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終わりに

ドキュメント内 学位授与年月日 2020‑03‑21 (ページ 128-170)

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プライス・インパクトでは28.9%の PTS シェアが最適であると推定された。つまり、スプ レッドではやや高いフラグメンテーション比率が望まれるのに対して、プライス・インパク トでは市場の競争が並列していながら東証中心の市場形成が求められるという、流動性ご との異質性が認められる推定結果が得られている。このことによって、政策的に市場間競争 を活性化させる場合において、流動性を最適化するようなマーケットデザインが存在する ことが示唆されている。

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といった推定バイアスに対処してきた。しかし同時決定の問題については完全に解決でき ているとは言えない。具体的には、「フラグメンテーションが、流動性を決定している」の 逆の因果「東証の流動性が、フラグメンテーションの誘発要因となった」という逆の因果に 対処しなければならない。この場合、先行研究で用いられたような2SLS など推定方法を拡 充してゆく必要がある。最後に、フラグメンテーションが流動性向上に寄与するメカニズム の解明に言及していないことである。例えば、PTS に情報優位な注文がより多く集中する から、東証での逆選択コストが減り、スプレッドが低下した、というようなメカニズムが検 証されていない。このような、より詳細なマーケットメカニズムの解明は、流動性の反応の 違いや最適フラグメンテーションの説明を行う上で重要になると考えられる。

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7 章 終わりに

本論文では、マイクロストラクチャー研究で用いられる理論分析および実証分析を通し て、証券市場の効率性がどのように形成されるかについて検討を行った。

最後に、本論文で得られた結論と残された研究課題について言及する。

本論文で得られた結論は、次のとおりである。まず、第 2 章ではマーケットの形態ごと に異なる基本モデルを分析し、流動性と価格発見力に関する理論分析を行っている。その 結果、合理的期待均衡モデルでは流動性と証券価格の関係や、価格発見力と効率的市場仮 説との関係性を明示的に分析することができている。これによって、証券市場の効率性の 形成についての基礎的な結果が整理されている。逐次トレードモデルでは、流動性と価格 発見力の動学的な性質に焦点を当てて分析した。証券ディーラーの学習過程によって流動 性が変動することや、価格発見力についてマルチンゲール性が成立するなどの性質は、静 学的な合理的期待均衡モデルでは得られないものであり、証券市場の効率性形成メカニズ ムの説明を補完するものとなっている。戦略的トレードモデルでは、トレーダーの戦略的 な投資行動がどのように流動性や価格発見力に影響を与えるかを分析している。以上のこ とから、第 2 章では流動性と価格発見力の分析について包括的な理論分析の枠組みを提示 している。

第 3 章では、株式市場における情報の非対称性と流動性の関係性について実証分析を行 った。ここで用いられたのは、VPIN と呼ばれる非対称情報の大きさおよび価格発見力を 計量化する指標である。その結果、TOPIX Core30 銘柄という大型株式について、逐次ト レードモデルで導出された逆選択リスクが流動性を低下させる要因となっていることを突 き止めた。このことは、日本の株式市場の流動性が理論仮説と整合的に形成されているこ とを明らかにしたものである。一方で、板の厚みが売り価格側と買い価格側で異なった形 成となっていることを示唆する結果も得られており、トレーダーの投資行動について新し い事実を発見している。

第4章と第 5 章では、IPO 市場に着目し、証券市場の流動性が企業の財務政策に与える 影響を分析している。第4章では、新規上場時の公開価格の低下に流通市場の流動性が影 響することを理論モデルで証明している。理論モデルを拡張するにあたり、戦略トレード モデルが応用されている。プライス・インパクトの上昇が公開価格を低下させ、企業の資 金調達環境を悪化させてしまうというのが第 4 章の結論であり、証券市場の効率性が向上 することの重要性を指摘している。第 5 章では、第4章のモデル分析の結果・仮説を実証 的に明らかにするものである。得られた結果は、すべての上場企業にとって流動性が公開 価格の低下要因となっているというわけではないが、小型上場ではその傾向が実証されて いるというものである。このことは、企業が主体的に流通市場の流動性を向上させるよう な財務政策や上場契約を交わすことの重要性を示唆している。また、流動性指標によって

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もその結果は異なっており、どの流動性要因が企業の資金調達と関連するかについての示 唆を与えている。

第 6 章では、株式市場の市場構造の変化に着目し、証券市場の効率性がどのように変化 したかを明らかにすることを試みている。東証以外で株式が取引されるフラグメンテーシ ョンという現象に注目し、その東証への影響を推計している。その結果、流動性指標によ って程度は異なるものの、フラグメンテーションが進む状況の時、東証での流動性も高ま っているという結論が得られている。また、過剰なフラグメンテーションは東証の流動性 を悪化させることから最適なフラグメンテーションの比率が存在することが明らかとなっ った。このことは、株式市場の制度設計を行う上で東証以外の市場が参入することについ て政策的な示唆を与えている。

以上の結論を得た本論文であるが、残された課題も存在する。ここでは、主な 3 点につ いて言及する。1つめは、理論モデルと実証分析との両立化による分析の発展である。第 4章と 5 章のように、モデル分析とデータの実証が両立されることは現実の証券市場での トレーダーの投資行動を定式化し、証券市場の効率性を評価・予測をする上で重要であ る。例えば、第 3 章では理論分析では導かれていない、売り価格側と買い価格側でのトレ ーダーの反応が観察されている。このような現象について、理論的な仮説をもって説明す ることで、証券市場の流動性や価格発見力の形成メカニズムをより深く追求できるように なると考えられる。

2つめは、実証分析の精緻化である。第 2 章で説明したように流動性や価格発見力は、

トレーダーの投資行動と深く関係しており、どのようなトレーダーを想定するかによって も要求する流動性の概念などは大きく異なっていた。したがって、流動性や価格発見力の 測定をより精緻化して、現実の証券市場の実態を実証することが課題となる。これには、

高頻度データの活用や分析手法の改良が不可欠であり、より優れた実証方法を追求するこ とは重要な課題の1つである。

3つめは、1つめと2つめに関連して理論分析の動学化をすることである。証券市場は 絶えず価格が変動する動学的な市場であり、常に流動性や価格発見力も変動していると考 えられる。第 2 章の逐次トレードモデルでは、このような流動性や価格発見力の動学的性 質に触れたが、指し値板方式でどのような価格形成が行われているかなどは完全に明らか となっていない。また、トレーダーの学習行動やファンダメンタルの変動などを許容した モデルの構築が課題となっている。このような動学的モデルを分析することは、現実の証 券市場における流動性や価格発見力の測定を改良するためにも意義深いことである。

以上 3 点について、研究課題を示した。これらの課題については、筆者に残された今後 の研究課題としたい。

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図表一覧

図 1-1 本論文の章立てと全体の構成について

第2章 証券市場の効率性と マイクロストラクチャーの 基本モデル

2.2 ザラ場方式と 合理的期待均衡モデル

2.3 証券ディーラー方式と 逐次トレードモデル

2.4 バッチマーケット方式と 戦略的トレードモデル

2.5 流動性と価格発見力の 実証分析手法

第3章:マイクロストラクチャーの観点

「日本株式市場における情報の非対称性と市場流動性」

・逐次トレードモデルから派生したVPIN指標と流動性の関係を分析

第4章:コーポレートファイナンスの観点

「IPO市場におけるアンダープライシングと市場流動性プレミアム」

・バッチマーケット方式を応用したIPO市場の理論分析

第5章:コーポレートファイナンスの観点

「新規上場市場における過小値付け問題と市場流動性」

・第4章で提示された公開価格に対する流動性プレミアムの検証

・流動性指標と公開価格との関係を分析

第6章:マーケットデザインの観点

「日本株式市場のフラグメンテーションと東証へのインパクト分析

・株式市場におけるフラグメンテーション現象の評価に 流動性指標の計測と実証を活用

第1章 はじめに

本論文の目的 本論文の構成と全体像

第7章 終わりに

本論文の結論 今後の研究課題

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