助 教: 伊藤 剛
当研究分野は平成23年3月に,田中がテニュア・トラック准教授から教授に昇任するのに伴い 新設された分野であり,先進フロンティア研究棟(旧MRI棟)に位置する.
当研究室では「がん化及びがん治療のターゲットとしての細胞分裂制御機構の解明」をテーマに 研究を行っている.多くのがん細胞では染色体数の異常(aneuploidy)が認められ,これはがん化 と密接に関連していると考えられる.この染色体数の異常は,細胞分裂期における染色体の不均等 分配に起因すると考えられる.一方vinca alkaloidやtaxolといった抗がん剤は,細胞分裂期にその 効果を発揮する.このように細胞分裂期はがん化にもがん治療にも密接に関連しており,その制御 機構の解明はがん化の機構を理解する上でも,またがん治療を進歩させる上でも重要である.そこ でこれらをふまえ,以下のような研究を行っている.
現在の主な研究
1) ヒト細胞での正確な染色体分配の機構
がんの大部分でみられる異数性は染色体の不均等分配に起因すると考えられるため,染色体分配 に関与する分子の異常はがん化と関連している可能性がある.そこで当研究室ではヒト細胞で染色 体分配に関与する分子の探索を行っている.その成果として脊椎動物でのみ保存されている新規分 子を同定し,その性質からCAMP(Chromosome alignment-maintaining phosphoprotein)と名付けた
(EMBO J, 2011).CAMPはキネトコアと微小管の結合の維持に機能しているのではないかと考えら れ,現在CAMPの機構についてさらに検討を進めている.また,間期において核膜を介した輸送 に関連している核膜孔複合体の構成分子Nup188が,核膜が崩壊した細胞分裂期において染色体分 配に関与していることを明らかにした(Cancer Sci, 2013).
染色体が均等に分配されるためには,すべての複製された染色体のペア(姉妹染色分体)が異な る中心体から伸びる微小管と結合すること(双方向性結合)が必要である.核膜崩壊後,染色体上 の動原体は効率よく微小管に捕捉され,双方向性結合が成立する(HeLa細胞では20〜30分).こ
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の過程では,動原体はまず微小管の側面で捕捉され,その後微小管の末端に結合することが知られ ているが,この微小管側面から末端への結合の変換がどのように起こり,双方向性結合の成立にど のように寄与しているのかは明らかになっていない.当研究室では高解像度のライブ観察を中心と した手法により,動原体の微小管側面への結合の分子機構とその生理学的意義の解明を目指してい る.
2) 染色体異常が細胞のがん化をひきおこす過程の解明
がんの大部分(固形腫瘍の90%, 造血系腫瘍の75%)では異数性が認められるが,異数性ががん の結果ではなく原因であるという点については完全には証明されていない.染色体分配の異常から 異数性が生じる過程には,染色体不安定性というステップがある.これは細胞分裂のたびに染色体 の不均等な分配が起こり,細胞集団の中で染色体数がまちまちになってしまう現象のことを指す.
染色体数が異常になった細胞はほとんどが死んでしまうため,異数性が成立するためには染色体不 安定性においてgrowth advantageをもったクローンが選択されることが必要であり,これこそがま さにがん化に結びつくのではないかと考えられる.当研究室ではこのようながん化の機構を解明す るために,まずは細胞レベルで染色体不安定性から異数性が成立する機構について検討し,将来的 には個体レベルでの研究を行う予定である.
3) 細胞分裂期に作用する抗がん剤の作用機序の解明
Vinca alkaloidやtaxolといった薬剤は,細胞分裂期に微小管に作用することにより染色体と微小 管の正しい結合をさまたげ,紡錘体チェックポイントを活性化させる.その結果細胞周期が停止し,
これが持続するとアポトーシスにより細胞死に至るが,その詳細な機構は明らかになっていない.
一方一部の細胞は分裂期にとどまらずに次の細胞周期へ移行する.これはadaptationまたはmitotic
slippageと呼ばれ,抗がん剤耐性と関連している.当研究室では出芽酵母をモデルとして,細胞分
裂期に作用する薬剤による細胞死の機構を検討した(FEBS Lett, 2010).一方ヒト細胞で,当研究 室で同定した新規分子CAMPをノックダウンした細胞では,細胞分裂期に作用する薬剤による細 胞死が早期に起こることがわかった.このことはCAMPが細胞周期停止時の細胞の生存に関与し ていることを示唆しており,CAMPの発現量が分裂期に作用する抗がん剤に対する感受性に影響 している可能性についてさらに検討を行っている.
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2. 研究報告
1) 英文論文原著論文
1. †Itoh, G., †Sugino, S., †Ikeda, M. (†equally contributors), Mizuguchi, M., Kanno, S., Amin, M.A., Iemura, K., Yasui, A., Hirota, T., and Tanaka K. (2013). The nucleoporin Nup188 is required for chromosome alignment in mitosis. Cancer Sci. in press.
2. Yumura, S., Itoh, G., Kikuta, Y., Kikuchi, T., Kitanishi-Yumura, K. and Tsujioka, M. (2013). Cell -scall dynamic recycling and cortical flow of the actin-myosin cytoskeleton for rapid cell migration.
Biology Open 15, 200-209.
3. †Kawashima, S., †Nakabayashi, Y. (†equally contributors), Matsubara, K., Sano, N., Enomoto, T., *Tanaka, K., *Seki, M., and *Horikoshi, M. (*joint corresponding authors). (2011). Global analysis of core histones reveals nucleosomal surfaces required for chromosome bi-orientation.
EMBO J. 30, 3353-3367.
4. Gandhi, S.R., Gierlinski, M., Mino, A., Tanaka, K., Kitamura, E., Clayton, L., and *Tanaka, T.U.
(2011). Kinetochore-dependent microtubule rescue ensures their efficient and sustained interac-tions in early mitosis. Dev. Cell 21, 920-933.
総説
1. Tanaka, K. (2013). Regulatory mechanisms of kinetochore-microtubule interaction in mitosis.
Cell. Mol. Life Sci. 70, 559-579.
2. Tanaka, K. (2012). Dynamic regulation of kinetochore-microtubule interaction during mitosis. J.
Biochem. 152, 415-424.
2) 和文論文
総説
1. 田中耕三(2013). 染色体分配を司る動原体と微小管の相互作用.細胞工学32, 291-296.
2. 田中耕三(2012). 染色体分配の分子機構と関連分子を標的としたがん治療への展望.実験 医学30, 3118-3124.
3. 田中耕三(2011). キネトコアと微小管の結合を制御するタンパク質CAMP. 生体の科学 62, 468-469.
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3. 国際学会・海外での講演及びセミナー等
1) シンポジウム,ワークショップ等1. 田中耕三.Maintenance of kinetochore-microtubule attachment by a novel protein, CAMP
(C13orf8). 特定領域研究「細胞周期フロンティア―増殖と分化相関」公開国際シンポジウ ム“Cell Division”, 箱根,2011年6月.
2. 田 中 耕 三.Mechanisms of mitotic regulation in relation to oncogenesis and anti-cancer therapy.
第6回研究所ネットワーク国際シンポジウム,東京医科歯科大学,2011年6月.
2) 一般演題,ポスター等
1. 田中耕三.CAMP (C13orf8, ZNF828) is a novel regulator or kinetochore-microtubule attachment.
6th UK-Japan Cell Cycle Workshop, Windermere, UK, 2011年4月.
2. 田中耕三.Regulation of kinetochore-microtubule attachment by a novel protein, CAMP (C13orf8). College of Life Sciences Seminar, University of Dundee, Dundee, UK, 2011年4月.
4. 国内学会での発表
1) 特別講演,シンポジウム,ワークショップ等
1. 田中耕三.細胞周期停止の持続による細胞死誘導機構の解明.特定領域研究「細胞増殖制御」
終了シンポジウム,東京,2012年8月.
2. 伊藤 剛,菅野新一郎,内田和彦,千葉秀平,水野健作,安井 明,広田 亨,田中耕三.
Function of CAMP (C13orf8, ZNF828) in kinetochore-microtubule attachment. 第34回日本分 子生物学会年会,横浜,2011年12月.
3. 田中耕三.タキサン系抗がん剤の作用機序について.第17回北日本肺癌臨床研究会,仙台,
2011年11月.
4. 田中耕三.新規分子CAMPによるキネトコア─微小管結合の制御.第16回東北大学学際 ライフサイエンスシンポジウム,東北大学,2011年11月.
2) 一般演題,ポスター等
1. 伊藤 剛.キネトコア―微小管結合の制御による染色体整列のメカニズム.2nd multidisci-plinary meeting on atherosclerosis,仙台,2013年1月.
2. 家村顕自,伊藤 剛,田中耕三.染色体整列制御分子CAMPは分裂期停止時における細胞 の生存に関与する.第30回染色体ワークショップ第11回核ダイナミクス研究会,淡路島,
分子腫瘍学研究分野 113 2012年12月.
3. 池田真教,伊藤 剛,田中耕三.動原体と微小管の過渡的複合体形成機構の解明.第30回 染色体ワークショップ第11回核ダイナミクス研究会,淡路島,2012年12月.
4. 伊藤 剛,M.A. Amin,家村顕自,池田真教,田中耕三.キネトコアが微小管の側面に結合 する分子メカニズムの解明.第35回日本分子生物学会年会,福岡,2012年12月.
5. 伊藤 剛.キネトコア局在分子がキネトコアと微小管の結合を制御するメカニズムについ て.平成24年度第3回加齢研生化学セミナー,東北大学,2012年11月.
6. 田中耕三.セントロメアと微小管の位置関係による染色体分配制御機構の解明.新学術領 域研究「非コードDNA」第3回領域会議,御殿場,2012年7月.
7. 伊藤 剛,菅野新一郎,内田和彦,千葉秀平,水野健作,安井 明,広田 亨,田中耕三.
新規分子CAMPのキネトコア―微小管結合に関する機能.第29回染色体ワークショップ,
仙台,2012年1月.
8. 田中耕三.細胞増殖における染色体分配の制御機構.1st multidisciplinary meeting on athero-sclerosis,仙台,2012年1月.
9. 伊藤 剛,田中耕三.染色体整列に働く新規分子CAMPの機能について.日本生化学会東 北支部第77回シンポジウム,東北大学,2011年7月.
5.
学会主催等1. 第7回研究所ネットワーク国際シンポジウム“Research Frontiers for Smart Aging”,東北大学 加齢医学研究所2012年6月 実行委員長: 田中耕三
6.
その他1) 受賞歴
1. 伊藤 剛 加齢医学研究所研究奨励賞 2012年1月
機能画像医学研究分野
担当教授 瀧 靖 之