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逐次トレードモデルにおける証券価格の決定

ドキュメント内 学位授与年月日 2020‑03‑21 (ページ 32-37)

2.3 ディーラー方式と逐次トレードモデルにおける 証券市場の効率性のダイナミクス

2.3.2 逐次トレードモデルにおける証券価格の決定

前節のモデル設定の下、本節では証券ディーラーの価格付け行動について考察し、証券価 格を導出する。はじめに第 1 期を、その後に第 2 期を分析する。

第 1 期において買い注文が到来したならば、証券ディーラーは𝛺1= {𝐵𝑢𝑦}の情報集合を 利用し、売り価格𝐴1を提示する。(3.1)式に𝛺1= {𝐵𝑢𝑦}を代入すれば、

𝐴1= 𝐸[𝑣̃|𝛺1= {𝐵𝑢𝑦}]

(2.44)

13 証券ディーラーは、売り注文と買い注文に対する利益の合計が 0 になることになるとい うことも考えられる。しかし、ここでは売り注文と買い注文の対応それぞれで利益が 0 に なるという設定を用いる。

14 証券ディーラーの情報集合について、リスク証券の事前分布と各トレーダーの人口比率 の表記は省略する。

26 である。ベイズの公式より、

𝐸[𝑣̃|𝛺1= {𝐵𝑢𝑦}] = 𝑣 ∙𝑃(𝐵𝑢𝑦|𝑣) ∙ 𝑃(𝑣)

𝑃(𝐵𝑢𝑦) + 𝑣 ∙𝑃(𝐵𝑢𝑦|𝑣) ∙ 𝑃(𝑣) 𝑃(𝐵𝑢𝑦)

(2.45)

である。ここで、𝑃(𝐵𝑢𝑦|𝑣)と𝑃(𝐵𝑢𝑦|𝑣)は尤度、𝑃(𝑣)と𝑃(𝑣)は事前分布、𝑃(𝐵𝑢𝑦)は基準化 定数と呼ばれている。事前分布は、モデルの仮定より自明であるので、それぞれの尤度と 基準化定数について計算すると、

𝑃(𝐵𝑢𝑦|𝑣) =1

2(1 − 𝜇)

(2.46) 𝑃(𝐵𝑢𝑦|𝑣) = 𝜇 +1

2(1 − 𝜇)

(2.47) 𝑃(𝐵𝑢𝑦) =1

4(1 − 𝜇) +1 2{𝜇 +1

2(1 − 𝜇)}

(2.48)

となる。これを、(2.45)式に代入すると、売り価格が次の(2.49)式で定まる。

𝐴1=1

2(1 − 𝜇)𝑣 +1

2(1 + 𝜇)𝑣

(2.49)

トレーダーが売り注文を行った場合には、証券ディーラーは情報集合𝛺2= {𝑆𝑒𝑙𝑙}を活用 して、買い価格𝐵1を提示する。同様の手順から、条件付き期待値は

𝐸[𝑣̃|𝛺1= {𝑆𝑒𝑙𝑙}] = 𝑣𝑃(𝑆𝑒𝑙𝑙|𝑣) ∙ 𝑃(𝑣)

𝑃(𝑆𝑒𝑙𝑙) + 𝑣𝑃(𝑆𝑒𝑙𝑙|𝑣) ∙ 𝑃(𝑣) 𝑃(𝑆𝑒𝑙𝑙)

(2.50) で、尤度と基準化定数は

27 𝑃(𝑆𝑒𝑙𝑙|𝑣) = 𝜇 +1

2(1 − 𝜇)

(2.51) 𝑃(𝑆𝑒𝑙𝑙|𝑣) =1

2(1 − 𝜇)

(2.52) 𝑃(𝑆𝑒𝑙𝑙) = 1

2{𝜇 +1

2(1 − 𝜇)} +1

4(1 − 𝜇)

(2.53)

となる。(2.51)式と(2.52)式、(2.53)式を(2.50)式に代入することで、買い価格𝐵1が求めら れる。

以上の結果を命題 2.7 としてまとめる。

・命題 2.7(逐次トレードモデルにおける第 1 期の証券価格)

逐次トレードモデルの仮定のもとで、次の証券価格が成り立つ。

𝐴1=1

2(1 − 𝜇)𝑣 +1

2(1 + 𝜇)𝑣

(2.54) 𝐵1=1

2(1 + 𝜇)𝑣 +1

2(1 − 𝜇)𝑣

(2.55)

命題 2.7 によれば、買い価格・売り価格ともに証券の実現値を、到来する注文の確率で 加重平均したものとなることを示している。また、買い価格と売り価格は仲値を中心に上 下対称に形成されている。このことは仲値𝑀1が、

𝑀1=𝐴1+ 𝐵1

2 =1

2(𝑣 + 𝑣)

(2.56)

であり、

28 𝐴1− 𝑀1= 𝑀1− 𝐵1= −1

2𝜇(𝑣 − 𝑣)

(2.57)

となることからわかる。

第1期証券価格について、比較静学を行うと、情報トレーダーの人口比率が多くなる

(𝜇↑)ほど、売り価格𝐴1は大きくなり、買い価格𝐵1は小さくなることがわかる。

第 2 期の価格決定では、証券ディーラーの情報集合に変化が起こることに注意すれば、

導出過程は同じである。例えば、第 1 期で買い注文を、第 2 期で売り注文を観察した証券 ディーラーの情報集合は、𝛺2= {𝐵𝑢𝑦, 𝑆𝑒𝑙𝑙}となる。よって、第 2 期の売り価格について、

𝐴2,𝑆𝐵= 𝐸[𝑣̃|𝛺2= {𝑆𝑒𝑙𝑙, 𝐵𝑢𝑦}]

(2.58) 𝐴2,𝐵𝐵= 𝐸[𝑣̃|𝛺2= {𝐵𝑢𝑦, 𝐵𝑢𝑦}]

(2.59)

の2種類が存在する。売り価格については、

𝐵2,𝐵𝑆= 𝐸[𝑣̃|𝛺2= {𝐵𝑢𝑦, 𝑆𝑒𝑙𝑙}]

(2.60) 𝐵2,𝑆𝑆= 𝐸[𝑣̃|𝛺2= {𝑆𝑒𝑙𝑙, 𝑆𝑒𝑙𝑙}]

(2.61)

の2つの結果が起こりうる。

(2.58)式𝐴2,𝑆𝐵について尤度と基準化定数には、

𝑃(𝑆𝑒𝑙𝑙, 𝐵𝑢𝑦|𝑣) = 𝑃(𝑆𝑒𝑙𝑙|𝑣) ∙ 𝑃(𝐵𝑢𝑦|𝑣)

(2.62) 𝑃(𝑆𝑒𝑙𝑙, 𝐵𝑢𝑦|𝑣) = 𝑃(𝑆𝑒𝑙𝑙|𝑣) ∙ 𝑃(𝐵𝑢𝑦|𝑣)

(2.63) 𝑃(𝑆𝑒𝑙𝑙, 𝐵𝑢𝑦) = 𝑃(𝑆𝑒𝑙𝑙) ∙ 𝑃(𝐵𝑢𝑦)

(2.64)

という関係があることに着目する。これは、第 1 期と第 2 期のトレーダーの到来が独立だ からである。したがって、

29

𝐸[𝑣̃|𝛺2= {𝑆𝑒𝑙𝑙, 𝐵𝑢𝑦}] = 𝑣 ∙{𝑃(𝑆𝑒𝑙𝑙|𝑣) ∙ 𝑃(𝐵𝑢𝑦|𝑣)}𝑃(𝑣)

𝑃(𝑆𝑒𝑙𝑙) ∙ 𝑃(𝐵𝑢𝑦) + 𝑣 ∙{𝑃(𝑆𝑒𝑙𝑙|𝑣) ∙ 𝑃(𝐵𝑢𝑦|𝑣)}𝑃(𝑣) 𝑃(𝑆𝑒𝑙𝑙) ∙ 𝑃(𝐵𝑢𝑦)

(2.65)

となる。(2.65)式に第 1 期で導出した尤度と基準化定数を代入することで、第 2 期の買い 価格の 1 つめである𝐴2,𝑆𝐵が導出される。

𝐴2,𝑆𝐵=1

2(1 − 𝜇)(1 + 𝜇)(𝑣 + 𝑣)

(2.66)

以上の手続きを他の証券価格についても踏むと、第2期の証券価格について次の命題 2.8 が成り立つ。

・命題 2.8(逐次トレードモデルにおける第2期の証券価格)

逐次トレードモデルの仮定のもとで、第 2 期の売り価格𝐴2,𝐵𝐵と買い価格𝐵2,𝑆𝑆が成立す る。ただし、𝐴2,𝑆𝐵と𝐵2,𝐵𝑆については同一の価格(2.68)式となる。

𝐴2,𝐵𝐵=1

2{(1 − 𝜇)2𝑣 + (1 + 𝜇)2𝑣}

(2.67) 𝐴2,𝑆𝐵= 𝐵2,𝐵𝑆=1

2(1 − 𝜇)(1 + 𝜇)(𝑣 + 𝑣)

(2.68) 𝐵2,𝑆𝑆=1

2{(1 + 𝜇)2𝑣 + (1 − 𝜇)2𝑣}

(2.69)

命題 2.8 によれば、第 2 期でも第 1 期と同様に、買い価格・売り価格が証券の実現値を 加重平均したものとして存在することを示している。買い注文と売り注文を順不同に受け 取った証券ディーラーの価格は、売り価格と買い注文について同じ価格が成立する。これ は、第 1 期と第 2 期で非情報トレーダーの到来に相関などがないため、どちらの種類の注 文を先に受け取ったとしても、証券ディーラーのベイズ更新に影響がないためである。

第 1 期と第 2 期の証券価格を比較すると、証券価格の大小について次の不等式が成立す

30 る。

𝐵2,𝑆𝑆< 𝐵1< 𝑀1< 𝐵2,𝐵𝑆= 𝐴2,𝑆𝐵< 𝐴1< 𝐴2,𝐵𝐵

(2.70)

証券ディーラーは、買い注文が 2 期連続で到来した場合、証券の真の価値がより高いと 推定する。したがって、売り価格𝐴2,𝐵𝐵が最も高い価格になるのは自然である。逆のこと が、買い価格についても成立する。

以上のように、逐次的トレードモデルでは、注文の逐次的な到来に対して証券ディーラ ーが逐次的に価格を更新し続けるという、価格のダイナミクスを特徴付けることができ る。この利点を使用して、次節では本節で導出された価格のダイナミクスをもとに、証券 市場の流動性と価格発見力のダイナミクスも分析することとする。

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