2.4 バッチマーケット方式と戦略的トレードモデルにおける証券市場の効率性
2.3.2 情報トレーダーの需要関数とマーケットメーカーの価格推定
本節では、以上のモデルの下で情報トレーダーの需要関数を導出し、マーケットメーカー の価格決定について分析する。
情報トレーダーは、証券の真の価値のうちマクロ要因部分𝑣の実現値を知った上で、次 の(2.85)式で表される最大化問題を解く。
max𝑋𝐼 E[(𝜃̃ − 𝑝)𝑋𝐼|𝑣]
(2.85)
ここで、マーケットメーカーの線形推定(2.84)式を所与とすると、最大化問題は次の ように変形できる。
max𝑋𝐼 E[{𝜃̃ − 𝜇 − 𝜆(𝑋𝐼+ 𝑋̃𝑛)}𝑋𝐼|𝑣]
(2.86)
(2.86)式を𝑋𝐼について微分し一階の条件を用いると、情報トレーダーの需要関数は
(2.87)式と求まる。
37 𝑋𝐼 =𝐸[𝜃̃|𝑣] − 𝜇
2𝜆
(2.87)
ここで、正規分布の条件付き期待値の計算から、
𝐸[𝜃̃|𝑣] = 𝑣
なので、情報トレーダーの需要関数は、(2.88)式となる。
𝑋𝐼 =𝑣 − 𝜇 2𝜆
(2.88)
続いて、マーケットメーカーの価格推定を考察する16。いま、マーケットメーカーの価 格予測は(2.84)式で与えられている。ところで、条件付き期待値の計算から、(2.84)式 は(2.89)式でもある。
𝑝̃ = 𝐸[𝜃̃] +𝐶𝑜𝑣[𝜃̃, 𝑌̃]
𝑉[𝑌̃] {𝑌̃ − 𝐸[𝑌̃]}
(2.89)
(2.84)式と(2.89)式を一致させるように係数を比較すると、パラメーター𝜇と𝜆について 次のように特定することができる。
𝜇 = 𝐸[𝜃̃] −𝐶𝑜𝑣[𝜃̃, 𝑌̃]
𝑉[𝑌̃] ∙ 𝐸[𝑌̃]
(2.90) 𝜆 =𝐶𝑜𝑣[𝜃̃, 𝑌̃]
𝑉[𝑌̃]
(2.91)
16 情報トレーダーがマクロ要因𝑣̃の実現値𝑣を知っているのに対し、マーケットメーカーは これを知らない。よって、マーケットメーカーかた見た情報トレーダーの需要関数𝑋̃𝐼 =
𝑣̃−𝜇
2𝜆も確率変数になることに注意する。
38
情報トレーダーの需要関数(2.88)式を(2.91)式に代入して計算すると、
𝐶𝑜𝑣[𝜃̃, 𝑌̃] = 1 2𝜆𝜎𝑣2
(2.92) 𝑉[𝑌̃] = 1
4𝜆2𝜎𝑣2+ 𝜎𝑛2
(2.93) となる。(2.92)式と(2.93)式を(2.91)式に再度代入し、𝜆について整理すると、
𝜆 =1 2√𝜎𝑣2
𝜎𝑛2
(2.94)
と定まる。この結果を(2.88)式と(2.90)式に代入すると、𝜇と𝑋𝐼が明示的に導出され る。
以上の結果を、命題 2.11 としてまとめておく。
命題 2.11(戦略的トレードモデルにおける証券価格)
戦略的トレードモデルの仮定の下で、次の情報トレーダーの需要関数と証券価格の組み 合わせによる均衡が成立する。
情報トレーダーの需要関数:
𝑋𝐼 =𝑣 − 𝜇 2𝜆
(2.95)
マーケットメーカーの価格推定:
𝑝̃ = 𝜇 + 𝜆(𝑋̃𝐼+ 𝑋̃𝑛)
(2.96) 𝜇 = 𝑣̅
(2.97)
39 𝜆 =1
2√𝜎𝑣2 𝜎𝑛2
(2.98)
命題 2.11 について説明する。情報トレーダーの需要関数(2.95)式は、私的情報によるフ ァンダメンタルの予想値と平均的なファンダメンタルの偏差(𝑣 − 𝑣̅)が大きくなるほど、よ り大きくなる。1
𝜆は、その大きさを増幅させる情報トレーダーによる注文の積極性と解釈す ることができる。この積極性はプライス・インパクト𝜆が大きくなるほど小さくなる。な ぜなら、𝜆が大きいほど1単位の注文がより大きな価格上昇をもたらし、情報トレーダー にとって変動コスト負担を増やすからである。
マーケットメーカーの価格推定(2.96)式は、平均的なファンダメンタルの予測𝑣̅にプライ ス・インパクト項を加えた形となる。プライス・インパクト係数𝜆(2.98)式は、証券の価値 のばらつき𝜎𝑣2が大きくなるほど大きくなる。これは、ファンダメンタルのバラつきが大き い時、マーケットメーカーはより過敏に価格を上下させることで、正確に証券価値を追随 しようとすることを示している。また、ノイズトレーダーからの注文𝜎𝑛2が少ないと予期さ れるときに、𝜆は大きくなる。これは、総注文数に占めるノイズトレーダーの割合が小さ くなることで、マーケットメーカーが情報トレーダーの注文を識別しやすくなり、より確 信をもって価格を変動させるためだと解釈できる。