3 海洋石油・天然ガス開発の実際
3.1 一般的な開発の全体工程
3.1.2 各段階での主なタスク
(1) 鉱区取得
アメリカやカナダなどを除くほとんどの国では、地中に存在する石油・天然ガスなどの 所有権は国家に属するものとしている。そのため、石油・天然ガス開発は、相手国政府の 鉱区設定から公募による入札開始、開発希望者の入札、入札評価などの手続きを踏むこと が一般的で、落札後に相手国政府と石油開発に関する契約を結ぶ。契約に関しては第6章 にて述べる。
(2) 探鉱
① 探鉱の流れ
探鉱の中心的な業務は、油・ガスが胚胎している可能性が高いと推定される地下構造 を抽出するために行う地質学的調査、物理探査、石油地質評価、および試掘井の掘削で ある。代表的な流れを図 3.1.2に示す。
試掘により油・ガスを持つ層が発見されると、全体の生産能力と可採鉱量を求めるた めの詳しい評価を行う。必要があれば、物理探査や評価井の掘削を追加的に実施するこ ともある。
次の段階として、生産施設の規模等についても技術的な検討とともに、経済性の検討 を行う。開発が経済的にも可能であると判断された場合には、開発計画を策定、の開発 実施へと移行していく。
なお、試掘の結果が不成功だった場合や、不採算と判断された場合には、鉱区権は放 棄される。
図 3.1.2 開発における探鉱の流れ
出典:JXエネルギー社ウェブサイト
② 探査の方法 a) 地質学的調査
石油や天然ガスの鉱床が形成される機構から、鉱床の存在は、個々の堆積盆地の地質 学的特性と大きく関係していると考えられている。従って、表面地層の分布などの地質 学的特性を調査することで、石油の生成された場所である根源岩や、最終的な集積場所 である貯留岩の分布の可能性についてある程度の予測が行える。地質学的調査としては、
地表面の踏査、航空写真や衛星写真など解析等が行われている。
b) 物理探査
地下構造を探るために行う調査が、物理探査(物理探鉱)である。岩石や地層は固有 の物理的特性をもっており、物理的特性を直接あるいは間接的に測定して地下構造を調 べる方法を地球物理探査、あるいは単に物理探査という。
物理探査の対象となる物性には、重力や磁力などの直接測定できる特性と、地震波の 伝播速度や比抵抗など人工的に何らかのエネルギーを投入して得られた測定値を解析し、
間接的に解明可能な物性とがある。
主な物理探査法の概要は以下のとおりである。
i) 地震探査法:
地下を進む地震波は、速度や密度の変化する地層の境界面で反射、屈折を起こす。人 工的な発振源から地震波を起こし、そこから一定距離を離れた受信点で反射波や屈折波 を観測して、地下の構造や物性分布を推定する方法で、最も一般的な方法である。特に 反射波を用いるものを反射波地震探鉱と呼び、屈折波を用いる場合は、屈折波地震探鉱 と呼んでいる。石の探鉱は地下深部を対象とすることが多く、反射法が一般的である。
ii) 重力探査:
地球が均質な完全な回転楕円体であると仮定すれば、地球上のあらゆる場所の重力値 は理論値として決まる。しかし、地層による密度差、山塊など周辺地形や潮位変化の影 響、地球内部の不均質さ等から観測値は理論値と異なる。この重力の偏差を地表や水底 において測定し、地質構造を推定し鉱床の存在可能性を調査する探査法が重力探査であ る。微細な構造解析には適さない概査法の一つであり、探鉱の初期段階で磁力探査とと もに用いられることが多い。
iii) 磁力探査:
地球磁場の歪みを測定することにより地下構造を解明しようとする探査の方法である。
自動車、航空機、船により実施可能で空間内の磁力を連続的に測定し、磁性の大きい造 岩鉱物の基盤岩の構造を調べる堆積盆地評価を目的とした概査法の一つである。
c) 海洋での地震探査
海中で音波を発生させると、海底下に伝播してゆく過程で海底面や地層の境界面で一 部エネルギーが反射されてくる。海洋ではこの反射波を計測し処理することで地底構造 を調べることができる。海中にいる魚群の検出や、水深を知るために利用される魚群探 知機の送信器及び受信器が船底の一か所に設置されている点を除けば、同じ仕組みであ
る。図 3.1.3は地震探鉱で得られた地下構造断面の例である。
図 3.1.3 地震探鉱記録断面の例(左:二次元探査、右:三次元探査)
出典:日本物理炭礦株式会社ウェブサイト 探査船による地震探査、データ収録の仕組みを図 3.1.4に示す。
震源として、探査船の船尾付近に高圧空気を瞬間的に海中に放出することにより、音
波(超音波)を発生するエアガンを曳航し、さらに受振器として水中マイクロフォン(ハ イドロフォン)を規則的な間隔で多数配列したストリーマケーブルを曳航する。エアガン や受信機の位置を、GPS衛星の位置情報等を利用して精度よく計測しつつ、規則的に発 信しデータを収録する。得られたデータに様々な処理を施し、実際の地層構造などが表 現された反射記録を得る。
図 3.1.4 地震探査データ収録の概念図
出典:日本物理炭礦株式会社のウエブサイトから
1本のストリーマケーブルからは、ストリーマケーブルに沿った断面のデータが得ら れる。1 隻の探査船でストリーマケーブルを複数本同時に曳航して受振器を適宜面的に 配置すれば、一度に調査地域全体にわたって任意の断面のデータが得られる。前者を二 次元地震探査、後者を三次元地震探査と言う。
図 3.1.5は、経済産業省が所有、JOGMECが運航する物理探査船「資源」であり、三
次元地震探査の専用船である。エアガンは船尾から長さ15m程度の距離を曳航される浮 き6本に吊るされており、長さ4800mのストリーマケーブル10本を間隔約100mで曳 航する。
図 3.1.5 物理探査船「資源」
出典:物理探査ニュース No.10、(社)物理探査学会
d) データの処理
地下には反射面となる地層の境界が無数にあり、様々な深度で地震エネルギーが反射 される。実際に収録されるデータは、残響より深い深度で反射してきた地震波と混ざり 合った不明瞭な情報である。残響の影響を除去し各反射面を明瞭に復元する処理(デコン ボリューション処理)や、数多くのデータの平均処理などによりノイズ成分を処理する 等、多様な処理を経て震探断面が作成される。
データ処理は非常に多くの仮定からなるが、地域的な特性や費用を考慮して、必要か つ最適な処理の方法・手順が決定される。
e) 震探解釈
作成された震探断面を基に地質的解釈を行う作業を震探解釈という。震探断面上の 様々な形態的特徴から、地下構造、層序や地層の堆積のサイクル、堆積環境、岩相およ びその分布、構造形成の時期などを推定し、堆積盆地の地史を解明する。解釈作業の一 環として地下構造図、等層厚線図、堆積復元図等の各種図面を作成、試掘対象構造(プ ロスペクト)を摘出し、地質学的調査の結果も合わせてその評価を行う。
③ 試掘
油・ガス層の存否やその広がりは、坑井を掘って実際に油・ガス層を掘り当てないと 認知できない。未知の油・ガス層を探し当てるために掘られる坑井を試掘井と呼ぶ。そ の後に油・ガス層の広がりや層の厚み等々の全体像の把握のために掘られる坑井を、探 掘井と呼ぶ。
a) 掘削作業
坑井の掘削作業には、ドリルパイプの先端に取り付けたビットを回転させて岩石を粉 砕し、掘削流体(泥水と呼び、ベントナイトやバライト等を混ぜて粘性や比重を調節し た特殊な液体)を循環させて岩石の掘り屑を取り除きながら地層を掘り進むロータリー 掘削方式が用いられている。
海洋掘削は、図 3.1.6 に示すような方法で進められ、このような海洋構造物と装置を 合わせて掘削装置(掘削リグ)と呼ぶ。
図 3.1.6 掘削リグと海洋掘削のイメージ例 出典:日本海洋掘削社ウェブサイト
掘削リグは、主に以下のような機器から構成される。
ドローワークス:
ドリルストリング(ドリルパイプやビット等を連結した一連のパイプ)等の揚降に 用いられるウインチ装置。
トップドライブシステム:
リグ中央のデリック(櫓)から吊り下げられており、内蔵されたモーターによりド リルストリングに回転力を与える装置。
マッドポンプ:
泥水を循環させるポンプ、マッドポンプによって加圧された泥水はドリルパイプ内 側を通って先端のビットから噴射され、ドリルパイプの外側から上昇して再びマッ ドポンプに戻る。泥水は掘り屑を地上まで運び出すとともに、その水頭圧力によっ て坑井壁の崩壊を防止し、石油や天然ガス等の地層流体の暴噴を抑える役割もある。
噴出防止装置:
坑井内の圧力バランスが崩れ、地層流体が坑井内に侵入する事態(キック)が生じ ると、地層内流体が地表まで吹き上げ制御不能の大事故となる。キックの兆候があっ た場合、坑口を一時的に密閉してキックを制御するため、坑口上に設置する装置。