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研究分野紹介  教 授 : 近藤  丘

ドキュメント内 加齢医学研究所年次要覧2011-2012 (ページ 96-103)

 准教授: 岡田 克典  助 教: 星川  康

 当研究分野は昭和25年に抗酸菌病研究所外科学部門として肺結核の外科療法の研究を目的とし て発足した.その後,時代の変遷とともに呼吸器疾患全般,特に肺癌を含む肺悪性腫瘍,化膿性肺 疾患,進行性びまん性肺疾患,気腫性肺疾患,縦隔腫瘍などを対象として,呼吸器疾患全般に拡大 して基礎と応用の研究を展開している.現在,病理学,生理学,免疫学,分子生物学など幾本もの 柱を基盤に,21世紀にふさわしい呼吸器外科学の発展を目指している.大学病院においては,呼 吸器外科として年間手術件数平成23年208例,平成24年234例という診療実積をあげている.教 育面では医学部学生に対する呼吸器外科の講義と臨床ベットサイド教育を,研究面では内視鏡を駆 使した新しい呼吸器疾患の診断と手術手技の開発,細胞生物学に根ざした呼吸器病態生理学を中心 に実績を積み重ねている.

現在の主な研究

1) 肺移植

 肺移植の臨床: 平成12年3月に本邦第1例目の脳死肺移植手術成功から,現在まで脳死肺移植 53件(平成11年度12件,平成12年度8件)と生体部分肺移植11件(平成11年度3件,平成12 年度1件)の実施実績があり,5年生存率約70%と移植先進国である欧米の成績を凌駕する良好 な成績を収めている.手術手法,術中術後管理,免疫抑制療法,感染管理を改善し,肺移植術後管 理プロトコールの改訂を随時行っている.脳死肺移植は平成18年に,生体肺葉移植は平成20年に 健康保険の適応が認可されている.

 肺保存の研究: 肺保存の良否は移植成績を左右する最も重要な因子の一つである.抗酸菌病研究 所時代から世界に先駆けて肺保存液の研究に着手し,リン酸緩衝液を基本とする肺保存液(EP4

solution)を独自に開発して動物実験では96時間という驚異的な長時間の肺保存を達成した.肺移

植の臨床ではEP4 solution (EP-TU solutionとして製品化,細胞科学研究所より市販)を使用してお 91

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り,これまで6時間程度とされてきた安全域を大幅に超える17時間までの臓器保存でも肺移植を 成功させている.EP4 solutionの優秀性は,肺胞上皮細胞のイオントランスポート機能やサーファ クタント合成能の保持に反映されていることが基礎研究で裏付けられており,本邦の多くの肺移植

施設でもEP-TU solutionが使用されるようになっている.心停止ドナーの基礎的研究に基づき,ド

ナー拡大に向けて臨床応用を準備している.

 拒絶反応対策: 肺移植後に発生する急性および慢性拒絶反応の診断と予防・治療は,今日なお肺 移植医療における最も重要な事項である.拒絶反応診断法としては,末梢血リンパ球細胞内サイト カイン染色による拒絶反応モニタリングの可能性について基礎研究を行っている.また,免疫抑制 性サイトカインIL-10の経気道的遺伝子導入による急性拒絶反応抑制とそのメカニズムに関する実 験的研究を行った.

2) 呼吸器疾患の診断および治療法の開発

 低侵襲手術・胸腔鏡手術: 本邦では,肺癌手術にも内視鏡手術が普及して来たが,低侵襲と同時 に根治性を保持していることが重要である.当分野では平成5年から胸腔鏡手術を導入し,平成8 年に胸腔鏡下肺葉切除術(小開胸併用),平成13年に前縦隔良性腫瘍摘出術,平成14年に重症筋 無力症に対する拡大胸腺摘出術,平成15年小型胸腺腫と段階的に適応範囲を拡大してきた.現在 では開胸手術を含めて大多数の手術に胸腔鏡を併用して,手術創の縮小と低侵襲化を図っている.

手術成績もI期肺癌に対する成績は,5年生存率: 臨床病期I期94.7%,病理病期I期92.7%と良 好である.重症筋無力症は若い女性に多い疾患であるため,早期回復が得られると同時に美容的に も胸骨正中切開を回避できる胸腔鏡手術の利点は大きく,術後3年までの中期成績では良好な結果 が得られている.ハイリスクである慢性呼吸不全患者の難治性気胸に対して,局所麻酔下気瘻閉鎖 術などを低侵襲手術として導入して良好な成績を得ている.胸腔鏡手術は低侵襲手術である反面,

モニター画面に頼って手術を行うため,手術手技の習得が従来の外科手術に比べて困難である.研 究室内に手術練習機器を整え,モニターを見て手術手技の練習を行うドライラボ,動物を用いて練 習を行うアニマルラボを関連施設を含めて定期的に開催して,手技の標準化とレベル向上を図って いる.

 気管支内視鏡: 細胞の自家蛍光を検出して気管支の微小な早期癌はもとより前癌病変も検出で

きるAutofluorescence Imaging system (AFI)などを導入している.超音波気管支鏡とデジタル画像

解析による気管支壁内の癌の深達度評価を確立し,気管支周囲リンパ節の細胞診を超音波気管支鏡 を用いて行っている(EBUS-TBNA).CTのDICOMデータを用いたヴァーチャル気管支鏡を用い たナビゲーションシステムによる末梢のすりガラス陰影(GGO)診断,高周波による腫瘍切除,種々 の気道内ステントを用いた狭窄気道の拡張治療,気道内異物除去の治療にも成果をあげている.

呼吸器外科学分野 93  肺癌の臨床研究: 肺癌の予後改善に結びつく可能性のある複数のテーマについて東北地方を中 心とする多施設臨床試験を主催するとともに,全国規模の複数の臨床試験に積極的に参加している.

術後化学療法の研究の他,早期肺癌に対する根治的縮小手術の臨床研究を行い,新たなエビデンス の構築に努力している.

3) 呼吸器病態生理学

 肺切除術のリスク評価: 肺癌患者の多くは肺気腫など何らかの呼吸器疾患を合併している.手術 による肺組織の喪失はその後のQOLを大きく左右するため,患者毎,手術術式毎に詳細な肺機能 予測を行い,合併症発生や予後との関連から肺切除術の適応について提言している.

 肺高血圧症: 肺移植の適応となっている特発性肺動脈性肺高血圧症(IPAH),種々の呼吸器疾患 の予後不良因子である二次性肺高血圧症の病態は未だ明らかではなく,治療の選択肢は少ない.我々 は過去,動物実験を通じて,肺高血圧症の病態進展に酸化ストレスが強く関与することを示した.

また,肺血管内皮細胞や平滑筋細胞の増殖に関わる種々の遺伝子プロファイリングから,細胞外マ トリックスであるオステオポンチン (OPN)が,肺高血圧・肺血管再構築の増悪因子であること,

さらに肺高血圧治療のmainstayであるプロスタサイクリンへの反応性を左右する因子であること を明らかにしている.Nuclear factor E2 p45-related factor 2 (以下Nrf2)は抗酸化剤応答配列に結合 して生体防御酵素遺伝子群の発現を強力に誘導することにより酸化ストレスに対抗する転写因子で あるが,近年ある種の細胞においてOPNの発現制御に寄与することが明らかにされた.最近我々は,

薬物によるNrf2活性化がマウス肺高血圧モデルにおける心肺病変を抑制することを明らかにした.

現在,IPAHおよび二次性肺高血圧患者肺,Nrf2遺伝子改変マウスを用いて,Nrf2の肺高血圧病態 における役割および治療ターゲットとしての位置づけを検討中である.

 急性呼吸不全: 最近5年間の肺癌手術に手術死亡はないが,高齢者,他疾患合併,2次肺癌など,

ハイリスク症例が増加している.このため術後合併症,特に肺炎発症の機序解明・予防に取り組み,

高齢肺癌患者に術後上気道防御反射低下が見られ,反射異常を示す患者に術後肺炎が発症すること,

さらに予防歯科医による術前口腔内評価・専門的口腔清掃・自己口腔ケア指導,集中治療室看護師 による徹底的な口腔介入を含む継続的周術期口腔ケアが術後肺炎を予防する可能性を示した.現在,

周術期の気道内への口腔内常在菌の入り込みと上気道防御反射,周術期口腔ケアの関連性を検討し,

術後肺炎への口腔内常在菌の関与を検証中である.

4) 肺癌細胞の増殖機構解明

 肺癌の遺伝子解析を行い,p53やKras,survivin遺伝子の変異の意義を検討している.さらに,

発癌の機構を解明するため,肺癌幹細胞のマーカーの研究,EGFR遺伝子の変異細胞の生存に重要

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な役割を果たす蛋白の同定と機能解析を行っている.

2. 研究報告

1) 英文論文

 1. Fujino N, Kubo H, Suzuki T, Ota C, Hegab AE, He M. Suzuki S, Suzuki S, Suzuki T, Yamada M, Kondo T, Kato H, Yamaya M : Isolation of alveolar epithelial type II progenitor cells from adult human lungs. Laboratory Investigation 91 : 363-378, 2011.

 2. Maeda S, Sugita M, Sagawa M, Ueda Y, Sakuma T : Solitary Fobrpis Tumor of the Pleura Suddenly Indeed Hypoglycemia before Surgical Treatment. Annals of Thoracic and Cardiovascular Surgery.

17(3): 293-296, 2011.

 3. Oishi H, Okada Y, Kikuchi T, Sado T, Noda M, Hoshikawa Y, Sakurada A, Endo C, Kondo T : The Intensity of Bronchiolar Epithelial Cell Injury Caused by an Alloimmune Response Is Ameliorated by Transbronchial Human Interleukin-10 Gene Transfer in a Rat Model of Lung Transplantation. Sur-gery Today 41 : 1458-1460, 2011.

 4. Maeda S, Takahashi S, Koike K, Sato M : Preferred Surgical Approach for Dumbbell-Shaped Tumors in the Posterior Mediastinum. Annals of Thoracic and Cardiovascular Surgery 17

(4): 394-396, 2011.

 5. Maeda S, Takahashi S, Koike K, Sato M : Primary Ependymoma in the Posterior Mediastinum. 

Annals of Thoracic and Cardiovascular Surgery. 17(5): 494-497, 2011.

 6. Maeda S, Okada Y, Sakurada A, Sado T, Ohishi H, Kondo T : Surgical treatment for locally advanced lung cancer in a human immunodeficiency virus-infected patient. General Thoracic and Cardiovas-cular Surgery 59(12): 822-825, 2011.

 7. Noda M, Okada Y, Maeda S, Kondo T : Successful thoracoscopic surgery for intractable pneumotho-rax after pneumonectomy under local epidural anesthesia. The Journal of Thoracic and Cardiovas-cular Surgery. 141(6): 1545-1547, 2011.

 8. Noda M, Endo C, Hosaka T, Sado T, Sakurada A, Hoshikawa Y, Okada Y, Kondo T : Dedifferentiated Chondrosarcoma of the Chest Wall : Reconstruction with Polypropylene Mesh Using a Transverse Rectus Abdominis Myocurtaneous Flap. General Thoracic and Cardiovascular Surgery 59

(3): 199-201, 2011.

 9. Ebina M, Taniguchi H, Miyasho T, Yamada S, Shibata N, Ohta H, Hisata S, Ohkouchi S, Tamada T, Nishimura H, Ishizaka A, Maruyama I, Okada Y, Kondo T, Nukiwa T : Gradual Increase of High Mobility Group Protein B1 in the Lungs after the Onset of Acute Exacerbation of Idiopathic Pulmo-nary Fibrosis.  PulmoPulmo-nary Medicine Epub : 1-9, 2011 Feb 21.

10. Okada Y, Matsumura Y, Bando T, Date Y, Oto T, Sado T, Hoshikawa Y, Noda M, Oishi H, Kondo T : Clinical application of an extracellular phosphate –buffered solution (EP-TU) for lung preservasion :

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