本論文では,通信管路に求める耐震性能の目標値として,使用限界は「レベル1地震時 において,管路は損傷せずに収容ケーブルへ外力が作用しない状態が維持されること」,
また,修復限界は「レベル2地震時において,管路設備が地震外力により破損した場合で も,ある程度のケーブルの変形を許容し,通信サービスに影響を与えない水準あるいは 長期信頼性は保てないが短期的にサービスを維持できる水準に損傷部の相対変位や相対 角度を抑えること」と定義することで,既設の旧規格管路設備の耐震補強を合理的に実 施する方法について提案を行った.
(1) 光ファイバケーブルの地震時限界状態の把握
既往地震外力により管路設備が損傷した状態を再現して,収容した光ファイバケーブ ルの被災に関するメカニズムを確認した.また,様々な形態で使用されている光ファイ バケーブルの限界状態を把握するために,ケーブルに外力を与え,ケーブルの変形と通 信サービスへの影響を計測して,ケーブルの限界状態を明確にした.これらの結果から,
通信管路の修復限界状態を以下のように整理した.
・マンホール内に接続点がある場合は,光ファイバケーブルに異常張力が作用しない状 態が確保されていること.
・マンホール内に接続点がない場合は,光ファイバケーブルに異常張力が作用しない状 態で,かつ,60°を超える屈曲が作用しない状態が確保されていること.
・地中部の離脱箇所での被害については,光ファイバケーブルに急激な側圧が作用しな い状態で,かつ,管路折損離脱箇所にケーブル収容断面が確保され,管内面や管端部 が円滑な状態に保たれていること.
以上の修復限界を目標として耐震対策を検討することにより,過度な耐震対策が不要 となり,通信途絶や地震直後の混乱期での応急復旧を最小限に抑え,安定期になってか ら損傷した既設管路を計画的に耐震補強することが可能となる.
(2) 地下管路の耐震対策
光ファイバケーブルの限界状態を確保するための地下管路の耐震対策について,具体 例を示し検討手順を整理した.新潟県中越沖地震において被災した地下管路の損傷事例 について,現場検証および数値解析による被害再現を行い,地震時の地盤ひずみによる 継手の損傷および盛土の崩壊による継手の損傷について,離脱量や屈曲角の定量的な把 握を行った.次に,管内面に自立型ライニングを施すことでケーブルを防護する工法に ついて,既設管路の修復限界の考え方に基づいて性能評価を行った.損傷した地下管路
(外管)とライニング管(内管)の拘束力特性を実験により把握し,地震による外管の 変形を内管へ作用する外力と捉え,数値解析により内管の挙動および収容された光ファ イバケーブルに作用する外力の把握を行う手法を考案することで,通信サービスの信頼 性評価を行った.また,実際の被害では,地震時の振動によるネジ部の破損箇所に地下 ケーブルが食い込むことで損傷を受けるケースがあることから,ネジ部の破損による有
効断面の縮小によるケーブル被害への影響を,継手部の繰り返し載荷試験により評価す ることで,SA管のネジ継手が破壊した場合のライニング管の光ファイバケーブル防護効 果について確認を行った.
ライニング補強工法は,管の強度特性には何ら寄与しないため,外管の損傷防止効果 は持たない.しかし,外管との摩擦特性が極めて小さいため,外管が損傷しても,内管 であるライニング管に作用する外力が低減されることにより,管内面を円滑に保つ効果 で収容ケーブルを防護することが推定できる.
(a)管軸方向の地盤ひずみに対する対策検討のまとめ
・管軸方向の振動による被害例分析を行った結果,新潟県中越沖地震における実被災箇 所の解析では,防護コンクリート両端部の継手が最大50mm程度の押込み及び引抜け により破損する結果となった.
・一般的な SA 管モデルにおいて,管路中央部に圧縮波動が作用する場合に,両端の旧 仕様伸縮継手部が50mm離脱し,管中央部で継手が30mm程度圧縮されて破壊する結 果が最大値であった.
・SA 管変位をライニング管への外力として,内管であるライニング管の挙動を解析し た結果,PVCライニング管およびFRPライニング管ともに材料破壊に至らないことが 確認できた.
・被災再現実験の結果,継手部でネジが管内部にめくれるように損傷し,ライニング無 しの場合は収容された光ファイバケーブルの外被を損傷することが確認できた.
・PVCライニングもしくはFRPライニングを施すことで,光ファイバケーブルを防護す る効果が期待できることが確認できた.
(b)管軸直角方向の地盤側方流動に対する対策検討のまとめ
・新潟県中越沖地震における盛土崩壊での実被災箇所の解析では,盛土の崩壊により,
継手が最大4°程度の屈曲を伴い破損する結果となった.
・一般的なSA管モデルに管軸直角方向の側方流動が作用するケースの解析では,SA管 およびライニング管に損傷は生じない結果となった.
・SA 管変位をライニング管への外力として,内管であるライニング管の挙動を解析し た結果,PVCライニング管およびFRPライニング管ともに材料破壊に至らないことが 確認できた.
・被災再現実験の結果,SA 管のネジ継手部は管端同士が衝突し,継手部が著しく損傷 することで,収容された地下ケーブルを全断することが確認できた.
・PVCライニング補強管は,内管がガイドとなりSA管の継手の損傷が著しく軽減され る.また,材料の柔軟性から,ネジ継手の損傷部でもライニング材に破損や切断は生 じずに,地下ケーブルを防護する効果が期待できることが確認できた.
・FRP ライニング管は,外管と内管の拘束力特性が樹脂により固着されている場合に,
ネジ部の断面の縮小箇所で内管が切断されるケースが発生した.内管が切断された場 合,内管が無い場合と同様に管端同士が衝突し,著しく継手および収容ケーブルが損 傷することから,耐震対策としては適用不可であることが確認できた.
以上の結果より,本研究におけるSA管およびライニング管の評価方法を用いることで,
レ ベ ル2地 震 の よ う な 稀 に 作 用 す る 外 力 に 対 す る 耐 震 対 策 と し て ,PVCラ イ ニ ン
図-5.1 管路設備と修復限界を満足する耐震策の適用の関係
グ補強技術が有効であり,通信サービスに影響を与えない水準あるいは長期信頼性は確 保できないが短期的にサービスを維持できるレベルである修復限界を確保できることが 確認できた.
(3) 橋梁添架管路の耐震対策
橋梁に添架された管路の耐震対策について,光ファイバケーブルの限界状態を確保す るための対策工法を検討した.橋梁添架管路の中でも,特に大変形や屈曲が懸念される 免震橋梁に添架されたケースについて耐震対策の検討を実施した.
・通信管路設備が添架された既設免震橋の中で地震時変位の最も大きな新荒川大橋をモ デルとして,地震応答解析によりレベル2地震時に添架管路に作用する水平変位量に ついて解析し,端部橋台では橋軸方向に60cm,橋軸直角方向に40cm程度の変位が添 架管に生じることが確認された.
・免震橋梁に添架された管路の変形と収容ケーブルへの影響について検討し,実験や解 析結果から既存添架設備の適用領域について整理した.
・現行仕様の添架設備では地震時に損傷してしまい通信サービスが確保できなくなる領 域について,可とう管等の市販の管材を利用した合理的な添架管の耐震対策案に関す る検討を行い,繰り返し変形試験や実地震波による振動試験を実施して,対策案の性 能評価を行った.
・対策案は,長期信頼性は保てないが,震災後の短期間は通信サービスを維持すること が可能であり,大掛かりな耐震対策がなくとも,合理的に通信の信頼性が確保できる ことが確認できた.
・最後に,既設添架設備及び対策案の適用領域について整理し,通信設備の設計者が,
免震橋梁へ添架する通信設備を検討する際に対策の要否を容易に判断できるように取 りまとめた.
図-5.1に管路設備の構成と修復限界を満足する耐震策の適用の関係を示した.地下管 路の耐震対策は,「地震動による地盤ひずみで被害の多い急曲線部・防護コンクリート 際・軟弱地盤等」,「地盤の不等沈下による被害の多い液状化エリア・橋台背面・水路越 区間等」,地下管路全般の被害に対してケーブル防護効果が期待できる.橋梁添架管路の 耐震対策は,本論文で検討した免震橋の耐震対策に加え,一般の道路橋に対しては,旧 仕様管路の伸縮性能を向上させる割り継手を適用することで,ほぼ全ての橋梁について 修復限界を満足することが可能となる.また,盛土崩壊箇所や側方流動による管路被害 でケーブルに張力が作用するケースだけではなく,全ての被害においてケーブルに作用 する張力の低減と屈曲の発生を低減するため,マンホール内でのケーブル余長確保と固 定位置対策を行うことも重要な耐震要素となる.
(4) 今後の課題
本研究の対策方針により既設管路の修復限界を確保することで,通信途絶被害や地震 直後の混乱期での応急復旧を最小限に抑え,安定期になってから損傷した管路を計画的 に現行規格管に更新することで,効率的な耐震補強が可能となる.これらの対策工法は,
被害の危険性が高い環境下にある通信管路設備について,地震発生の頻度や危険度・収 容されているケーブルの重要度や収用率・中継ケーブルネットワーク構成の冗長化度・
管路の老朽化度等の様々な要素を考慮しながら優先度を決め,効率的に管路設備の信頼 性を向上させる取り組みを継続していく必要がある.
また,これまでの被害調査では,地震時の管路損傷箇所でケーブルに直接土圧が作用 する被災事例が無かったことから,対策案の検討は行っていない.今後も様々な被害形 態が生じることが想定されるため,更にケースシミュレーションを積み重ね,通信途絶 の低減に貢献していきたい.
本論文で規定した既設管路の修復限界の考え方は,近年被害が増加している台風や水 害による地盤崩壊時の通信サービス確保等にも合理的な予防保全対策として活用してい きたいと考えている.