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2 海洋開発産業の背景と現状

2.1 海洋資源開発

2.1.2 新たな資源開発への挑戦

(1) メタンハイドレート

① メタンハイドレートとは

メタンハイドレートは、メタンと水が低温・高圧の状態で結晶化した物質である。日 本の周辺海域において相当の量が存在していると見込まれていることから、将来の天然 ガス資源として期待されている。メタンと水だけで構成されているため、火を近づける と水に囲まれていたメタンが燃え、水だけが残る。

日本の周辺海域に存在するメタンハイドレートは、その堆積深度から表層型と砂層型 に分類できる。

表層型メタンハイドレートは水深500メートル以深の海底面付近に存在するもので、

日本海側を中心に確認されている。表層型は、採掘しようとすると分解しガス化してし まい回収ができなくなるため、生産が難しいと考えられているが、資源量を把握するた めの調査が行われるなど、研究・調査が徐々に進められてきている。

他方、砂層型メタンハイドレートは水深が500メートル程度の深い海底面下数百メー

トルの砂層に存在するものである。砂層型は、通常のガス田とは異なり資源(ガス)が自噴 しないため、減圧法や加熱法というメタンハイドレート特有の採取方法などについて研 究が進められているが、基本的には掘った資源を上げてくるという、従来の石油・天然 ガスにおける掘削・生産手法の活用が可能であるとともに、探査も行いやすい。また、

砂層型のメタンハイドレートはある程度量が存在すると指摘されていることもあり、表 層型よりも従来型の石油・天然ガスにより近い砂層型を中心に研究開発が進められてい る。

図2.1.13に砂層型と表層型メタンハイドレートの概念図を示し、表 2.1.2に砂層型と

表層型の特徴を比較する。

図2.1.13 砂層型と表層型メタンハイドレートの賦存形態概念図

(出典:「海洋エネルギー・鉱物資源開発計画」経済産業省)

表 2.1.2 砂層型と表層型の特徴

項目 砂層型 表層型

賦存形態 水深が500メートル以深の海底面下 数百メートルの地層中に砂と混じり 合った状態で賦存する。

水深500メートル以深の海底に塊状で存在 する。

賦存海域 東部南海トラフ海域を中心に相当量 の賦存が見込まれている。

日本海側を中心に確認されている。

生産技術 自噴しないため、減圧法や加熱法とい う採取方法などについて研究が進め られている。

採掘しようとすると、分解しガス化してし まい回収ができなくなるため、生産がなか なか難しいと考えられている。

技術開発 在来型石油・天然ガス資源の生産技術 に加え、新たな技術開発が必要であ る。

分布する海域や資源量等の本格的な調査 の実施と、その結果を踏まえた開発手法の 検討が必要である。

経済産業省の 取り組み

平成30年度を目途に、商業化の実現 に向けた技術の整備を行う。

日本海側を中心に資源量を把握するため、

平成25年度以降3年間程度で、広域的な 分布調査に取り組む。

※海洋政策研究所第97回海洋フォーラム「石油・天然ガスを取り巻く現状」資料(2012)に基づき作成

② 資源分布

メタンハイドレートは世界の大洋の周辺に分布している。その量は、石油、天然ガス、

石炭などの化石燃料の総量にも匹敵すると推定されているが、海底堆積物中に存在する 全てのメタンハイドレートが資源として使えるわけではない。資源として使えるために は、密集し、まとまって存在している必要がある。

図2.1.14に地球規模の分布、図2.1.15にBSR6からの日本周辺の分布推定海域を示す。

図2.1.14 メタンハイドレートの地球規模の分布

※赤は確認済み、黄色はBSRから推定 (出典:明治大学ガスハイドレート研究所ウェブサイト)

図2.1.15 BSRから日本周辺でメタンハイドレートが分布すると推定される海域

(出典:明治大学ガスハイドレート研究所ウェブサイト)

6 BSRについては、次ページ③資源量・エネルギーポテンシャルを参照のこと。

③ 資源量・エネルギーポテンシャル

全世界の海域には1,000~5,000兆m3の資源量が存在する推定されており、その資源 ポテンシャルは膨大である。在来型天然ガスの究極可採資源量7436 兆m3と比較すると 2~11倍の量であり、海洋メタンハイドレートの10%が開発可能になれば、34~172年 分の天然ガスの供給が可能になる。特に、日本周辺の全海域に分布するメタンハイドレー トには約12兆m3(日本の国内ガス消費量の100年分以上に相当)のメタンガス相当と 推定されることから、日本のエネルギーセキュリティ確保に貢献する新たな国産エネル ギー資源として期待されている。

メタンハイドレートの調査は、石油・天然ガスと同様に、反射法地震探査(音波探査)

によって実施される。この調査データからBSR(海底擬似反射面:Bottom Simulating

Reflector)と呼ばれる特徴的な反射面を確認することによって、地層中のメタンハイド

レートの存在を推定している。BSRは地層中に海底面とほぼ並行する形で表れ、メタン ハイドレートが安定的に存在する領域の基底部に相当する。BSR分布図は、メタンハイ ドレートの存在(平面的な広がり)を知る手がかりとなる。しかし、BSR分布図だけで は、メタンハイドレートの資源量(空間的な広がり)を特定することはできない。メタン ハイドレートの賦存状態(どのような状態で存在しているか)を把握するためには、詳 細調査(三次元地震探査特殊解析や掘削調査等)によって、メタンハイドレート濃集帯 の分布状況を知ることが必要である。

メタンハイドレート資源開発研究コンソーシアム(MH21)8は、石油公団他が2000 年 に取りまとめたBSR分布図を基に、2001 年度から東部南海トラフ海域をモデル海域と した詳細調査(三次元地震探査や掘削調査等)を実施してきた。さらに2007~2008 年 度には、詳細調査によるBSRの推定手法及びノウハウの新たな蓄積を活用して、日本周 辺海域における既存二次元地震探査調査データの見直し作業を実施した。これに基づき、

東部南海トラフ海域に賦存するメタンハイドレートの資源量を約1.1 兆m3(日本の天然 ガス消費量の約13.5 年分)と算定し公表(2007 年、経済産業省)した。

表 2.1.3に海域メタンハイドレートの資源量をまとめる。

表 2.1.3 海域メタンハイドレートの資源量

海域 賦存量(兆m3) 消費量との対比

全世界の海域 1,000~5,000 在来型天然ガスの究極可採資源量436 兆m3と比較すると2~11倍の量 日本周辺海域 12 日本の国内ガス消費量の100年分以上 東部南海トラフ海域 1.1 日本の天然ガス消費量の約13.5 年分

※海洋政策研究所第97回海洋フォーラム「石油・天然ガスを取り巻く現状」資料(2012年)及びメタンハイドレート 資源開発研究コンソーシアム「日本周辺海域におけるメタンハイドレート起源BSR分布図」(2009年)より作成

7 究極可採資源量:可採埋蔵量とその計算時点までの累計生産量を合わせた資源量

8 メタンハイドレート資源開発研究コンソーシアム(MH21):平成137月に発表された「我が国におけるメタンハイドレー

ト開発計画」を実現するため、平成13年度に設立された官民学共同の組織。

④ 採取方法

メタンハイドレートの採集方法は、海底探鉱手法、自噴回収手法、土木手法、加熱 法、減圧法、化学的手法など各種提案されているが、現時点では加熱法と減圧法が有力 とされている。ただし、加熱法と比較すると減圧法のほうがより効率的であるというこ とが、2008年カナダ北西部陸上の永久凍土帯における産出試験で判明したため、現在で は減圧法が最も有力な生産手法と考えられている。同産出試験において 5.5 日間連続ガ ス生産を実現しており、この方式による陸上での生産試験は成功したと言えるが、長期 間の継続生産、海域での減圧法の効率確認などの課題が残されている。

a) 加熱法

温水注入などでメタンハイドレート層の温度を上げることで、メタンハイドレートか らメタンを取り出す方法。メタンハイドレートからメタンが自壊するほど海底の温度を 引き上げるには膨大なエネルギーを要する。

b) 減圧法

海底下数百m程度に存在するメタンハイドレート層まで掘削し、生産井内を減圧する ことでメタンハイドレートをメタンガスと水に分解し、ガスを採取する方法である(図 2.1.16)。

日本では、2013年3月に、渥美半島から志摩半島沖合で、約6日間にわたり減圧法に よるガスの生産実験が行われ、日量平均20,000m3の、累計約 120,000m3連続ガス生産 が実施された。

図2.1.16 減圧法の概念図

(出典:メタンハイドレート資源開発研究コンソーシアムウェブサイト)

⑤ ロードマップ

メタンハイドレートフォーラム 2013(2014.1.24)での「メタンハイドレート開発研 究の展望」で示されたメタンハイドレートの開発研究のロードマップを図2.1.17に示す。

本ロードマップでは、砂層型メタンハイドレートについて引き続き海洋生産試験を推 進し、平成30年代後半には民間主導の商業化プロジェクトが開始されるよう技術開発を 進めていくこととされている。

図2.1.17 メタンハイドレート開発計画

(出典:メタンハイドレートフォーラム2013 「メタンハイドレート開発研究の展望」)

(2) 海底鉱物資源開発

① 海底鉱物資源の概要

近年、世界的に海底鉱物資源の権益を確保する動きが活発化している。海洋鉱物資源 は、分布する場所、形成の仕方・形状・含まれる金属元素の違いなどから、マンガン団 塊、海底熱水鉱床及びコバルトリッチクラストの3種類に分けることができる。最近で は、第4の資源としてレアアースを含む堆積物にも注目が集まり、学術調査の他、資源 としてのポテンシャルを評価する試みも行われている。

図2.1.18に海底鉱物資源分布概念図、表 2.1.4に分布概要、表 2.1.5に特徴を示す。

図2.1.18 海底鉱物資源の分布概念図

(出典:JOGMECウェブサイト)