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「個人的権利」

ドキュメント内 エジプト 2012 年憲法の読解 (ページ 81-95)

31条〔尊厳の保護〕

尊厳は,すべての人間の権利である。社会および国は,尊厳の尊重および保護を保障する。

何人に対する侮辱もしくは軽視は,決して認めない。

〈解説〉

第31条は,人間の尊厳を主題とする。尊厳の保障を定める第1項と,尊厳の侵害を禁止 する第2項からなる。1971年憲法にはない,「新規」の条項である。

第1項では,「尊厳」al-karāmaを主語として,これを「すべての人間の権利」ḥaqq

li-kull insānとして提唱する。この「人間の尊厳」karāma al-insānの尊重は,本憲法の前文

においても,1月25日革命のスローガン「パンを,自由を,社会的公正を,人間の尊厳を」

を通じて強調されている。この「尊厳の保護」という表現は,すでに1971年憲法42条に 見られ,刑事施設に収用・勾留された者に対する扱いにおいて,「その者の人間の尊厳が守 られるよう」bi-mā yuḥāfaẓu ‘alay-hi karāma al-insānと述べられていた。しかし実際には,

被収容者に対する非人道的扱いがしばしば起きたと伝えられ,これに対する怒りが1月25 日革命を引き起こした原動力の一つであったとさえいわれる。その意味で,今回の2012年 憲法を象徴する条項であり,第2編「権利と自由」第1章「個人的権利」の冒頭という位置 を与えられたことも理解できる。

なお,第1項末では,「社会および国」al-mujtama‘ wa-l-dawlaがこうした尊厳の尊重と 保護を保障することが述べられる。第8条「家族の維持」や第22条「公有財産の保護」では,

「国および社会」al-dawla wa-l-mujtama‘という語順であったが,ここでは反対に,社会が 筆頭に挙げられている。

第2項では,「侮辱/人に侮辱を与えること」ihānaと「軽視/人を軽蔑をもって扱うこと」

izdirā’について,これらを「行ってはならない/認めない」lā yajūzuことが定められる。「決

して」bi-ḥālは,否定を強調する表現であるので,強くこれらの行動を戒める意味を示す。

この規定は,倫理的な戒めのようにも見えるが,より強い「権利・義務」の規定として,公 的な侮辱や軽視を刑事罰の対象とする社会統制に利用される可能性もある。

〈関係条項〉

32条〔国籍規定〕

エジプト国籍は権利であり,法律により組織する。

〈解説〉

第32条は,国籍を規定する。1971年憲法6条と内容構成上ほぼ同じであるが,変更が見 られる,「変化」の条項である。

本条では,「エジプトの国籍」al-jinsiyya al-miṣriyyaを主語として,これを「権利」ḥaqq と提唱し,法律により組織されることが定められる。これに先立つ1971年憲法6条では,「エ ジプト国籍は法律により組織する」al-jinsiyya al-miṣriyya yunaẓẓimu-hā al-qānūnと定め られており,本条で新たに「権利である」との語が挿入されたことがわかる。1964年憲法 4条「国籍は法律で定める」al-jinsiyya yuḥaddidu-hā al-qānūnのように過去憲法では1971 年憲法の構文がとられていたため,「国籍は権利である」と定めたのは本憲法が初めてとなる。

ただし,この変更の意図は定かではなく,1958年憲法から1971年憲法までそれぞれ第1 編「国家」の2条,4条,6条であったものを,今回第2編「権利と自由」に移すための便 宜的な語の付与にすぎない可能性もある。同内容の条項は1923年憲法から1956年憲法ま で第2編「権利と義務」に置かれていたため,この語がなくとも国民の権利の一つと認識さ れていると考えられるが,長年固定されていた表現にあえて一語を加えたことから,「変化」

の条項と見なす。

〈関係条項〉

「ベルギー国民の資格は,民事法の規定するところに従い,これを取得,保持および喪失する。

〔後略〕」(1831: 4,清宮1976: 70)

「帰化は,立法権によって,これを許可する。〔後略〕」(1831: 5,清宮1976: 70-71)

33条〔国民平等の原則〕

国民は,法の下に平等である。国民は,公の権利および義務において平等であり,国民の 間に区別を設けない。

〈解説〉

第33条は,国民平等の原則を定める。1971年憲法40条をほぼ踏襲したものだが,末尾 の表現に変更が見られる,「変化」の条項である。

冒頭の「国民は法の下に平等である」al-muwāṭinūn ladā al-qānūn sawā’,「公の権利お よび義務において平等である」humma mutasāwwūn fī al-ḥuqūq wa-l-wājibāt al-‘āmmaは,

1971年憲法40条と同じで,同様の表現は1923年憲法3条にまでさかのぼる。主語の「国民」

al-muwāṭinūnは,1923年憲法から1964年憲法までの間(アラブ連合憲法である1958年憲

法をのぞき),「エジプト人」al-miṣrīyūnと表記されていた。「国民間の平等」al-muwāṭana を国民統合原理としてこれまで以上に重視する姿勢が見られる。

末尾の「国民の間に区別を設けない」lā tamyīz bayna-hum fī dhālikaは,1971年憲法40 条では,この後にさらに「人種,出自,言語,宗教もしくは信条を理由とする」bi-sabab al-jins aw al-aṣl aw al-lugha aw al-dīn aw al-‘aqīdaという区別を行う基準となる項目が五つ 列挙されていた。(1923年憲法および1930年憲法の第3条では,「出自,言語もしくは宗教 を理由とする」bi-sabab al-aṣl aw al-lugha aw al-dīnの三点が示されていた。)1956年憲法 から2011年憲法宣言に至るまでほぼ同様の形で記されてきたが,本条ではこの一節が省略 されている。こうした項目が削除された理由は定かではなく,項目を挙げないことにより「区 別を設けない」ことが強調されたのか,弱められたのかも明確ではない。しかし,長年過去 憲法において採用されてきた先例に手を加えたことには何らかの意図があるはずであり,こ の点をもって「変化」の条項とする。

なお,本憲法6条の第2項末尾に,「人種,出自もしくは宗教を理由とする」bi-sabab al-jins aw al-lugha aw al-dīnという類似する表現が加えられているが,これは1971年憲法5 条の2007年改正により加えられたもので,本憲法にそのまま受け継がれた。

〈関係条項〉

「国内にいかなる身分の区別も存してはならない。

ベルギー国民は,法律の前に平等である。ベルギー国民でなければ,文武の官職に就くこ

とができない。ただし,特別の場合に,法律によって例外を設けることを妨げない。」(1831:

6,清宮1976: 71)

「ベルギー国民に認められる権利および自由の享有は,差別なく確保されなければならない。

この目的のために,法律および命令は,とりわけ,イデオロギーおよび哲学上の少数者の権 利および自由を保障するを要する。」(1981: 6-2,清宮1976: 71)

34条〔人身の自由の不可侵〕

人身の自由は,生来の権利である。これは,守られ,侵害されない。

〈解説〉

第34条は,人身の自由の不可侵の原則を定める。1971年憲法41条の冒頭と同一で,「維 持」の条項である。

本条が定める「人身の自由」al-ḥuriyya al-shakhṣiyyaとは,個人の身体を拘束されない自 由を指し,「身体の自由」や「個人の自由」とも表記される。本条後半の主語「これ」hiyaは,

三人称女性単数の人称代名詞であるため「人身の自由」を指すものと考えられる。

本条に先立つ1971年憲法41条では,この一文に続き,逮捕や拘置等により当局から人 身の自由を侵害された場合の手続規定が続くが,本憲法ではこの内容を続く第35条に分割 して一条をなし,内容を大幅に拡大させた。したがって,本条は,形式的には1971年憲法 41条と同一ではないが,本条の内容は1971年憲法41条の該当部分と重複するため,「維持」

の条項とする。

同内容の条項は,古くは1923年憲法4条に「人身の自由は保障される」として規定され ていた。しかし,1954年憲法案から1964年憲法までこの条項は存在せず,「法の支配」を 掲げた1971年憲法になって再度採用されることになった。その際にかつての「保障される」

makfūlという表現に代わり,「生来の権利である」ḥaqq ṭabī‘ī,「守られ,侵害されない」

maṣūna lā tamassuといった,より強い表現が導入された。

〈関係条項〉

「個人の自由は,これを保障する。

何人も,あらかじめ法律の定めた場合に,法律の定める方式によるのでなければ,訴追さ れない。

現行犯の場合をのぞいては,何人も,裁判官が理由を附して発する令状によらなければ,

逮捕されない。逮捕状は,逮捕のとき,または遅くとも逮捕ののち二四時間以内に,これを 示さなければならない。」(1831: 7,清宮1976: 71)

35条〔逮捕法定主義,人身の自由の侵害〕

現行犯の場合をのぞき,何人も,捜査に必要とされる理由を付した司法命令によらないか ぎり,逮捕,捜索もしくは拘禁されず,移動を禁止されず,またはあらゆる拘束による自由 の制限を受けない。

自由を制限されたすべての者は,その理由を,書面により12時間以内に通知されなけれ ばならず,かつ自由の制限の時から24時間以内に捜査当局に引渡されなければならない。

当人の取調べは,弁護人が同席する場合をのぞき,行うことができない。当人に弁護人がい ないときは,弁護人が付される。

自由の制限およびその他の制限を受けたすべての者は,その措置について,裁判所に不服 を申立てる権利を有する。不服申立てに対する決定は,1週間以内に下される。決定が下さ れなければ,当人は必ず釈放されなければならない。

未決拘禁の規定,期間および理由は,法律で定める。未決拘禁,または実刑が下された原 判決の破棄を認める最終判決の前に原判決にもとづきすでに実行された処罰に係る補償の要 求およびその実施の条件は,法律で定める。

〈解説〉

第35条は,前条で定めた「人身の自由」を制限する拘束の手続規定を定める。逮捕の法 定性を定める第1項,拘束の理由通知を定める第2項,被拘束者の不服申立ての権利を定め る第3項,未決拘禁を定める第4項からなる。1971年憲法41条および71条に由来するが,

内容面で追加点が多い,「変化」の条項である。

逮捕の法定性を定める第1項は,1971年憲法41条の第1項から冒頭の一文をのぞいた 内容を受け継いでいる。「現行犯である場合」ḥāla al-talabbusを例外として,原則的に,司 法命令にもとづかない「逮捕」al-qabḍ,「その者の捜索」 taftīsh-hu,「その者の拘禁」ḥabs-hu,「その者に移動を禁じること」man‘-hu min al-tanaqqulおよび「その者の自由を制限す ること」taqyīd ḥurriyat-hiを認めないことを明言する。このなかで,「移動の禁止」は本条 から追加されたものである。1964年憲法以前の憲法では,「逮捕」と「拘禁」のみが言及さ れていた。「現行犯の場合をのぞいては」という条件節は,1831年ベルギー憲法7条には 見られるが,1971年憲法までエジプトの過去憲法においては採用されていなかった。また,

ドキュメント内 エジプト 2012 年憲法の読解 (ページ 81-95)