第1章 . 緒言
1.4 研究の目的
上述の研究背景を整理するために,入射衝撃波との干渉を伴う境界層の流れ場についての概略
図を図1.4.1に再度示す.まず,1.2節では入射衝撃波との干渉を伴う境界層の流れ場は,壁面圧
力分布から次のような三つの領域に分かれることを確認した.
(i). 干渉上流領域
(ii). 干渉領域
(iii). 干渉下流領域 ( 回復領域 )
また,これまでの研究 ( 1.3節 ) では主に次のような二つの点についての研究が盛んに行われて いた.
Fig. 1.4.1 Sketch of the flow induced by a shock reflection with separation.
三つの領域における乱流統計量の特徴の計測
衝撃波の干渉領域における非定常性 ( 特に反射衝撃波の振動に伴う低周波数変動 )
特にDolling et al. ( 1983, 1985 ) によって衝撃波の低周波数振動が確認されて以降は,実験ではこ
の低周波数振動のメカニズムの解明に力を注いできた.
一方,数値計算による研究においても上記の二点による実験結果の再現および数値計算の利点 を生かし,三次元構造の解明などに力が注がれてきた.また,SWBLIの実験結果の再現は,衝撃 を伴う流れを扱うスキームの信頼性の確認する上でも大きな役割を果たしているように思う.
これまでに行われてきた入射衝撃波発生機器による研究は 1.3 節でも確認できるように,衝撃 波/乱流境界層干渉の研究が主として行われている.しかし,衝撃波/乱流境界層干渉における干渉 領域の流れの構造は,三次元的で非常に複雑である.そのため,流れの解析は非常に高度な数学 を用いた解析を有するなど ( Touber & Sandham ( 2009 ) ) ,近年,解析手法も複雑化しているよう に思われ,尐なくとも著者が本論文でこの領域を扱うことは難解に思われる.
一方,層流から乱流へと遷移する段階 ( 主に干渉上流領域 ) では,その構造は二次元的である.
ゆえに,解析は衝撃波/乱流境界層干渉に比べると,尐しは容易になると想像できる.また,遷移 直後は乱流境界層の起源であるため,衝撃波/乱流境界層干渉と同様の特徴を持つ可能性も高いと 推測でき,さらに,衝撃波/乱流境界層干渉と衝撃波/遷移境界層干渉との相違点を調べることで,
その特徴が「境界層中の不安定波や大域不安定に基づくもの」なのか,「境界層中の乱流構造に基づ くもの」なのかを明らかにできる.しかし,衝撃波と干渉する層流境界層の乱流遷移について調べ た研究はこれまでのところほとんど行われていない.
このような背景のもと,本研究では主流マッハ数 2.0 における衝撃波と乱流遷移境界層の干渉 を対象とし,剥離を伴う超音速境界層流れが持つ不安定性およびその結果から得られる不安定波 の非線形発達に伴う乱流遷移構造ならびに乱流遷移とショックシステムとの関係を,圧縮性粘性 線形解析および高解像度空間発展DNS ( 5次精度散逸コンパクトスキーム,6次精度コンパクトス
キーム,4段階4次精度ルンゲクッタ ) を用いて研究した結果について報告する.
各章の概要は,以下の通りである
第1章では,衝撃波の干渉を伴う超音速乱流境界層研究の歴史と現状を概観し,今日において も未解明となっている問題について述べる.また,本論文の構成についても述べる.
第2章では,本論文のテーマである衝撃波の干渉を伴う超音速境界層における乱流遷移につい ての直接数値シミュレーションを行う際に用いた計算方法及び計算条件について説明する.衝撃 波を伴うような流れおよび超音速流れにおける乱流遷移に対する DNS では,計算スキームの性 能がその結果に大きく影響する.本研究では衝撃波を伴うような流れについては現時点での先端 的スキームとして,高解像度空間発展DNS ( 5次精度散逸コンパクトスキーム,6次精度中心コン パクトスキーム,4段階4次精度ルンゲクッタ ) を用いた.第2章ではそれらについての説明を 行う.
第3章では,剥離領域における撹乱の挙動について把握することを目的とし,広い波数帯にエ ネルギーをもつ,一様等方的ランダム撹乱を比較的大きな振幅で流入させることで,剥離を伴う 超音速境界層における乱流遷移の特徴について考察する.ここでは,まず本論文で用いた解析方 法について説明した後,計算結果の信頼性についての議論を行う.その後,衝撃波/境界層干渉に よる干渉領域の状態を理解するために,剥離領域の非定常性および衝撃波と境界層の干渉による 乱流境界層の緩和過程における特徴について衝撃波/乱流境界層干渉研究の結果との比較を交え ながら議論を行う.そして,剥離を伴う超音速境界層における乱流遷移の特徴について,渦構造 やトポロジー構造,そして速度変動フーリエ解析結果を用いて議論を行う.
第4章では,圧縮性粘性線形解析ならびにその結果を示す.第3章では,速度変動のフーリエ成 分の空間発達を解析することにより,比較的大きな撹乱を与えた場合であっても剥離を伴うよう な超音速境界層の乱流遷移においては,斜行波対による遷移が重要な役割を担うことを示した.
さらに,剥離領域における特徴的な構造はこの斜行波対により生成されていることを示唆した.
そこで,本章では,衝撃波を伴う超音速境界層に対する不安定撹乱を得るための線形安定性方程
式をChebyshev 級数を用いたスペクトル法により計算した.また,圧縮性粘性線形解析の結果と
二次元衝撃波/境界層 DNS の結果を比較することで,線形解析の有効性を議論し,さらに,剥離 領域における不安定波の非定常構造に対する役割についても議論する.
第5章では,三次元衝撃波/乱流遷移境界層DNS の結果を示す.第3章では,速度変動のフー リエ成分の空間発達を解析することにより比較的大きな撹乱を与えた場合であっても,干渉領域 において ( 1,1 ),( 0,2 ) といった斜行波対による遷移に関連する成分の成長率が上流の点よりも 大きくなっていることを示した.また,これらの不安定波の成長により干渉領域において特徴的 な渦構造およびトポロジー構造が観測された.第4章では,二次元,三次元波どちらの不安定波 についても衝撃波を伴わないケースに比べ剥離領域では大きな成長率を示していることが確認で
き,三次元波ではその傾向が顕著に表れることを確認した.すなわち,剥離領域では斜行波によ る遷移が優勢であることを示唆した.そこで,剥離領域における不安定波の非線形発達に伴う乱 流遷移構造および不安定波の非線形発達に伴う剥離泡内のトポロジー構造のより詳細な理解を目 的として,本章では線形解析から得られた不安定波を導入した三次元衝撃波/境界層DNSを行い,
再付着領域付近における不安定波の影響に着目し,議論を進める.
第6章では,超音速乱流境界層の空間発展型DNSによるデータベースの解析結果とこれまでに 行われている実験ならびに時間発展計算手法により行われたDNS計算との比較を示す.計算精度 の検証を行うとともに,超音速乱流境界層の特徴を述べる.
第7章は,本研究で得られた主要な成果を総括している.