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モデルの均衡および仮説の導出

ドキュメント内 学位授与年月日 2020‑03‑21 (ページ 105-109)

5.2 理論モデル分析

5.2.2 モデルの均衡および仮説の導出

前節の設定の下で、モデルの均衡を導出する。まず、第 2 期の価格決定について考察し、

順に第 1 期および第 0 期へと後ろ向きにモデルを解いていく。

最初に、第 2 期におけるディーラーの価格付けを考察する。第 2 期では、証券の価値の 要素𝑉、𝑢1および 𝑢2はすべて公開情報となっている。したがって、ディーラーは次のように 価格を決定する。

𝑃2𝐵= 𝐸[𝑉̃|𝑢1, 𝑢2, 𝑆𝑒𝑙𝑙] = 𝑉 + 𝑢1+ 𝑢2 𝑃2𝐴= 𝐸[𝑉̃|𝑢1, 𝑢2, 𝑏𝑢𝑦] = 𝑉 + 𝑢1+ 𝑢2

𝑷𝟐= 𝑷𝟐𝑩= 𝑷𝟐𝑨= 𝑽 + 𝒖𝟏+ 𝒖𝟐

(5.1)

したがって、第 2 期での流通市場の価格𝑃2は、IPO 企業のファンダメンタル価値に完全に 一致しており、投資家によるこれ以上の取引の余地はない。また、ビッド・アスク・スプレ ッドなどの流動性コストも存在しない。

続いて、第 2 期の価格を所与として、第 1 期の価格の決定について考察する。第 1 期で は、競争的なディーラーの予想によって、株式の価格が決定される。ここで、ディーラーの 有する情報とは、第 1 期の期初に公開された𝑢1と自身の下に到来した注文の売り買いの方 向性である。もしも、ディーラーが売り注文を受け取った場合には、買い価格𝑃1𝐵は条件付き 期待値を用いて、次のように決定される。ただし、𝑞 ≡ 𝑄 2⁄ と定義している。

𝑷𝟏𝑩 = 𝑬[𝑽̃|𝒖𝟏, 𝑺𝒆𝒍𝒍]

= (𝑽 + 𝒖𝟏− 𝜺)𝑷𝒓(𝒖𝟏, 𝑺𝒆𝒍𝒍|−𝜺) ∙ 𝑷𝒓(−𝜺)

𝑷𝒓(𝒖𝟏, 𝑺𝒆𝒍𝒍) + (𝑽 + 𝒖𝟏+ 𝜺)𝑷𝒓(𝒖𝟏, 𝑺𝒆𝒍𝒍|𝜺) ∙ 𝑷𝒓(𝜺) 𝑷𝒓(𝒖𝟏, 𝑺𝒆𝒍𝒍)

= 𝒒

𝒒 + 𝒛(𝑽 + 𝒖𝟏− 𝜺) + 𝒛

𝒒 + 𝒛(𝑽 + 𝒖𝟏)

= 𝑽 + 𝒖𝟏− 𝒒 𝒒 + 𝒛𝜺

(5.2)

同様にして、買い注文を受け取ったディーラーは、売り価格𝑃1𝐴を条件付き期待値から次の

99

ように決定する。以下の計算においては、買い注文がノイズトレーダーおよび𝑢̃2= 𝜀と知 っているインサイダーからしか到来しないことを用いている。

𝑷𝟏𝑨= 𝑬[𝑽̃|𝒖𝟏, 𝒃𝒖𝒚]

= 𝒒

𝒒 + 𝒙(𝑽 + 𝒖𝟏+ 𝜺) + 𝒙

𝒒 + 𝒙(𝑽 + 𝒖𝟏)

= 𝑽 + 𝒖𝟏− 𝒒 𝒒 + 𝒙𝜺

(5.3)

(5.2)式および(5.3)式で表された買い価格𝑃1𝐵と売り価格𝑃1𝐴の組み合わせが、第 1 期の価格 の均衡である。ここで、第 1 期では、流動性コストとしてビッド・アスク・スプレッド𝑆𝑝を 定義する。

𝑺𝒑 = 𝑷𝟏𝑨− 𝑷𝟏𝑩

= 𝒒

𝒒 + 𝒙𝜺 + 𝒒 𝒒 + 𝒛𝜺

(5.4)

ビッド・アスク・スプレッド𝑆𝑝は、第 1 期におけるインサイダーの取引𝑞が増加するとと もに大きくなり、フリッパーの取引𝑧やノイズトレーダー𝑥の取引とともに小さくなる。すな わち、価格付けを行うディーラーにとっての逆選択のリスクが大きくなるほど、ビッド・ア スク・スプレッドは拡大する。また、各項の分母は買い注文と売り注文の全到来数で、分子 はその内のインサイダーの取引数となっている。これは、Easley et al.(1996)の提案した PIN 統計量と一致している。このことから、流通市場の流動性を推定する際に、PIN や VPIN を 使うことがモデルとの整合性をとる上で、有効であると理解できる。

最後に、第 0 期の IPO 市場における価格決定について考察する。第 0 期では、IPO 企業 は、情報トレーダーとともに非情報トレーダーをも参加させるという制約の下で、公開価格 𝑃0を決定する。情報トレーダーと非情報トレーダーの利益最大化問題は、それぞれ次の(5.5) 式と(5.6)式で与えられる。ただし、情報トレーダーは株式の価値が高い𝑢1= 𝜂と知ったとき のみ上場企業に参加すると仮定する。

𝒂𝐦𝐚𝐱𝑰={𝟎,𝟏}𝒂𝑰∙ 𝑬[𝝅𝑰]

𝒔. 𝒕 𝑬[𝝅𝑰] = 𝒛 ∙ 𝑬[𝑷𝟏|𝜴𝟎𝑰] + (𝟏 − 𝒛) ∙ 𝑬[𝑷𝟐|𝜴𝟎𝑰] ≥ 𝑷𝟎

(5.5)

100

𝑎𝑈max={0,1}𝑎𝑈∙ 𝐸[𝜋𝑈]

𝒔. 𝒕 𝑬[𝝅𝑼] = 𝒛 ∙ 𝑬[𝑷𝟏|𝜴𝟎𝑼] + (𝟏 − 𝒛) ∙ 𝑬[𝑷𝟐|𝜴𝟎𝑼] ≥ 𝑷𝟎

(5.6)

ここで、𝑎𝐼と𝑎𝑈は IPO に申し込む場合に1をとり、申し込まない場合に 0 をとるアクシ ョン選択である。また、𝛺0𝐼と𝛺0𝑈はそれぞれ情報トレーダーと非情報トレーダーの第 0 期で の情報集合であり、𝛺0𝐼 = {𝑢1}で𝛺0𝑈= {∅}である。

結果としては、IPO 企業は非情報トレーダーの参加制約(5.6)式を満たすように、資本調 達額を最大化するように公開価格𝑃0を決定することが最適となる。よって、IPO 企業の最 大化問題は、次の(5.7)式に帰着する。

𝐦𝐚𝐱𝑷𝟎 𝑬[𝑷𝟎𝑺]

𝒔. 𝒕 𝑬[𝝅𝑼] = 𝒛 ∙ 𝑬[𝑷𝟏|𝜴𝟎𝑼] + (𝟏 − 𝒛) ∙ 𝑬[𝑷𝟐|𝜴𝟎𝑼] ≥ 𝑷𝟎

(5.7)

(5.7)式は、条件付き期待値の計算から、次のように変形することができる。

𝑽 − (𝟏 − 𝟐𝝅𝒖)𝜼 − 𝒛 𝒒

𝒒 + 𝒛𝜺 ≥ 𝑷𝟎

(5.8) 𝜋𝑢 ≡ 1

1 + 𝜆, 𝜆 ≡ 𝑀 𝑀 + 𝑁

(5.9)

したがって、(5.8)式を最大化するような𝑃0は不等式を等号で満たすことによって得られる ので、第 0 期の公開価格は、次の(5.10)式あるいは書き換えた(5.11)式で与えられる。

𝑷𝟎= 𝑽 − (𝟏 − 𝟐𝝅𝒖)𝜼 − 𝒛 𝒒 𝒒 + 𝒛𝜺

(5.10) 𝑷𝟎= 𝑽 −𝟏 − 𝝀

𝟏 + 𝝀𝜼 − 𝒛 𝒒 𝒒 + 𝒛𝜺

(5.11)

101

第 0 期の公開価格は、企業のファンダメンタルの平均𝑉が大きくなるごとに上昇し、𝜆と いう申し込み当選確率のようなパラメーターが大きくなるごとに、ディスカウントは小さ くなる。加えて、第 1 期のフリッパーの注文が増えるごとに公開価格は高くなり、インサイ ダーの注文の増加とともに価格が低下して、ディスカウントが大きくなる。

以上が、Ellul and Pagano(2006)のモデルの概要である。ここから実証分析に利用する仮 説を導き出す。

まず、第 1 期における買い価格𝑃1𝐵側のビッド・アスク・スプレッド𝑆𝐵を次のように定義 すると、

𝑆𝐵= 𝑞 𝑞 + 𝑧𝜀

(5.12) 公開価格𝑃0は、

𝑃0= 𝑉 −1 − 𝜆

1 + 𝜆𝜂 − 𝑧𝑆𝐵

(5.13)

となる。したがって、仮説1は、次のように提示できる。

【仮説1】: 新規上場企業の公開価格𝑃0は、流通市場における買い価格𝑃1𝐵側のスプレッド 𝑆𝐵がより大きくなるほど、よりディスカウントされる。

これは、流通市場の流動性コストの中でも、特にビッドサイドの流動性が過小値付けの原 因となるということを示している。これは、常にフリッパーは流通市場で売り注文を執行し てくるので、売り注文を行う際の流動性コストが高いほど、より大きな補償を要求されると いう意味である。逆に、フリッパーは買い注文を一切行わないので、アスクサイドの流動性 の状態はフリッパーの関心の対象とはならず、公開価格に影響しない。

また、ビッド・アスク・スプレッドは PIN 尺度の定義と一致していたことから、次の仮 説も提示される。

【仮説2】: 新規上場企業の公開価格𝑃0は、流通市場における情報の非対称性の尺度 PIN がより大きくなるほど、よりディスカウントされる。

続いて、流通市場の価格𝑃1を初値とみなせば、期待初値収益率は次のように計算される。

102 𝐸[𝑃1]

𝑃0

− 1 = 𝑉

𝑉 −1 − 𝜆

1 + 𝜆𝜂 − 𝑧𝑆𝐵

− 1

(5.14)

よって、初値収益率を用いた過小値付けに関する次の仮説を提示することができる。

【仮説3】: 初値収益率は、流通市場における買い価格𝑃1𝐵側のスプレッド𝑆𝐵がより大きく なるほど、より大きくなる。

仮説2と同様に、ビッド・アスク・スプレッドを PIN で置き換えれば、仮説3の派生版と して仮説4を考えることができる。

【仮説4】: 初値収益率は、流通市場における情報の非対称性の尺度 PIN がより大きくな るほど、より大きくなる。

本章では、データの入手性から、【仮説3】および【仮説4】を中心として分析を行う。

また、その際、仮説では言及されなかった流動性指標についても、説明変数の候補と加えて 検証を行うものとする。

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