4 海洋再生可能エネルギー開発の実際
4.3 プロジェクト事例 ~福島復興・浮体式洋上ウインドファーム実証研究事業~
4.3.2 研究課題
浮体式洋上風力発電は、世界的にも実証研究が始まったばかりであり、大規模浮体式洋上 ウインドファームを実現するためには、浮体式風車、浮体式変電設備、送電システム等の技 術的な課題が残されている。図 4.3.3 に、本プロジェクトの理念と方針を示す。本実証研究 事業では、技術的な課題のみならず、社会的な合意形成に向けた取り組みも進められる。
図4.3.3 実証研究プロジェクトの理念と方針
出典:福島洋上風力コンソーシアムウェブサイト
具体的には、以下をテーマに研究に取り組んでいる。
(1) 世界最大級の7MW浮体式風車や世界初の25MVA浮体式洋上変電設備及び66kVの
大容量ライザーケーブルの開発により浮体式洋上風力発電の事業性の検証を行うこと (2) 世界初の浮体式洋上観測システムを構築して浮体の動揺を考慮した気象・海象の観測 手法を確立し浮体式洋上風力発電の性能評価を可能にすること
(3) 複数タイプの風車と浮体を用いることにより各種浮体式洋上風力発電システムの特性 及び制御効果を明らかにすること
(4) 浮体式洋上風力発電所の送変電システムの開発 (5) 腐食及び疲労に強い高性能鋼材の開発
(6) 厳しい環境条件での建設に向けての施工技術開発等の技術課題に挑戦しており、あわ せて将来大規模な洋上風力発電を実現するために欠かせない社会的合意形成の在り方、す なわち漁業との共存方策の提案、航行安全性と環境影響の評価手法の確立
なお、コンソーシアムメンバーの主な役割については、表 4.3.1に示す通りである。
表 4.3.1 コンソーシアムメンバーの主な役割
出典:福島洋上風力コンソーシアムウェブサイト
4.3.3 事業の流れ
本実証研究事業は、2011年3月に発生した東日本大震災からの復興事業としての側面を持 ち、経済産業省の委託事業として進められている。2012年3月に先述のコンソーシアムが委 託先として採択され、2011年度内に事業が開始された。
本実証研究プロジェクトは、図4.3.4に示すように、第1期、第2期からなる。
第1期では、2MW のダウンウインド型浮体式洋上風力発電設備 1 基と、世界初となる
25MVA 浮体式洋上変電所 1 基を事業海域に設置し、風力発電から浮体式の変電所を経由し
陸上の電力網へ送電するための海底ケーブルを設置している。2013年3月に建設が開始され、
同11月に運転開始、実証実験が始まった。本プロジェクト開始から、第1期運転開始までの 間、航行安全を期すための関連団体との協議や地元漁業関係者への説明、内閣府、国交省、
環境省、農林水産省などの関係省庁、地元行政への説明を行うとともに、環境アセスメント 等の許認可を取得した。
2014年から開始した第2期では、5MWの浮体式ダウンウインド型洋上風車および7MW の油圧ドライブ型浮体式洋上風力発電設備それぞれ1基を新設する。
表 4.3.2、図4.3.5~図4.3.7に、本実証研究プロジェクトにおける主な施設を示す。
図4.3.4 プロジェクト計画の概要
表 4.3.2 本プロジェクトの主な施設
設備名称 設備規模 風車形式 浮体形式 工期
浮体式洋上 サブステーション
「ふくしま絆」
容量25MVA 電圧66kV
変電所
(日立製作所製)
アドバンストスパー
(ジャパンマリンユ ナイテッド製)
第1期
ダウンウインド型風車 搭載用セミサブ
「ふくしま未来」 2MW ダウンウインド型
(日立製作所製)
4コラム型セミサブ
(三井造船製) 第1期 7MW風車搭載用
セミサブ
「ふくしま新風」
7MW 油圧式ドライブ型
(三菱重工業製)
3コラム型セミサブ
(三菱重工業製) 第2期 5MW風車搭載用
アドバンストスパー
「ふくしま浜風」 5MW ダウンウインド型
(日立製作所製)
アドバンストスパー
(ジャパンマリンユ ナイテッド製)
第2期
水面上高さ 約61m
浮体長さX幅 約33mx約33m
浮体高さ 71m
喫水 50m
変電設備、観測設備、ヘリデッキなどを装備
図4.3.5 浮体式洋上サブステーション「ふくしま絆」
風車ロータ径 80m
ハブ海面高 105m
浮体長さX幅 約58m x 65m
浮体高さ 32m
喫水 17m
図4.3.6 ダウンウインド型風車搭載用セミサブ(2MW)「ふくしま未来」
7MW風車搭載用セミサブ
「ふくしま新風」
5MW風車搭載用アドバンストスパー
「ふくしま浜風」
風車ロータ径:167m ハブ海面高:105m
浮体長さX幅:約85m x 約150m
(V字の一辺が約106m) 浮体高さ:32m
喫水:17m
風車ロータ径:126m ハブ海面高:86m
浮体長さX幅:約59m x 51m
浮体高さ:48m 喫水:33m
図4.3.7 第2期の主な建造施設
<参考資料リスト>
(1) NEDO:風力発電導入ガイドブック第9版 2008年
(2) 西華産業ウェブサイト: http://www.seika.com/product/power/recyclable/wind (3) 一般財団法人エンジニアリング協会:平成26年度「海洋石油ガス開発技術等に関する動
向調査」報告書 平成27年4月
(4) NEDO:風力発電システムの設計マニュアル1996年 (5) NEDO:再生可能エネルギー技術白書初版 2012年 (6) NEDO:再生可能エネルギー技術白書第2版 2014年 (7) EWEA:Wind in Our Sails 2011
(8) Statoil社ウェブサイト:
http://www.statoil.com/en/NewsAndMedia/News/2008/Pages/hywind_fullscale.aspx
(9) GustoMSC社ウェブサイト:
http://www.gustomsc.com/index.php/module-variations/designs-24734 (10) Pelaster社サイト:http://pelastar.com/
(11) 牛山泉:さわやかエネルギー風車入門、三省堂書店 1996年
(12) NEDO:新エネルギーガイドブック 2008年
(13) Richard Yemm et al. ”Pelamis: experience from concept to connection” , Phil. Trans.
R. Soc. A (2012) 370, 365–380, 2011
(14) Ocean Power Technologies社ウェブサイト:
http://www.oceanpowertechnologies.com/powerbuoy/
(15) 緑星社ウェブサイト:http://www.ryokuseisha.com/product/power_supply/index.html (16) Wave Dragon ApS社ウェブサイト:http://www.wavedragon.net/
(17) 川崎重工業ウェブサイト:https://www.khi.co.jp/news/detail/20111019_2.html
(18) IHI:黒潮で発電!?水中浮遊式海流発電システムの開発 IHI技報 Vol.53 No.2, 2013
http://www.ihi.co.jp/var/ezwebin_site/storage/original/application/dc72a0a3242f4417 c2c7b1e4ee4d1306.pdf
(19) Tidal Energy社ウェブページ http://www.tidalenergyltd.com/?page_id=1370 (20) 韓国海洋研究院ウェブページ http://eng.kiost.ac/kordi_eng/main/
(21) 佐賀大学海洋研究センターウェブサイト:https://www.ioes.saga-u.ac.jp/jp/
(22) 沖縄県海洋温度差発電実証設備ウェブサイト:http://otecokinawa.com/
(23) NEDO:着床式洋上風力発電導入ガイドブック(第1版) 2015年
(24) 福島洋上風力コンソーシアムウェブサイト:
http://www.fukushima-forward.jp/index.html
5 安全と環境保全
海洋開発の現場では、事故が起こると、人命を危機に晒すことはもとより、莫大な被害や深刻 な環境汚染を招きかねない。過去に発生した事故を契機として、安全と環境に対する意識が高まっ たことから、関連国の政府や各企業は、様々な対策を講じている。
この章では、実際に起きた事故を契機に制定された規則や、安全や環境等を継続的に保全して いくための企業の取り組みとしてのHSE(Health, Safety and Environment)マネジメントシステ ム、リスク評価の手法、環境影響評価について概説していく。
5.1 過去の事故事例と安全・環境保全規制の強化
安全・環境保全に向けた取り組みが強化される流れの中で、過去の重大事故は各国政府や国 際機関による規制強化に向けた重要な契機となった。以下、海洋石油・天然ガス開発における 過去の主要な事故と、それを契機に制定された規則等について概説する。
(1) Alexander Kielland事故(1980年ノルウェー、転覆)
北海ノルウェー沖のEkofisk 油田で作業員の浮体式宿舎として使用されていたセミサブ 式居住ユニットであるAlexander Kielland (図5.1.1)は、1980年3月27日、波高12m の 強風を伴う暴風で転覆し、123 人の死者を出した(図5.1.2 事故発生位置)。
Alexander Kiellandは、事故当日の午後になり天候が悪化したため、近くの固定式石油
プラットフォームとの接触を避けるために位置を移動した。移動の際は、推進装置を持っ ていなかったので、各コラムのアンカー索を緩めウィンチで巻き込む方法をとっていた。
位置を移動してから半時間後に乗組員は強い衝撃を受けたが、悪天候下で時折発生する波 浪衝撃に似ていたので特に気にする者はいなかった。その後の第二の衝撃の直後、
Alexander Kiellandは30~35°程度まで一気に傾き、一旦静止したように見えたが、徐々
に傾きながら沈み始め、最初の衝撃があってから約20分後に完全に転覆した(図5.1.3)。 後に5 脚構造の1 脚のブレーシングの溶接の疲労亀裂により構造が崩壊したと究明され た。事故及び被害拡大の原因として、
重要な構造部材であるブレースに、艤装部材をずさんな方法で溶接取り付けを行っ たこと
その部分に対して疲労寿命設計の必要性の認識がなかったこと
溶接の溶け込み不良により欠陥が残っていたこと
定期検査時に疲労亀裂を発見できなかったこと
構造強度の冗長度が不足していたため、一部材(ブレース)の破壊が主要構造の崩壊に つながったこと
余剰浮力が少なく、浮体としての沈下や転覆に対する冗長性が少なかったこと
上部構造が水密でなかったこと
船体傾斜が大きく、波高の高い洋上で救命ボートが安全に着水・離脱できなかった こと
等が挙げられ、これを受けてノルウェー政府や DNV 等の関係機関が事故原因への対策
を講じた。
Alexander Kielland は移動式ユニットであったことから、ノルウェー海事庁が当時の監
督官庁であり、国家石油庁(Norwegian Petroleum Directorate, NPD)の役割は居住区の 検査に限定されていたが、この事故を契機として、北海向けの新たな規制制度が策定され た。規制改革により、それまで海洋開発産業の規制に関与していた複数の機関に代わって、
ノルウェー海域における海洋開発の安全性の総合的な責務はNPD に付託された。NPD は ノルウェー沖の石油・ガス運用に使用される設備、及び機器について厳格な基準を策定し、
これを施行した。
図5.1.1 Alexander Kielland 図5.1.2 事故発生位置
出典:畑村創造工学研究所失敗知識データベース
図5.1.3 Alexander Kiellandの転覆状況 出典:畑村創造工学研究所失敗知識データベース
(2) Ocean Ranger事故(1982年カナダ、転覆)
Alexander Kielland事故からわずか1年11か月後の1982年2月15日、カナダのニュー ファウンドランド岸オフショアで、セミサブ掘削リグOcean Ranger が沈没した。Ocean
Ranger 号は、1976 年ODECO 社で設計、日本で建造された設計最大波高33m の当時最