• 検索結果がありません。

「権利および自由の保護の保障」

ドキュメント内 エジプト 2012 年憲法の読解 (ページ 130-138)

74条〔法の支配,司法の独立〕

法の支配は,この国における統治の基礎である。

司法の独立および裁判官の不可侵性は,権利および自由を保護する基本的な保証である。

〈解説〉

第74条は,「法の支配」など権利・自由を支える原則を定める。法の支配を定める第1項,

司法の独立を定める第2項からなる。1971年憲法64,65条を統合した,「変化」の条項である。

第1項では,「法の支配」siyāda al-qānūnについて,「この国における統治の基礎」asās

al-ḥukm fī al-dawlaと定める。これは,この表現が初めて採用された1971年憲法64条と

同一である。「法の支配」は,1971年憲法の目玉条項の一つであった。

第2項では,「司法の独立」istiqlāl al-qaḍā’と「裁判官の不可侵性」ḥaṣāna al-quḍāを 主語として,これら二つの要素が権利・自由を保護のための「基本的な保証」ḍamānatān

asāsiyyatānであることを述べる。この表現は,1971年憲法65条とよく似るが,二点異な

る。一つは,1971年憲法では主語が「司法の独立およびその不可侵性」istiqlāl al-qaḍā’

wa-ḥaṣānat-huであったが,本条では上述の通り,「司法の独立および裁判官の不可侵性」となっ

ている。1971年憲法で用いられるquḍā’の語は,「裁判官」qāḍīの複数形である。「不可侵性」

と訳出したḥasānaの語は,本来は「他から干渉されないこと/権限を侵されないこと」を 意味する。したがって,1971年憲法では「司法」al-qaḍā’の「独立と不可侵性」が規定され ていたのに対し,本条では,「司法の独立」と,「司法」を体現する存在である「裁判官」の

「不可侵性」が定められており,より詳細な規定になっている。

もう一つの違いは,1971年憲法では「二つの保障」ḍamānānという語であったのに対し,

本条では「二つの保証」ḍamānatānに変えられた点である。ḍamānaの語は,「保証となる もの/担保」を意味するので,権利・自由の保護を直接に「保障」するのではなく,それら の保護を「担保するもの」を表す。このように,本条では言葉遣いをより精緻化している。

〈関係条項〉

75条〔裁判を受ける権利,例外裁判所の禁止〕

裁判を受けることは,すべての人々にとって,守られ,保障される権利である。

国は,裁判受付機関の近接化,および訴訟における審理の迅速化に責務を有する。

いかなる行政上の行為もしくは命令を司法の監督から外すことは禁止される。

何人も,通常の裁判官の面前でないかぎり,裁かれない。例外裁判所は禁止される。

〈解説〉

第75条は,「裁判を受ける権利」の原則を定める。この権利を定める第1項,裁判の環境 を整える国の責務を述べる第2項,行政命令に対する司法権の監督を定める第3項,例外裁 判所の禁止を定める第4項からなる。1971年憲法68条に変更・追加を加えた,「変化」の 条項である。

第1項では,「裁判を受けること」al-taqāḍīは,「すべての人々にとって」li-l-nās kāffatan,

「守られ,保障される権利」ḥaqq maṣūn wa-makfūlと定められる。これは,1971年憲法68 条の冒頭に同一表現が見られる。「裁判を受けること」という言葉を用いた規定は,1971年 憲法が初めてで,それまでは,「司法に訴えることは権利である」al-iltijā’ ilā al-qaḍā’ ḥaqq という表現がよく見られ,1954年憲法案12条を初出として1971年憲法68条にも収録され ていた。こちらは,「すべての国民にとっての権利」li-kull muwāṭin ḥaqqと規定されてい たので,「裁判に受けること」の規定の方が,「すべての人々」に対して認められた権利とし て,より普遍的な権利のあり方を表している。この「司法に訴える権利」は,本条では第1 項には用いられず,これを改変したものが第4項に見られる。

第2項では,「国が責務を有する」こととして,前項で述べた裁判を受ける権利をより具 体的に実現するための裁判機関が「近くに存在すること」taqrīb,そして「すばやく審理 を行うこと」sur‘a al-faṣlの二点を示す。これは,同じく1971年憲法68条に由来するが,

1971年憲法の「保障する」takfaluが「責務を有する」taltazimuに代わり,「裁判を受ける 者を司法機関を近づけること」taqrīb jihāt al-qaḍā’ min al-mutaqāḍīnが「裁判受付機関の 近接化」taqrīb jihāt al-taqāḍīに変更された。

第3項では,「禁止される」yuḥẓaruの語を用いる。主語のtaḥṣīnは,「~を(minから) 接近/干渉しないようにすること」であるので,「行政上の行為もしくは命令」‘amal aw

qarār idārīを「司法の監督」raqāba al-qaḍā’から「除外しないこと」の禁止を定める。す

なわち,あらゆる行政行為・命令を司法の監督下に置くことを命じた規定であり,例外規定 は存在しない。1971年憲法68条では,「法律において~を除外する条項を設けることは禁 止される」yuḥẓaru al-naṣṣ fī al-qawānīn ‘alā taḥṣīn~と述べられていた。本条では,文章構 成が簡略化されている。

第4項は二つの文章からなり,一つめは「…しない~はない」lā ~ illā …という二重否定 構文を用いる。ここでは,「通常の裁判官の面前でないかぎり」illā amāma qāḍī-hi al-ṭabī‘ī,

「人は裁かれない」lā yuḥākamu shakhṣことを定める。1971年憲法68条には,第1項でも 述べたように,「すべての国民は通常の裁判官に訴える権利を有する」という規定が存在し ていた。このなかの「通常の裁判官に」amāma qāḍī-hi al-ṭabī‘iの点が強調されて,第4項 の表現に受け継がれたともいえる。ただし,1954年憲法案を見ると,「裁判に訴える権利」

は第12条で,「人は通常の法廷でないかぎり裁かれない」lā yuḥākamu aḥd illā amāma

al-qaḍā’ al-‘ādīは第20条で,それぞれ別に規定されていた。したがって,この第4項の規定

はこれら二つを統合したとも,混同したともいえる。

第4項の二つめの文は,簡潔に,「例外裁判所」al-muḥākama al-istithnā’iyyaは「禁止 される」maḥẓūraと定める。この規定は1971年憲法にはなく,本条から新たに加えられた ものである。本憲法では第198条に「軍事法廷」al-qaḍā’ al-‘askariyyaの規定が存在するた め,これは「例外裁判所」には含まれないようだ。また第153条には,在任中の大統領に 対する告訴を審判する「特別裁判所」al-maḥkama al-khāṣṣaの規定が存在するが,これも

「例外裁判所」とは異なる範疇と考えられる。実際,こうした規定を唯一含む過去憲法条項 である1954年憲法案20条では,「特別裁判所もしくは例外裁判所における審判は禁止する」

tuḥẓaru al-muḥākama amāma maḥākim khāṣṣa aw istithnā’iyyaとし,続けて,「文民は軍 事裁判所では裁かれない」lā yuḥākamu madanī amāma al-maḥākim al-‘askariyyaと規定す る。この表現によれば,「例外裁判所」とは,「通常の裁判所」の枠内で行われるべき裁判を 例外的に行うものを指し,大統領専用の「特別裁判所」や軍人専用の「軍事法廷」は,裁判 の管轄体系がそもそも異なるものと理解できる。

〈関係条項〉

「何人も,その意に反して,法律の定める裁判官の裁判を受ける権利を奪われない。」(1831: 8,

清宮1976: 71)

76条〔刑罰個人主義,罪刑法定主義,処罰の適正手続,遡及処罰の禁止〕

刑罰は個人に属する。犯罪および刑罰は,憲法もしくは法律の規定によらないかぎり,定 められない。刑罰は,司法判決によらないかぎり,科されない。法律の施行日以後になされ た行為でないかぎり,処罰されない。

〈解説〉

第76条は,「刑罰」に関わる諸原則を定める。多くの要素が単一の項に詰め込まれている が,1971年憲法66条にほぼ同一文言が見られる,「維持」の条項である。

本条の内容は,大きく四つの文章に分けられる。一つめは,冒頭の「刑罰は個人に属する」

al-‘uqūba shakhṣiyyaで,これは,1971年憲法66条においても同一表現で,同じように冒

頭に置かれていた。この規定は,1954年憲法案17条に初めて採用され,その後1964年憲

法26条までは単独の条項をなしていたが,1971年憲法で他の条項と統合され,本条に至る。

この規定の意味は,1954年憲法案17条においてよく言い表されており,「刑罰は個人に属し,

罰せられる個人およびその者の権利を超えない」ことであろう。

二つめは,「犯罪および刑罰は,憲法もしくは法律の規定によらないかぎり,定められない」

lā jarīma wa-lā ‘uqūba illā bi-naṣṣ dustūrī aw qānūnīで,「…以外は~しない」lā ~ illā … という二重否定構文が用いられている。1971年憲法66条では「法律にもとづくものでない かぎり」illā binā’an ‘alā qānūnと表現されていて,本条ではこれに「憲法の」dustūrīを追 加した。いわゆる「罪刑法定主義」を表した規定であるが,この規定自体は一つめの「刑罰 個人主義」よりも歴史が古く,1923年憲法6条に原型を見ることができる。

三つめは,同じく二重否定構文により,「刑罰は司法判決によらないかぎり科されない」

lā tuwqa‘u ‘uqūba illā bi-ḥukm qaḍā’īと定める。1971年66条に同一表現で記されてい た。これが最初に採用されたのは1954年憲法案14条で,「人の監視または処罰は,司法 権による理由を付した命令によらないかぎり,行ってはならない」lā yajūzu murāqaba aw ta‘qqubu-hu illā bi-amr musabbab min al-sulṭa al-qaḍā’iyyaとされていた。その後,1971 年憲法66条となり,本条に至る。いわゆる「刑罰の適正手続」を定めたものである。

最後に四つめは,「法律の施行日以後になされた行為でないかぎり,処罰されない」lā ‘iqāb illā ‘alā al-af‘āl al-lāḥiqa li-tārīkh nafādh al-qānūnである。1971年憲法66条でもまったく 同一の文言で記されていた。この規定は,「罪刑法定主義」と同じく,1923年憲法6条にさ かのぼる古い規定で,ほぼ同じ表現で,「それを定める法律の公布以後になされた行為でな いかぎり,処罰されない」と述べていた。いわゆる「遡及処罰の禁止」の原則を表したもの である。

〈関係条項〉

「いかなる刑罰も,法律によらなければ,これを設け,または科してはならない。」(1831: 9,

清宮1976: 71)

77条〔刑事訴訟,無罪の推定,控訴,証人の保護〕

法律の定める場合をのぞき,刑事訴訟は,管轄の司法機関からの命令によらないかぎり,

起こされない。

被告人は,当人の弁護が保障された,公正で適法な裁判により有罪が宣告されるまで,無

ドキュメント内 エジプト 2012 年憲法の読解 (ページ 130-138)