第4章 橋梁添架管路の耐震対策
4.5 対策案の検討と光ファイバケーブル防護対策の評価
(1) 対策案の検討
市販の可とう性を有する管材を活用することで安価な対策案の検討を行った.2 章で 提案した既設管路の修復限界の考え方を用いて,レベル2地震時には管路は多少損傷し ても,収容された光ファイバケーブルは損傷させない工法とすることで,過度な対策の 検討が不要となる.図-4.16に対策案の構成を示す.橋軸直角方向変位対策は市中の可と う管により大変位に追従可能な構造とした.橋軸方向は,管径の異なる市中管材の組み 合わせにより,免震橋の大変位に追従可能な構造とした.市中管材の中でも,調達が比 較的容易な波付硬質ポリエチレン管,金属製可とう管,硬質塩化ビニル製可とう管につ いて,曲げ試験による比較検討を行った.曲げ試験は,図-4.16に示す支持条件を再現し,
管軸直角方向に橋台を変位させることで,可とう管や継手部が損傷する限界値を測定し た.写真-4.18(a)~(c)に曲げ試験の状況を示す.また,橋台側継手部から桁端部の開口部 の間隔と可とう管が損傷した管軸直角方向の変位量の関係を図-4.17に示す.管軸直角方 向変位の最大値は想定される橋軸直角方向最大変位を超える60cm まで計測した.赤点 線で示した光ファイバ限界値は,2 章で提案した既設管路の修復限界である光ファイバ ケーブルに作用する屈曲角 60°を意味している.金属製可とう管および硬質塩化製ビニ ル管は,容易に離脱することが確認できた.写真-4.18(d)に示すように,金属製可とう管 は,離脱した可とう管の端部に光ファイバケーブルの外被が食い込むことで,光ファイ バ心線が切断する事象が発生したため,本件の対策には最も不向きであった.比較試験 の結果,単純曲げ試験では,波付硬質ポリエチレン管が最も厳しい屈曲角に対応するこ
(a)波付硬質ポリエチレン管 (b)硬質塩化ビニル管曲げ試験
(c)金属可とう管 (d)金属製可とう管損傷状況 写真-4.18 可とう管曲げ試験実施状況
(a) 波付硬質ポリエチレン管の適用領域 (b) 硬質塩化ビニル製可とう管の適用領域
(c)金属製可とう管の適用領域
図-4.17 可とう管曲げ試験による適用領域
図-4.18 対策案の繰返し変形試験概要
表-4.3 硬繰返し変形試験の試験条件 管種 支持点
間隔(cm) 収容ケーブル 測定項目 既設
添架 設備
200 150 100
<使用ケーブル>
SM1000心 光ケーブル
<張力>
250m管路収容 相当の摩擦張力
(600N)を負荷
・変位(軸方向,直角方向)
・管材の外観損傷状況
・ケーブルの外観損傷状況
・光伝送損失
(OTDR計測値)
対策案 40 30 20
とが可能であり,橋台側継手部から桁端部の開口部の間隔が10cm を超える領域では,
光ファイバの修復限界を超えても可とう管は損傷せず,通信途絶まで収容ケーブルを保 護する効果が期待できる.
(2) 繰返し変形試験による耐力確認試験
前項の結果より可とう管に波付硬質ポリエチレン管を利用した対策工法を選定し,橋 軸直角方向及び橋軸方向の大変位に対応可能であるかを繰返し変形試験により確認する こととした.図-4.16に示すように可とう部に波付硬質ポリエチレン管を利用し,かつ既 存の異径管を組み合わせることで大変位に追従可能な伸縮構造をとることで,目標値で ある橋軸方向60cm,直角方向40cmの変位に対応可能な工法の試作を行った14).図-4.18 に示すように移動台を用いて,既存の橋梁添架管路及び対策案について,橋軸直角方向
表-4.4 繰返し変形試験の結果 (a)橋軸方向繰返し変形試験
(b)橋軸直角方向繰返し変形試験
および橋軸直角方向に繰返し変形試験を実施した.
既存添架管路の試験は,対策実施の要否判定基準を確認する必要があるため,橋台側 継手と第一支持点の間隔ℓ1を標準的な200cmと既存設備では最短値レベルの100cm,
その中間値の150cmの3通りについて橋軸方向もしくは橋軸直角方向の振動を10cmき ざみで増加させ,管材の破損及び収容されたケーブルの伝送損失を確認した.
対策案の試験方法は,免震化により生じる厳しい設置環境に適用できるかを確認する 必要があるため,桁端部の開口部を管路が通過する厳しい敷設環境を想定して実施する こととした.通信管路が添架されているゴム支承の橋梁調査の結果から,橋台側継手と 桁端部開口部までの間隔で最も厳しい条件が 20cm であったことから,本試験では橋台 側継手と桁端部開口部までの間隔ℓ2を最も厳しい条件である20cmと30cm,40cmの3 通りについて橋軸方向もしくは橋軸直角方向の振動を 10cm きざみで増加させ,管材の 破損及び収容されたケーブルの伝送損失を確認した.移動台の振動周期は約10秒とし,
各振幅について3サイクルの振動を行った.表-4.3に繰返し変形試験の試験条件を示す ように,管路内には最も外径の大きいSM1000心光ケーブルを収容し,管軸方向および 管軸直角方向の変位,管材の損傷状況,収容ケーブルの外観損傷状況,光伝送損失につ
いて測定を実施した.
表-4.4 (a)に橋軸方向の繰返し変形試験の結果を示す.試験は各支持間隔毎に3回実施 し,最も早く損傷したケースを×で表示した.既存添架設備は,4.4(2)項の管軸方向変位 試験の結果と同様に±20cm程度の変位で管路が破損し,圧縮方向試験では収容ケーブル の外被に損傷が生じたが光伝送損失は生じなかった.対策案は,伸縮構造が機能し,
±60cmの変位に対して管材の損傷や収容ケーブル損傷は見られず,光伝送損失の最大値
も0dBであり,通信の機能性への影響はないことが確認できた.
表-4.4(b)に橋軸直角方向の繰返し変形試験の結果を示す.試験は橋軸方向試験と同様 に各支持間隔毎に3回実施し,最も早く損傷したケースを×で表示した.既存添架設備 は,振動を加えながら振幅を大きくする際に伸縮継手部の抜け出しが起こり,伸縮継手 に作用する曲げモーメントが緩和されることで,4.4(3)項の管軸直角方向変位試験に比べ 管材の破損発生が緩和される結果となった.図-4.19 (a)に管軸直角方向の振幅と既存添架 管伸縮継手の曲げ角度の平均値を示す.各ケースともに既存添架管伸縮継手の曲げ角度 の限界値に達する前に管軸方向の抜け出しが発生する結果となった.
対策案は,支持間隔ℓ2が40cmと30cmの場合は,直角方向振幅が60cmを越えても 管材及び収容ケーブルに損傷はなかった.支持間隔ℓ2が20cmの場合,直角方向振幅が 40cmで橋台側継手の曲げにより収容ケーブルに損傷が生じた.図-4.19 (b)に管軸直角方 向振幅と橋台側継手部が可とう管との境界部で屈曲する曲げ角度の関係を示す.図中の 赤色点線の光ファイバの修復限界角度は,2 章で提案した光ファイバケーブルの限界状 態となる角度を示している 4),15).今回の実験でも管軸直角方向の変位が大きくなると,
曲げ角度が60度以上になり,修復限界を超える結果となっている.60度以上の永久変 形が残る場合には,通信ケーブルの短期信頼性が保てなくなる.
(a) 直角方向振幅と既存添架管伸縮継手曲げ角度
(b) 直角方向振幅と対策工法継手曲げ角度
図-4.19 直角方向振幅と継手曲げ角度の関係
(3) 実地震動による性能評価試験
繰返し変形試験により,およその性能は把握できたが,さらに実地震動による既設添 架設備と対策案の挙動確認を行った.実地震波は,4.4項のT2-3-1標準波形を用いて免 震橋の時刻歴応答解析により得られた上部構造の水平方向の応答加速度波形を振動台の 加振波形として用いた.実地震波による性能評価に用いた加振波形を図-4.20に示す.こ の波形は,道路橋示方書のレベル2 タイプ2(内陸直下型)の地震動による上部構造の 応答波形である.載荷方向は管軸方向及び管軸直角方向とし,2成分同時加振を行った.
写真-4.19に示すように東京電機大学理工学部の振動台を用いて,既存の橋梁添架管路及 び対策案について,実地震動による変形試験を実施した.図-4.21に実験設備の概要を示 すように,震動台を橋台部,振動台脇につくった固定架台を橋梁部とみたてて,橋梁添架 設備を設置し,振動外力を作用させた.試験ケースは繰返し変形試験と同様に,既存添 架管路の場合,支持点間隔ℓ1を100cm,150cm,200cmの3通りについて実施,対策案 は,支持点間隔ℓ2 を20cm,30cm,40cm の3通りについて実施した.各ケースとも3 供試体について,管材の破損及び収容された光ファイバケーブルの外被の損傷,OTDR 計測による伝送損失レベルを確認した.
表-4.5 に実地震動による性能評価試験結果をまとめた.既存添架設備は,支持間隔に よらず引張方向へ 20cm 変位した位置で伸縮継手部が離脱し,その後の橋梁の振動によ り,露出したケーブルが管端部同士の衝突で擦り潰されるように光ファイバケーブルの 断線が発生した.写真-4.20に既存添架設備及び収容ケーブルの損傷例を示すが,左側写 真は離脱した管端部が衝突し,継手部が破損した事例である.衝突した継手の端部で光 ファイバケーブルが挟み込まれるように心線が断線する.右側の写真は,離脱した既存 添架管の管端部同士に大きな相対変位が生じることで,収容された光ファイバケーブル が Z 字状に急激に曲げられスロット内部の光ファイバ心線が切断された損傷例である.
(2)項の繰り返し変形試験結果と比較すると,橋軸方向に20cmの変位でまず管が離脱す
る点は同じであるが,さらに橋軸直角方向の変位と管同士の衝突が加わることで,光フ ァイバケーブルの損傷度は著しいことが確認できた.
対策案は,支持間隔によらず管材及び収容ケーブルに損傷は生じず,光伝送損失の最 大値も0dBであり,通信の機能性への影響はないことが確認できた.写真-4.21に対策案 の実地震動による加振状況を示す.また,図-4.22に支持間隔ℓ2 が20cm の場合の橋台 側継手に生じる曲げ角度の遷移を写真計測した図を示す.実地震動による継手の曲げ角 度は光ファイバケーブル修復限界である 60°を大きく下回っており,本対策案は通信サ ービスの途絶に対して安全側に機能していることが確認できた.