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第4章 アイオノマの不可逆的な吸着を利用した触媒層スラリー調整

4.4 考察

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Fig.4.10 Effect of the adsorbed amount of ionomer on Rion.

最終的なスラリー組成が同一であるにも関わらず,2step 法の方が 1step 法よ りも吸着量が大きくなった要因については以下の2つが考えられる。

2step法では,まず水溶媒だけでスラリーを調製しているため,(1)1step法よ

りも粒子濃度が高い状態で混合したこと,(2) 吸着量が最も多くなる水溶媒で 混合したこと,である。異なる粒子ではあるが,水系スラリー中で高分子電解質 の吸脱着について調べた過去の報告では,高分子電解質の吸着は非常に強く,希 釈や溶媒置換によっても脱着しにくいことが報告されている[106,107]。また,

水系スラリーにおいて高分子電解質の吸着量が粒子濃度依存性を有し,粒子濃 度が高い方ほど,同一添加量でも吸着量が増大することも報告されている[107]。

この現象については,これまで十分な検証はなされていないが,両方のメカニズ ムともアイオノマの吸着量の増加に対し,十分な効果はあると思われる。

そこでこれら仮説を検証するため,溶媒組成を変えずに,高粒子濃度で一旦ス ラリー調製し,その後,希釈しTable 4.1と同一組成のスラリーを調製した(ス ラリーの組成は,Table 4.3に記載する)。そして,このプロセスにて調製したス ラリーのアイオノマ吸着量を評価し,1step 法と 2step 法の吸着量との比較を行 った(Fig.4.11)。

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Fig.4.11 Effect of dilution on the adsorbed amount of ionomer.

この結果より,2step法とは対照的に,濃厚スラリーにおける分散処理による アイオノマの吸着量の増加効果は見られず,むしろ1step法とほぼ同等の吸着量 となっていた。

したがって,2step法では,Table 4.2の手順1に示すように,吸着量が最も多 くなる水溶媒にてスラリーを調製したことで,アイオノマの吸着が促進された ものと推察する。水溶媒中で,アイオノマは疎水性相互作用で Pt/C 粒子に吸着 すると考えられるため,比較的強く粒子に吸着していると考えられる。そのため,

Table 4.2手順2において,エタノールを添加し希釈したとしても,アイオノマが

脱着し,1step法の吸着量まで低下することはなかったと推定される。

一方で,第3章の結果より,未吸着アイオノマのサイズが減少すると,触媒層 の酸素輸送抵抗は低下することも分かっている。Fig.4.4 及び 4.5 に示したよう に,未吸着アイオノマのサイズは溶媒中のエタノール濃度の増加に伴い小さく なってはいるが,1step 法と 2step 法では,アイオノマの吸着量ほど大きさ差は 見られなかった。またFig.4.12にはアイオノマサイズと酸素輸送抵抗の関係を示 すが,アイオノマサイズが小さくなるほど,酸素輸送抵抗は小さくなる傾向が見 られており,おおよそアイオノマサイズにて,酸素輸送抵抗は決まっていると言 える。しかし,1step 法と 2step 法とで,顕著な差は見られない。以上のことか ら,酸素輸送抵抗は,未吸着アイオノマサイズだけではなく,Pt/C粒子に吸着し たアイオノマの存在状態が影響しているものと推察される。すなわち、2step 法

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で調製したカソードスラリーは,Pt/C粒子に吸着するアイオノマが増加し,1step 法よりも,触媒層内において, Pt/C粒子の周りにより均一にアイオノマが存在 していると考えられる。

Fig.4.12 Effect of the mean diameter of non-adsorbed ionomer on Rother.

水溶媒でスラリー調製した段階では,第 3 章や過去の報告が示すとおり,ア イオノマが塊となって吸着するためにアイオノマの吸着量が大きくなっており [56,61],アイオノマの状態がそのままであれば,塊となったアイオノマの吸着 層によって,酸素輸送抵抗は大きくなるはずである。しかしながら,水溶媒で調 製した後にエタノールを加えることで,未吸着のアイオノマがほぐれ,サイズが 小さくなるだけでなく,粒子に吸着しているアイオノマのコンフォメーション が変化(例えば,吸着層の厚みがうすくなるなど),粒子に酸素がアクセスしや すい状態に変化していると考えられる。一方で,1step法では,アイオノマのサ イズは小さいものの,粒子に吸着しているアイオノマ量は少ないため,溶媒中の 未吸着アイオノマが多く,それらが溶媒の乾燥に伴って集合し,酸素のパスとな る細孔を閉塞してしまう可能性があると考えられる。以上のような考察から,未 吸着のアイオノマサイズに大きな差が見られなかった1step 法と2step 法では,

2step法の方がより酸素輸送抵抗が小さくなったものと考えられる。

Fig.4.13は1step法及び2step法にて作製したカソード触媒層の断面SEM観察

結果を示す。この結果から,まず本検討にて作製したすべて触媒層の充填構造に,

大きな変化は見られなかった。1step 法及び 2step 法の両方において,粒子間の

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境界は,エタノール濃度が増すに従い鮮明となる。この理由としては,吸着アイ オノマが減少しているためと考えられる。エタノール濃度7.5から22.5mass%に

おいて,2step法にて作製した触媒層では,さらに粒子の境界は,より鮮明とな

っているように見える。これらの定性的な結果は,前述する遠心沈降試験やアイ オノマの吸着量とよく一致しているものと考える。

Fig.4.13 Microstructure of the catalyst layer cross-section observed by SEM.

ここまでの結果及び考察をまとめると,2step法で作製されたカソード触媒層 はFig.4.14のような微構造を形成しているものと考えられる。

水溶媒で,まずスラリーを調製したことで,Pt/C粒子へのアイオノマ吸着量が 増加し,その後のエタノールを添加することで,未吸着アイオノマのサイズが小 さくなり,さらには吸着層の厚さもうすくなった。その結果,このスラリーによ

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り乾燥し形成した触媒層内では,アイオノマが粒子のまわりに均質かつ薄く付 着したことで,プロトン輸送抵抗を低減させ,かつ酸素輸送抵抗も低減できたも のと考えられる。

したがって,最終的なスラリー組成は全く同じであっても,アイオノマの吸着 量が,最大となる水溶媒でまずスラリーを分散処理し,その後,アイオノマのサ イズが小さくなる(アイオノマがほぐれる)水・エタノール混合溶媒へと希釈す るというプロセス踏むことで,乾燥し形成された触媒層の微構造を制御するこ とが可能であり,最終的な燃料電池の発電特性においても向上させることがで きる可能性を見出すことができた。

Fig.4.14 Schematic illustration of the microstructure and transport resistances Rion and Rother.

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