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研修員報告 〈陸上競技 谷川 聡〉

ドキュメント内 スポーツ指導者海外研修事業_27年度帰国者 (ページ 92-108)

研修後 平成27年

Ⅳ.研修概要

(1)研修細目

①陸上競技のコーチング

 2013年モスクワ世界陸上金メダリストのDavidOliver選手/ LaShawnMerritt選 手のコーチBrooksJohnsonの基で陸上競技のコーチングおよびトレーニング方法 を学ぶ。

②スポーツトレーニング・コンディショニング研究

 NSCA(NationalStrength&ConditioningAssociation)の前Presidentであった Dr.JayHoffmanのUniversityofCentralFloridaの研究室にVisitingScholarとして 所属し、アスリートを対象にした実践的な研究、コーチング方法を学ぶ。

(2)研修方法

①陸上競技のコーチング

 フロリダ州・オーランドのDisneyWorld内にあるESPNWORLDWIDESPORTS

(テレビ局であるESPNとDisneyが出資するSportsComplexCenter)において、陸 上競技短距離・ハードルの金メダリスト3名を含む10名程度の陸上チームのコーチ をするBrooksJohnsonのコーチングを学ぶ。

②スポーツトレーニング・コンディショニング

 UniversityofCentralFloridaのCollegeofEducationandHumanPerformance の、InstituteofExerciseandPhysiologyの研究室でVisitingScholarとして週5日 間午前8時から午後2時まで研究室でスポーツトレーニング・コンディショニング について学ぶ。筋力、パワー、持久力、ホルモン、GPSなどの指標を用いて、様々 なアスリートの測定、分析を進める。NSCA公認のCSCS(CerificateStrength&

ConditioningSpecialist)ライセンス取得。

4月30日 UCFMeet:フロリダ州・UniversityofCentralFlorida 5月19-20日 IMGAcademy:フロリダ州・ブランデントン

5月25-29日 ACSM:カルフォルニア・サンディエゴ

5月29-30日 OregonDiamondLeague:オレゴン州・UniversityofOregon 6月6日 StarAthletics:フロリダ州・クレアモント

7月8-11日 NSCAConference:フロリダ州・オーランド 7月23-25日 UniversityofMiami:フロリダ州・マイアミ

期   間 場     所

8月22-30日 北京世界陸上・中国・北京

平成   26 年度・短期派遣(陸上競技)

Ⅴ.研修報告

(1)陸上競技のコーチングとトレーニング

 フロリダ州・オーランドのDisneyWorld内にあるESPNWORLDWIDESPORTS

(テレビ局であるESPNとDisneyが出資するSportsComplexCenter)において、陸上 競技短距離・ハードルの金メダリスト3名を含む10名程度の陸上チームのコーチをす るBrooksJohnsonのコーチングを学ぶ。

①試合カレンダーと研修期間

 アメリカおよびヨーロッパの陸上競技トラック種目の試合シーズンは、日本の4 月からの春シーズン、9月から11月までの秋シーズンの春秋2シーズン制とは異な る。特にアメリカでは、1月から始まるインドア、3月末から8月までのアウトド アのインドア・アウトドア2シーズン制である。また、研修期間直後の2015年8月 の北京世界選手権に向けて世界一流競技者の取り組み方を学ぶために、基礎トレー ニングが始まる9月前に研修が始まるように研修期間を設定した。

 研修が開始された8月末まで世界トップレベルの賞金レースであるヨーロッパの ダイアモンドリーグやグランプリシリーズを転戦する選手たちがトレーニングをお こなっていた。一方、2014年は、世界選手権およびオリンピックの中間年となっ ており、2013年世界選手権で優勝したDavidOliver選手(32歳)は、下肢の怪我で 2014年5月末に早期にシーズンを終え、9月までの3ヶ月以上は完全休養として移 行期をすごしていた。アメリカ国内レベルは6月、世界レベルであれば8月末まで と欧米のトップ選手たちのシーズン制の違いを目の当たりにした。2015年の北京世 界陸上に向けて、9月半ばから11月までを準備期、12月から2015年1月末まで試合 準備期、1月末か2月末まで第一試合期としてインドアシーズン、3月はアウトド アの試合準備期、さらに4月から6月までを第二試合期としていた。世界選手権に 出場するメンバーは、7月に中間期を入れて、2015年8月世界選手権と8月末まで の欧州でのダイアモンドリーグに出場した。

 試合数は、1月末から2月末までにインドア試合(60mH)3試合、そこから4 月第1週目から毎月2試合のペースで賞金レースを4-5試合転戦し、6月には全 米選手権(ジャマイカ選手権など、他の国の選手たちはそれぞれの国へ)、7月は 中間期をはさみ、そして8月に世界選手権、その後ダイアモンドリーグなどを1-

2試合、合計10試合に出場した。

②トレーニングメンバーと諸外国チームメンバー

 アメリカ選手男子6名(テグ世界選手権110mH金メダリスト、モスクワ世界選 手権110mH金メダリスト、400m金メダリスト、世界ジュニア4位1名)、ジャマイ カ選手(テグ世界選手権ファイナリスト、セルビア選手1名(セルビア記録保持者)、

韓国選手1名(韓国記録保持者・2014年アジア大会2位)、ブラジル選手(マラソ ン2時間12分)の10名程度のグループでおこなっていた。

 選手はレースの賞金と各スポーツメーカーからのスポンサー料によって生計を立 てていた。セビリアや韓国選手は国のオリンピック委員会からの金銭的なサポート

により、競技生活を送っていた。

 研修先のフロリダは年間を通して温暖な気候であること、5月に世界リレー選手 権が隣の国のバハマで開催されることから、多くのヨーロッパの陸上強豪国(Ex.

イギリス・オランダ・ドイツなど)が2月から5月にかけて、国のチームとして、

もしくはクラブチームとして、2-3ヶ月のトレーニングキャンプをおこなってい た。実際に、2011年テグ世界選手権男子400mH金メダリスト、2013年モスクワ世 界選手権女子400m金メダリスト、2015年北京世界選手権女子200m金メダリストな ど、そうそうたるメンバーがナショナルコーチと一緒に長期のキャンプをおこなっ ていた。跳躍種目などのヨーロッパの多くの国々の選手がインドア施設でトレーニ ングをおこなっていると考えられるが、欧州選手でもヨーロッパの室内試合に転戦 する以外のトップレベルの選手たちは、フロリダを拠点としているようだった。フ ロリダでは、各国のトップ選手が2-4月に高強度かつ量的にも多い高負荷のト レーニング内容が行われていた。また、2015年世界選手権の標準記録の突破が前年 の10月1日からということからも、日本のように秋の試合シーズンのない欧米選手 は3-4月のテキサスおよびフロリダで行われる条件の良いレースに出場しながら 標準記録突破と好記録をねらっていた。トップレベル選手ほどトレーニング内容や 量だけでなく、高強度で高負荷でのトレーニングの継続が年間を通じて実施できる 温暖な環境を必要としている。そのための環境としてはオーストラリアなどがある が、世界リレーがバハマで5月に開催されること、2016年オリンピックがブラジル・

リオで開催されることなどから、時差や距離などの関係から、フロリダが選択され ていると考えられた。東京オリンピックに向けて強豪国の短距離・障害選手の多く のトップ選手がフロリダという温暖なところでトレーニングをおこない、春の早い 段階で良い記録を達成するパターンを形成していることを認識して、今後日本陸上 短距離障害種目のコーチ・選手ともにトレーニング拠点をどこにすべきか再考すべ きであると考えられた。

③コーチングとトレーニング

 週4-5日(試合以外の土曜日・日曜日が休養日)、1日4-5時間のトレーニ

ドイツナショナルコーチと科学メンバー トレーニングの様子(ドイツ・オランダチー

ム 3月)

平成   26 年度・短期派遣(陸上競技)

ングであった。実際は、トレーニング現場のコーチングだけでなく、毎週、コーチ がトレーニングの達成度の確認をチームの選手全員に個々人のコメントを入れて、

メールを全員に送り相互理解を図っていた。選手のトレーニングは、8月の試合期 の最後から、9月の移行期、そして10月からの鍛練期とマクロ的な流れを、世界選 手権もしくはオリンピックを中心に考えて構成されていた。10月の鍛練期では、ス プリントスピードをそれほど落とすことなく、質的なレベルをキープして基本的な 動作を繰り返し、基礎固めをおこなった。大学卒業後の選手であるため、アメリカ の高校および大学で行われてきたトレーニング(特に筋力トレーニング)を考慮に 入れて、より種目特異的でありながら最も基礎となるトレーニングを繰り返し、そ のリカバリーに努めることを大切にしていた。リカバリーに関しては、①温めるこ と②食事③睡眠の三つの要素、技術的には、①姿勢、②リアクティブストレングス、

③技術の三つの要素にフォーカスをあてて常にトレーニングを進めていた。

 強度と量のバランスからすると、10月はスプリントスピードを最大の80%以下に は落とさず、毎週ごとに走る量やエクササイズの数を増やして、11月までに最大の 量的トレーニングを行ったが、12月から量をそれほど減らさずに、一気に専門的ト レーニングの割合が増えた。それによって、強度が高まり、全体的なトレーニング 負荷の上昇は予想を上回った。競技力の向上に直接結びつく内容に集中して、目的 的にトレーニングをおこなっており、不必要なトレーニングを省く傾向にあった。

コーチからは最小限のトレーニングながら、目的的に最も大切な身体の部分に対し て、実際の疾走時と同様の筋肉-腱の収縮形態や角度で負荷を高めていくことの必 要性を選手に説いて、理解させながら実践していた。トレーニングの中で耐えられ る限界まで追い込むという概念は、常に怪我を回避した上でということをお互いが 共通認識でもっており、一年を通じて大きな怪我はどの選手もほとんどゼロに近 かった。特に、2015年の北京で行われる世界選手権に向けて、すでに2名のワイル ドカード(前回優勝者)で出場が決まっているので身体的な違和感による怪我など のリスク回避は相談の上で早期に判断しながら落ち着いてトレーニングに取り組め る雰囲気であった。さらに、女性が2名いることで、トレーニング量や強度は、性 差を考慮に入れて、女性の方がやや多めの量でコーチングを進めていた。結果的に、

2015年には10名中5名が自己記録を更新し、10名メンバー全員が自己記録の99%以 上を達成した。

 常に指摘されたのは、「短距離から長距離およびハードル種目はゴールまでいか に早く到達するかということであり、速く動くことに主眼を置くことより、実際に は身体重心の運び方が重要だというコンセプトを持つこと」だった。2014、2015年 ディズニーマラソンを制したブラジル選手もトラックのスピードトレーニングの時 は同じ場所でトレーニンググループにおり、長距離も短距離も走りの基本のコンセ プトを共有していることは興味深かった。どの種目も、いかに加速して、最高速度 を高めるか、そして減速を少なくするかということだった。そのため、全身のポジ ショニングは、「ゴールまで小さな前傾を失わない」ということをポイントにおい ていた。したがって、一つ目の要素、「姿勢作り」をはじめの2ヶ月に徹底してお こない、そのトレーニングをメインにしながら、同時に必要な股関節の伸展屈曲ト

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