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研修員報告 〈自転車/ロードレース 福島 晋一〉

ドキュメント内 スポーツ指導者海外研修事業_27年度帰国者 (ページ 60-72)

⑥日本人が海外で通用するために

(1)マルセイユ13KTMチームの効率的な運営方法

「限られた予算の中でも正しく活動して最大限の効果を貫いてきたチームはコンチ ネンタルプロに昇格」

 1974年に発足したチームはアマチュア チームから、36年後の2010年に第3のプ ロカテゴリーであるコンチネンタルチー ムに昇格しました。

 現在、トレックファクトリーチームで 活躍する別府史之選手のほかに世界の トップで活躍するプロ選手をアマチュア チーム時代からたくさん輩出してきまし たが、これもフレドリック監督が最低限 のお金で最大限の成果をあげようと奮闘 してきた成果に他なりません。そして、

昔から日本以外にもアイルランドや東欧 の選手を受け入れてきました。

 2014年のチーム体制について、3台のチームカーはリースで新しいものですが、ト ラックは30万キロ走っている車を直しながら使っていました。

 フランスのコンチネンタルチームは登録条件が厳しいので4チームと少なく、その 恩恵からフランス国内の大きなレースへの招待は良く回ってきました。

 その中で、ツールドフランスを走るようなチームとできるだけ互角に戦えるように、

一回り小さいですがバスも用意されていましたし(違いはシャワールームが2つある か1つあるかの違いぐらいです)、チームトラックも20年以上前のもので長距離の移 動には不安がある為、フランス北部でレースが続く4月から8月まではフランス中部 の都市ディジョン(姉妹チームの本拠地)に停めて、メカニックはそこからレースに 向かっていました。このお蔭で治安の悪いマルセイユの本拠地が空き巣に入られた時 もレース活動に大きな支障が出ずに済みました。バスとトラックの運転に関しては、

運転手を雇うお金を節約するために、大型免許を持ったメカとマッサーを雇っていま した。

 移動に関してもパリのディズニーランドからマルセイユまで格安で戻れるOUIGO という電車(TGV)を使ったり、格安航空会社を駆使して、お金を節約しながら選 手への負担を軽減する工夫がなされていました。選手はフランス各地に散らばってい るので、各自家に練習用のバイクをおいて、レースの時は小さなスーツケース一つで 会場に向かい、現地でメカニックから自転車を受け取ります。このようにトラックで 自転車を運べるヨーロッパのレースは選手は機内持ち込みできるサイズのバック一つ で参加するようになっています。

 また、チームのスポンサーの中に車のステッカーを張る会社や車を改造する工場、

きれいなチームカー、とプロコンチネンタルチー ムに比べると一回り小さいバス

平成   25 年度・長期派遣(自転車/ロードレース)

タイヤ屋、リース屋、印刷会社などを加えて、スポンサー料をもらう代わりに、破格 もしくは無償で作業してもらい経費を浮かしていました。

 選手の自転車はもちろん、古いジャージやヘルメット、鞄などは年末に回収して、

まずは育成チームであるヴェロクラブ・ラポム・マルセイユの来季使う分を確保した 後、残りを競売にかけてチームの予算にしていました。競売も最初はボランティアを 含む身内で行った後、一般に公開するなどボランティアの方にメリットと優先権を与 えることを忘れていません。

 2014年は10月に来季のメンバーで合宿をするなど、他のチームよりも来季に向けて 準備を入念にした結果、2015年は非常に良い結果を出すことが出来ました。

 10月、12月、1月にそれぞれ1週間前後の日程で行われた合宿ではトレーニング以 外に、監督との個別面談、体力測定、ウェアのサイズ合わせ、写真撮影、血液検査の ほかにスポンサーからの商品の説明と意見交換、栄養士による講義、トレーナーによ る講義、ソーシャルメディアの活用法、チームドクターからの禁止薬物に対する説明 など、セミナー的な要素も多く含まれていました。

 選手の獲得に関しては8月1日に解禁になるのですが、良い選手を早い段階で契約 してサインを済ませて、同時に戦力外通告もその時期に出したので選手は来季のチー ムを早く探し始める事が出来ました。

 2015年にフレドリック監督は、今まで監督の間だけで開示していた選手の評価表を チーム内にメールで公開するようになりました。これによって、仕事をした選手、仕 事をしなかった選手の記録が文章で残ることになり、選手の意識が上がり成績は上 がっていきました。

 しかし、シーズン後半になると選手が全員で12人とツールドフランスを走るチーム の半分、大きいチームの3分の1の人員でやっている事の仇が出たのか選手が疲れ 切ってしまい戦績が出なくなりました。しかし、この監督の評価表の公開はチームを 引き締めるには効果絶大でした。

 このような運営の結果、チームは2016年に念願の第2のプロチームカテゴリーであ るプロコンチネンタルチームへの昇格が決まりました。

 2017年はマルセイユの「ヨーロッパのスポーツの首都」プロジェクト年であり、ツー ル・ド・フランスにもマルセイユでゴールするステージがあります。フランス籍のプ ロコンチネンタルはツールドフランスに招待を得られる可能性が高いので、ツールド フランスを走る可能性まで出てきました。私はとても良い時期をチームと共にできた のだと思います。

 1年目はチームの半分の選手がチームを去り、2年目はチームの3分の2の選手が 残留できずにチームを去りました。上のチームに昇格した選手はそのうち3名のみで あり、厳しい実力社会です。

 レースの時に采配を振るう現場監督のほかに、ロジスティックも監督の仕事の一つ です。大きなチームでは秘書がする仕事ですが、マルセイユでは第2監督のフレディ 監督がその仕事をしていました。いかに効率良く安く集合、解散させるかは腕の見せ 所です。

 大会へのエントリー、移動手段に宿泊など、チームが大きくなればなるほどヨーロッ

パ中に散らばる選手たちがレース会場に集まる手段は複雑になってきます。レースの 2週間ほど前にメールの一斉配信でレースの情報を送ります。

内容は、

・レース名

・期間

・選手、スタッフ構成(各当選手、スタッフに色を付ける)

・集合方法と解散方法(時間系列に各自の合流方法を分かりやすく書く)

・ホテルの連絡先

・目標

・レース中のタイムテーブル(スタート地点、ゴール地点、距離、朝食時間、昼食時 間、ホテル出発時間、レーススタート時間、夕食時間)

を期間中の分すべてまとめたものです。

 以上のものがあれば、ミーティングをステージレースの初日に行った後は、当日の レースのスタート前に簡単な変更事項を伝えるだけで済みます。

 レースが日常になっているチームは役割分担がしっかりとなされていて、出走人数 が1チーム8人と多い場合は監督、メカニックもマッサージャーも二人ずつ。そして、

夕食後は基本的にすべての仕事が終わっています。

 日本では夕食後もずっと働くことが美徳とされていますが、フランスやイタリアは しっかり休むことによっていい仕事ができるという考えからこのようになっていま す。こういった余裕が長丁場のレースで安定したパフォーマンスを出すためには必要 なのでしょう。

 自分が作成したロンデロワーズのコンボカシオン(召集令状)を本稿最後に添付し ております。

(2)ヴェロクラブ・ラポム・マルセイユ 各部門の運営

 2014年からヴェロクラブ・ラポム・マルセイユからプロチームであるマルセイユ 13KTMが独立しました。もともとは一つのASSOCIATION(協会)として運営して いたのですが、プロコンチネンタルチームを運営するとなるとSOCIETE(会社)と して独立する必要があったようです。

 プロチーム以外の自転車学校、カデ、ミニム、ジュニア、エスポワール、MTBを 担当する部署がヴェロクラブ・ラポム・マルセイユになります。

<自転車学校の指導>

 6才から14才までが対象であるエコールドシクリズム(自転車学校)では水曜日と レースがない土曜日が練習日。木曜は放課後にプールです。

 水曜は学校が午前中で終わるので午後2時に近くの自転車屋の前に集合して練習に 出ます。約15人の子供たちに対してボランティアは5人。資格を持ったボランティア も子供が所属している親がほとんどです。日本の指導と違うのは「狭く狭く!」と子 供たちの自転車の集団の密集度をあげさせることです。大人が子供のサイドを走りな がら守るなどセキュリティーに注意しながら、危険を冒させる工夫がなされていまし

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