を設置し,細胞培養の 有効面積を直径10 mmに限定した.T-75 フラスコで培養した骨芽細胞はトリプシ ン処理で剥離したのち,遠心分離(1000

rpm,2分,室温)で回収した.回収した

細胞を新しい培地中に再分散させ,血球 計算盤で細胞数を計数した.骨芽細胞は 500 µlの培地とともに,1.0 * 104 cell/well の濃度で各wellに播種した(n = 2)(図 3.2).また細胞数を求めるための検量線

を引くため,4箇所のwellの底面にそれぞれ,細胞濃度1.0,2.0,4.0,8.0 * 104 cells/well で骨芽細胞を播種した(HA,テフロンチューブなし).播種した細胞は37°C,5%CO2下で 1日,および4日間培養した.

図3.2 4 wellディッシュと細胞播種の様子.

3.3.6. MTT assay

培 養 後 の 生 細 胞 数 は MTT assay で 決 定 し た . MTT assay は , 黄 色 の MTT

(3-[4,5-dimethylthiazol-2-yl]-2,5-diphenyltetrazolium bromide)が生細胞内のミトコンドリアの 呼吸鎖の作用により紫色のフォルマザン(formazan)化合物に変化する生体内反応を利用し た,生細胞数分析法である(図3.3).

図3.3 MTT assayの機構.

細胞を培養した後,well内からテフロンチューブと培地を除去し,PBSで2回洗浄した.

その後well中にPBSを300 µl加え,MTT溶液「dye solution」を60 µlずつ添加し,静かに

混合した.37°C で 4 時間静置した後,生成したフォルマザン結晶を溶解させるため

「solubilization solution/stop mix」を400 µl加え,37°Cでさらに1時間静置した.その後混

合溶液を600 µl回収し,750 nmの吸光度を副波長として570 nmの吸光度を測定した.得ら

れた吸光度は検量線をもとに細胞数に換算した.

3.3.7. ALP assay

骨芽細胞の骨形成活性はALP assayで評価した.ALP(alkaline phosphatase)は骨芽細胞が 特徴的に発現する膜タンパクの一種である.ALP は脱リン酸化酵素であるため,リン酸系 の有機化合物を作用させその脱リン酸化反応を観測することで,酵素活性を定量すること が可能である.一般的にはpNPP(p-nitrophenyl phosphate)を骨芽細胞に作用させALP発現 量を定量する手法をALP assayと呼んでいる(図3.4).

図3.4 ALP assayの機構.

細胞を培養した後,well内からテフロンチューブと培地を除去し,PBSで2回洗浄した.

その後well内にpNPP溶液を350 µl加え,37°Cで静置した.1時間後,1 M NaOHを350 µl

加えて酵素反応を停止し,混合液を600 µl回収して吸光度を測定した.吸光度は,500 nm の吸光度を基準として405 nmの吸光度を測定した.

3.3.8. 凍結乾燥

HAペレット上に接着した細胞の形態をSEMで観察するため,細胞をHAペレットごと 凍結乾燥した.細胞を培養した後,well内からテフロンチューブと培地を除去し,PBSで2 回洗浄した.PBS を除去した後2.5%グルタルアルデヒド/PBS を加え,20分インキュベー トして細胞を固定化した.グルタルアルデヒド溶液を除去し,PBSで2回洗浄した後,20,

50,80%エタノール水溶液を加えそれぞれ15分間インキュベートして細胞を段階的に脱水

した.その後100%エタノールで細胞を一度洗浄した後,新たに100%エタノールを加えて 30分インキュベートし,細胞を完全に脱水した.エタノールを除去し,t-ブチルアルコール で一度洗浄した後,新たにt-ブチルアルコールを加えてインキュベートすることで細胞内の エタノールをt-ブチルアルコールに置換した.15分後,t-ブチルアルコールを新しいものに 入れ替え,冷凍庫で凍結させた.凍結した細胞は凍結乾燥した後,オスミウムコートを 5 秒間施した.

3.3.9. 蛍光染色

ペレットに接着した細胞の接着状態を蛍光顕微鏡で評価するため,細胞を 2 色に蛍光染 色した.細胞骨格タンパクである F-アクチンは,タマゴテングダケ由来のタンパク毒「フ ァロイジン」を赤色蛍光色素ローダミンで標識した「ローダミンファロイジン」を用いて 染色した.また,接着斑の裏打ちタンパクの一であるビンキュリンを染色するため,免疫 組織化学染色を行った.

免疫組織化学染色は,免疫系で働く「抗体」を用いて生体組織を分子レベルで染色する

技術である.抗体は決まったタンパク質に特異的に結合する能力を持っている.例えば抗A 抗体はタンパク質 A に特異的に結合する抗体である.本研究では,細胞内のビンキュリン を染色するために抗ビンキュリン抗体を細胞に投与した.この抗ビンキュリン抗体は緑色

蛍光色素FITC(Fluorescein Isothiocyanate)で標識されているため,ビンキュリン分子のみ

を蛍光観察することが可能になる(図3.5a).ただし FITC は褪色しやすく綺麗な像を得ら れないことがあるため,さらにもう 1 種類の蛍光標識抗体を作用させ,連結することで蛍 光を増強した.抗ビンキュリン抗体の実態はIgG(Immunoglobulin G)という種類のタンパ ク質であるため,抗IgG 抗体を共存させると,抗 IgG抗体は現在ビンキュリン分子に結合 している抗ビンキュリン抗体に結合する(図3.5b).今回用いた抗IgG抗体は耐褪色性に優 れた緑色蛍光色素 Alexa Fluor 488 で標識されている.つまりこれでビンキュリン分子を

FITCとAlexa Fluor 488の二種類の蛍光色素で染色したことになる.

図3.5 免疫組織化学染色の機構(Vin: Vinculin, Pax: Paxillin, Tal: Talin, FAK: Focal Adhesion

Kinase).(a)はビンキュリンに対しFITC標識された抗ビンキュリン抗体が結合した様子を,

(b)は抗ビンキュリン抗体に対してAlexa標識された抗IgG抗体が結合した様子をそれぞ れ示している.

今回使用したローダミンは赤,FITCおよびAlexa Fluor 488は緑の蛍光を発するため,細 胞は2重染色されたことになる.実際の染色は以下の手順で行った.

・細胞を培養

・well内からテフロンチューブと培地を除去し,PBSで2回洗浄

・2.5%グルタルアルデヒド/PBSを加え,20分インキュベート(細胞の固定化)

・グルタルアルデヒド溶液を除去し,PBSで2回洗浄

・0.1% Triton X-100/PBSを加え,15分インキュベート(細胞の可溶化)

・細胞をPBSで2回洗浄

・ブロッキング溶液(1.0% BSA /PBS,0.1% Tween 20および0.02% アジ化ナトリウムを 含有)を加え,30分間インキュベート(ブロッキング)

・ブロッキング溶液を除去

・ローダミンファロイジン/ブロッキング溶液(1 U/ml)を加え,遮光下で1時間静置

・細胞をブロッキング溶液で2回洗浄

・抗ビンキュリン抗体をブロッキング溶液で50倍に希釈したものを加え,遮光下で1時 間静置

・細胞をブロッキング溶液で2回洗浄

・抗IgG抗体をブロッキング溶液で400倍に希釈したものを加え,遮光下で30分静置

・細胞をブロッキング溶液で2回洗浄

・観察までブロッキング溶液内で保管

蛍光染色した細胞は,蛍光顕微鏡で直ちに観察を開始した.

3.3.10. アポトーシスの検出

細胞死は「ネクローシス(necrosis)」と「アポトーシス(apoptosis)」の 2 つに大きく分 類される.ネクローシスとアポトーシスの定義や機構については今なお研究途上だが,一 般的にはネクローシスとは物理的または化学的な外的要因による細胞死をいう.例えば物 理的な力や酸・塩基の作用で細胞膜が破壊され,その結果細胞死が起こったならばそれは ネクローシスと分類される.それに対し,アポトーシスは「プログラム死」とも呼ばれ,

周辺環境の変化に応じて細胞が自殺することをいう.例えば,接着性細胞が足場を失い浮 遊状態のままでいると,細胞はやがてアポトーシスを起こす(足場喪失によるアポトーシ スは特にアノイキス(anoikis)と呼ばれる)[25-26].アポトーシスの引き金となる現象(例 えば足場を失うことなど)が発生すると,細胞の中で一連の連鎖反応(cascade)が起こる[27].

すなわち,ある酵素Aが活性化し,酵素Aが酵素Bを活性化させ,酵素Bが酵素Cを活性 化させる……といった反応であり,この反応が完結するとアポトーシスが発生し,細胞死 が起こるとされている.この連鎖反応に関わる酵素の中で,caspase が重要な役割を担って いることが知られている[28-30].また,このcaspaseの発生の有無で,細胞がアポトーシス を起こしているか否かを知ることができる[31].

本研究では,活性型caspase 3および7の検出キットであるSR-FLICA Apoptosis detection kit

Caspase assayを使用し,細胞のアポトーシスを検出した.FLICA(Fluorochrome Inhibiter of

Caspase)は赤色の蛍光を発するcaspase阻害剤であり,活性型caspase 3および7を発現し

ている細胞を選択的に蛍光染色することができる.実際の実験は以下の手順で行った.

・「10xバッファ」を必要量だけ純水で10倍に希釈し,1xバッファとした

・「FLICA」を50 µlのDMSOで溶解し,150x FLICA溶液とした

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