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「経済的構成要素」

ドキュメント内 エジプト 2012 年憲法の読解 (ページ 63-81)

14条〔国民経済・開発計画の規定,格差是正〕

国民経済は,持続的・総合的な開発の実現,生活水準の向上,福祉の充実,貧困および失 業の解消,就労機会の増加,生産力の向上ならびに国民所得の増大を目的とする。

開発計画は,社会的公正および相互扶助の創出,分配の公正性の保障,消費者の権利の保 護,労働者の権利の保全,開発支出の負担における資本と労働の相互協力,ならびに開発利 益の公平な分配を推進する。

賃金は生産と連動され,所得格差は是正され,すべての国民に尊厳ある生活を保障する最 低賃金および最低限の手当が保障されなければならない。国家公務員の賃金には上限が設け られ,法律によらないかぎり,例外を認めない。

〈解説〉

第14条は,国民経済の目的を定める第1項,開発計画の目的を定める第2項,賃金格差 の是正と賃金の上限・下限を定める第3項からなる。1971年憲法の第4条「経済体制の定義」

と第23条「国民経済・開発計画の規定」を合わせた,「変化」の条項である。

第1項では,「国民経済」al-iqtiṣād al-qawmīが「目的とする」yahdafu ilāべき内容が,

第2項では,「開発計画」khuṭṭa al-tanmiyaが実現に「努める」ta‘malu ‘alāべき内容が述 べられる。第3項では,「必要とする/義務とする」yajibuの語を軸に,国民の賃金に関し て必要な施策を定められる。

1971年憲法と比較した際の最大の変化は,国民経済と開発計画の関係性に見られる。1971 年憲法23条では,「国民経済は総合的開発計画により組織される」yunaẓẓamu al-iqtiṣād al-qawmī wafqan li-khuṭṭa tanmiya shāmilaと述べられたように,計画経済的な経済観が 見られた。これは,1954年憲法案で同内容の第36条が採用されて以来,1956年憲法7条,

1958年憲法4条,1964年憲法10条とすべての憲法に記されてきた経済体制でもある。こ れに対し,本条ではエジプトの憲法史上初めて国民経済と開発経済を分離し,これらを項 を分けて規定した。結果として,第1項「国民経済の目的」は経済発展の方向性を強調し,

第2項「開発計画の目的」は開発成果の公正な分配をより意識したものとなっている。さら に,国民所得における公正を定めたのが第3項である。1971年憲法23条においても,すで に「最低賃金の上昇」や「所得格差の是正のための最高賃金の制限」が述べられていたが,

本条第3項ではさらに,「すべての国民に尊厳ある生活の保障」yakfalu ḥayā karīma li-kull muwāṭin,「国家公務員の賃金上限」ḥadd aqṣā fī ajhiza al-dawlaなどを定めた。

このような変化から,従来の国家中心主義的経済観が後退し,国が担うべき役割が,経済 活動の実践そのものから,経済利益の公正な分配や所得格差の是正に移りつつあることが見 て取れる。しかし国に代わる新たな経済の担い手は,本憲法においてもまだ明言されない。

1971年憲法32条において「非搾取的資本」ra’s al-māl ghayr al-mustaghillと呼ばれていた 民間資本の働きについても,本条第2項にて「開発支出の負担における資本と労働の相互協 力」al-mushāraka bayna ra’s al-māl wa-l-‘amal fī taḥammul takālīf al-tanmiyaと言及され るにとどまり,国の開発計画に関わらない民間資本の活動について特に触れられない。結局 のところ,本憲法は「資本」や「民間部門」の役割について明確な回答を示すことなく,続 く第15条以下,さまざまな産業や資源を示唆し,財産権に関わる原則を述べていくことに なる。これを見る限り,「革命後」にふさわしい新たな経済の体制・思想はいまだ模索の途 上にあるようだ。

〈関係条項〉

15条〔農業保護・国有地利用〕

農業は,国民経済の基本構成要素である。国は,農耕地の保護およびその拡大に責務を有 し,作物,植物品種,家畜および水産資源の開発,それらの保護,食糧安全保障の実現,農 業生産に必要な投入財の提供,農業経営および流通の改善ならびに農産加工業の支援を推進

する。

国有地の利用は法律により組織し,社会的公正を実現し,農民および農業労働者を搾取か ら守るものとする。

〈解説〉

第15条は,経済の基本構成要素の一つとしての農業を扱う。国による農業保護を述べる 第1項と,国有地の利用方法を定める第2項からなる。農地所有の制限などを中心とする 1971年憲法37条と比べ,内容を大きく変更した,「変化」の条項である。

第1項では,国が「農業」al-zirā‘aの関係者に保障する,さまざま保護や権利が示される。

その筆頭に挙げられるのが,「農耕地の保護およびその拡大」ḥimāya al-ruq‘a al-zirā‘iyya

wa-ziyādat-hāである。農耕地の保護は,都市近郊地の不法な宅地化による農耕地の減少や

質的低下に対する対策であり,農耕地の拡大は,エジプト農政用語にいう「水平的拡大」 al-tawassu‘ al-afqā,すなわちナイル川流域の外部に広がる沙漠地の開墾を指す。この沙漠地 の開墾は,第2項に規定された「国有地」arāḍī al-dawlaの公正な利用とも関わる。ナイル 川流域の農耕地はその大半が私有地であるが,国土の約9割を占める沙漠地は国有地とされ,

その開墾と分配は現代農政の重要課題の一つと見なされている。

なお,この第2項の末尾に,「農民および農業労働者を守る」yaḥmī al-fallāḥ wa-l-‘āmil al-zirā‘ī min al-istighlālという表現があるが,これは1971年憲法37条に由来する。この表 現は,1971年憲法では,「法律は農地所有の上限を定める」yu‘ayyinu qānūn ḥadd al-aqṣā li-l-milkiyya al-zirā‘iyyaと一対にされていた。他方,「法律は農地所有の上限を定める」

との規定に続くのは,1964年憲法17条では「小規模農地保有の保護策を講じる」であり,

1956年憲法12条では「封建制が成立しないよう」bimā lā yasmaḥu bi-qiyām al-iqṭā‘であっ た。このように,この一文は本来は農地の所有に関わる規定であり,農地所有に関する体制 の見解を反映するものであった。ところが,本条では,「農地所有の上限」ではなく「国有 地の利用」に接合されている。このことは,本憲法に「農地所有の上限」に関わる条項が存 在しないことと合わせて,エジプトにおける農業および農地所有の新たな状況を示唆してい る。すなわち,農業は土地の支配が危険視される場ではなく,新たな利益を生み出す可能性 に満ちた場として再定義されているのである。

〈関係条項〉

16条〔農民・沙漠民の開発〕

国は,農村部および沙漠部を開発する責務を有し,農民および沙漠民の生活水準の向上に 努める。

〈解説〉

第16条は,エジプト社会の農村部と沙漠部に対する国の関与を定める。1971年憲法16 条に示唆された村落への配慮を受け継ぎつつ,大幅に拡大させた,「変化」の条項である。

本条は,「国」を主体として,「責務を有する」と「努める」の動詞とする二つの文章か らなる。「農村部/農村社会」al-rīfおよび「沙漠部/遊牧社会」al-bādiyaに対する「開 発」tanmiya,およびそれらの住民である「農民」al-fallāḥīn

および「沙漠民/遊牧民」al-bādiyaの生活水準の向上に対する国の関与を定める。

これに近い内容を示す1971年憲法16条は,二文からなり,前半部で「国は文化的・社 会的・保健衛生的サービスを提供する」という一般的な福祉体制を述べ(これは本憲法62 条「保健・医療を受ける権利」に受け継がれた),後半部で「国はこれらサービスを特に村 落に広げ,その〔生活〕水準の向上の促進と体系化に努める」として,「村落」al-qaryaに 対する特別な関与を認めていた。本条は,この後半部を受け継ぎつつ,対象を「村落」から「農 村部」と「沙漠部」に拡大したものである。中央から地方への開発介入と支援を明言した条 項といえるだろう。

〈関係条項〉

17条〔工業の保護〕

工業は,国民経済の基本構成要素である。国は,戦略的工業を保護し,工業的発展を支援 し,最新技術の移転およびその適用を保障する。

国は,手工業および中小工業を守る。

〈解説〉

第17条は,基本経済要素の一つとしての工業に対する国の関与を規定する。国による工 業支援を定める第1項,中小工業の保護を定める第2項からなる。1971年憲法28条にわず かに言及された手工業の推進を大きく拡大させた,「変化」の条項である。

第1項では,冒頭で「工業は国民経済の基本構成要素である」と宣言した後に,「国」に よるさまざまな工業保護・支援の姿勢が定められる。ここでは,「戦略的工業」ṣinā‘āt al-istirātījiyya,「工業的発展」al-taṭawwur al-ṣinā‘ī,「最新技術の導入およびその適用」tawṭīn al-tiqniyāt al-ḥadītha wa-taṭbīqāt-hāなどの語彙が用いられるが,これらはすべて,1971年

憲法および過去憲法のいずれにも見られなかったものである。冒頭の宣言と合わせて,この 第1項は完全に新規の項目である。

第2項では,「国」を主語として,「手工業および中小工業を守る」tar‘ā … ṣinā‘āt al-ḥirafiyya wa-l-ṣaghīraことが掲げられる。市場経済における競争を前提とした,国内の中 小企業保護の姿勢であり,競争を勝ち抜くための積極的な支援策を表した第1項の内容と 好対照となしている。第2項の「手工業」の表現については,「協同事業」munsha’āt

al-ta‘wūniyyaに対する国の保護・支援を定めた1971年28条において,「生産の発展および所

得の増加が保障されるよう」,国が「手工業を推進する」tushajji‘u al-ṣinā‘āt al-ḥirafiyyaこ とが述べられていた。

したがって,本条は,1971年憲法28条に示された「手工業」の語を背景としながら,内 容的には,工業を農業など他の産業と並ぶ国民経済の基本構成要素と位置づけ,工業に対す る国の積極的な支援を定めるものとして,抜本的な内容改正を施したものだといえる。第 15条で「農業」が農地所有の規定から生産の拡大が期待される産業として再定義されたよ うに,本条においても,「工業」は,単なる保護の対象から可能性を秘めた産業として改め て定義されたといえる。

〈関係条項〉

18条〔自然資源・国有財産の保護〕

国の自然資源は,人民の所有物であり,人民はその利益を得る権利を有する。国は,自然 資源の保全,その適正な利用およびこれに対する次世代の権利の保護に責務を有する。

国有不動産の処分,その利用に係る優先許可もしくは公共施設の設置義務は,法律にもと づかないかぎり,行うことができない。

所有者のない財産は,すべて国有財産とする。

〈解説〉

第18条は,自然資源の保護・管理を定める。国の自然資源を人民の所有物とする第1項,

国有地の保護・管理を定める第2項,所有者のない財産の国有化を定める第3項からなる。

1971年憲法には該当するものがない,「新規」の条項である。

本条第1項は,「国の自然資源」al-tharwāt al-ṭabī‘iyya li-l-dawlaを「人民の所有物」milk

al-sha‘bと定める。この規定は,1971年憲法には先例がないが,これより以前の過去憲法に

は類似したものが存在していた。たとえば,1964年憲法11条では,「自然資源は,地中に 存在するものであれ,域内の水資源であれ,すべて国の財産である」と規定されていた。た だし本条とは異なり,自然資源はすべて「国有財産」milk al-dawlaと見なされ,「人民」に

ドキュメント内 エジプト 2012 年憲法の読解 (ページ 63-81)